檜山さん
他に誰もいないのを確認して…
アタシはそれを手にとった。
うわ、なんだか、イケナイことをしてるみたいでドキドキする。
(男子が好きな子のリコーダーを取る、ような、感じ…かな)
そんな、イケない事を思いながら、
宮瀬の、
メガネを
かけてみた。
トイレの鏡の前で。
うわ、度がキツい。
地味なメガネ。
あの試合で一度壊れて、直して、前橋と後田が修理代を弁償したメガネ。
鏡に写る、宮瀬のメガネを掛けたアタシを、宮瀬のメガネ越しにアタシは観察する。
………不思議。
メガネ一個で、すごく印象が変わった。
ツリ目気味のアタシの眼光が、メガネを掛けることで少し和らいだ様に見える。
宮瀬が時々見せるような、ほんわかした笑顔を真似してみる。
…あ、なんかちょっと新鮮。
これで肌が白かったら文学少女に見える、かな?
「うわ、似合わね〜」
たはは、と苦笑して…
「いえ、結構似合ってますよ」
不意打ちに、全身が硬直した。
御手洗いの入り口に、ヒールも履いてないのに高い人影一つ。
「ひ、ひひひひひ、ひや〜まさん!!?」
モデルのような高い身長の、クラス委員長が笑っていた。
「可愛い事、するんですね」
「ひゃややや!!」 慌てふためいてメガネを外す。恥ずかしいトコ見られた。良かった、肌が黒くて…顔が赤くなってるのをごまかせるから。
「そんなに真っ赤になって恥ずかしがらなくても……」
バレとるがな!!
「相羽さんも…宮瀬君の事が好きなんですね」
「い、いやそんな!この行動には好きとか嫌いとかそんな感情は丸っきし含まれておりませんです、ハイ!」
テンパるアタシに、檜山さんは何もかも見透かしたかのように微笑む。
ハタと、気付いた。檜山さんの言葉に含まれた意味に。
「……『も』ってことは………」
檜山さんの顔が凛々しく引き締まった。
「私も、宮瀬君が、好きです」