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アリサは倒れた男達に治癒を加えていく。


「説得するつもりだったのに」


俺は、アリサから文句を言われる。


けれども、あの状況でそれは『無謀』というもの。


「こいつ等には説得は無理だ。身の危険を感じなかったのか?」


「大丈夫よ。体の周りに不可視の障壁を掛けていたから」


「不可視の障壁?」


「ええ、触れば、雷が走るように掛けていたから」


俺はその言葉を聞いてあきれていた。


話を聞けば、スタンガンの一撃に相当する威力らしい。


俺が手を出す必要はなかったみたいだ。




俺一人でもかなわない。


それを知った男は人質にアリサを取ろうとした。


そして、治療中のアリサを襲った。


男達は全員倒れていた。


俺は、そのため油断していた。


倒れていない男がまだ残っていたからだ。


一番最初に藪に飛び込んだ男だった。


戦いが終わった頃、ようやく這い出してきた。


その途中で戦いの様子を見ていたらしい。


そこで、弱そうに見えるアリサを人質にと考えた。


その結果、アリサのスタンガンの一撃を受ける。


ある意味、俺の一撃よりはるかに強力だ。


その男は白目を剥いて意識を失っていた。


俺は、初めて真の勇者の強さを見せられる。


それを見た残りメンバーはもう俺達に逆らう意志はなさそうだった。




「魔物はね。私たちでさえかなわない強さなのよ」


アリサの説得に男達は初めて魔物の強さを垣間見たのだろう。


「判りましたけど、森から出て行けば俺たちは犯罪者に逆戻り、どうしたら?」


「そもそも、あなた達なにをしたの?」


アリサには男達がそんなに悪に見えていないようだ。


アリサの質問に一人一人簡単に答えていく。


「税金が払えなくて盗みに入って?」


「税金が払えなくて街中で強盗・・・」


大半どころか、全員税金を払ったら生活できなくて犯罪に走ったものばかり。


だから、ここに来たのは犯罪者でも『軽犯罪のメンバー』と知った。




「あなた達、王国の政変を聞いてる?」


「政変?なんですか。それ」


まつりごとのトップが替わったのよ」


「まさか?」


「税金が大幅に減額されたから」


そして、ここの領主が中央の側近と深く関係していることを教えられる。


私腹を肥やすため、税金を搾取していた。


そして、さらに収入を増やすため囚人を使い開墾を勧める。


金を使わずに罪を『免除』という餌で彼らをこき使う。


それが、領主の目的だった。




俺としてはアリサがそこまでの情報を持っている事が不思議だった。


勇者の父親の許、そんな地方の情報まで把握。


それをアリサが仕入れている事が信じられない。


しかもアリサは、中央の政変の『改革主』として俺を紹介した。


俺は『黒の使者』として俺を指差された時には焦る。


しかし、彼らは全面的にそれを信じてしまった。




俺とアリサはいつの間にか彼等のリーダーとなっていた。


この領主に対して、クーデターの首領に持ち上げられる。


そして、領主の館に対して進軍開始だ。


背後には寝返った二十四人が従う。


成り行きとは言え、俺は改革軍の首謀者にされてしまった。




森の出口には一軍が構えていた。


囚人たちの反乱に備えた者達だ。


「お前達、作業にもどれ!、戻らなければ、殺す!」


看守役の将軍が横柄に威張った。


アリサが前に出て説明する。


「彼らは勇者に協力して、魔物が化けている領主を倒すため立ち上がったのよ」


アリサの説明はむちゃくちゃだ。


しかし、兵隊の中には勇者の称号に戸惑いが見られる。


すかさず、アリサは勇者の証拠を示した。


その堂々とした態度。


紛れも無い勇者の証。


王の認証もある正式の物だ。


そして、背後に黒の使者ともいうべき俺がいる。


この世界には『黒い使者が世界の暗雲を払いのける』という伝説が蔓延していた。


地方の苦しい生活をしている者にとって救いの伝説だった。




俺達の態度に、あからさまに兵士の中に造反を決め込む者がいる。


造反まで行かなくても、態度保留を決め込んでいた。


苦しい生活より『伝説に縋った方が楽になる』と考えたからだ。


さすがに将軍側近の親衛隊の中にそのようなものはいない。


しかし、雑兵の態度の変化には敏感だ。


乱戦になれば、多くの兵隊が俺たちに付くと察した。


そうして考えると、腐っていても王国の威信は大きい。


そして、将軍が下した結論は『偽勇者』として排除することだった。




親衛隊の一団は将軍の命令でアリサに殺到する。


俺はその前に飛び出して、馬に剣を当てようとする。


さすがに馬は敏感だ。


俺の動きをいち早く察した馬は俺の剣をかわす為棒立ちになる。


もしくは、乗り手を無視して回避行動を取った。


密集体形を取っていた十五人ほどの集団は馬の暴走と回避行動で落馬が相次ぐ。




しかし、落馬しても兵士の戦意はなくならない。


当然、無様に落下するような者は一人もいない。


逆に馬の勘の良さを信じている。


だから、俺が一人だと判っていても油断していない。


兵士達は、徒歩で戦いを仕掛けてくる。


先程の素人とは違う。


連携を取っているのであっさり倒されない。


おまけに、重装の鎧を着込んでいる。


そのため、浅い切込みでは効果が無い。


さらに、俺の行動を読んでいる。


いくら速く動けても剣の壁に突きこむことは出来ない。


急所を巧みにカバーしていた。


一人一人が達人と言っても良いぐらいだ。


数人が俺を囲み足止めを行なう。


残りはアリサに向かった。


助けに行きたくても動けない。


俺は『不味い事になった』と思った。



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