福岡フライングソーサーズ
「続いてぇ、我らがぁ、福岡フライング・ソーサーズのぉ!選手ぅ!紹介!!」
「ナンバー9!
シューティンガード!
186センチ!
一昨年のスリーポイントコンテスト・チャンピオン!」
甘いマスクに、冷静な瞳をした選手の登場に、
「南部〜亮介ぇ!!」
女性客から
「きゃあああああ!!亮様ァァァァ!!」
黄色い歓声が飛ぶ。うざったそうに、適当に南部が手をひらひらさせた。
「吉川さん」
「ん〜?」
宮瀬がきーちゃんに呼び掛ける。
「シューターなら、南部さんのプレイは参考になるよ。
特にマークの外し方なんかはよく見ておいた方がいい」
「そっか。宮瀬がそういうんなら穴が空くほどガン見させてもらうさ!」
俄然身を乗り出すきーちゃん。
話しが耳に届いたのだろう。男バスの前橋も、同じ様に食い入るように南部に注目する。
「ナンバー25!
センター!
211センチ!
クラレンス・フランシィス!」
おどけるようににこやかに現れた黒人センター。
試合前の緊張感なんぞ何処吹く風で、ヘンテコなダンスを踊りながら登場した。
南部が、うざそうにクラレンスを見る。
「鬼頭君」
「………あ?」
宮瀬の呼び掛けに、鬼頭は剣呑に答える。
「本気でプロを目指すつもりなら、クラレンスのスクリーンプレイは見逃さない方がいい。
クラレンスは、周りを活かすのが本当に上手いから」
「………なんで、貴様ごときにそんなことを言われなきゃならんのだ」
怒気を隠そうともしない声音に、男バス残り2人の顔色が変わる。
「いっぺん勝ったぐらいで、調子のってんじゃねえぞ」
鬼頭と宮瀬の間に、一触即発の火花が散る。
「ナンバー21!
スモールフォワード!
198センチ!
去年のスラムダンクコンテスト・チャンピオン!!
ドゥドゥ・ンジャメ!」
息を飲むアタシ達を置いて、会場から一際高い拍手が起こる。
単身アフリカから来日留学し、高校・大学時代から日本バスケ界を荒らし回った、驚異の身体能力を持つスラムダンカー。
今、FFSが客を呼べる数少ない目玉の一つだ。
突然、
「あー、相羽さん」
宮瀬が、
「ちょっと、このメガネさ」
メガネを外して
「預かってて、くれないかな?」
アタシに手渡す。
「いい、けど……」
あの日以来、あの『伝説』の試合以来、初めて見る、宮瀬の素顔。
ぼんやりのんびりした印象が一変して、彫りの深い顔立ちに見とれて、思わずメガネを受け取ってしまう。
「ナンバー48!
パワーフォワード!
206センチ!
内柴〜武志!」
睨みつける鬼頭に、宮瀬も目付きを険しくする。
火花散る二人、試合前に場外で乱闘が始まりそうな剣呑な雰囲気。
クラスのみんなと、男バス組が息を飲む。
「ア、アタシは誰のプレイを参考にすればいいのかなぁ!?」
衝突を回避する為に話題を転換する。
「教えてよ、宮瀬…」
上目遣いですがるアタシに宮瀬は鋭い眼光を緩めて、(鬼頭はますます険しい顔になっていたが)
「そうだね、相羽さんは………」
笑った。
そして、
アタシにだけ
聞こえるように、
小声で、
言った。
「えっ?それ、どういう……?」
意味?と問いかける前に、
………ふっ……と、
館内から一切の光が消えた。
「やだ、停電?」
闇に陥った体育館にざわざわ、ざわざわと動揺が走る。
目の前に何があるかも、分からない。
目の前にいたはずの宮瀬の顔すら、確認できない。
「え〜〜試合開始直前でっすっがっ!!こぉこで、みなさんに、お知らせが、あります!」
マイケル・コールのマイクは会場に響く。
「我らがフライングソーサーズは、本日一人の選手と特別契約を結びました!」
「なんだ、事故でも停電でもなく演出か。驚かせやがって、もう!」
きーちゃんが笑うが、アタシは反応できない。
「会場の皆々様方に!本日は『歴史』が誕生する瞬間を!目撃してください!」
真暗闇の中で、『特別契約選手』の紹介が始まる。
影も形も謎のまま。
「ナンバー214!」
三桁のナンバーに、ざわっと声が上がる。
「ポイントガード!」
フライングソーサーズ、スタメンの最期のポジションが告げられる。
アタシと、同じポジションが。
「JBA最年少プロ契約!」
最年少という言葉に、会場のざわつきが増す。
「14歳!」
14歳という若すぎる数字に、更に会場のざわつきが大きくなる。
「178センチ!」
一般人と変わらない身長に、更に更に会場の声は大きくなる。
七色のスポットライトが、照らしだす。
コートの中央。
数秒前まで着ていたジャージは脱ぎ捨てて、
福岡フライングソーサーズの四人の前に立ち、
富山ゴールデンナゲッツを向こうに回す、
小さな、人影、ひとつ。
そして、その名が告げられる。
「ミィ!! ヤァ!! セェェェ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「な!?」 鬼頭が呻いた。
「そんな!?」 檜山さんが、口元を押さえる。
「嘘でしょ!?」 きーちゃんが、目を丸くする。
「お、おいおい!?」 折田のあいた口が、塞がらない。
「マジか!?」 前橋が、ビビる。
「ホントに!?」 後田が、絶句する、
「ナァ !! オォ !! キィィィィィィ !!!!!!!!!!!!!」
みんなが震えて立ち上がる中、アタシは腰が抜けていた。
目の前に起こっている事で、心臓が破裂しそうで。
頭の中でグルグル回ってる宮瀬の言葉に、全身がビリビリしてて。
宮瀬は言ったんだ。
「『俺』を、見ていてくれ」