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2の4 【転生者の国・偵察】

完成箸休め回です

「はあ…はあ…」


翌日、立派なモルタルの壁を右手に走る少年が居た。少年は息も絶え絶えに走り続けている。少年の名前はカイト、幸の薄い顔立ちの少年である。


「ペースがおちたぞー!!」


ペースが落ちたカイトの後ろから同じくらいの背丈の少女が追いついてきてカイトの尻を思い切り蹴り上げた。


「痛っ!!!ゆ!ゆるして…マール!」


マールと呼ばれた少女は栗色のショートボブを揺らしながらカイトの前に躍り出ると、器用な後ろ走りで全力疾走しているはずのカイトの前を走る。


「遅いよカイト!もっといけるでしょ!」


後ろ走りで向き合った彼女の背中には鞘に納まった背丈と不釣り合いな程長く大きなツヴァイハンダーが揺れている。ベルラートの街中ならば名物的な光景になりつつあるこのスパルタ体力錬成だが、ここはベルラートから遥か遠くに離れた地にあるレプテリアンの村である。


「そ、そんなこと…いわれても…」


限界、ヘロヘロなカイトがふらつくと両脇を誰かがとった。


「そうだ!カイト殿!もうすぐゴールだぞ!」


「ああ!カイト殿!頑張ろう!!」


年若いレプテリアンの青年の二人、茶緑色にヒョロリと背の高い細マッチョなサリムと、鮮やかな緑色に金属のような光沢を持つゴリマッチョなリジーである。二人はヘロヘロなカイトを支えてながら激励してくれる。カイト達は現在、近隣にできたという転生者の国を滅ぼすべくレプテリアンの村に滞在している。


「二人!カイトを甘やかさない!罰として二人はさらにペースアップ!」


マールはガミガミと怒鳴りながらやってきてサリムとリジーをチラシ、二人の尻も容赦なく蹴飛ばしながらペースをあげさせる。彼らは現在カイト達の滞在しているレプテリアンの村の若者である。この村は近隣にできた転生者の国の者達により騙され、村の戦力である冒険者達を取られてしまい、飢えによる全滅一歩手前まで陥っていたところを行きずりのカイト達により救われたところである。サリムとリジーは昨日、自らの意思で冒険者の儀式を受け、無事に冒険者となった様だ。カイトは走りながら二人の頭上を見ながら眉間に力を入れると、加護の数字が浮かび顔を振ると剣士という神託へと表記が切り替わる。


「おらカイトー!!サボるなー!!」


二人を追いかけ回していたマールが叫びながらこっちにかけて来た。


暫くして…散々マールによりしばかれたカイト、サリム、リジーはヘロヘロになって村の中に設けられた水場でひっくり返っていた。


「ほいおつかれー!んじゃ!僕はヒューゴ達を迎えに行ってくるから!」


そう言ってマールは風の様に走って行った。散々カイト達に付き合って自分も走っていたはずだが彼女は汗ひとつかいていない。


「か…彼女は…化け物か??」


サリムが息も絶え絶えにそんな言葉を漏らした。


暫くして…マールは和かに話しながらも塩が入った壺を満載された荷車を引きながら帰って来た。


「カイトー!サリム!リジー!」


マールはカイト達に気がつくと大きく手を振って来た。


「リジー、サリム、これよろしく!みんなもありがとう!」


リジーとサリムに荷車を押し付け、レプテリアン達と別れヒューゴは残った。リジーはマールが涼しい顔でにこやかにだべりながら引いていた荷車を受け取り引こうとしたが、びくともせず顔をこわばらせていた。サリムが後ろで押して漸く動いた荷馬車が遠ざかって行く。


「お帰りなさい、ヒューゴ」


それを聞いたヒューゴは僅かに目を見開いていた。


「…あ…ああ、済まない、なんか気恥ずかしいね…こういう…仲間のやりとりは、ただいま」


「帰って早々悪いですが、あなたにお願いがあるんです」


カイトはそう問いかけると、ヒューゴはマールに目を向ける。


「ふふ、どうせ偵察に行くから付き合ってほしいとかじゃないかな?」


「!?」


「さっきマールから聞いたからね」


そのために先に行ったのか?と、カイトはマールを見ると、得意げに笑っている。


「じゃ、早速行こうか!!」


何を言い出すのか、この野生児は…。だが、そうだった。マールは朝からいつもの装備を身につけ、水筒や携行食糧の入った袋まで一緒に装具に括り付けていた、体力錬成をするためになぜそんな準備をするのかと考えていたが、合点がいく。この野生児は、帰って来たヒューゴとそのまま険しい山道を行こうと言うのだろうか?当然ヒューゴは断るだろう、カイトは考えていた。


「わかった」


「ええ!!?」


カイトは思わず声を張ってしまう、冗談だろ?信じられないような目で見るカイトにヒューゴとマールは不思議そうなものを見るような目をしている。


「なに?君が行きたいって言ったんでしょ?」


と、マールは訝しむ。


「うん、私もそう聞いていたが?」


と、ヒューゴも訝しんでいる。


「いえ、ヒューゴは遠征から帰って来たばかりではないですか?つまり、疲労があるわけで…」


疲労を残したままの山越え、そんな無茶な行軍をしようとする二人にカイトは驚いていた。


「たかだか付き添いで一日中歩いていた程度で疲れて動けなくなるA級冒険なんていないって、ね?ヒューゴ」


マールに言葉を振られたヒューゴはにこやかに頷く。


「仕方ないさマール、彼はこの世界にやって来てまだ一年も経っていないのだ、我々冒険者への理解が浅いのかもしれない」


「あ、そーか、なら…仕方ないか…」


渋々とマールは納得してカイトに目を向ける。


「ごめんカイト、でも大丈夫だよ」


何故か謝られた、ヒューゴもにこやかに腰の水筒を外して手にぶら下げる。


「なら、カイトのお言葉に甘えて水筒の水を入れ替えるくらいはしてこようかな?」


そう言ってヒューゴは水筒を指に引っ掛けくるくる回しながら水場へ歩いて行った。


「……」


それだけでいいのか…とカイトは考えながらその背中を見送っていると、いきなりマールに尻を蹴飛ばされた。


「いた!」


「君は早く準備をしてきなよ」


マールに言われ、カイトは顔を青くする。正直に言うと今日行くわけでは無いと考えていたからだ。ひたすら走り回らされ疲弊した状態であの険しい山を登る自殺行為に、カイトはめまいに襲われた。


「早よ行く!走れー!」


マールに怒鳴られ、しっしと払われカイトは速足しで族長の屋敷へ行き手早く装具と外套を身につけてから戻ると、すでにヒューゴは帰って来ておりマールと他愛の無い話をしている。


「あ、カイトおかえり」


匂いでカイトに気がついたマールがこちらに顔を向ける。


「マール、水筒の水は大丈夫ですか?」


「お!そうだった、さんきゅー!」


マールは腰に吊り下げた水筒を手に取ると蓋を開いて中の水を捨て、飲み口に手を翳す。途端に水筒の飲み口から魔力によって生み出された水が溢れ満タンを確認すると蓋をして腰に吊るした。


「マールの水魔術はいつ見ても新鮮だな…」


ヒューゴはそんな感想を漏らした。


「あはは、最前線に来る魔術師は大体火属性特化だもんねー?こんなに便利なのにみんな習得しようとしないんだよ?」


マールはそんなことを言いながら右手の平から溢れる水を見せる。最前線では範囲攻撃に長け、魔術に耐性を持つ亜人達にも有効な火属性の魔術が最重要とされており、そんな風潮は魔術の学び舎であるラ・ピュセルにも影響を与えており、多くの学生達が火の魔術を学びに来ている程である。


「フィオレちゃん元気かな…」


自分の恩師をちゃん付けで呼びつつ想いを馳せながらも踵を返した。


「じゃあ、しゅっぱつだー!」


こうしてカイト達は、転生者の国を目指しレプテリアンの村を出る。そうして一路、近道だという険しい岩山へと向かう。


「はあ…はあ…」


徒歩で数時間、カイトは急斜面の岩山を息も絶え絶えに登っていた。


「ほらカイト、遅れてるよ?」


前を歩くマールが振り返る。


「私が背負おうか?」


隣を涼しい顔で歩いているヒューゴに問われ、マールは腕を組む。


「ううん?今はまだダメ、それは最終手段にしたいから」


「…なるほどね」


ヒューゴはマールの表情から意図を察して此方へ来ると後ろに回る。


「では、背中を押してあげよう」


ヒューゴはカイトの背中に手を置くとグイグイと押し込んできた。気休めに感じるかもしれないが、信じられない程息が楽になった。


「す、すみません…助かります」


そのまま、ヒューゴに押されて険しい岩道をひたすら進み続けた。現在登っているこの岩山は活火山であり岩肌が地中に大流する溶岩の熱により非常に暑い、ただ歩いて山を登るだけでも汗をかき、急斜面を歩くためにゴリゴリと体力が消耗している。


「止まって」


不意に前を歩くマールが足を止め、背中の大剣を手に取り鞘から抜く。それを見たヒューゴも腰の長剣を引き抜いた。


「え?…」


唐突な二人の臨戦態勢にカイトはキョトンとしていると、マールは此方を見ずにゆっくり左手で上を指差した。


カイトの頭上、遥か上空にそれはいた。それは大空を5、6mはあろう巨大な両翼を広げた翼竜が円を描くように回っていた。1匹だけでは無い、2匹、3匹と次々飛んでくる。


「死体漁り、あいつら最前線にもよく来るんだ」


マールが教えてくれた。続くように背後のヒューゴも口を開く。


「最前線では亜人の死体を態々回収したりしないからね、彼らが亜人の死体を食べて掃除してくれるのは好ましくはあるんだがね…問題は凶暴で強い事なんだ、生半可な冒険者では歯が立たない」


「僕も結構苦戦したなあ…苦手なんだよね、すばしっこいし、いっぱいいて鬱陶しいし」


そういう間にも翼竜は陽光を影で暗くする程に翼竜達が集まって来る。


「カイト、絶対僕からはなれないでね」


マールは此方を見ずに空いた手でカイトを掴むと引き寄せる。


「は、はい」


「行くよ!!」


ヒューゴが吠えながらマールとカイトから離れる。


「ヒューゴ!?」


「あれでいいの!見てて」


マールはそういうと上を飛び回る翼竜達が二人から離れたヒューゴを狙い次々と急降下して来た。


「群れから引き離された獲物を…」


「そ、あいつらはまとまりから離れて孤立した奴に狙いを定める習性があるの!つまり、ヒューゴは餌のフリをしたわけ」


急降下して来た翼竜は弾丸のようにヒューゴの頭にその鋭く大きな嘴を振り下ろす。しかし、どういうことなのか?ヒューゴに襲いかかった翼竜達は次々地面に墜落している。見れば翼竜の首から上が飛ばされている。


「す…すごい…」


指揮者の目は、ヒューゴの動きを次第に捉え始める。彼は空を舞う和紙のようにゆらゆらとスレスレで避けながら流れるように剣を振い襲い来る翼竜の首をすれ違い様に跳ねている。しかもそれだけでは無い、転がる亡骸に脚を取られないようにジリジリと場所を移動している、まるで…バレエでも踊るかのように。


「ぼさっとしない!こっちにも来るよ!カイト、頭を下げといて!巻き込まれるから!」


マールは大剣を両手で構え、襲い来る翼竜達をまるでバットでも振るうようにフルスイングで振り抜いた。


叩かれた翼竜は周囲の翼竜を巻き込んで飛んでいきながら墜落してグシャリと鈍い音が遠くで響く。


「行くぞー!おらあー!!」


呑気な声とは裏腹に、力一杯フルスイングしたマールの剣からは凄まじい剣圧が発生する。ゴブリンが登った木を纏めて斬り伏せたあの剣撃である。ブンブンと素振りのフルスイングを繰り返し、空を飛ぶ翼竜達が空気の乱れにより体勢を崩し、続く剣圧による斬撃の風を受けて身体を切り裂かれてボタボタと次々墜落していく。


「マール、こっちも頼むよ!!」


「仕方ないなー!」


マールは身体を向き直してヒューゴの頭上に向かってフルスイングした。それにより発生した剣圧に乱されヒューゴの頭上を飛び回る翼竜達の動きに澱みができる。


「ありがとう!!」


ヒューゴはすかさず飛び上がり、彼の持つ長剣が白銀に煌めいた。


「剣聖の持つ能力、光剣っていうんだって」


マールは羨ましそうに吐き捨てた。ヒューゴの剣から溢れた光が蜘蛛の巣のように空一面に張り巡らされ、それに触れた翼竜達が纏めて細切れになって弾け飛ぶ。翼竜の細切れ肉と血の雨が降った。


「ふう…」


着地し、剣についた血を地面に振るうと鞘へ収めた。周囲の翼竜を粗方掃討し、ヒューゴがやってくる。


「あの技、なぜあのマンイーター戦で使わなかったんですか?」


カイトの疑問に、ヒューゴは肩を下ろす。


「秘密にしておきたいんだけどね…まあ、少しだけなら…いいか。光剣(これ)を使う時は一撃必殺じゃなければならないんだ」


つまり、放った後には何らかのデメリットがあるという事なのだろう。あのマンイーターは強く、一撃必殺できなかった時の反撃を考えた結果、やらなかったのだろうと解る。


「僕にも今度使い方をおしえてよ」


「ふふ、君になら喜んで教えてあげよう、勿論二人きりでの話だけど…」


「やった!約束だからね!」


純粋すぎる…マールに和かに言われ、ヒューゴは実に満足げである。何だろうか、この気持ちは…。


「と、いけないヒューゴ!カイトをお願い」


「了解、まかせて!」


マールは唐突にいうと、ヒューゴは即座にカイトを担ぎ上げた。


「え!?ちょ…」


「走るよ!!」


叫びと共に、マールは駆け出しカイトを担いだヒューゴも同じ速度でついて行く。なぜ、急にこんなことを?カイトは疑問に思ったが、その疑問は瞬く間に消し飛んだ。なぜならば唐突に足元が暗くなったからだ、何?と上を見上げると…カイトの目を疑う光景がそこにあった。そこには10mはあろう翼を持つ巨大なドラゴン達が居た。1匹や2匹では無い空を埋め尽くす程である。


「な、なんだあいつら!!」


思わず叫んだカイトにマールが語る。


「でっかい魔獣なの、たまに最前線にも来るんだ!」


「君達は彼らも倒すの!?」


「ううん!僕達人種はあれをイタズラに傷をつけて数を減らしちゃいけないんだって!」


ヒューゴも続ける。


「人種は各国の中で、あれを狩れる個体数を制限しているんだ。やむを得ない防衛時以外は狩猟してはならないんだよ、理由はよく分からないけどね」


カイトを担いでいるとは思えない軽快さがある。


「そんなに強くは無いよ!…そしてお肉が美味しい、じゅるり」


「最前線の街ペリドゥは昔よく襲われていたからね、自衛の為に狩った彼らをよく食べていたんだ。マールの言ったとおり、弱い割には味がいいし沢山食べれるからね」


そんな話を聞きながら背後でたくさん飛竜達が舞い降り、地面にの晒しにされた翼竜の亡骸達の食事を始めた。


岩山を一息に駆け抜けたマール達は周囲を一望できる頭頂部で脚を止める、頭頂部はとても空気が薄い…が、冒険者の体質や加護にはこう言った高低差の変化による異常は受けないようだ。息が重くなるような感覚は見られない。


「ヒューゴ、もういいよ」


マールの言葉を受け、カイトを担いだままだったヒューゴはカイトを下ろす。


「あ、ありがとうございます…」


カイトは踏み慣れない岩場につまづきよろけながらも眼下に広がる光景を見下ろした。目の先には荒れ果てた荒野がどこまでも続き、その先に大きな国はあった…。


「………」



国を見つめるカイトの表情が見る見るうちに殺意を感じる程の恐ろしいものに変わって行った。


「カイト…?」


頬をつねろうかと彼女は考えた…だが、マールの本能がするなと警告している。


「二人とも、少し…一人にしてもらえますか?」


カイトはそう呟くと、その場に座り込んだ。


「う…うん…」


マールの横にヒューゴがやってきて複雑な表情で聞いてくる。


「…カイトはどうしたんだい?」


ヒューゴの素朴な疑問にマールは首を横に振る。


「分かんない、でも…カイト、怒ってる…凄く…あんなカイトは見たことない」


マールは、今まで見たことがないカイトの怒りに恐怖心を抱いていた。


カイトは転生者の国を睨みながらも思考を巡らせる。その国は鉄骨を中に入れたコンクリートの壁に全体を囲んでいる、ただ…この国は、この国の正体は…


「転生者が奪った国です、転生者の国なんかじゃない、元からあったこの国の人々を踏み潰し、破壊尽くして自分のものにしただけ…女神からもらった貰い物の力で…転生者を止めずに身勝手を許し続けた末路が…これですか…」


大きな国は不格好で無粋に要塞化され、国の中には何本もの細長い何かが天へ向かって伸びている。


「美しくない…」


カイトは出血するほどの力で手を握りしめ続けた。


「ね!!カイト、あの細長いやつなに?」


いつのまにかマールはカイトの横に座り込み、聞いてきた。カイトはそれを問われ、数秒考えてからはっと気を取りなおす。気づけばマールはぎゅっとカイトの血が出るほどに握りしめた手を、力強く握っている。マールに手を握られても気づかないほどにカイトは考え込んでしまっていたらしい。


「はは…はい、えっとあれですか?」


カイトは肩から力を抜くとマールに聞かれた細長く天へ伸びている塔のようなそれは黒い煙を噴き上げながら燃え上がった炎の赤い光がゆらめいているそれを指差すと、マールは大袈裟に何度も頷いて見せる。


「あれは煙突です、あの下、地下にある石油を掘る為のものですね」


「せき…ゆ?」


マールは可愛らしく小首を傾げた。


「なんだい?その…せきゆというのは?」


その横に同じように腰掛けていたヒューゴも聞いてくる。


「マールにもわかりやすくいうなら、燃える水です」


「燃える水?……それって凄いの?」


この世界ではそういう価値になるだろうな…カイトは考えた。


「…我々の世界では様々なものを動かす為に使われていました」


「様々なものを…動かす…ですか…」


ヒューゴも気にはなる様子を見せた。


「ええ…私の世界で荷物の輸送は、鉄の車を使って行われているのです」


「鉄の車!?馬とかブブポンに引かせてるの?


マールの問いかけにカイトは首を横に振る」


「私の世界では、馬やブブポンは輸送にはもう使われておりません、鉄の車に載せて輸送するんです。その車を動かすために使うのが…」


「その…燃える水?」


「はい、我々の世界では切っても切り離せない、この世界でいうなら。水や食事と同じレベルの必需品でした、その利権を取り合い、国と国が争って…数万同士の大勢が殺し合っていた歴史もあります」


「すうまん…数万ってどれくらい?」


マールは指で数えようとするが、途中でやめる、バカがよ…可愛いね。


「ベルラートのギルドに登録された冒険者が大体一万とちょっとくらいだよ」


「凄い人数でやり合うんだね…」


ヒューゴは息を呑むようにつぶやいた。そこでマールはハッとする。


「え……ねえ、カイトの世界って…確か冒険者もいなければ…蘇生もないんだよね??」


その言葉にヒューゴは目を見開き此方を見た。


「女神の加護もなく、回復も蘇生術も持たない人同士が争うのですか??…えっと…その燃える水のために??」


ヒューゴの問いかけに、カイトは頷くとヒューゴはスーッと息を吐きながら大の字に寝転がった。


「いかれてるよ…君の世界…」


「僕もそう思う…」


「この異世界の人々から言われるのは心外ですね!!?」


そしてカイトは再び転生者の国へ目を向ける。転生者の国は周囲をコンクリートの壁により大きなハニカム状に覆われ、その壁の上には等間隔に様々なものが置かれている。国の内部には地中の石油を掘るための煙突が何本も伸びており、その煙突の上には絶え間なく炎が揺らめいている。


「カイト、どんな感じ?」


退屈なのか、マールはシイロから持たされた塩漬け肉のジャーキーを齧り出した。


「なんだかあの壁、レプテリアンの村の外壁に似てないか?」


ヒューゴは気付きを口にする。


「ほ、本当だ!!」


マールは今更気付いたようだ。バカがよぉ…


「あれはコンクリートといいます、レプテリアンの村にあるモルタルをより発展したものですね」


「それ…硬いの?」


「はい、とても強固です。それでいて柔軟で傷ついても補修がしやすくコストも安い。石やレンガを積み上げて作る城壁とは訳が違う…その堅牢さは最前線の城壁レベルと言っていいでしょう」


最前線を最前線たらしめる、高さ数十mに及ぶ巨大な城壁。あれは今より数百年前にゼノリコの発案の元、初代砂の国、そして鉄の国国王の手によって築かれたのだと言う。その馬鹿げた大きさや長さをさることながらその材質や建築方法はいっさい不明とされている。


「そっか…面倒だなー…どうやって攻めるの?」


「それを今、考えています」


カイトは腕を組みながら国を睨み続けている。


「なんかさ、蜂の巣の子供が入る巣みたいな形だよね…」


マールはそんな言葉を漏らし、カイトは驚愕に目を見開く。


「驚きました、この世界にも蜂がいるんですか?」


「うん?いるよー、こんくらいでっかくてさ」


マールが精一杯のジェスチャーで身体を大きく使い、実に可愛らしくその生物の大きさを表した。マールの情報をそのまま受け取るのならば、この世界の蜂は1mから2mはあると考えられる。


「普段は崖の上とか樹海の奥に巣を作るんだけど、たまに人里に降りて来ちゃうんだ。村の人達を養分にしてたっくさんの…」


「あ、はい、もういいです」


想像したく無い、この世界の化け物蜂の話は脇に置く。


「あの国を囲む城壁の形は、ハニカム構造といいます」


「はに…かむ?」


「はい、あの形はあらゆる方向からの圧力に強い構造となっています…」


見ればマールとヒューゴは同時に頭の上に大きな?を浮かべている。


「えーと、攻め辛いんです、この構造は」


「うん!わからない!」


「バカがよ!!」


「なんだとお!!」


怒ったマールにそのまま間接技をかけられた…それからしばらく、カイトは国を睨み続ける…そうして太陽の位置が頭上に登りきった頃。


「よし、とりあえずもう少し近くに行ってみますか!」


「もぐもぐ…むぐ?」


いつのまにか焚き火を囲い、いつのまにか獲ってきた謎魔獣の丸焼きをもきゅもきゅと食べながら振り返る。人が考えに考えている間に何してんだこの野生児は…ヒューゴも一緒になって謎魔獣を食べている。マールは口いっぱいに頬張った肉をごくりと飲み込む。


「なに?終わった?」


「私にもください」


「えー?…仕方ないなあ…」


マールは実に嫌そうにしながら焚き火の上で無惨には焼き払われ黒焦げになった謎魔獣の一部をちぎり取りカイトへ差し出す。


「ど、どうやって食べるんですか?」


黒焦げの塊を渡されて困るカイトに、マールの手が伸び黒焦げの皮をつまむとみかんでも剥くかのようにぺりぺりと剥いた。その下からは程よく温まった真っ赤な肉が光を浴びて輝く。


「この魔獣、皮が分厚くておいしく無いんだけど、焦げるくらい焼いて皮を剥いて食べると美味しいんだ!」


マールに言われた通りに皮を剥いてから現れた肉にかぶりつく。レアを思わせる外観をしているが、中はしっかりと火が通っており肉の旨みが口いっぱいに広がる。


「お、美味しい…」


「でしょー!?」


目の前ではヒューゴも同じようにして肉を食べている。


「これはなかなかいけますね!!」


この味が気に入ったようだった…。しっかりとした昼食を腹一杯食べ、体力が回復したカイト達一行は、山を下り転生者の国を目指す事となった。下の方が山登りは辛いと言うのはそのようでカイトは歩いて数秒で疲れ果て、今はヒューゴに押してもらいながら歩いている。


「道中のような死体漁りが沢山いたらと心配したが…こちら側は静かだね…」


カイトを押しながら、ヒューゴがつぶやいた。


「……」


前を歩くマールは不機嫌そうに顔を顰めている。


「マール?どうかしました?」


マールは此方へ振り返ると近づいてきてカイトの服に顔を当てる。


「臭い…なんか山を降りてからずっと臭い…」


「臭い…?」


ヒューゴは特に気にしてはいないようだが、カイトも顔を顰める。マールは人間の数倍鋭い嗅覚を持っている、カイトですら石油独特な匂いに嫌悪を抱くのだから、マールからすればその倍は嫌なものだろう。


「前、変わろうか?」


ヒューゴに心配されるがマールは首を横に振る。


「大丈夫、少し慣れるまで大変だけど…」


そう言って離れると、フラフラと前を歩き始めた。


カイト達はそのまま急斜面の岩山を下り、降り立ったは一面の荒野、起伏もなくどこまでも続く地平線の先にその巨大な城壁はあった。大地は荒れ果て、至る所に息絶えた生物の亡骸が転がっている。息絶えた生物のほとんどが見窄らしく痩せこけ、上に苦しんだ上に死んだ事が想像できる…そんな状態だった。


「……うげ…」


もう匂いには慣れた様子のマールは素早く道ゆく生物を捕まえた。それは野ネズミのような生き物だった、酷く痩せこけ病気による腫れが体の至る所に出来ている。


「…なんなの…なにしたらこんな事になるんだよ…」


マールは悲しげに捕まえたネズミのような生き物を解放すると転生者の国を睨んだ。


「あの国が原因なんだってのは僕にもわかる、そうなんだよね?カイト」


カイトは頷く、そして城壁の向こうに見える黒い煙を上げ続ける煙突を見た。おそらくだが、この国の転生者は自らの住んでいた世界に近づけようとこの国を開拓しているつもりなのだろう。その結果、無理な都市開発により出た有害な廃棄物を外へ投棄しつづけこうまでなったのだ…荒野に打ち捨てられた廃棄物にはさまざまなものがあった、その中には…。


「………」


それを目の当たりにしたカイトは一瞬で頭を激怒の熱により沸騰させた。そして弾けるようにマールの肩を掴む。


「この国は、一刻も早くこの世界から消さねばなりません…マール、私はここにいる転生者はだれであれ、一切の情け容赦なく八つ裂きにして殺すことをここに誓います…」


「カイト…い、痛いよ、ちょっと落ち着いて…」


カイトが見たもの、それにマールは目を向ける。それは鉄の樽のようなものだった。中からは黄土色の液体が出ており、それに触れた大地の悉くが腐るかのように爛れていた。鉄の樽の腹には大きなマークが入っている、黒い丸に黄色と赤のマークが幾つも折り重なったようなそんなマークだった。カイトはこれを見た瞬間、激怒した…これは、それほどにも普段冷静なカイトを怒らせるものなのだろうか…?マールにはわからなかった。


「こんなものを…よくも…殺す…必ず殺す…」


カイトの口からは到底出るはずのない汚い言葉が出て、そして歩いて行った。


「………」


マールはヒューゴを見るが、ヒューゴも困り顔をしている。


「カイト待って!!先に行くと危ないよ!」


マールはそう言って一人ズイズイ進んでゆくカイトを追いかけたのであった。


「カイト!」


暫く進み、丁度コンクリートの城壁の汚れがわかるほどに近づいた頃合いでマールがカイトを掴んで引き寄せる。見れば彼女はしきりに周囲を警戒していた。


「マール?」


「しっ…ヒューゴも剣抜いて!なんかいる!」


マールは嗅ぎ慣れない匂いに危機を察して吠える、そして周囲を警戒した。ヒューゴもそんなマールの様子に危機感を感じたのか、すぐさま言われた通りに抜刀し、周囲を警戒する。


それは唐突だった。


ターン!と何処かで何かが弾けた音と共に、マールの頭がガクンと落ち地面に引きずり倒される。


「っ!?マール!」


カイトはすぐさまマールの名を叫ぶと共に、事態がわからず困惑したままのヒューゴに体当たりするように側の岩山場に身を隠した。


「カイト!?何してる!マールが!」


「頭上げないで!!」


身を乗り出そうとしたヒューゴの襟を掴んで引き寄せると、丁度ヒューゴの頭上を何かが風を切り奥の地面に着弾する。


「な…なん!?」


ヒューゴは驚愕し息を殺す、それは明らかに狙撃による攻撃であった、つまり…銃撃で間違いない。カイトは急いで倒れたマールを見た、あの倒れ方からして真っ先に頭を撃ち抜かれたのだろう…砕かれた頭から内容物をぶちまけたマールの遺体を想像しつつ…


「いったああい!!」


マールはガバリと起き上がり、再び飛んできた銃弾に頭を打たれて大きく仰け反る。


「痛っ!痛いつの!!コンニャロ!!」


何発もの銃撃がマールの体に当たるが、最初は怯んでいたマールだったが次第に痛みに慣れたのか怯みもしなくなり、そして足元の石を拾い上げると、お返しとばかりに自分を銃撃してきた方向へ向かって思い切り投げつけた。小石は音の壁を易々と貫き、激しい轟音と空気を切り裂く金切音を響かせながら飛んでいき、何かが潰れて砕け散る音が向かうの遥か先から響いた。


「マール…?大丈夫なんですか!?」


「いったぁ…え?何がぁ?」


マールは最初に撃たれた額を痛そうに撫でながら不機嫌そうに聞いてきた。見ればおでこに赤い丸がくっきりとついている。


「話は後にしよう!二人とも」


ヒューゴは身を乗り出し、再びマールを狙った銃撃を振り抜いた剣で弾き飛ばした。既に亜音速で迫る銃弾をヒューゴは的確に目で見て捌いていた。


「そうだね!カイト!撤退でいい?」


マールは背中の大剣を抜き放つと、持ち手から下に水を噴射、そして大きな水の柱を立ち上げると弾けた水が霧を造る。


「お願いしま…」


言い終わる前にマールはカイトを掴んで走っていた。


「あーあ…逃げられちゃった…」


そんな逃げていくカイト達を、城壁の上から双眼鏡で覗いているものがいた。それは少年であった、あどけない表情で双眼鏡を目から離す。その足元には二人の女性が絡み付いている。


「あの女の子、欲しかったのにな…銃で頭を撃たれて死なないなんて…まるで漫画かアニメの世界だよ…」


彼はそう言いながら足元に絡みつく二人の女性の頭を撫でる、二人は生気のない虚な目を向けたままにたりと笑いながら、彼に寄り添う。


「君達もそう思うよね?ああ…僕もそう思う…欲しいなあ…あの女の子…」


彼は独り言を呟きながらも、いやらしく笑い、そして彼らが逃げて行った方角をじっと見つめていた。


死の荒野地帯を抜け、ひたすら走ったマールとヒューゴは草原地帯に入るなり足を緩めた。


「あいた!」


抱えられていたカイトはマールに乱雑に投げ捨てられ柔らかい芝生に横たわる。


「カイト!あれ何!?僕達は何をされたの!?」


横たわるカイトの胸ぐらを掴まれ、マールは顔を寄せる。


「そうだカイト!あれはなんだい!?」


ヒューゴも気になるようで声をはり、手にしたそれをカイトに見せてきた。おそらく、弾いた銃弾だろう。


「こんなものを飛ばしてきた…あんな速さでだ!君はこれが何か知っているんだろう!?」


早く教えろと言わんばかりだ、カイトは小さく手を上げて二人を制しする。


「言います、教えます…ですが、この情報は国家機密になります。絶対に他言はしないでください」


カイトにより釘を刺された二人は顔を見合わせ、ゆっくりと頷く。


「あれは、現代の武器で銃と言いますよ」


「じゅう…あれが?…」


マールは銃を知っているようだった。


「マール、知っているのかい?」


ヒューゴの言葉にマールは小さく頷く。


「ううん?形はわからない。前に王様の指示で乗り込んだ転生者のアジトにあったらしいの、王様は教えてくれなかったし見せてもくれなかったんだけど…王様が一人で銃なんぞ作りおってって怒ってたからさ…銃ってなに?って聞いたらその名を2度と口にするなってすっごく怒られたから…」


10歳そこらの子供になんてことを言うのか、あの駄王は…カイトは苦笑しつつもマールが手に持っていた弾を見つめる。


「…変形しているからよくわかりませんね…」


形からして7.62mmの可能性がある、そしてマールのくっきりとついた額の赤い丸を見る。


「あ、あんまり見ないでよ…」


マールは恥ずかしそうに額を手で隠した。


「普通これを食らったらそんな軽傷では済まない威力なんですよ?この弾」


「そうなの?でも、確かに結構痛かった」


そう言いながらもやはり気になるのか、隠した手で額をさすっている。


「しかし、これからどうします?」


ヒューゴは静かに切り出した、カイトは腕を組み、マールは不安そうに表情を曇らせる。


「…対策が無いわけではありません、しかし…少しだけ…」


「カイト、待って」


マールに言われ、カイトは口を閉ざして目を向ける。マールは静かに立ち上がり大剣を引き抜いた。


「出ておいでよ、じゃないと斬り伏せる」


マールはそう言って側にある大きな木に語りかけた。


【すごいなぁ…僕の気配に気がつくだなんて】


大木の後ろからは2メートル近い大柄な骨が顔を出す、手には無骨な鉄塊のような鉈と大きな盾を持っている。


「盗み聞きは性格悪いよ?君はどこのどなたさん?名前を名乗りなよ」


マールはそう強気に言いながら剣先を骨へ向ける。骨はケタケタと音を立てて笑った。


【私はアドレ…死を操る者なり】


転生者は自惚れた様子で和かに告げる。


「へー…凄いね、で?何しにきたのかな?」


【何をしに?君を殺して僕のものにしに来たんだよ?マールちゃん?】


マールはカイトに目を合わせると、ちょいちょいと手招きをしている。カイトはゆっくりとマールの側へ行くと、マールは手を繋いできた。


【私は死んだ人間を使役できるのさ、だから君みたいに可愛くて僕好みの女の子は手に入れたく】


『この骨。頭に加護がある、見てみて』


雄弁に語る転生者を無視してマールの熱と一緒に言葉が能力に響いた。マールに言われた通りに骨の頭上に目を凝らすと生半可じゃない数字が頭上に浮かぶ。


『ヒューゴ達と大差ない数字、この骨、持ち帰って蘇生すれば凄い戦力になってくれるかも!』


【おい、僕の話を聞いているのかい?僕が話しているんだよ?】


最早勝ったつもりのアドレは少し不愉快そうな声音で聞いてきた。


「あなたに聞きたいことがあります、いいでしょうか?」


【僕は君とは話したくないな、だからお断りだ】


「ああ…そうですか、それは残念ですね」


カイトは特に興味も無さそうに告げると小さく息を吸い、そしてマールと繋いだ手を強く握りしめた。


「私は貴方に戦線布告をしようとしていたというのに…」


それを聞いたアトレの骨はケタケタ笑い出す。


【はー?戦線布告?…あはは…面白いね異世界の原始人達は…本当に…身の程知らずでさ!】


「ふふ…女神様から貰った借り物の力で神気取りですか…滑稽ですね、あなたは実に」


その言葉に余裕を見せていたアトレの空気が変わる。


【……なんだと?】


「貴方のような人間の居場所は、この世界には無い!それを私がたっぷりと教えてやるよ三下が!お前も、お前の仲間も全員仲良く殺してやるから首を洗ってまっとけ」


カイトの声と共に動いたマールの大剣が振り下ろされ、アトレの操るスケルトンを頭から砕いた。


「うわあああ!!!」


アトレは頭を潰される痛みと共にスケルトンから意識を戻した、その顔は怒りに燃える。


「あの…ガキィ…原始的な人間の分際で…居場所がない??…クソッタレが!!」


アトレは憤り足にまとわりつく女性の死体をなん度も蹴り付けた。


「ははは!傑作だね!あいつの最後の反応」


マールは腹を抱えてゲラゲラ笑って居た。


「全くです…泣いた」


ヒューゴは笑いすぎて涙を拭う。


「でも、カイト、これからどうするの?あいつをやる気にさせちゃったけど…」


「ええ、そうですね、彼らはきっと我々の襲撃に備え様々な準備をすることでしょう。いつ来るかもわからない我々の影に怯えながら…ね?」


カイトは怪しく笑い、その意図にマールは気がついた。


「君、本当に性格悪いね」


「よく言われます」


カイトはそういいながらもポーチにマールが砕いた骨を拾って入れた。


「え?マールはわかっているんですか!?」


ヒューゴはわかっていないようだった、カイトはそんなヒューゴに対して不適な笑みを向ける。


「一先ず、村へ戻りましょうか」


その時のカイトは恐ろしい怪物のように笑っていた。





お疲れ様でした!次回は前哨戦になります!

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