35 刺客2
刺客2
俺は気付けば黒い刃物が迫る寸前だ。
俺自身、逃れようのない罠のど真ん中にいる。
そのようなものだった。
当然、俺は『死んだもの』と思っている。
しかし、アリサの必死の顔を見た。
そのとき、俺は後悔する。
これは、アリサが俺を近付かせなかった世界だ。
それは、今目の前に迫る危機がそれを教えてくれる。
アリサはこんな世界に生きている少女だ。
それなのに、俺は何も知らずにのんびり暮らしていた。
いや、のんびり暮らさせてもらった。
最後にアリサを前にして、考えることは、『もっと優しくしてやればよかった』と
思うだけ。
俺は、本来アリサを守ってやらなければいけない立場だった。
それなのに俺自身自分のわがままばかり言っていた。
キーン!カキーン!カン!
俺の耳に、三つの音が聞こえた。
そして、ポス!カシャーン、コン!
最初の音が俺の体に刃物が当たった音だ。
後の音が折れた刃物が床に落ちた音だった。
俺自身何が起きたのか判らない。
某ゲームにあった全身を鉄の塊にしてしまう魔法がある。
俺は、そんなものかと思ったぐらいだ。
しかし、刺客達の信じられない顔がその考えを否定していた。
鉄になったのならその表情も見えないからだ。
すかさず、残った三人が攻撃を仕掛けてくる。
しかし、今度は油断していない。
俺は床に落ちてた折れた剣の端を抜いて斬りつけた。
一本が床に刺さっていて手にするのに手ごろだったからだ。
斬り終わった直後に、手に持つ刃物のイメージが伝わってきた。
けれども、手遅れだった。
気付いたときには囲んでいた六人を全員傷つけていたからだ。
俺は、戦闘力を奪うつもりで軽く傷を負わせただけだ。
まさか、それが『毒の剣』とは気付かった。
苦しむ男達に対して、俺は何も出来ない。
俺が『なんとか出来ないか』と思ってもどうしようもない。
『俺自身の手で命を奪ってしまうのか』
心の片隅に人を殺した負い目が浮かびそうに思った時だ。
「志郎!そこを離れて!」
アリサから声がかかる。
俺は苦しむ男達を見放してその場を離れた。
直後に暖かい雰囲気が賊たちを包む。
アリサが掛けた解毒と治癒の魔法だ。
アリサは、俺が居た為に掛けられなかった。
結果的には見捨てたのが正解だ。
アリサは、解毒直後に電撃で意識を奪う念の入れ方だった。
「志郎、無事だった?」
「アリサが守ってくれたのだろう?」
「私はなにもしていないわよ」
「へ?」
俺には、一体何が剣をへし折ったのか不明だった。
アリサが刺客の六人を捕まえた。
それは『伝説的な暗殺組織の構成員』と教えられる。
そして、彼らが白日の下に捕まったのは初めてのことだ。
捕まえてしまえば、人権を無視した尋問が行われる。
その前に依頼主を白状するのは確実だった。
しかし、彼らを収容した警備隊詰め所が爆破されて事件はうやむやになる。
アリサもまさか詰め所が爆破されると予想していない。
魔力を集中するのに時間が掛かる。
それで、固定目標攻撃用の魔法だ。
アリサを襲ったのと『同じ魔法』と教えられた。
俺の体を調べられて傷が無いかをアリサが確かめた。
俺の服は斬られていた。
けれども、身体に傷は無かった。
ただアリサが剣の折れ方を見て思い当たるものがあるようだ。
俺がそれを聞くと、アリサは教えてくれた。
保管庫に入れてある果物がある。
それを不慣れな者が解呪せずに刃物を当てた時に起きる現象だ。
果物は時間が停止している。
そこに通常の時間の刃物が接触して食い込もうとする。
すると刃物が力に耐え切れずに折れる。
刃物は、軽い力で簡単に折れてしまう。
アリサは『その現象によく似ている』というのだ。
『あの瞬間、俺の体は時間停止状態だったのか?』
俺は、首をかしげるだけだ。
確かに刃物が当たると思われる瞬間、俺は身をすくませてはいた。
まさか、それが『時間停止を掛けている』とはおもわなかった。
その後、アリサから注意を受けていた。
固いものなら相手を破壊できる。
けれども、水のような物に接したときそれは悲劇を生む。
だから、注意するように言われた。
理由を聞くと水は時間停止がかかる。
しかし、直後に別の水が浸入して止まっていた水を押し流す。
微少でもその一瞬にそこの組織が水にながされていく。
水は細かい粒のようなもの。
だから割と少量でも浸食される。
簡単に言えば大きな岩も時間をかければ、水に削られていく。
時間停止中の物は流水でいとも簡単に崩れてしまう。
そういう話だった。
同じことは風でも起こっている。
けれども、浸食力が弱いので『割と平気』という。
俺は自分が時間停止中に水で削られているところを想像した。
時間が元に戻ったとき、腕などが浸食で無くなっている。
それを想像すると、恐ろしいことだった。
アリサの方を襲った刺客は、アリサが魔法防御に弱いことを知っていた。
そして、俺の方は魔法攻撃ではなく直接攻撃を仕掛けてきた。
明らかに俺達の特性を熟知したものだ。
それが、背後に感じられる。
しかも、こうして攻撃を仕掛けて失敗した者を始末したぐらいだ。
俺達を密かに監視している可能性が高い。
おそらく、俺の時間停止の防御も次はクリアーしてくる可能性があった。
アリサでも推測できた現象だ。
刺客を生業にしているものなら当然と思える。
アリサとのわだかまりは俺の意識変化で解消していた。
俺自身がアリサに置いてきぼりを受けた。
そのような気がしていじけていただけ。
アリサと話し合って、俺がいかに危ない環境にいたのかを教えられる。
実際に刺客に狙われてみて、初めてその立場がわかった。
アリサと俺は二人で防御が完全なこともわかる。
俺の存在そのものがアリサの守りになっていた。
俺は『もう二度とアリサのそばを離れない』と心に誓った。
『刺客に狙われている』と判っていても不安はない。
アリサは、一軍を相手にしても負けなかった。
あれが借り物の力でなく本物の『アリサの力』と教えてくれた。
俺はアリサが残していた指輪のことを聞く。
アリサは隠すことなく正直に話してくれた。
些細なこともお互いに秘密を持つ。
それが二人の関係をおかしくする。
俺はようやくそのことに気付いた。
俺は初めてリザードのウインクがアリサに向けて行われたことだと教えられる。
それと、この世界では十六歳のアリサは『女性として一人前』ということも。
それを言われた俺は真っ赤な顔で照れていた。
俺は、アリサと再び仲良くなった。
そこで、この世界では無い風習だが、アリサの指輪とそろいの指輪を作る。
もう二度と仲たがいをしないように誓いを込めてだ。
アリサがうれしそうに指輪を眺めていた。
最終話前にバラス裏事情
アリサの異常能力、実は先代魔王の血が入った突然変異だ。
だから、リザードと同様に相手の表層下の悪意が看える。
考えが見えるわけではない。
アリサは、その点を両親にさえ恐れられた。
だから、悪意の無い主人公はアリサにとって最高の相手とも言える。
アリサを純粋に好きで『利用しよう』とかの悪意を感じないからだ。
リザードは前魔王の娘だが、魔界ではその正体と力を隠していた。
単に美女?と頭の良いことで王妃に選ばれる。
二人ともある意味、前魔王の血を引く姉妹のような存在だ。
そして、真の魔王は?
リザードの住む世界を守るため、他世界から助っ人を呼び寄せた謎の存在だった。
次回、最終話 帰還
はたして主人公達の運命は?
この世界の未来は?




