1st quarter
試合の整合性を考えて一部改変しました。
宮瀬がスーパープレイで作った勢いをそのままに、FFSがTGNを圧倒する。
速い。
速い早いはやい。
選手も、ボールも勢いが止まらない。
身長で負けるFFSは、豊富な運動量と勢いで対抗する。そしてTGNご自慢の人間山脈は早いテンポについていけない。
テンポを下げようとするデイビス。
テンポを上げ続ける宮瀬。
宮瀬はPGとして年が十年も二十年も上の選手を統率し、フロアリーダーとしての立派な風格を見せつける。とても今日がプロデビュー初日とは思えないくらいに。
4分
再び宮瀬が、デイビスのディフェンスを破る。
「おお!!」
アタシ達の方に斬り込む宮瀬の百のスピードが
「急ブレーキ!?」
フリースローラインでゼロになる。
今度はコケずについてきたデイビスは急に止まれない。
宮瀬のダンクを恐れてゴール下に留まったエゴロフ達と、宮瀬の間にぽっかりと穴が空く。
宮瀬は余裕を持って、綺麗な綺麗なフォームでジャンプシュートを決めた。
《9−5》
「すげぇ…なんでトップスピードを一瞬で止められるんだ?」
「足と腰に負担かかり過ぎですね、今のは……怪我、しないといいけど」
感嘆する前橋に、檜山さんが眉をひそめた。
TGNが攻撃を再会する。
会場にFFSディフェンスのテーマ曲が流れ、リズムに合わせて観客が「ディーフェンス♪ディーフェンス♪」と声をあげる。
宮瀬は、腕捲りをしてデイビスの行く手を妨害する。
………ただディフェンスをするんじゃない。
『このディフェンスで、叩きのめしてやる』
そんな気合いを込めて、待ち構える。
コートの反対側からでも、鷲のような鋭い目が射抜く。
宮瀬はデイビスを破る。でも、デイビスは、宮瀬を破れない。しっかりとマークについた宮瀬は、デイビスを抜かせない。
毎秒ボールキープに手こずるデイビスのプレイは逃げ腰になり、その弱気はTGN全体の流れを悪くする。
FFSディフェンスを崩せないまま、『撃たされる』シュートが多くなるTGNのゴール成功率は五割を切って四割スレスレ。
「………それって、低いんか?」
疑問を口にした折田に、きーちゃんとアタシが答える。
「アンタの好きな野球に例えるなら、チーム打率が二割チョイしかないって感じかしらね」
「その上、ホームランも無いような感じかな」
「なるほど、そりゃヤバイ。つまりはオフェンス壊滅ってことか」
クラスの男子も納得したよう頷いた。野球が分からない女子はそれでも「?」という表情をしてるけど。
対して、宮瀬にいいようにディフェンスを斬り刻まれ、ワイドオープン(周りにディフェンダーがいない)で楽々とミドルシュート、3Pを決められる南部、飛び込みさえすれば絶妙のタイミングでアシストパスを宮瀬から配給されるドゥドゥはストレスなく得点を量産していく。
「これが…ほんとにFFSなのかよ」
「去年まで、あんなにちぐはぐなオフェンスで自滅を続けていたのと同じチームとは思えなねぇ………」
今までのFFSを見てきた男バスの二人が、棒立ちで宮瀬を見る。
試合開始前には罵声を上げていた観客も今ではすっかりそのプレイに魅了されていた。
「ああ…宮瀬君。かっこいい………」
ついでに、クラスの女子の目のほとんどがハート型になっていた。
(……………まずったかな?)
ライバルを増やしてしまったようで、アタシはちょっと焦る。
宮瀬にボールが渡るだけで、会場の温度が白熱する。
9分 宮瀬が、魅せた。
攻めあぐねたエゴロフから右のウィングにいる小嶋へのリターンパスを
「読んだ!?」
一秒前までハイポスト付近でデイビスに密着マークしていた宮瀬が奪った。
攻守が切り替わる。
真っ先に反応したドゥドゥが一目散にリングを目指す。
次に反応したのはデイビスと松山。スピードでドゥドゥに追い付けない二人は、ドゥドゥへのパスをシャットアウトする。
………それでも、宮瀬はスルーパスを通した。
コートの端から端へのロングパスは
ディフェンス二人の間の所、ギリギリ手と足が届かない空間で床にバウンドし、
トップスピードで走るドゥドゥの手元には、ちょうどいい高さに浮き上がるパスを。
そして最高のパスを受けたどフリーのドゥドゥが、ボードが破壊されそうなほど豪快なスラムダンクをぶちかました。
会場に歓声が響き渡る。
17ー11
その直後、
「あ、あれ…?なんで?」
宮瀬はベンチに座り、代わりにベテランPG…今までのレギュラー、田宮がコートに入場する。
どよどよと館内に不満の重低音が響く。
もっと見たい、もっと見せろ、と………宮瀬を、宮瀬のプレイを。
だけど、そんな観客の需要を無視して、宮瀬抜きでプレイは再開した。
「え?え?あれ??宮瀬君の出番もう終わり??」
「えー…宮瀬君のすごいとこもっとみたいよー」
クラスの女子達からも非難の声があがる。
はぁ、とアタシはため息をついた。
「バスケだと、交代が何度でも自由なのよ。サッカーとか野球みたいに交代したらもう試合に戻れないのとは違ってね」
「そーなのかー」
「そーなのよ」
基本的なルールが通じないってとこで、つくづくバスケってマイナーなんだなっと思う。
「まだ、フルに出場できる体じゃないんでしょう、きっと」
檜山さんが、メガネのツルに手をかける。
「七・八分過ぎた辺りから急激に運動量が落ちていましたし……ミスが増えていましたから」
「……よく見てるね、檜山さん」
今度は、バスケ素人とは思えない檜山さんの答えに舌をまく。
確かに、低身長のハンディを運動量とスピード、ジャンプ力で克服する……その分、体力は猛烈に消耗する。アタシ自身が女バスの試合でそうだから、よくわかる。
巨人達の4分の1くらいの体積しかない小さな宮瀬の身体…その分、ガス欠が早いということだろう。
「宮瀬は上手い、ジャンプ力もすごい……でも一番の不安は……」
「スタミナ不足、か」
前橋が腕を組んだ。
そもそもアタシ達中学生は1クォーター8分、1試合32分が公式の試合時間だ。
1クォーター10分、1試合40分になるのは高校からなのに、宮瀬の戦うJBAは1クォーター12分、1試合48分と、なんと試合時間が1・5倍も長い。
その長丁場を戦い切る体力が…
「まだ、宮瀬にはないってことか……」
「なんか逆に安心したぞ。多少欠点がないと宮瀬を同じ歳、同じ日本人とみれなくなっちまうからの」
ぼやきながら、折田が苦笑する。
「今のとこ目立った欠点がそこしかないってのがすごすぎるけどな…」
宮瀬がいなくなってやりやすくなったデイビスが、田宮を押し込んで堅実なミドルシュートを決めた。
田宮はデイビスとの身長差に苦しみながらも、三分間を走り回り、必死になってデイビスを止めて点差を縮めることなくこのクォーターを乗り切った。
24−17
点差は7。
大差じゃないけど、そう簡単には逆転されないリード。
その立役者が……宮瀬。