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09 黒い使者

黒い使者



俺の目の前で、側近は動こうとする。


「動くな!、動けばお前たちを魔物と判断して斬る!、魔物ではないのなら大臣が

 帰るまで待て」


俺のこの言葉に反応して側近たちは動けなくなってしまう。


時間だけが過ぎていく。


唯一つ、いえるのは『側近達と家臣たちは仲が悪い』と言う事だ。


誰も側近達のために動こうとはしない。




俺はポケットからキャラメルを出す。


そして、王の口に放り込んだ。


「何を?」


しかし、抗議の声はすぐに静まった。


おいしい物をほおばる王の顔は蕩けていた。


やがて、王の口の中のキャラメルが無くなる。


俺は、その度に新たなるキャラメルを入れた。


王はキャラメルを楽しんでいるようだ。




やがて、大臣が戻ってきた。


そして、その手には山ほどの書類を抱えている。


「王様、その者の言う事は正解でした。側近達の不正の証拠がこのように出てきま

 した」


そう言って、大臣は資料を並べていく。


側近達は真っ青な顔だ。


自分たちが王を人質にしていた。


それが、逆に王を人質に取られるなんて考えてもいない。


そのため、証拠を隠すようなことはしていなかった。




王はもう誰が味方なのか判ったようだ。


俺が、刃物を突きつけている。


けれども、それは王を傷つけるものではない。


逆に側近から守っている事に気付いた。


「大臣!法に照らし合わせて処分しろ」


王からの勅命だ。


その声には、幼いながら威厳が感じられた。


「はっ、直ちに」


そう言うと、大臣から合図が掛かる。




衛兵達は、先程までさぼり気味だった。


その彼等は顔つきまで変わって行動している。


どうやら、城の主が替わったことに気付いたようだ。


側近達は一人残らず連行される。


俺は元の場所に戻った。


『おそらく、不敬罪には問われない』と確信していたからだ。




「勇者の諸君!城に巣食っていた魔物退治見事であった」


大臣があからさまに誉めている。


大臣は本来の席に戻って命令を発する。


そのような事が出来るようになって嬉しそうだ。


「シロウとやら、あの食べ物はまだあるのか?」


王が声を掛ける。


「王様、あの食べ物の作り方は勇者の城の料理人の秘伝につきあれだけしかござい

 ません。必要なら買い求めるべきかと思います」


「おお、そういう物なのか。あい判った、そのように手配しよう」


王の態度も脅していたものが消えて嬉しそうな表情だ。


こうして、俺たちは無事謁見の間から戻る事が出来た。




『側近たちが、国を腐敗させている』


そのことは国民の誰もが知っていることだ。


だが、王を半ば人質に王の口から出される命令に誰も逆らえなかった。


その結果、腐敗はますます進んでいた。


本来、勇者の城に回される手当てがあった。


それさえも側近達の私腹に変わっている。


それらの情報を仕入れた結果が、今回の行動だった。


失敗すれば勇者の家族に迷惑がかかるかも知れない。


しかし、俺が世話になった一家だ。


彼等になにか残してやりたかった。




俺達は、城で一日泊まる事になってしまう。


俺たちの扱いはいきなり賓客扱いだ。


城の者達は、いかにあの側近の横暴に手を焼いていたのか判る。


そして、それを勇者という立場を利用して排除した。


『魔物の尖兵』という形で粛清してしまった。


まさに、夢の中ではの『荒療治』というところだ。


お城の中は『お祭騒ぎ』という感じだった。


みんなは、生き生きと動いていた。




アリサが俺を睨んでいる。


「本当に寿命が縮んだわよ」


「すまない、最悪の場合君たち親子は知らないで済まそうと思っていたから」


「でも、良くあんな手を思いついたわね」


「アラン達のお陰さ。国の腐敗の原因を教えてくれたからね」


「でもあれだけ人が居て誰も止められないなんて」


「仕方が無いよ。側近の腐敗は部外者が一気に片付ける以外手段はないからね」


「部外者?」


「僕はこの世界の人間ではないから」


「まさか」


俺が『異世界人』というのは前から知っていたはずなのだ。


しかし、この時のアリサの態度。


それは、別のものに考えが至ったようだ。




「いつの間にか、この世界に立っていたんだ」


アリサは俺の言葉を聞いていない。


「それではあなたは伝説の」


「なんだい?その伝説って」


「『黒い使者が世界の暗雲を払いのける』という伝説よ」


「なんだ、そんな伝説があったの?」


「ええ、だから大臣はあなたの言う事を聞いたのよ。黒い使者が勇者として乗り込

 んできたと思ったからよ」


俺はあの部屋のみんなが見せた不思議な表情の理由を知る。


それが、何だったのかわからなかった。


しかし、アリサの説明で全てが頷けた。


俺はいつの間にか『伝説の黒い使者』になったらしい。


そういえば、初めての時のニーナの様子もおかしかった。




服の汚れが落ちて、白っぽい灰が綺麗になるにつれて畏怖の念が強くなっていた。


あれは、俺の学生服を使者の姿に勘違いしたものだ。


しかし、その後の俺の態度でそんな大それた者ではない事が判って打ち解けた。


アリサはようやくその使者が『俺かもしれない』と思い至ったらしい。


俺は、あまりに自然にアリサ周辺に溶け込んだ。


そのために『伝説の男』とは考えなかった。


それは伝説の男が『自分のような者に絡むわけがない』という極普通の考え方だっ

た。




やがて、時が進み食事の時間になる。


俺は、当然お城の食事なので豪華な物を期待していた。


しかし、内容は種類こそ多いが、味は天然その物だ。


舌が慣れた俺には、とても食べられるものではない。


しかし、他のみんなはそれが当たり前のように食事している。


どうやら、この世界の『食事』と言うのは『すこぶる粗末なもの』と気付いた。


粗末というより、天然素材をそのまま使うのが主流だ。


俺は給仕の人間を呼んだ。




給仕は飛ぶ様にやってきた。


俺は、給仕に向かって厨房に案内するように頼んだ。


俺の姿を見た給仕は逆らいもせずに案内をする。


俺の姿を見た料理人達はパニックになっていた。


俺が『食事に文句を言いに来た』と思ったらしい。


どうやら『黒い姿の使者』というのは根強いものらしかった。


そして、俺の活躍は既に城の隅々まで行き渡っている証拠だった。



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