1.「恐れなければ」
朝の光が小屋の窓からハイドを照らした。
朝日を眩しく、契約精霊のラヴィスは目を細め陽の光を疎んでいた。
「フレド……眩しいなんとかして…。」
ラヴィスは契約者のことをフレドという珍妙な愛称で呼ぶ。ハイドはハイドでありフレドという名前にはかすりもしないのだ。
「…はいはい、わかったわかった。」
ハイドは朝の光を嫌う白狐の契約精霊ため、億劫だが腰をあげ、窓辺に寄った。すると大男たちに追われる少女の姿がハイドの目には映った。
「……この辺に、人なんて珍しいな」
誰に聞かせる訳でもないのにハイドはぽつりと呟いた。
ハイドにはその様子がなぜか頭に残った。大男たちと少女という組み合わせが珍妙だからなのか。
「ラヴィ、外に出るぞ」
考えるよりも先に身体が動いていたというのはこういうことなんだろうと後になってハイドはそう思った。
「いいよ!なにか面白いことでも見つけたの?」
精霊であるラヴィスは面白いもの見たことないものに興味津々なのだ。興味は疎ましい朝の光にも勝るらしい。
外に出ると春先の朝特有の暖かい風に包まれた。
「え!?そこの人、退けて!!」
慌てたような少女の声は徐々に近づいてきた。
ハイドは言われた通りに、いや半ば反射神経といった方が正しいだろう。その場から少し離れていた。
すると、肩に毛先がつくぐらいの白髪と仕立てが良く動きやすそうな丈の短いワンピースを揺らしながら森を駆けようとしていた。
「君は、あの人たちから逃げているのか?」
ハイドは思わず白髪の少女に声を掛けた。
少女は話掛けられたことに驚いたような顔をして、走り出そうとしていた足を留めてハイドの元に戻ってきた。
「そうよ!」
恐れ知らずに肯定する少女にハイドは少々呆れを覚えた。
「どうしてだ?」
「だってあの人たち、精霊を密売しようとしていたのよ、だから私不意をついて精霊を逃がしたのだから商売の邪魔をされたって言うの!」
怒ってるのはこっちもよ!!と付け加えながら少女は可愛らしく怒っていた。
「なるほど、精霊市か…それで、逃げ切る自信は?」
そういうと、元気な印象を与えていた彼女は一回り縮んだように見えた。
「ない…」
「なら、いい場所があるんだ。案内してやる」
そう言い、ハイドは走りだした。少女は焦ったようにハイドの後ろを追い掛けた。
森を抜け、ついた場所は大きな湖だ。
「湖?こんなにひらけた場所ならすぐに捕まっちゃうんじゃ?」
「…ただの湖ならそうだな」
覗いてみろとハイドは少女に言い、少女は言う通りに水面を覗いた。
水面には古城が写っていた。
「お城?」
「そうだ、聞いたことあるだろ?水鏡の古城だ。」
「あぁ!フレドリック5世が作ったていうあの?ただのおとぎ話だと思ってた…」
少女の言葉を聞き、ハイドはふっと口元を緩ませていた。
ハイドは少女におもむろに手を差し出した。
差し出された手を少女は疑問に思いつつ手を取った
少女が手をとった事を確認したハイドは湖に入った。
「え!?濡れちゃうんじゃ…?」
「大丈夫だ、濡れないから」
そうハイドが言い切るとふと、近くから大男たちの声が響いた。
「おい、いたぞ!あのガキだ!」
怒気を含んだ低い声は少女の耳にも届いていた。




