後遺症
「男女バスケ部両キャプテンとも、後遺症を引きずっている」
と、いう噂が立っているらしい。
鬼頭はあの一戦以来、完璧に自信を失くしてしまっている。
強引なパワープレイが影を潜め、恐竜のようだった鬼頭は、単なるトカゲに成り下がっている。
男バスでの暴君っぷりも、あれ以来影を潜めている。
『NBAは無理だろうけど、日本のプロバスケくらいでなら、当然プロになれる』
そう言われてすらいた鬼頭だが、ここ数ヶ月の成績下落ぶりは、高校へのスポーツ推薦すら危うい状態だ。
変わりに、後田と前橋が主導権を握りだした。
「いつ宮瀬がバスケ部にきてもいいように!」
「宮瀬が見ても恥ずかしくないくらいのプレイをするぞぉ!!」
男バスのスピードは以前とは比べ物にならないほどテンポアップした。
女バスキャプテン………
つまり、アタシも、あの日以来………
あの時から………おかしくなってる。
あんなに楽しかったバスケが、なんとなく楽しくない。
つまんない。
ものたりない………
オマケに、フリースローを打とうとするたびに………
あの時の
宮瀬の背中が
目に浮かんでくる。
アタシのフリースロー成功率は急降下している。
8割あった成功率が………いまでは6割スレスレ。
これじゃあ、接戦の時に競り負ける。
アタシのフリースローのミスで負けることも、少なからず出てきた。
クラスでも、おかしい。
「相羽さん、これなんだけど」
「あ!う………うん」
アタシは、宮瀬とまともにしゃべれなくなってしまった。
宮瀬の顔を見ると、ドキドキ止まんない。
宮瀬の声を聞くと、ドキドキ止まんない。
宮瀬が近づくと、ドキドキ止まんない。
前はあんなにバスケの事を、NBAの事を語りあったのに、今は、宮瀬と自然におしゃべりもできない。
「ねーねー宮瀬君、ちょっと教えて欲しいんだけど〜。
私達ね、最近NBAを見るようになったんだけど、チームがいっぱいありすぎて分かんなくって〜〜。
だから〜〜、宮瀬君が好きなチームとか教えてくれると嬉しいな〜〜って」
「ああ、僕は全チーム好きだから」
そして、宮瀬が他の女の子としゃべってるだけで、胸がチクチク痛くなる。
前は、そんなこと無かったのに。
前は、こんなこと無かったのに。
「男女バスケ部両キャプテンとも、後遺症を引きずっている」
ああ、全くその通り。
どうしてこんな気持ちになるのか、どうすればこの後遺症が治るのか、誰か教えて欲しい。切実に。