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29 塩を求めて

塩を求めて



この世界に来たとき、俺はこの国の首都に近いところに現れた。


実は『それがすごく恵まれたことだ』と気付いた。


それは、地方を回るようになって気付かされた。


その内容は塩と砂糖だ。


アランも王城の料理人達も砂糖を粉で使っていた。


我々の世界で言う黒砂糖に近い物だ。


それをナイフで削っていた。


そして、俺が見たのはそれが当たり前ともいえる環境だった。




ところが地方に回れば、そのような使い方をしているのはない。


そもそも、黒砂糖さえ出回っていない。


そこに有ったのは規格の統一されていない砂糖紛いの物だ。


その中で、蜂蜜は高級品として出回っていた。


それ以外は繊維分の入った『黒砂糖?』だ。


要は高級品が中央に送られる。


そして、粗悪品が地方に回されていた。


塩も同様だ。


アランたちが使っていた塩は初めて見たとき『桃色の塩』だった。


さすがに王城で見た塩は白かった。


アランに教えてもらった話では『等級が違う』と言うことだ。


この世界の塩は、実は『鉱物資源』という。


『白い塩』というのは超高級な部類になる。


それで、王城への『献上品』という。


一般に回るのは不純物の入っていた。


普通は、桃色が主で『黒い塩』というものもある。


そのような塩は、中に何が入っているか判らない物だった。




アランは塩の入手にかなり苦労していた。


その中で、アランは割りと高級品を入手している。


それでさえもそのような塩だった。


それ以下の塩は?


『砂の混じった塩』というものを想像すればいい。


中に何が入っているか不明だ。


そのようなものが、極普通に市場へ出回っていた。


そして、それが地方では当たり前の話だった。




俺は初めてその事情を聞いたときアランに指示をした。


最低ランクの塩を買って来てほしいと。


アランは、そのような塩では『使いものにならない』と文句を言う。


しかし、『秘策がある』という言葉にしぶしぶ買ってきた。


俺はそれを全部水に溶かした。




塩は飽和食塩水になるまで溶け込んでいく。


茶色い水と沈殿する『砂?』か土の成分が残る。


俺は、その上澄みを別の容器に移した。


布を重ねたろ過装置使って不純物を除く。


すると、透明な塩水になる。


布の間に炭の粉を入れておくのがこつだ。


そして、それを煮込んでいった。




この世界には便利な火の魔法というものがある。


たちまち水を飛ばして出来上がる。


それは、超高級な塩の出来上がりだった。


それを見たアランは驚いていた。


最低ランクの塩が、高級を通り越した塩の山にかわった。


それこそ、魔法のようなことに関心を示していた。




そして、その知識はたちまちアランの知り合いを介して広がった。


アランの結婚式に多くの人が来た理由のひとつだ。


勿論、その恩恵を受けたのは王城の厨房も同じだ。


もっとも、魔法と言うものが無ければ大量の薪が必要になる。


そして、結局値段の高いものになってしまう。


でも、『不純物の少ない塩』というのは便利なものだった。


現代では、それが常識だ。


けれども、ここは異世界だった。




もっとも、城の厨房はもともと高級な塩を使っていた。


一般使用上では大差がない。


けれども、塩蔵に使う塩が安価に入手できることには感謝していた。


兵士に送る食料に使う肉のことだ。




俺は地方を回って塩の最大生産地を見てきた。


そこはまさに鉱山の街という様相だ。


あちこちに岩塩の展示があり。


『自分の所の塩は高級品だ!』と表示していた。


俺の目から見れば、『塩』という結晶の塊だ。


なんとなく、常識的な『塩』と意識が変る。


それを、『口にする』ということに抵抗があった。


俺は、日本という国で産まれた。


そのため、塩は『海水から取るのが当たり前』と思っていたからだ。


この世界では、『塩田による塩の精製』というのはやっていない。


塩はあくまで『鉱物』という扱いだった。




俺は海岸の村で魚を捕るしか生計の無い村を訪れた。


割と遠浅の海岸で塩田も出来そうな雰囲気だ。


その村は、魚の干物を中心に生計を行っていた。


『比較的雨の少ない土地』とわかる。


アリサの権限は便利なものだ。


村長が俺達を優遇してくれる。


少々の無理は聞いてくれそうな気配だった。


俺は村長と話をしてみる。


『海水を引き込んで貯めておける場所がないかどうか』


もしあれば、そこに引き込んで水が干上がるまで放置すれば良い。


砂地でも問題ない。


けれども、出来れば取れた塩を処理することを考えるなら岩が良い。


すると、それに近い地形が『存在する』という。


ただ、現在は『流れこんだ堆積物などの放置所になっている』という話だった。


俺はさっそく見に行くことにした。




その場所は、浅い池のような状態だ。


現実に塩が析出して白い物が覆っていた。


ただ、泥の上に溜まっている。


とても、食用には使えそうもない。


それに流木や昆布、海草の切れ端も多数ある。


まさに、『廃棄された土地』という印象だった。




もしここに、海水を入れて閉じ込めておく。


塩の結晶が出来るぐらいだ。


『十分な塩田になるのではないか』と思った。


塩の結晶が自然に出来ている。


それは、『雨が少ない』ということだ。


俺は、この場所を掃除して塩田を作ることを提案しておいた。


村長はそのアイデアに驚いた表情を示す。


塩というのが、あまり高価ではない。


それなのに『塩を作ろう』ということに対してだ。


おれは村長の説得にかかった。




鉱物資源の塩が主流では、いつか鉱床が底を付く。


そんな日が来ることは目に見えていた。


現に白い結晶の産出が少なくなっている。


そのことを、目の当たりにしてきたからだ。


それと、遊休地で放って置くだけで金になる塩が出来る。


この二点だ。


あいにく俺の知識では塩を作る技法は教科書に載っていたレベルだ。


それでは大きな問題があった。


海水塩には『にがり』というものが存在する。


にがりは、少量なら無害だ。


けれども、大量に含まれれば有害な代物だった。


しかし、塩は天日ならゆっくり結晶化する。


そのような物の混入は少ない。


だから、勧めた方法だ。


村長は、俺の説得に応じてくれた。


その村が新たなる塩の生産地としてこの世界に名を馳せた。


それは一年後だった。




残念ながら、俺がその塩に出会うことはなかった。


適度なにがりが混ざったその塩は好評になって一般に出回らなくなる。


希少価値と味の良さから買占めが横行していたからだ。



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