真実は多面体
75-77
ドゥドゥの無責任なプレーからリズムの悪くなったFFSは、あっさりと逆転された。
75-79
「スターリーグの方が、このJBAよりも実力的には上、とみられているようです。
直接対決が存在しないので、あくまでそう分析されているだけですが」
「ほお」
「はあ」
檜山さんの説明に相づちが打たれる。
後半の勝負どころにデイビスとエゴロフを温存するTGN。
代わって入った二人の黒人選手はレギュラーに匹敵する実力者でチーム力ダウンはほとんど感じない。
対して、選手層の薄いFFS側は宮瀬以外のレギュラー陣がで続けている。疲れが出てきたようで、足が止まり気味になっている。
コートでは南部がイライラしていた。3クォーターの活躍に対抗してTGNの守備職人、亀山が南部へのマンツーマンディフェンスについているからだ。
「あー、やだ。あんなマークされたらシュートなんて打てないわよ」
南部とポジションの被るきーちゃんがそういうくらいぴったりぴっちりの密着マークだ。
かなりドリブルが上手くないと、あのマークを振りほどけないだろう。そして、南部のドリブルテクニックは平均程度。
ボールを渡されてもシュートを打てない南部の全身からイライラの気配が漂ってくる。
攻め手を欠くFFSの得点が止まる。
「なぜならバスケットボール日本代表の選手は、全てスターリーグに所属しているからです」
「なんだ、ここの人達は全部代表じゃないのか」
有田の見る目がちょっと変わる。なんというか、こう、ちょっとばかり見下した感じに。
78-79
南部が猛スピードで巨漢の密集するゴール下に突入する。 肉の壁の中で方向を変え、もみくちゃにされながら肉の森を突破した瞬間に、田宮からボールが渡る、即、放たれるシュート。
体勢は不安定、フォームもめちゃくちゃなのに、
「………パーフェクト」
きーちゃんが呟いて、ボールは金属の輪をくぐり抜ける。
第4quarter開始から二分四秒後、ようやく決まったFFSの得点に、福岡のファンが多いに沸いた。
ゴール下でクラレンスに足を止められていた亀山は忌々しげに南部にガンを飛ばす。南部も負けじと険しい目で見返しながらディフェンスに戻る。
「きーちゃん、前橋…あんなシュート決められる?」
「むりむりむりむり」
「真似したくてもできんわ」
男女バスケ部の両シューターが首を降った。
「なあ、スターリーグにいる日本代表ってあの人らよりもすごいのか?」
「………あまり変わりないと思いますよ」
代表にこだわる有田の質問に、檜山さんはうつむき気味に答えた。
「スターリーグの方は、試合に出られる外国籍選手が一度に一人だけなので、外国籍選手の出場制限の無いJBAよりも試合がゆるいので」
「………?それなのに、スターリーグの方が実力上なのか?」
納得できないと有田の顔に書かれている。
「ええ、スターリーグが代表選手を独占してますから。
事情を知らない人が見れば、スターリーグの方が実力があるように感じるでしょうね」
檜山さんの口調が、変わった。説明する声にトゲが含まれる。
「本当は、JBAの選手が日本代表の枠から締め出されているだけなんですけどね………」