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01 プロローグ

プロローグ



「あれ?ここはどこだ?」


悪戯好きな従兄弟の女の子と登校中の出来事だ。


俺は逃げる彼女を追いかけて、歩道の角を曲がった。


すると、そこは草原になっていた。


本来あるべきはずの街の光景が消えて、一面に広がる草原だ。


俺は、あわてて振り返って背後を見た。


そこも、やっぱり草原になっている。


どうやら、俺は白昼夢を見ているようだった。




俺の名前は、岸田きしだ 志郎しろう高校二年生の十七歳だ。


高校名はあまり関係ないのでこの際省く。


中学から高校、そして大学までの一貫教育校に通学している。


俺の趣味は食べ物だった。


食べ物といっても、そんなに食べるわけではない。


どちらかといえば、食べ物を作ることだ。


特に俺は、あのお菓子の雰囲気が好きだった。


だからと言って、俺が特別太っているわけではない。


俺が好きなのは、人がおいしそうに食べるのを見る事だ。


人はおいしい物を食べている時は平和な顔をしている。


争いごとが嫌いな俺は、そんな顔を見ているのが楽しかった。




従兄弟の女の子は俺より四つ年下の中学生だ。


夢を見るのが好きなロマンチストの女の子だった。


けっして、美人とは思えないし、なによりお転婆だった。


名前を犬養いぬかい 亜里沙ありさという。


俺の母親の話では「女の子は変身するから、今のうちに唾をつけておいた方がいい

わよ」という。


でも俺は知っていた。


亜里沙には既に決めた人がいる。


なんでも、運命の人がいるという話だ。


そして、亜里沙は「産まれたときからその人のお嫁さんになる」という。


嘘か本当か知らないけど、亜里沙には婚約指輪まで見せられた。


今はまだ指輪のサイズが合わない。


そこで、細い鎖を通して首から掛けている。


なんでも産まれたとき、『その指輪を握っていた』という。


将来の婚約者が『その片割れを持っている』というロマンチックな話だった。


母の妹の叔母さんに確認すると、どうやら握っていたのは本当らしい。


出産の時、いつの間にか赤ん坊の手にその指輪が握られていたという。


叔母さんには、「そんなの夢物語で、誰かがこっそり握らせたか、看護婦さんの指

から抜いてしまったのだろう」といってみた。


しかし、その可能性は無いそうだ。


そのような作業に従事する人が、そんな物持ち込む危険性を熟知している。


まして、赤ん坊の様子は複数の人が確認していた。


赤ん坊に指輪を持たせるような時間などない。


赤ん坊は無意識に握りこぶしを作る。


子供の指に握られていることさえ気付かないままだ。


そして、五体チェックの看護婦さんが強引に赤ちゃんの指を開いて確認した。


もちろん、病院側は真っ青になる。


けれども、『最終的には赤ん坊が持っていた』という結論だ。


そのとき、看護婦の一人は「突然出現した奇跡の指輪ね」といっていた。


指輪なら、超音波検診にも反応しないわけはないからだ。


それは、出産の場で『突然現れた指輪』という話だった。




俺が見せてもらった指輪その物は、ありふれた銀の指輪だった。


表面の模様は『唐草模様』といっても良かった。


亜里沙と俺とは従兄弟の関係だ。


そのため、小さい時から仲良くしている。


その関係で、子供同士いろいろな話をしていた。


俺の料理好きも『彼女のご機嫌をとるため』と言ってもよい。


亜里沙は、俺がお菓子を作り始めると凄く機嫌がいいからだ。


でも結婚だけは、譲らないつもりらしい。


「志郎ちゃんがずーと待っていて、私の王子様が三十になっても現れなかったら結

 婚してあげるわよ」


そう言って、万が一のスペア候補には選ばれていた。


俺としては、それを聞いて笑って誤魔化すしかない。


亜里沙が三十では俺は三十四歳だ、それまでのんびり待つ気も無いからだ。


俺としては、亜里沙の相手が『どんな男』は気になるところだ。


そんなことを気にする俺は、やっぱり亜里沙に惚れているのだろう。






その日の朝も、いつもと同じだ。


俺は、トーストに苺ジャムを塗って食べていた。


苺ジャムは俺の自慢ではないが、俺の手製だ。


すると、亜里沙がいつも同様に俺を迎えに来た。


新学期になって、同じ学校に通えるのが嬉しいらしい。


新学期になって一緒に通うようになった。


ただその日は、亜里沙が異常にはしゃいでいた気がする。


そして、俺の顔を見たとたん不機嫌になった。




亜里沙は、あろうことか俺の朝食を横取りする。


その様子は、亜里沙が思い通りにならない時の癖だ。


俺のおやつなどを自棄食いする。


それとよく似ていた。


挙句に、食べかけのパンまで横取りされてしまった。


俺は「朝食ぐらい食べて来い」と言ったのだが、「食べてきたわよ」と返事され

た。


さらに「ジャムがおいしそうに見えたから」と言われてしまう。


そして、亜里沙は俺の食べ掛けを平然と食べてしまった。


うちの母親はそれをにこにこしながらただ見ているだけ。


俺は、仕方がなく次のパンが焼けるまで顔を洗いにいく。


しかし、俺が顔を洗って席に着いたときには飲み物しか残っていなかった。


亜里沙の自棄食いは、かなり『重症』と知る。


俺は、今日一日亜里沙のご機嫌が悪い事を覚悟した。


亜里沙のお陰で、俺は焼いてないパンにジャムを塗って食べる羽目になった。




俺は亜里沙と一緒に家を出て、学校に向かう。


俺自身は、女の子の手を握るなどは恥かしくて出来ない。


二人は、並んで一緒に歩くだけだった。


「志郎ちゃんはいい奥さんになれるね」


俺が一緒に歩いていると、亜里沙にそう言われてしまう。


俺はかちんと来て「亜里沙はいい旦那さんになれそうだな」と答えた。


亜里沙が『むっ』とした顔をする。


そして、亜里沙は俺の腹に肘の一撃を見舞った。


ちょうど肋骨の下辺りにクリティカルヒットしてしまう。


俺は打撲の痛みに顔をしかめた。


亜里沙は、俺が痛みにひるんだ隙を見て逃げていく。


俺と亜里沙は長い付き合いだ。


俺は亜里沙が本気ではないのが判っている。


しかし、痛い目を見たのは俺だ。


亜里沙が謝ってくれてもばちは当たらない。




ところが、亜里沙は後ろも見ずに全力で走っていく。


いつものように背後を振り返りながらではない。


朝からの様子で、亜里沙になにかあったのかもしれない。


俺は少し心配になった。


そこで、俺は亜里沙を追いかけることにした。


気のせいかも知れないけど、亜里沙が涙を流したようにみえたからだ。


俺は、そんなにきついこと言った覚えはない。


それなのに、亜里沙が泣いているように見えた。


そして、俺は亜里沙を追いかけて角を曲がった。




俺は目の前に広がる草原にびっくりする。


映画館で場面が変わったような印象だ。


そんな感じで、周りの景色が一瞬で変わった。


今まで居た街景色は綺麗に消えている。


振り返っても、どこまでも草原が続いていた。


俺はただ呆然と草原の只中に立ち尽くすはめになってしまった。



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