落ちた時の砂は帰らない
「……さっきからなーんか、陰険な話しだね〜」
水泳部仲間の天田さんに後ろからお下げ髪を弄られつつ、檜山さんの説明が続く。
「……日本のバスケットを支えていたのは学校と企業です」
まあ、これはバスケットに限らず日本のスポーツほぼ全てに当てはまりますが、と付け加える。
「ですが、九十年代の不況のせいで、名門や強豪を含む多くの実業団チームが解散し、優秀な選手たちが居場所を無くし…日本のバスケット界は衰退を迎えてしまいました」
「リストラだねリストラ」
「不況ねえ…」
不景気とか不況とか言われても、生まれてこのかたず〜っと不景気の平成育ちのアタシにゃあよくわかんないんだけどねぇ。バブルなんて生まれる前だってば。
「不景気をものともしない大企業などは消滅した他チームから有力選手を吸収して強くなりましたが…そもそもリーグを形成するだけのチーム数さえ揃えることが困難なほど、日本バスケ界は斜陽を迎えてしまいます」
「まさに末期……」
「野球もサッカーも問題山積みだけど、バスケほどじゃないってことか」
有田が腕を組んで唸る。
「解決策として親企業の都合に振り回されない、プロのクラブチームを作ること。そして、プロのバスケリーグを作ることが提案されました」
『ゴアアアアア!!』
TGNの日本人トリオの山の中に突っ込んで、ドゥドゥがオフェンスリバウンドをもぎ取る。
オオ!とどよめきが起きるが結局すぐにため息に変わった。 奪ってすぐにシュートを打とうとして、あっさりと大松にブロックされたのだ。
ルーズボールを確保したのは富山。
「惜しい!」
「実に惜しい。もう一度攻撃を組み立て直せばよかったものを…」
頭を抱えるきーちゃん。前橋は舌打ちした。
「後押ししたのは当時の、空前のバスケットブームでした」
「ああ、昔は凄かったらしいねえ」
「バスケット漫画の金字塔『スラムダンク』の大ヒットとアメリカ代表チーム、NBAのスターを集めたドリームチームがバルセロナオリンピックで圧倒的な実力差を見せつけ…」
「日本でのバスケット人気は急上昇し、マイナースポーツからメジャースポーツの仲間入りをします」
「その頃の男バスな、入部希望者が百人も来たらしいぜ」
「ひゃ、ひゃくぅ!?」
にやつく後田に、天田さんが目を丸くする。
「まあ、一週間もしたら十人くらいしか残らなかったらしいけどな」
それだけ、大ブームではあったのだ。
「協会はプロリーグ構想を立て、有力選手はプロ契約を結び…プロ化は秒読みと思われました」
説明を続ける檜山さんの口調は重い。
「そこから十年間、一歩の進展も無いまま、時が過ぎてしまったんですけれどね」