表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/36

最終話 帰還

帰還



霧がかかる山中のつり橋。


俺達もなぜこんなところに迷い込んだのかわからない。


道路の案内表示に従って歩いてきた。


それなのに、いつの間にかそのようなところに出ている。


橋を見て、俺達は引き返すことも考えた。


しかし、案内表示板をいじったのが『刺客』と予想していた。


『襲われても大丈夫』という自信のような物がある。


その意識が、俺達を罠に導いたのかもしれない。


それが、『自信過剰』というものだ。


俺達は、罠に嵌まるまでそれに気づくことは無かった。




危なげなつり橋ではある。


けれども、一応街道に繋がる橋なので丈夫に作られていた。


馬車さえ通れるほどの吊り橋だ。


少なくとも渡り切るまでに落ちるような存在ではない。


俺とアリサは手を繋いで渡り始めた。


意外なことにアリサは高い所が苦手という。


両側の谷川に見える景色は、霧に隠れて幽玄な装いだ。


それなのに、アリサは見るどころではなかった。


俺にしがみつくようにして足場が揺れるのを耐えている。


その様子はジェットコースターに乗った時の亜里沙を思い出す。


俺は、その抱きつかれた時の感覚が現代を思い出していた。




突然、渡り切る方の対岸から炎の魔法攻撃を受けた。


アリサは緊張する。


魔法の発動と接近に気付いたからだ。


しかし、俺は能力にて魔法を吸収する。


その程度の攻撃には恐れる物ではない。


この程度の火力では橋を繋いでる綱はびくともしない。


だから、安心していた。


俺達を狙った『不意打ちの魔法』と思っていた。




俺は、アリサを背後に庇って次の攻撃に備える。


まさか、それが『魔法を察知する能力のかく乱のため』とは思わなかった。


そして、真下からの大きな火の攻撃が俺達の回りの橋を飲み込んだ。


あの刺客達を始末した火炎攻撃だ。


対岸からの不意打ちは、その攻撃を察知されないための陽動だった。


アリサが受けた攻撃のことを俺がもっと詳しく聞いていれば予測できた。




あの時はアリサが魔法を察知して逃げる事ができた。


今回は同様に察知していた。


けれども、別の魔法に騙されてしまう。


橋が燃え尽きて俺は遙か下に落下する所だ。


魔法のダメージではなく足場消失による落下だった。


俺達には、魔法も剣も効かない。


それを高所から落下させて殺す罠だ。


吊り橋で俺たちは抱き合っていた。


最初の炎を吸収するため、俺はアリサを背後に庇う。


そのため、落下の瞬間アリサと離れてしまった。




意識は黒い世界に吸い込まれるように飲み込まれていく。


俺は、それが墜落感から来るものではないことが判る。


何かが俺の意識を吸い寄せていた。


俺は意識の目を開けて様子をうかがった。


「やあ、気付いているのだろう?」


「お前は誰だ?」


「簡単に言えば、神様といえばいいのかな」


俺は『出るものが出た』と思った。


こんな世界に飛ばした『何者かが存在する』と思っていた。


その相手が『目の前の存在』と確信する。


ただ予想したのとは違った。


目の前の男はトカゲ男だった。




「それで、俺の用事は済んだのか」


「おっ!、察しがいいね」


「お決まりのことを言うのではないか」


「お決まり?」


「普通なら有無を言わさず戻すだろう。それをここに連れ込んだのは理由があるん

 だろう?」


「ああ、そういうことね。確かに、礼を言うために呼び寄せたのだけどね」


「礼?」


「君のお陰でこの世界では人間が存続できた」


「人間?」


「そうだよ、我々も自分達の種族のことを人間と呼んでいるんだ」


目の前の男は魔物だ。


そう、この神様は俺達人間の神様ではなかった。


「それなら、俺達を滅ぼせば良かったのではないのか?」


「ちっ、ちっ、ちっ、それは単純な思考。天敵のいない生物は自己増殖を起こ

 して結局自滅するんだ」


「それでは、俺達は?」


「そう、生物多様性というのを聞いたことないかな? 一見天敵や害虫に見える

 けどその存在が抑制力となって種を存続させるんだ」


俺たちは害虫扱いだ。


「俺の出現は?」


「君がきっかけになってアリサが覚醒したんだ。その時点で君の役目は終わっ

 たけどね」


「それなら、さっさと還せ!」


「そうしたかったけど、時間が必要だったんだ」


「お陰で、アリサはトラブルに巻き込まれて」


「心配しなくてもアリサは助かるよ」


俺はそれを聞いて一安心だった。


「それでね、ここまでがんばってくれたからお返しをしようと思ってね」


「なにか、願いをかなえてくれるのか」


「そうだよ。出来ないことも多いけどね」


「俺は元の場所に帰してくれれば十分だ。もし願いを叶えるならアリサの願いを成

 就してやってくれ。俺のために苦労させてしまったから」


アリサは、俺のために偽りの結婚までして守ってくれた。


俺は、出来る限りのお返しをしてやりたかった。


「それだけでいいの?一生遊べる金とかでも用意できるけど」


「俺は何もいらない!」


「わかった!、アリサという女の子の願いをかなえてあげればいいんだね」


「ああ、そうしてくれ」


「それでは」


男がそういうと俺の意識は暗転した。




俺の目の前に、いきなり見慣れた景色が広がる。


俺は、二年前に飛ばされる直前に戻されていた。


街角を曲がった直後だ。


手に鞄を持っているので律儀な神様だった。


目の前に亜里沙が走っていくところが・・・


見えなかった?




そして俺は亜里沙に躓いて倒れる寸前だ。


とっさに亜里沙を庇った。


それで、身体をひねるようにして思いっきり転んだ。


街角を曲がった直後亜里沙はそこにしゃがんでいたからだ。


亜里沙は俺が追いかけてくるのを待っていた。


俺は亜里沙の落とし穴とも言うべき陥計に嵌って転がった。


「ごめんなさい」


亜里沙が謝りながら手を差し伸べてくれる。


俺はその手をとって立ち上がった。




俺が亜里沙の手を取る。


すると、亜里沙が俺の手を凝視する。


そこには俺がアリサと仲直りしたときに作った指輪が嵌められていた。


アリサの指輪と意匠を似たものにした飾りだ。


『あれは夢ではなかった!』


それを見て亜里沙が微笑んだ。




「おかえりなさい」


亜里沙が声を掛けてきた。


「亜里沙?」


「二年間ご苦労様」


「まさか!」


「神様が願いをかなえてくれたの」


「どんな願い?」


「志郎のいた世界を見てみたいとお願いしたの、そうしたらそれなら一緒に生きて

 体験してくればいいと言って」


なんとアバウトな神様なんだろうと思った。


「それで、志郎はやっぱり志郎だと思ったわ」


「なんだそれ?」


「素敵な人という意味よ」


「それで、あちらの世界はどうなるの」


「神様の期限はこれから二年後なの、その時私は帰るけど志郎は?」


向こうで過ごした二年と同じという意味だ。


亜里沙の成長に合わせているらしい。


「俺は・・・・」


俺自身帰れるのかと思う。


でももし帰れるのなら・・・


今度こそもっと知識を蓄えてあの世界を充実したものにしてやりたい。


機械文明の導入ではなく、いろいろな知識の導入だ。


それまでに仕入れなければいけない知識は山ほどある。


「志郎も戻ってくれるのでしょう?」


返事が無い俺に、亜里沙から不安そうな声が掛かる。


「勿論だ!」


「うれしい!」


そう言って抱きついてくる亜里沙だった。




後日談



俺と亜里沙はいきなり『同棲』ということになってしまう。


学校近くのマンションを購入して住む事になった。


亜里沙曰く。


『結婚した男女が離れて暮らすのはおかしい』という。


それを認める亜里沙の両親と俺の親だ。


亜里沙の両親はすでに亜里沙がこの世を去ることを承知だった。


そして、俺の親も!


亜里沙が見せてくれた持参金の金額にびっくり。


九桁の預金通帳だ。


俺達が異界に旅立っていなくなれば、両親に渡るようになっていた。




俺は、亜里沙に金の入手方法を聞いた。


この世界には『競馬』という便利なものがあっていくらでも稼げるという。


亜里沙の兄が協力者で口座を貸していた。


競馬場へは兄と一緒に出かけていき無邪気に馬を見学していた。


妹に甘甘の兄貴で『馬好き』と思っていたらしい。


インターネット投票で馬券を購入していた。


その方法は投票した馬に回復魔法を掛け続けるだけだ。


短距離馬がそのままの勢いで長距離を走り切る。


大穴になるに決まっていた。


さすがにマイナーなレースでしか使ってはいない。


けれども、関係者が首をひねるわけだ。


ニュースにもなっていたから覚えている。


競馬馬にドーピングの疑いをかけられて騒がれていたからだ。


実際には何も出てこなかった。


それが魔法なら当たり前か。


おれは、なぜそんなことをしたのか聞いた。


「おいしいものは金が掛かるから!」という返事だった。










おまけ



亜里沙の子供の頃からの夢。


それは、落下の夢だった。


それゆえに、亜里沙は高所恐怖症になっていた。


小学校に上がって初めて指輪を指に嵌めたとき前世の記憶を取り戻した。


それが、吊り橋が消失して一人・・で落下していく現実ということに。


水の無い川が遠くに見えていた。


夢を見る度に地上が近付いてくる。




亜里沙は親戚の志郎がパートナーと判っていた。


でも、志郎を再びあの世界に呼び込んで良い物か。


不安で悩んでいたとき、夢が変わった。


今まで、一人で落下している目の前に黒い人影が見えた。


はっきり見えない。


しかし、それが志郎であってほしい。


目覚めた亜里沙は我慢できずに志郎に会いに行った。


手を見たが、志郎は指輪をしてなかった。


むしゃくしゃするので、完成していた朝食のパンをほおばる。


そして、通学路で肘鉄を食らわせて逃げた。


あの夢を見たのに志郎は変わりなかった。


全然、夫婦としての記憶を思い出していない!


アリサは悲しくなってきた。


志郎が見えなくなったところでしゃがんで涙を拭こうとしていた。


まさか、直後を走っていると思わなかったからだ。


亜里沙につまずいて志郎が転ぶ。


助け起こすとその手には指輪が光っていた。




その後の夢で志郎がノートパソコンを持っていることを教える。


志郎の喜びようは最高だった。


充電を試したらアリサの魔法で可能だ。


後から知ったことだが、亜里沙の魔法は存在していない。


競馬でうまくいったのは奇跡と知る。


志郎と出会ってからはその力は封じられたからだ。


その理由は志郎が説明してくれた。


無欲だった志郎に神様が『一生暮らす金を用意してくれた』ということだ。


充電も同じだ。


確認のための一回だけは使えたが、その後は使えなかった。




落下を救う方法は志郎が教えてくれた。


地上に向かって『思いっきり魔法をぶっ放せ』という。


その反動で爆風が来る。


その風圧で逃れれば良いという。


「爆風も魔法だから、俺が守る!」という志郎が頼もしかった。


でも、その場では私が魔法障壁で守ってあげるつもりだ。
















おまけ2



勇みこんで異界へ乗り込んだ二人だった。


勿論、乗り込む前に夫婦としての入籍も済ませていた。


前の時は仮の夫婦ということで志郎は手を出さなかった。


しかし、正式な夫婦ということで・・・


ピンチは二人の機転と能力であっさり乗り切った。


リザードとは定期的に会って食事や話などをしていた。


そして、二人はその臨終に立ち会うことも許されたぐらいだ。




その後、二人仲良く過ごし、ひ孫に囲まれて天寿を全う。


アリサの能力は子供には引き継がれなかったので一安心する。


勿論、世界の変遷には目を見張るものを多く残していた。


二人が唯一心を残していたのは子供が出来て初めて知った子供との別離だ。


元の世界に残してきた両親に対する思いだった。




『そこで生き抜いて死んだ後、現実に戻ってくる』


二人は、そうとは露ほども考えていない。


いや、『いなかった』というのが正しい。


両親達にすれば、結婚したいから作った作り話のように思われてしまう。


周りからさんざん冷やかされて、あきれる二人がそこにいた。



あとがき

実は魔界を滅ぼすのは発狂したリザードということです。

前魔王と同様に理解されない強者ゆえの発狂。

前魔王は封印の道具というものを持つ勇者達に倒された。

しかし、道具を持たない魔物達では抑えるのは不可能。

その精神安定のため、真の魔王は対立するアリサを作った。

でも覚醒のきっかけがない!

ぐずぐずしていれば、魔物側の襲撃で猿型の人間が滅ぶ!

そこで、異界から無害?な人間を引っ張ってきた。

アリサが好みそうな人を・・・

すでに決められていたこととは知らずに・・・!

真の魔王もまた誰かの手で踊らされているとは・・・

踊らせていたのは・・・



最後まで読んでいただいてありがとうございます。

私の初めての小説『雅雄記』の外伝を同時にUPしました。

時間と興味があったら目を通していただけると幸いです。

外伝といっても本編抜きで楽しめるように書いていきますので、

単独で楽しんでください。

これからも応援をよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ