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19/61

富山ゴールデンナゲッツ

 なんとか、半分。

 それが今日の観客数。

 五千人まで入れる究極電力記念体育館は…試合直前になってもまだまだガラガラだった。

「開幕戦でこれじゃあ先が思いやられるわねえ」

 きっと明日の試合からは更に半減して平均観客数千人ちょいになるだろう。

 はてさて、いつまでチームが存続できるのやら。

「みんな〜こっちこっち」

 宮瀬に先導されてアタシ達は観客席へ。

「うわ!最前列じゃない」

「ゴール裏かあ、いい場所じゃん」

 かなりいい席に、アタシ達は座る。きっと選手達の迫力ある試合が見れるだろう。

 と、そこで見知った顔と出会う。

「ん?」「お?」「あ?」

でっかいのと、ふつうのと、ちっこいの。きーちゃんが

「あ〜!男バス軍団!」

「うお!?なぜお前らここに!?しかも人数多いな!?」

 鬼頭が席から立ち上がる。相変わらずでかい。檜山さんが、そそくさと鬼頭から離れた。

「へっへ〜ん!アタシ達は宮瀬からチケットもらったんだよ〜」

「マジかよ!」

「俺ら金払ったのに!」

 後田と前橋ががっくりとうなだれる。あはははは御愁傷様。と、思ったら

「いや、チームにちゃんと金落としてやらんとな!」

「特にFFSはいつ潰れるか冷や汗もんだから、俺たちが育ててやらんとな!」

 な、なかなかに深いチーム愛ですこと……

「ああ、将来俺様がプロになるかもしれんチームだからな。ちゃんと残っててもらわんと困るんじゃ」

 鬼頭がなんだか偉そうに腕組みをして語る。

「はいはいはいはい、そうですかそらよござんしたね」

 ひらひらと手を振って、アタシ達は自分たちの席に座る。ゴール裏の一角を、タカチューが独占する。

 アタシは、宮瀬の、隣に座る。

 宮瀬との距離が近くて、少しだけ、緊張する。

 緊張を見破られ、更に隣に座ったきーちゃんがにやにやと笑う。

 笑うきーちゃんを睨む。 きーちゃんは肩を竦めて、笑った。


 試合開始時間が近づいてきて、体育館内の緊張が高まってくる。


「れでぃぃぃすえぇぇんどじぇんとるめ〜ん!

お子さまからお爺様お婆様までみなさんよーぅこそJ・B・Aへ!!」


DJマイケル・コールの巻き舌マイクで試合開始秒読み段階に入る。

まずは対戦相手、富山ゴールデンナゲッツの選手しょ〜かい〜」


 富山の選手達が入ってきた。

 地鳴りのような、地響きのような足音を鳴らして。

 その、巨大さに。


「………………でっかーー」

「………同じ人間とは思えん………」


 体育館にどよめきが走る。

「高いはずよ、だって 平均身長207センチですもの」

 檜山さんが、解説する。

「207………!?」

 平均身長がジャイアント馬場クラスだ。なんと恐ろしい位置エネルギー。

 びっくりして、開いた口がふさがらない。

「よく知ってるね、檜山さん」

「………私には、バスケットを見る目が無いから。せめて知識だけはつけておこうと思っただけよ」

 宮瀬に褒められて、恥ずかしげに、檜山さんがメガネのツルを調整した。

……………むぅ。

「ナンバー14!

シューティンガード!

201センチ!

小嶋〜貴文!」

JBA最『高』のサイズを誇る『人間山脈』達。

「ナンバー72!

スモールフォワード!

203センチ!

松山〜憲夫!!」

 レギュラー五人のうち、四人が2メートル越えの巨人達。

「ナンバー55!

パワーフォワード!

  208センチ!

大岡〜真!」

 とにかく、身長の高い選手ばかりを集め『身長第一』をチームの柱としている。

 『身長だけ』ならNBAにも負けない。

 数少ない日本人の200センチオーバー選手をふんだんに使う贅沢な布陣。

「ナンバー23!

ポイントガード!」

更に、一番背の低い選手がプレイするポジションであるポイントガードにまで

「196センチ!

リッキー・デェイビス!!」

アメリカ人の長身ポイントガードを配している。

「鬼頭さんよー、あんたでもあん中に入ったら一番小さいっちゃなかか?」

 折田が鬼頭に笑い掛けるが、鬼頭は渋い顔して黙ってしまった。

「スピードとテクニックを無視して、パワーと高さだけを武器に、地味ですが堅実に勝利を重ねていく。

 それが、富山ゴールデンナゲッツのスタイル、ですね」

「御名答」

檜山さんの分析に、宮瀬が教師のように答える。檜山さんは、メガネのツルを直した。

「でもさあ、そんなの…」

アタシは、二人の会話に割り込む。

「高さだけなんて、そんなの面白くないじゃん」

「うん、その通りだねえ」

宮瀬が、アタシに微笑みかける。アタシは何となく恥ずかしくて目を逸らした。

「鬼頭さんよぉ、存在全否定されとるのぉ」

「うるさいわ」

 折田が鬼頭に絡む。鬼頭、こめかみに血管が浮かぶ。

 富山は、去年リーグ四位。もう少しでプレーオフ、という所を逃してしまった。

 今年はその雪辱を期して、文字通り“大型”新人の補強を行った。


『超』大型、を。


「ナンバー99!」

その選手が入ってきた途端、会場全体からどよめきが起こる。

「センター!」

 2メートル台の選手がうろうろする中に、更に頭一つ飛び抜けた巨人がいた。


「2! 2! 9!センチ!!!」


二百二十九センチ。

数字が強調される。

どよめきが更に増す。


「ロシアの『動く氷壁』!」


 手が長い。 足が長い。 胴が長い。 アゴが長い。 顔が長い。


「グレゴリ―・エゴロフ!!!」


 何もかもが、規格外に長くて、大きい。

まさに、巨人の中の巨人たるに相応しい偉容。

「すっげー、手ぇ伸ばしただけでリングにつくぜ」

「でっけー……」

「20センチもジャンプすればダンクできるんやない?」

「アタシ達とはでぃーえぬえーが違うんだろうな」

「あんなのにかてっこねー」

その姿を見ただけで、悲鳴が上がる。

 平均身長207。

最高身長229。

『人間山脈』という二つ名は伊達じゃない、

身長だけならアメリカにも負けないチーム、

富山ゴールデンナゲッツ。



(プロ……か……)

 アタシはぼんやりと宮瀬の横顔をみる。

(宮瀬も、プロになんのかな)

 遠い将来…中学を卒業して、高校を卒業して、大学を卒業して…十年くらい先に、コイツはプロバスケの世界にいるのかな。

 鬼頭の身長は、まだ伸び続けてる、らしい。

 宮瀬の身長は、もう止まり始めている………らしい。

バスケでもっとも大切な要素、身長が、宮瀬は、もう、ほとんど、伸びない。




 FFSのチームジャージに身を包んだ宮瀬。

 その横顔を見つめて、心の中で問いかける。


(宮瀬、アンタさ、どこを目指してんの? )

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