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騎士のソニア  作者: 深緑蒼水


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20/27

20:あの日の空

『騎士のソニア 【20:あの日の空】』


(ミア)「…。」

(皆)「…。」

ミアとソニア達は、互いに見つめ合い、警戒した。


(ソニア)「…一体、何が起きてるんだ…?」

ソニアは攻め、声をかける。


「…。」

ミアは悩んでいる。


「ロワを見つけたんだ…。みんなは…」

(リットリオ)「仲間の事か。…生きているが、無罪とはならんだろう。

罪を軽くしたいのなら話せ。」

「助けてほしいの…。サンを…。ブラック・ロワのみんなを…。」


ミアは決意を示し、人々が眠るその場所でソニア達に語り始めた。

ブラック・ロワに起きたことを。


―ブラック・ロワ(過去)―


―フォォォ…。―

薄暗い曇りのある日。少し古い木造の家。窓を開け、涼しい風が流れてくる。


(サン)「…。」

―キィィ…。カラ…。―


少年期のサン。サンは、海や街に流れ着いたり、落ちたりしているガラクタを集めるのが好きだ。そんなガラクタを組み合わせ、物を作るのがサンの遊び方である。


「…?」

ガラクタ入れに手を入れるが、底と触れた。


「足りなくなった。…また探しに行かないと。」

木の椅子を後ろに引き、外に出ようとする。


―ドカン…!!!―

(父)「ッグワァァァァァア!!!」


父の騒音は日常的だ。今ではもう慣れてしまった。音を聞くのも。

父を刺激しないよう、振る舞うことも。


―ギィィィ…。バタン…。―

窓を閉じた前…


(???)「サン。」

「兄さん。今は戻らない方がいいよ。」

(ディポラティア)「あぁ。聞こえた。だがな。」


サンの兄、ディポラティア。そう言う兄の腕には。


「今日も狩りに行ったの?」


ブラック・ロワ。小島であるが、森や海に棲む魔物は危険である。

決して美味くはないが、食材を選べるほどの財力はない。

食事は調達したものを使う。サンが作った機械。ディポラティアが狩った魔物の素材。これらを街の人や、たまに来る旅人に売り生活するのだ。


「そうだ。だから入らないとな。」

「気をつけて。」


ーーーーー


―ガラガラ…!!!―


「こんな所か。母さんに会いに行こうかな。」


ガラクタを、箱から溢れない程度集めたサン。家にはいない母に会いに行く。


―ギィィィ…。―

(母)「サン?」

「元気?」


サンの母。街の小さな病院で、住んでいると言っていい。


「何とかね。最近はどう?」

「変わらないよ。いつも通り部品を集めて作ってる。あ、でも最近紙とペンを買えたんだ。だから、設計図を書いたよ。空想的だけど…。」

「そうなのね。新しい事をするのはいい事だから、そのまま続けてみて。

 あと、身体には気をつけて。私みたいにならないでね。」

「大丈夫だよ。早く治ってね。」


サン達の母。元々持病があったが、父との生活によるストレスで病はより酷くなった。

サンが書いた設計図。言うならば、オメガである。だが最初、オメガを戦闘用に作ることなど考えていなかった。いつも寂しく窓を眺めるだけの母に、何か出来たらいいなという願いだけで、オメガを書いていた。


ーーーーー


―シーン…。―

暗く静かな夜。


―ドン…。ガッ…。―

何やら音が聞こえる。


「…?」

(父)「ディポラティア。金は毎月払え。お前を"右大陸"へ行かせるのは、俺の金だ。」

「分かっている。…。」


―ギシッ…。ギシッ…。キィィィ…。バタン…。―

ハッキリとは聞こえなかった。夢のような感覚でふんわりと聞こえていて。

起きようとしたが、縛り付けられたような感覚が邪魔をした。


―チュンママ…!!!―

朝だ。小鳥が細い枝で、小さく吠えている。


「…。…?」

机の上、手紙が置いてある。


―ビリ…。ペラ…。―

そこまで見たことはないが、ディポラティアの字体だ。


―サン。俺は、お前が気付きこの手紙を読んでいると信じている。

俺は"右大陸"に行き、"狩人"になる。動物が進化した、"獣"がいる大陸だ。

…ここからは冷静に読め。父と何者かの話を聞いた。右大陸を統べる王とやらに、妹が売られるらしい。俺が右大陸へと送られるのは、止められる可能性を、奴が恐れているからだ。俺はお前達の近くにいられない。

だから信じている。失敗した時は任せろ。俺が直接王に会いに行く。

…サン、いつの日かまた会おう。”ディポラティア” ―


「分かったよ。…任せて。」


兄ディポラティアの手紙を読んだサン。そこからの日々は、警戒続きの日々だった。妹にはこの事を話さず、夜はなるべく起きている。

父が狂乱したタイミングで寝るという逆転の生活を続ける。


―シーン…。―

暗く静かな夜。何日目だろう。


「今日もないか…?…。」


―チュン…!―

「…!!!」

そんな生活が、ずっと安定する訳がない。サンは寝てしまった。

だが、一羽の鳥が早くも朝を知らせる。


―キッ…!ガッ…!!!―


「無駄だ!お前も、あいつも、金にならないなら捨てるだけだ…!!!」


(ケイジーノ)「ッ…!!!」

ケイジーノは父に強く抑えられ、そのまま外に出された。


(???)「来たか。」

「早く金をくれ…。なるべく早く行ってくれよ…。」

「そう焦るな。」

「早くしろ!!!」


父の怒号が聞こえた。いつもとは違う焦りの声。


―ダン…!!!―


(サン)「おい…!!!」

「お前…!」

「焦りすぎだ。だからこうなる。…受け取れ。」

―バサッ…!!!―


「お前だな、王…!」

「…?知っているのか。だがな…」


―ガガガガン…!―

その男は、サンに指を向けた。するとサンの身体は宝石により包まれ、

身動きが取れない。


「どうだ?」

「ッグ…!!!」

「…。親子の絆などないな。父は金を集め、子供を見もしない。じゃあな。俺は帰る。」

―サッ…。―


(ケイジーノ)「…!助けて!!!」

「ケイジーノ…!」


妹の姿。サンがどれほどもがき叫んでも、離れていく。


―バキ…!バキ…!!!バラバラ…!!!―

「ハァ…!ハァ…!」

宝石を破壊した時、もう二人の姿は見えなかった。


―ダッ…!―

ケイジーノを追うサン。その前に、父は立った。


「行かせると思うか?俺に勝てると思うなよ!!!」

父は叫ぶが、サンにとって眼中にない。父より強く、強大な存在が、妹を連れていったから。


―ダン…!―

サンは一歩、踏み込み…。


「ガラクタいじりのガキが…!ここで死ね!!!」


―グサ…!!!―

「ッな…。」


―バサッ…!!!―


サンは父を刺した。元々、王を殺す気でいた。何も気にする事はない…。

「ケイジーノ…!」

視界から消えた妹を追う…。


ーーーーー


―ザァァァ…!!!ザァァァ…!!!―

快晴の天気は荒れていた。


「ケイジーノ…!!!」


海、船の上に妹がいる。船もまだ見える。


「追って来るか。欲しければ来てみろ。でなければ、夢は叶わない。」


―バシャ…!!!―

サンは迷うことなく、荒れる海の中に飛び込んだ。


(???)「…。覚悟は充分。だが無理だ。」


―ザァァァ!!!―

現実の高波が、サンを襲った。そして意識がなくなった…。


ーーーーー


―バッ…!―

「…!」


(ハザキ)「起きたか。」

「ハザキ…」

「サン。お前が浜で気絶しているのを見かけた。…お前に助けられた時を思い出すが、今はいいか。」


ハザキとブラックソードは、ロワに流れ着いた漂流者だ。

荒れ狂う海に沈み、ロワへと奇跡的に着いた。

故郷に帰ることはせず、それからはロワの住民となった。


―スッ…。―

サンはベットから足を着き、どこかに行こうとした。


「待て。…家に戻るのか?」

「…。」

「戻らなくていい。ブラックソードが行っている。」

「これからどうなる…」

「どうもならないだろう。私は故郷を追放された身だが故郷と違い、ロワに法はない。この街は、人々の善意で成り立っているではないか。」

「…そんなものか。」


ーーーーー


サンは落ち着きを取り戻し、結局家に戻った。二人の家に行ってもよかったが、サンにとって嫌な思い出もあれど、兄妹との思い出がこの場所にはある。ここが家なのだ。血の匂いは残るだろうと思い歩く。そして家に着いた。


(ブラックソード)「…案外元気そうだな。」

「可能性は残ってるから…。楽にはならないけど…。家、掃除してくれたんだ。ありがとう…。」

「構わない。死体の山は何度も見た。慣れていることだ。」

(ハザキ)「私達は帰るが、何かあれば来い。」

「分かった。」


―キィィィ…。バタン。―

そこからの日々。サンは部屋に籠るようになった。戦闘兵器を作るために。


ーーーーー


何日が経っただろうか。上手くいけば、今日終わる。


―ガッ…!ビビビビ…!!!―

運良く旅人から貰った、バッテリーを差し込む。


―ビゴン…!!!―

薄暗いサンの部屋。赤色の光が部屋に広がる。


「オメガ。お前の名前だ。」

(オメガ)「…はい。命令は、何ですか?」


ーーーーー


遂に起動した、戦闘兵器:オメガ。サンはオメガに命令を下した。


「どうぞ。あなたが言っていたことをやってみました。物資が大量に必要ですが。」


―“機動兵器:グァンザ”―

「いいな。理論は完璧だ。いつの日かやってみよう。」


オメガへより高性能な兵器の設計図を頼んだサン。設計図を見ながら、先を考える。


―ギュイーン…!!!―

未来を語るサン。その時、不可解な音がロワに響いた。

ディポラティアと離れたように。

サンの父に突然死が訪れたように。

ケイジーノとの間に別れが突然立ち塞がったように。

出来事とは、いつも突然なのである。

「サン。」

「…?」


―ドォォォォ!!!!!―

不可解な音はより鮮明に響き、赤い光と共に二感を奪った。


ーーーーー


ーバタン…!ー

二人は家から出て街を走っていく。


(サン)「異常だ…。」


赤く染まるロワの上空。


(人)「グワァァァァ…!!!」


ロワの人は、サンを襲うように近付いてきたが…

―バタッ…。―


「ガァアァア…。機械いじりのサン…?最近見ないと思ったが、生きてたか…。」

「何があった!」

「いいか…。逃げろ…。」


―バサッ…。―

そう言い、その人の意識は途絶えてしまった。


―カラン…。カラン…。―

鈴の鳴る音が聞こえる。

(スズナリ)「…。」


二つの剣をもったそれは確かに目で見える。身体が所々半透明に見え、布を被っている。人に寄り添う形で屈んでいたサンは、その顔を見れた。だが顔は濃くモヤがかかっており、見えないというより、無い感じだ。


「お前はなんだ…」


―ダッ…!―

(ブラックソード)「下がれ、サン…!」


―スザン!―


(スズナリ)「…。」


(ハザキ)「…?当たっていなかったのか?」

「斬ったはずだが…。」


サン達は正体不明の幽霊のような者に集中していた。だから気付かなかった。


(人々)「―ワヤワヤ!!!ガヤガヤ!!!―」


ロワの人々は広場に集まっており、フラフラと揺れながら、意味不明に言葉を並べ発している。


(ハザキ)「…何をしているんだ?あれは…。」

(ブラックソード)「警戒しろ…。」


―カラン…!カラン…!―

鈴の音がした方を見る。幽霊のようなそれは、広場の上へと飛んで行った。

その時、人の姿が見えた。空に浮く人の姿が。


(サン)「…人?浮いてるのか…???」

(???)「"もらうね"…。」


―シュウウウウウウウ…!!!!!―

少し幼めの少女は小さく言葉を呟き、人々の体からオーラのようなものを吸い寄せている。


(オメガ)「まさか…!!!」


オメガは短期間で様々なことを学習した。データに引っかかる。

何か嫌な予感がする…。


―スン…!ガン…!!!―


「ッグ…!」

何かがオメガの先に現れ、オメガを吹き飛ばした。


―バキ…!ボリ…!―

(アメガミ)「…。」

それが体を動かす事に、重く響く音が聞こえる。それもまた、所々半透明。

布を被っている。顔にはモヤ。基本的特徴は同じであるが、こちらは狂気的な見た目をしており、巨大な斧を持っている。


―シュイイイインンンン…!!!!!―

先程と同じ引き寄せがより強く、サン達にもかけられた。


(皆)「ッ…!!!」

身体から意識が離れていく感覚がする…。


―ドン…!!!―


(皆)「…!」


強く地面が揺れた。


(サンドラ)「耐えろ…!生きる希望をもて…!!!抗えるぞ…!」

森に棲む巨狼が、街へと現れた。


―シュイイイイ…。―


(皆)「ッグ…!ハァ…。ハァ…。」


引き寄せが止まった…。


(???)「…。帰ろう…。」

そう呟き、謎の二体と共に少女は消えた。


―ダッ…!―

サン達は倒れている人々の元に急ぐ。


(人)「…。」

(ハザキ)「…!息があるぞ。おい!大丈夫か!!!」


強く揺すってみた。だが、意識が戻るような感じがない。


(サン)「…!母さん…。」


―バッ…!!!―


サンは咄嗟に母の元へ向かった。母は大丈夫なのだろうかと…。


ーーーーー


―バン…!!!―

勢いよく扉を開けた。


(サン)「母さん…。」

(母)「 」

「聞こえない…???」

(オメガ)「サン。死んでいます…。」

(サン)「…!!!」


―“サン”。あなたはサン。太陽のような、希望の光。―


ロワを襲った謎の少女。その悲劇をサン達は、今後の日々で痛感することになる。

“魂が抜き取られた”と。

サンは、短期間で知ってしまった。この世界の不条理を。

兄と離れ、妹は権力者へと連れられ、故郷には呪いが降り注ぎ、突然の母の死。

サン。彼の人生に、太陽はない。


ーブラック・ロワ(現在)ー


(ミア)「これが全部…。」

(ソニア)「聞いた話なのか…?」

「うん。…その後に私は生まれたから。一回も、親の声を聞いたことがないんだ…。」

(皆)「…。」

(ヤチェリー)「相手の場所は分かるの?」

「当時、サンドラがあとを追ったんだよ。匂いは途中で途切れたけど、森の中に消えたって。」

(ソニア)「…。タイダルに、この話をしていいか?」


ミアは小さく頷いた。


「分かった。…行こう。」

「待って…!」

(皆)「…?」

「サンを、みんなを助けて…。私達は悪い事をした…。それが消えるわけじゃないことは皆、覚悟してる…。でもね、"普通に生きてた"だけなんだよ…。だからお願い…。」

(ソニア)「…。やれることは、やってみるよ。」

ただ一人、ロワに残ったミア。彼女が語ったのは、壮絶なロワの過去であった。

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