20:あの日の空
『騎士のソニア 【20:あの日の空】』
(ミア)「…。」
(皆)「…。」
ミアとソニア達は、互いに見つめ合い、警戒した。
(ソニア)「…一体、何が起きてるんだ…?」
ソニアは攻め、声をかける。
「…。」
ミアは悩んでいる。
「ロワを見つけたんだ…。みんなは…」
(リットリオ)「仲間の事か。…生きているが、無罪とはならんだろう。
罪を軽くしたいのなら話せ。」
「助けてほしいの…。サンを…。ブラック・ロワのみんなを…。」
ミアは決意を示し、人々が眠るその場所でソニア達に語り始めた。
ブラック・ロワに起きたことを。
―ブラック・ロワ(過去)―
―フォォォ…。―
薄暗い曇りのある日。少し古い木造の家。窓を開け、涼しい風が流れてくる。
(サン)「…。」
―キィィ…。カラ…。―
少年期のサン。サンは、海や街に流れ着いたり、落ちたりしているガラクタを集めるのが好きだ。そんなガラクタを組み合わせ、物を作るのがサンの遊び方である。
「…?」
ガラクタ入れに手を入れるが、底と触れた。
「足りなくなった。…また探しに行かないと。」
木の椅子を後ろに引き、外に出ようとする。
―ドカン…!!!―
(父)「ッグワァァァァァア!!!」
父の騒音は日常的だ。今ではもう慣れてしまった。音を聞くのも。
父を刺激しないよう、振る舞うことも。
―ギィィィ…。バタン…。―
窓を閉じた前…
(???)「サン。」
「兄さん。今は戻らない方がいいよ。」
(ディポラティア)「あぁ。聞こえた。だがな。」
サンの兄、ディポラティア。そう言う兄の腕には。
「今日も狩りに行ったの?」
ブラック・ロワ。小島であるが、森や海に棲む魔物は危険である。
決して美味くはないが、食材を選べるほどの財力はない。
食事は調達したものを使う。サンが作った機械。ディポラティアが狩った魔物の素材。これらを街の人や、たまに来る旅人に売り生活するのだ。
「そうだ。だから入らないとな。」
「気をつけて。」
ーーーーー
―ガラガラ…!!!―
「こんな所か。母さんに会いに行こうかな。」
ガラクタを、箱から溢れない程度集めたサン。家にはいない母に会いに行く。
―ギィィィ…。―
(母)「サン?」
「元気?」
サンの母。街の小さな病院で、住んでいると言っていい。
「何とかね。最近はどう?」
「変わらないよ。いつも通り部品を集めて作ってる。あ、でも最近紙とペンを買えたんだ。だから、設計図を書いたよ。空想的だけど…。」
「そうなのね。新しい事をするのはいい事だから、そのまま続けてみて。
あと、身体には気をつけて。私みたいにならないでね。」
「大丈夫だよ。早く治ってね。」
サン達の母。元々持病があったが、父との生活によるストレスで病はより酷くなった。
サンが書いた設計図。言うならば、オメガである。だが最初、オメガを戦闘用に作ることなど考えていなかった。いつも寂しく窓を眺めるだけの母に、何か出来たらいいなという願いだけで、オメガを書いていた。
ーーーーー
―シーン…。―
暗く静かな夜。
―ドン…。ガッ…。―
何やら音が聞こえる。
「…?」
(父)「ディポラティア。金は毎月払え。お前を"右大陸"へ行かせるのは、俺の金だ。」
「分かっている。…。」
―ギシッ…。ギシッ…。キィィィ…。バタン…。―
ハッキリとは聞こえなかった。夢のような感覚でふんわりと聞こえていて。
起きようとしたが、縛り付けられたような感覚が邪魔をした。
―チュンママ…!!!―
朝だ。小鳥が細い枝で、小さく吠えている。
「…。…?」
机の上、手紙が置いてある。
―ビリ…。ペラ…。―
そこまで見たことはないが、ディポラティアの字体だ。
―サン。俺は、お前が気付きこの手紙を読んでいると信じている。
俺は"右大陸"に行き、"狩人"になる。動物が進化した、"獣"がいる大陸だ。
…ここからは冷静に読め。父と何者かの話を聞いた。右大陸を統べる王とやらに、妹が売られるらしい。俺が右大陸へと送られるのは、止められる可能性を、奴が恐れているからだ。俺はお前達の近くにいられない。
だから信じている。失敗した時は任せろ。俺が直接王に会いに行く。
…サン、いつの日かまた会おう。”ディポラティア” ―
「分かったよ。…任せて。」
兄ディポラティアの手紙を読んだサン。そこからの日々は、警戒続きの日々だった。妹にはこの事を話さず、夜はなるべく起きている。
父が狂乱したタイミングで寝るという逆転の生活を続ける。
―シーン…。―
暗く静かな夜。何日目だろう。
「今日もないか…?…。」
―チュン…!―
「…!!!」
そんな生活が、ずっと安定する訳がない。サンは寝てしまった。
だが、一羽の鳥が早くも朝を知らせる。
―キッ…!ガッ…!!!―
「無駄だ!お前も、あいつも、金にならないなら捨てるだけだ…!!!」
(ケイジーノ)「ッ…!!!」
ケイジーノは父に強く抑えられ、そのまま外に出された。
(???)「来たか。」
「早く金をくれ…。なるべく早く行ってくれよ…。」
「そう焦るな。」
「早くしろ!!!」
父の怒号が聞こえた。いつもとは違う焦りの声。
―ダン…!!!―
(サン)「おい…!!!」
「お前…!」
「焦りすぎだ。だからこうなる。…受け取れ。」
―バサッ…!!!―
「お前だな、王…!」
「…?知っているのか。だがな…」
―ガガガガン…!―
その男は、サンに指を向けた。するとサンの身体は宝石により包まれ、
身動きが取れない。
「どうだ?」
「ッグ…!!!」
「…。親子の絆などないな。父は金を集め、子供を見もしない。じゃあな。俺は帰る。」
―サッ…。―
(ケイジーノ)「…!助けて!!!」
「ケイジーノ…!」
妹の姿。サンがどれほどもがき叫んでも、離れていく。
―バキ…!バキ…!!!バラバラ…!!!―
「ハァ…!ハァ…!」
宝石を破壊した時、もう二人の姿は見えなかった。
―ダッ…!―
ケイジーノを追うサン。その前に、父は立った。
「行かせると思うか?俺に勝てると思うなよ!!!」
父は叫ぶが、サンにとって眼中にない。父より強く、強大な存在が、妹を連れていったから。
―ダン…!―
サンは一歩、踏み込み…。
「ガラクタいじりのガキが…!ここで死ね!!!」
―グサ…!!!―
「ッな…。」
―バサッ…!!!―
サンは父を刺した。元々、王を殺す気でいた。何も気にする事はない…。
「ケイジーノ…!」
視界から消えた妹を追う…。
ーーーーー
―ザァァァ…!!!ザァァァ…!!!―
快晴の天気は荒れていた。
「ケイジーノ…!!!」
海、船の上に妹がいる。船もまだ見える。
「追って来るか。欲しければ来てみろ。でなければ、夢は叶わない。」
―バシャ…!!!―
サンは迷うことなく、荒れる海の中に飛び込んだ。
(???)「…。覚悟は充分。だが無理だ。」
―ザァァァ!!!―
現実の高波が、サンを襲った。そして意識がなくなった…。
ーーーーー
―バッ…!―
「…!」
(ハザキ)「起きたか。」
「ハザキ…」
「サン。お前が浜で気絶しているのを見かけた。…お前に助けられた時を思い出すが、今はいいか。」
ハザキとブラックソードは、ロワに流れ着いた漂流者だ。
荒れ狂う海に沈み、ロワへと奇跡的に着いた。
故郷に帰ることはせず、それからはロワの住民となった。
―スッ…。―
サンはベットから足を着き、どこかに行こうとした。
「待て。…家に戻るのか?」
「…。」
「戻らなくていい。ブラックソードが行っている。」
「これからどうなる…」
「どうもならないだろう。私は故郷を追放された身だが故郷と違い、ロワに法はない。この街は、人々の善意で成り立っているではないか。」
「…そんなものか。」
ーーーーー
サンは落ち着きを取り戻し、結局家に戻った。二人の家に行ってもよかったが、サンにとって嫌な思い出もあれど、兄妹との思い出がこの場所にはある。ここが家なのだ。血の匂いは残るだろうと思い歩く。そして家に着いた。
(ブラックソード)「…案外元気そうだな。」
「可能性は残ってるから…。楽にはならないけど…。家、掃除してくれたんだ。ありがとう…。」
「構わない。死体の山は何度も見た。慣れていることだ。」
(ハザキ)「私達は帰るが、何かあれば来い。」
「分かった。」
―キィィィ…。バタン。―
そこからの日々。サンは部屋に籠るようになった。戦闘兵器を作るために。
ーーーーー
何日が経っただろうか。上手くいけば、今日終わる。
―ガッ…!ビビビビ…!!!―
運良く旅人から貰った、バッテリーを差し込む。
―ビゴン…!!!―
薄暗いサンの部屋。赤色の光が部屋に広がる。
「オメガ。お前の名前だ。」
(オメガ)「…はい。命令は、何ですか?」
ーーーーー
遂に起動した、戦闘兵器:オメガ。サンはオメガに命令を下した。
「どうぞ。あなたが言っていたことをやってみました。物資が大量に必要ですが。」
―“機動兵器:グァンザ”―
「いいな。理論は完璧だ。いつの日かやってみよう。」
オメガへより高性能な兵器の設計図を頼んだサン。設計図を見ながら、先を考える。
―ギュイーン…!!!―
未来を語るサン。その時、不可解な音がロワに響いた。
ディポラティアと離れたように。
サンの父に突然死が訪れたように。
ケイジーノとの間に別れが突然立ち塞がったように。
出来事とは、いつも突然なのである。
「サン。」
「…?」
―ドォォォォ!!!!!―
不可解な音はより鮮明に響き、赤い光と共に二感を奪った。
ーーーーー
ーバタン…!ー
二人は家から出て街を走っていく。
(サン)「異常だ…。」
赤く染まるロワの上空。
(人)「グワァァァァ…!!!」
ロワの人は、サンを襲うように近付いてきたが…
―バタッ…。―
「ガァアァア…。機械いじりのサン…?最近見ないと思ったが、生きてたか…。」
「何があった!」
「いいか…。逃げろ…。」
―バサッ…。―
そう言い、その人の意識は途絶えてしまった。
―カラン…。カラン…。―
鈴の鳴る音が聞こえる。
(スズナリ)「…。」
二つの剣をもったそれは確かに目で見える。身体が所々半透明に見え、布を被っている。人に寄り添う形で屈んでいたサンは、その顔を見れた。だが顔は濃くモヤがかかっており、見えないというより、無い感じだ。
「お前はなんだ…」
―ダッ…!―
(ブラックソード)「下がれ、サン…!」
―スザン!―
(スズナリ)「…。」
(ハザキ)「…?当たっていなかったのか?」
「斬ったはずだが…。」
サン達は正体不明の幽霊のような者に集中していた。だから気付かなかった。
(人々)「―ワヤワヤ!!!ガヤガヤ!!!―」
ロワの人々は広場に集まっており、フラフラと揺れながら、意味不明に言葉を並べ発している。
(ハザキ)「…何をしているんだ?あれは…。」
(ブラックソード)「警戒しろ…。」
―カラン…!カラン…!―
鈴の音がした方を見る。幽霊のようなそれは、広場の上へと飛んで行った。
その時、人の姿が見えた。空に浮く人の姿が。
(サン)「…人?浮いてるのか…???」
(???)「"もらうね"…。」
―シュウウウウウウウ…!!!!!―
少し幼めの少女は小さく言葉を呟き、人々の体からオーラのようなものを吸い寄せている。
(オメガ)「まさか…!!!」
オメガは短期間で様々なことを学習した。データに引っかかる。
何か嫌な予感がする…。
―スン…!ガン…!!!―
「ッグ…!」
何かがオメガの先に現れ、オメガを吹き飛ばした。
―バキ…!ボリ…!―
(アメガミ)「…。」
それが体を動かす事に、重く響く音が聞こえる。それもまた、所々半透明。
布を被っている。顔にはモヤ。基本的特徴は同じであるが、こちらは狂気的な見た目をしており、巨大な斧を持っている。
―シュイイイインンンン…!!!!!―
先程と同じ引き寄せがより強く、サン達にもかけられた。
(皆)「ッ…!!!」
身体から意識が離れていく感覚がする…。
―ドン…!!!―
(皆)「…!」
強く地面が揺れた。
(サンドラ)「耐えろ…!生きる希望をもて…!!!抗えるぞ…!」
森に棲む巨狼が、街へと現れた。
―シュイイイイ…。―
(皆)「ッグ…!ハァ…。ハァ…。」
引き寄せが止まった…。
(???)「…。帰ろう…。」
そう呟き、謎の二体と共に少女は消えた。
―ダッ…!―
サン達は倒れている人々の元に急ぐ。
(人)「…。」
(ハザキ)「…!息があるぞ。おい!大丈夫か!!!」
強く揺すってみた。だが、意識が戻るような感じがない。
(サン)「…!母さん…。」
―バッ…!!!―
サンは咄嗟に母の元へ向かった。母は大丈夫なのだろうかと…。
ーーーーー
―バン…!!!―
勢いよく扉を開けた。
(サン)「母さん…。」
(母)「 」
「聞こえない…???」
(オメガ)「サン。死んでいます…。」
(サン)「…!!!」
―“サン”。あなたはサン。太陽のような、希望の光。―
ロワを襲った謎の少女。その悲劇をサン達は、今後の日々で痛感することになる。
“魂が抜き取られた”と。
サンは、短期間で知ってしまった。この世界の不条理を。
兄と離れ、妹は権力者へと連れられ、故郷には呪いが降り注ぎ、突然の母の死。
サン。彼の人生に、太陽はない。
ーブラック・ロワ(現在)ー
(ミア)「これが全部…。」
(ソニア)「聞いた話なのか…?」
「うん。…その後に私は生まれたから。一回も、親の声を聞いたことがないんだ…。」
(皆)「…。」
(ヤチェリー)「相手の場所は分かるの?」
「当時、サンドラがあとを追ったんだよ。匂いは途中で途切れたけど、森の中に消えたって。」
(ソニア)「…。タイダルに、この話をしていいか?」
ミアは小さく頷いた。
「分かった。…行こう。」
「待って…!」
(皆)「…?」
「サンを、みんなを助けて…。私達は悪い事をした…。それが消えるわけじゃないことは皆、覚悟してる…。でもね、"普通に生きてた"だけなんだよ…。だからお願い…。」
(ソニア)「…。やれることは、やってみるよ。」
ただ一人、ロワに残ったミア。彼女が語ったのは、壮絶なロワの過去であった。




