すないぱーなんぶ
「ああ、もう!」
田宮のおっちゃんではデイビスを止められない。好調のエゴロフと並んで、デイビスが得点を重ねていく。
64―60
そしてFFSは、攻撃の一角、ドゥドゥが全くダメだった。
身体能力は高いものの、運動能力に頼ってばかりのドゥドゥは、基本的なテクニックができてない。TGNのゾーンディフェンスに捕まっては、ミスを連発する。
――――でも、もう一人が、ドゥドゥのミスを挽回するほどゴールを連発した。
攻めあぐねたドゥドゥから、ハイポストでボールをもらった内柴が、
「あっ」
直後に、ノールックで真後ろにボールを流した。
ゴール下で受け取ったのは右ウィングから走り込んだ南部。
でも、エゴロフと高松が固めたゴール下に隙は無く、
「ああ、もったいない」
南部はそのまま左ウィングにドリブルで抜け出して、高松は南部についていき………
「お?」
仕切り直し、かと思ったら
「おお?」
南部、伸ばした右足、左コーナーの3Pラインを越え、
「おおお?」
ボール持つ、
構える、
狙いをつける
その一連の動作を 右足を軸に南部が回転中に終わらせて、
「おーー……?」
高松が慌てて南部に飛び付いた時には既に遅く、
ボールは放物線を描いていた。
シュートを打った直後、南部はリングを見もせずにディフェンスに戻った。
67―60
「オオオオォォォ!!」
スリーポイントは、当然の様にリングを通過する。シュパっと衣擦れに似た音に続いて、黄色い声が上がった。
「……キレーなシュートだねえ…惚れ惚れするくらい……」 きーちゃんと前橋が揃って、ほぅ…と溜め息をついた。
一分を切って、電工掲示板が秒間表示にカウントダウン。
72―70
ラストの一本、
目一杯時間を使いきって放たれたデイビスのシュートは
「あああ〜!?」
リングを、通過してしまった。
同点!
遂に、同点!
72―72
TGNベンチの選手・コーチ・監督が勢い良く立ち上がり狂喜乱舞する。
残り、1・4秒。
遂に、TGNが試合を振り出しに戻した。
アタシ達の目の前で田宮のおっちゃんがボールを入れる相手を探す。
時計はパスを受けたところでカウントダウン再開する。
残り1・4秒。
狙いをつける暇なんかない。
FFSの最後のプレイを妨害するべく、TGNがべったりとオールコートディフェンスでつく。
ドゥドゥは相手リングにまっしぐら。
……の、動きにつられた隙に、
南部が、
アタシ達側、
自陣の3Pラインから、
田宮から渡されたボールを即座に、
デイビスとエゴロフのブロックを掻い潜って、
コート3/4離れたリングへ放つ。
ぶーーー〜!!
と3rd quarter終了のブザーが鼓膜を振るわせる中、
ネットが
シュパっと
快音を立てた。
「……喜ぶのが」
喜んでいた大男どもが、がっくりと膝をつく。エゴロフが天を仰ぎ、デイビスが倒れたままバンバンとコートを叩いた。
「早すぎんだよ、富山さんよぉ」
75―72
ブザービーター。
奇跡のシュート。
歓声が上がる。
宮瀬がエゴロフの上からダンクをした時に負けず劣らずの歓声が響き渡る。
FFSのメンバーが、南部に飛び付いた。
「ああもうウザイうざい。これくらいでぎゃーぎゃー抜かすなお前ら」
抱きついてくるクラレンスの顔を押し退けながら、迷惑そうに言い放つ。
75―72
点差は縮まったものの、勢いの差はむしろ突き放して、3rd quarterが終了した。
「ええっと、なんつうか………」
アタシは震えながら、南部を指差す。
「すごいね、この人」
「まあ、元日本代表のシューターだからなあ………」
前橋が、答えた。
「もう、日本代表にはなれないけど……」