休み時間
試合は休憩時間に入ったけど、究極電力体育館の興奮は全く冷めやしない。
「天才だ…天才だよ、あのガキ」
宮瀬!
「俺、バスケ始めたの中二からだぞ……なのに中二でプロ入りって……どんだけすげーんだよ!?」
宮瀬!
「あの身長で、たった178センチで、二メートルの選手に負けないって……あの子、一体何なの?!」
宮瀬!
客席のどこもかしこも、謎の新入団選手の事を話している。もちろん、アタシ達も…
「ダンクはともかくとして……」
折田がバスケ経験者に聞いてくる。
「宮瀬の前半の成績って、すごいんか?」
「すごいよ!」
失礼な質問に即答してやる。
「平均二十点とったらチームのエースよ。んで、もう9得点」
「JBAだと平均六アシストすればアシスト王になれるわね。で、もうアシストが4つ」
「ブロックって、ほとんどの場合センターくらいにしかできないんだよ。身長が重要だから。なのに、ポイントガードなのにブロック1。それも30センチはデカイ奴を相手にしてだぞ!?」
「スティールも一試合一回あればすごいのに、もう2だよ。」
アタシに続いてきーちゃん前橋後田とバスケ部員から返ってくる答えに折田はタジタジになる。
「あ〜、結論すれば、宮瀬はすごいって事でOK?」
「わかればよろしい」
「乱暴に野球に例えさせてもらうがの……
とりあえず得点は、打点。
シュート成功率は、打率。
ダンクは…ホームラン、か?
アシストは、盗塁とかか。
ブロックとスティールは………な、ナイスディフェンス?
ほんで、三割打者で、ホームラン打てて、盗塁王も狙えつつ、守備もスゴいっと………どこの化けもんだ?」
「アタシは野球の方がよく分かんないけど……ニュアンスとしては、そんなもんじゃない?」
他のバスケ素人のクラスメイトも、折田に続いてふんふんと頷く。
「う〜ん〜ん〜?」
野球がよく分からない女子はまだ首を傾げていたが、
「そういう細かい事は分かんないけど、とにかく宮瀬ッチはカッコイイって事は間違いないわね!」
檜山さんの水泳部仲間、天田さんがまとめた。できれば、凄さの細かい所もわかってほしいなあ。と、思っていた所、
「グッズ!グッズ売ってる!」
お手洗いから帰ってきた演劇部の森下さんが超興奮して捲し立てた。
「宮瀬君のグッズ!もの凄い勢いで売れてる!」
「なにぃ!!?」
「行かねば!!」
反応は、きーちゃんの方が早かった。「行くぞ美夏!」
「わ!わわわ!?」 きーちゃんに手を掴まれ、売店に引きずられる。
『宮瀬直樹選手の関連グッズは売り切れました』
飛び去るUFOの絵が書かれた謝罪文だけが乗ったテーブルの上には、もうグッズの欠片も残っていない。
「瞬殺、みたいね……」
「ごめんねーお嬢ちゃん。ここまで売れるとは思ってなかったんだ」
項垂れるアタシ達に店員が声をかける。
「球団ホームページからも総額五千円以上からは配送料無料でお受けしておりますから、そちらからもよろしくお願いしまース」
ちくしょう>orz
宮瀬のレプリカユニフォームとか欲しかったのに。
「宮瀬売り切れか〜…残念ねぇ。アタシは南部サマのグッズ見てくるけど、美夏〜、あんたはどうする?」
「ん…なんか飲み物と食べ物とお菓子買ってくる」
『南部サマ』という表現にちょっと突っ込みたかったが、スルーしてアタシはきーちゃんやクラスのみんなと別れた。
一人、ふらふらと体育館の廊下を歩く。
ちょっとだけ、一人になりたかった。
…………一人になって、シタい事があった。




