小さかったら高く翔べ
「さあ、我らがFFSの今シーズン初攻撃〜」
マイケルコールのアナウンスに続いて、FFSのオフェンス・テーマ曲が響く中――――宮瀬が、アタシ達に近づいてくる。
宮瀬が、ボールを運ぶ。
「さあ、大注目のニューカマー、宮瀬君。
どんなプレイを見せてくれるのか、期待しましょぉ〜」
デイビスは長い手足を横幅いっぱいに伸ばして宮瀬にマッチアップする。
それはまるでグローブのようで、宮瀬の姿は相変わらずほとんど見えやしない。
アタシ達と宮瀬の距離はたったの十数メートル。
その間を阻むのは、平均207センチの人間山脈。
「アウトサイドに徹するか、ポイントガードとしてチームのアシストに徹すれば……まだ、あるいはなんとかなるかもしれないけど」
アタシは、『自分が宮瀬の立場なら』と仮定してプレイを考える。
「中央突破みたいな自殺行為さえしなければ…」
中央は、ダメ。 絶対無理。
もし、デイビスをかわしたとしても、その先は200超えの巨人達の壁に止められる。
宮瀬と小嶋の身長差は、23センチ
宮瀬と松山の身長差は、25センチ
宮瀬と大岡の身長差は、30センチ
あまつさえ、宮瀬とエゴロフにいたっては51センチもの差があるのだ!
ゴール下に切り込めば、潰されるのは必然。
と、なると宮瀬の活路は外からのパス・シュートしかない。
でも、そのままシュートしても、目の前のデイビスの高さにブロックされるだけ。マークを上手く外さない限り、シュートは打てない。
宮瀬はボールをキープして、パスの出してを探す。
あの試合の時のような、厳しい目で。
TGNはハイポスト・ローポストにそれぞれ二人ずつ四角形に配置したゾーンディフェンス。
外からのシュートは多少決められても構わないから、ゴール下に入り込まれることだけは断固阻止する構え。
内柴・クラレンスがゴール下にポジションを取ろうとし、ドゥドゥが斬り込むタイミングを測る。
ゴール下は、大混戦状態。
宮瀬はパスのタイミングを掴めず、ドリブル突破もできず、もちろんシュートも打てない。
「ほれ見ろ!何もできやしねえ」
鬼頭は宮瀬を笑う。鬼頭以外にも一部観客から、ボールをキープする以外、何も出来ない宮瀬を野次る声が聞こえてくる。
デイビスの守備は堅く、宮瀬の行く手を遮る。
「あんなのを前にして、まともなプレイなんか…」
鬼頭のそんな言葉が終わる前に、
突如、FFSの攻撃陣四人が一斉にペイントエリアから離れた。
(オールアウト!?)
吊られて、TGNのゾーンディフェンスが、僅かに広がる。
その、瞬間、
グローブは
切り裂かれた。
バウンドしたボールがデイビスの股下を
宮瀬の身体はデイビスの左側を通り抜けた。
デイビスは、脚をもつらせ倒れる。
「振り切った!?」
「オオオオオ!?」
観客が総立ちになる。
宮瀬は、突っ込んでくる。アタシの方に!!もとい、リングへと!
「中央突破!?」
自殺行為としか思えない無謀なプレイに背筋が凍る。
でも、宮瀬のスピードに、本来のディフェンスゾーンから離れていたハイポストの二人、小嶋と松岡のチェックは間に合わない。
宮瀬はボールを掴み、一歩。
二歩目でペイントゾーン深くに切り込んだ宮瀬はパスを内柴に…察して大岡がパスカットに動きゴール下から離れる…パスは、出ない。フェイク!
宮瀬、大岡も振り切る!!
ここで、宮瀬が跳んだ!
リングへ、315センチのリングへと。
でも、エゴロフの背中がアタシの視界を全て隠す。
透明なバッグボードの向こうに、リングより上まで伸びたエゴロフの手が見える。
229センチのブロック。それは全てを跳ね返す『最高』の盾。
宮瀬の小さな身体は全て見えなくなっ……
異常な興奮状態のせいだろうか
この時、世界の全てが
まるでコマ送りのようにゆっくりと
全て、スロー再生のように
アタシには見えた。
エゴロフのジャンプは30センチくらいだろうか?
もしかしたら全力で跳んでなかったのかもしれない。
日本人相手なら、
しかも、たった178センチのガキ相手ならそれで十分だと。
229センチの身長に、ジャンプが30
合わせて260センチ。
小学校の低いリングと同じ高さに、
エゴロフの頭がある。
でも、
更に、
その、上を
長い髪を振り乱し、
宮瀬の顔が………!!
ドクン 心臓が、破裂しそうになる。
宮瀬の左手、
ボールを掴んだ左手
エゴロフの二本の腕を躱して
リングの左に叩きつける!
がなりたてる金属音
「きゃああ!?」
「うわあああ!?」
まず上がったのは悲鳴。
アタシ達の方に落っこちてきたものから逃げながら悲鳴が上がる。
床に倒れる音。
あたしの足元に転がる巨体。
空中戦で、
178の宮瀬が
229のエゴロフを
荒々しいスラムダンクで、
ぶっ飛ばした。
無音
静寂
沈黙
< 2−3 >
宮瀬のダンクが得点に加算される。
リングを掴んだままエゴロフを見下ろしていた宮瀬が、コートに着地する。
その視線が、アタシと合わさる。
「どうかな相羽さん」
爽やかに、少し照れながら
「………俺の、スラムダンクは」
会場が、爆発する。
興奮に、
我を忘れて、