そのメガネは伊達じゃない
「いや、だからちゃんと説明してもらわんとわからんがな」折田はまだ不満げだ。まあ当然だけど。
「う〜ん、何から話せばいいのやら何を話せばいいのやら……」
きーちゃんとアタシは揃ってこめかみに人差し指を当てて唸った。実際この問題は『大人の事情』が複雑に入り交じっていて、アタシ達にはよく分からない。バスケ専門誌を毎月買ってるアタシも、問題の全体像がまるっきり理解できてないのよ。
「このJBAの他に、もう一つバスケットのリーグがあるんですよ」
一向に頭の中の
「?」の数が減る様子のない有田と折田に助け船を出したのは
「…檜山さん?」
クラス一番の知的なメガネさんだった。 檜山さんが、メガネを白く細い指で直しながら尋ねる。
「昨晩得た付け焼き刃の知識でよろしければ、代わりに説明致しましょうか?」
「頼む」
「コイツらアテにならん」
田のつく二人が檜山さんに頼み込んだ。あらまあいやだわ全く。アタクシたちバスケ部面目丸つぶれでなくって?
「では、僭越ながら…」
最終ラウンド、4th quarterが始まる中、並行して檜山さんの説明会も始まった。
4th quarter開始早々に、
「チョイア―!!」
さっきの南部のブザービートの真似がしたかったのか、ドゥドゥがスリーポイントラインのはるか後ろからシュートをぶん投げた。
「……………?」
(∵)?←な感じでキョトンとした顔のエゴロフの手にボールが渡る。
「アホー!?」
「真面目にやれー!!」
体育館から総突っ込みが入る中、エゴロフからデイビスへパスが渡り、返す刀で、TGNのスリーポイントが決まった。
75-75
チッと、南部の舌打ちが聞こえる。あ、青筋すげー。
「ああ、またドゥドゥの悪い癖が…」
「誰かが目立つプレイをすると、出来もしないくせにすぐに真似しだす悪い癖が……」
「………なんてはた迷惑な」
予断を許さない試合に並行して、学年一の知性派が説明を続ける。
「スターリーグという、日本籠球協会が主宰するバスケットボールリーグがあるんです」
「スターリーグと、JBA………」
「名前だけ聞いたらスターリーグの方がスゴそうね〜」
クラスの女子が素直な感想を述べる。
「それってよぉ、野球でいえばセ・リーグとパ・リーグみたいなもんかの?」
「サッカーで言えば、J1とJ2みたいなもんだろ?」
いつものようにいつものごとく、折田は野球に例え、有田はサッカーに例える。
「どちらも、間違いです」
檜山さんは、事も無げに切って捨てた。
「セ・パ両リーグもJ1・2リーグもJBAとスターリーグの関係とは間違っていますね」