不特定多々々々々多数ライバル
「ええ、嫌がらせされてますから」
両チーム必死の奮戦の最中に檜山さんの冷たい声が響く。
「離反され、面目を潰された側の協会も、これまでのリーグをセミプロ化して対抗しました」
「セミプロ?」
「ほとんどのチームは前のアマチュアのままで、少数のチームだけ興行権を持つプロチームを作り、プロアマ混合のチームとしました。
スターリーグと名付けられ、これで前々から準備していたプロ化の公約は果たされた、と宣言します。」
「なんとまあ中途半端な」
折田ほか、クラスメイト一堂が苦笑する。
が、続く檜山さんの一言に完全に言葉を失った。
「その上で、JBAをスターリーグの完全プロ化を妨害した『裏切者』扱いします」
「………………はあ?」
一瞬の沈黙、絶句。
コトの顛末を知っているアタシ達でさえも、一瞬息を呑むほどの理不尽さに、みんな言葉もない。
「また日本代表に選出されるのはスターリーグの選手だけ…」
檜山さんは淀みなくスラスラと、アナウンサーの様に言葉をつむいでいく。
「つまりサッカーで言うなら、Jリーグ等に在籍している選手は代表選手になる資格を剥奪されている、という事です」
Jリーグを目指す有田は特に納得がいかないようで、目つきがスゲー怖くなってる。
「そもそも取り上げられる事自体稀な日本バスケの中で、一番の注目株になるはずの日本代表チームを相手に奪われている…JBAにとってはかなりの痛手です」
元日本代表の南部が大松からのパスをカットし、速攻に持ち込み二点を奪う。
南部の固定ファンの女性客が声を張り上げた。
「代表の独占、話題の独占。
正統性を主張するスターリーグの協会…数々の逆風の中で、細々とJBAは年月を重ねて来ました」
ここで一転、檜山さんが、にこりと笑う。
「そして、今日、完璧に立場が逆転したのではないでしょうか」
ここまで淡々と説明していた檜山さんの顔が、ほわほわとほころんだ。
「日本人の平均身長とさほど変わらない少年が、二メートルを越える外国人達を圧倒するその姿……。
メディアに、国民に愛されるスター性が充分にあります」
乙女の瞳になっちゃった檜山さん。
体育館には、二つ、TVカメラがある。
開幕戦ということもあり新聞社、スポーツライター、カメラマンらプレス陣……そのレンズは、試合中の選手よりも、ほとんどがベンチで休んでいる一人の少年に向けられている。
「………今夜中には、宮瀬君のダンクシーンは全国報道されるでしょうね」
クラスマッチでアタシの目に焼き付いた宮瀬の背中。
今日の試合で、カメラを通して、一体どんだけの人が、178センチの日本人が229センチのロシア人をぶっ飛ばす映像を見るんだろう。
そして、どれだけの人が、宮瀬にアタシと同じような、檜山さんと同じような感情を抱くんだろう。
「そうなると、高鳥中学校での人気とは比べ物にならないほどの……大混乱になるのではないでしょうか?」
アタシの手の中には、宮瀬の眼鏡。
修復したはずなのに、傷痕が微かに残る宮瀬の眼鏡。
檜山さんの膝の上に、綺麗に畳まれた宮瀬のジャージが乗っている。
この物語はフィクションであり、実在の団体・人物名・組織名とは一切係わりがございません。
真実については各自、wikiったりgoogleったりしていただけると幸いです。
そして、できればBJリーグ(作中のJBAのモデル)のチケットを買ってください。日本のバスケの火を消さないようにするために。