巨人達の遊び場の小人
ざわつく会場の中、コートに立つ十人のプレイヤー。
二メートルを越える巨人達の遊び場に、一際小さく見える宮瀬。まるで、小人のように。
たった数メートル先に、宮瀬がいる。
………プロの選手として!!
「これ………夢じゃないよね………?」
「は、はは、これ、ドッキリかなんかか……?プロだってぇ……うそだろ?」
アタシ達は、絶句している。
目の前でおこっていることが理解できない。
常識が邪魔をして、理解が追い付かない。
あの試合を共にして、宮瀬の活躍を、宮瀬のプレイを、宮瀬のスピードを、宮瀬の身体能力を、宮瀬の、ダンクを、見たアタシ達ですらこうなのだ、ましてや知らない人にとっては
「中坊がデビューだってぇ?おいおい冗談にもほどがあるぜ」
「どうせ客寄せパンダだろ」
「宮瀬………なおき?聞いたことあるか?」
「いや、しらね」
「十四歳!?いくらなんでもこどもすぎよ」
会場内、観客の間には
「人気取りにしたって、もっとやり方ってもんがあんじゃねーか?」
「おいおい、バスケなめてんじゃねーぞ福岡さんよ!」
前代未聞の事件に、期待よりも先に疑問のほうが立つ。
TGN…富山ゴールデンナゲッツの選手達は、宮瀬を小馬鹿にするようにニヤニヤと笑う。
TGN監督・平石修は頭の上で指をくるくる回し『本気か?』とアピールし、FFS…福岡フライングソーサーズ監督・スールシャールは満面の笑みで『本気だ』とアピールを返した。
平石は肩を竦める。
非難と懐疑と不審の声が重なる中、宮瀬は、
不敵に、笑っていた。
それを見たアタシの背筋が、ぞくぞくするほどに。
アタシは手にした宮瀬のメガネを胸元に押さえる。
不安と、期待で、いっぱいになった胸に。
ざわつきが収まらないまま、試合開始の笛が鳴る。
ジャンプボール。
中央で審判の手から放られたボールは
「ぅっぺい!」
ををっ、と重低音のどよめきが起こる。
ほとんどジャンプすらせずにエゴロフが叩いて富山側のボールになった。
試合が開始しても宮瀬はコートの中。
スタメンとして、巨人達の遊び場に入り込む。
ボールを持ったTGNポイントガード、デイビスはドリブルでボールを運ぶ、アタシ達の逆側のコートへ。
宮瀬は、デイビスのディフェンスにつく。遠ざかる宮瀬。
鬼頭よりも大きなデイビスの背中に隠れて、宮瀬がほとんど見えない。
デイビスが、ハリウッド映画に出てくるギャングのようになんか叫んだ。意味は分からないけど、とりあえず汚い言葉だろうなあ、とだけは推測できる。
「こどものくるところじゃない…ですって」
鈴を転がすような声にアタシは振り向く。
「同時通訳ありがとう、檜山さん」
「え、英語聞き取れるの!?」
「さすがタカチューNo.2の成績優秀者!」
「すげー、こっちもすげー!?」
みんなの反響は予想外だったようで、檜山さんの顔がリンゴのように赤くなる。
富山の選手たちがゆっくりとそれぞれのポジションに移動し、攻撃を組立て………
「―スリー!」
る、前に、宮瀬のディフェンスなんて無きが如く、頭越しにシュートを放つ。
シュパっと小気味よく音を立てて、ボールはネットをすり抜けた。
0―3
「小さすぎて視界に入らなかった…ですって」
「あいつムカつく」
「でも、あの身長差はキツイよ………」
―――高さ。
富山が、自分たちの強み、高さを見せつける。
宮瀬が178。デイビスは196。
身長差は18センチ。
鬼頭よりデカイ選手が、後田並のスピードで走るのだ。
高さは、絶対。
身長差は、あらゆる面で不利になる。
いくら宮瀬がダンクができるほどのジャンプ力があっても、それだけでは、プロになんて………
「通用するはず、ねーだろ!」
『身長だけならプロ並み』の鬼頭が、声を荒げた。
「この俺でさえ、高校生の兄貴達とバスケすると苦戦するんだ!
プロとやって………俺達中坊に何ができるってんだよ!?」