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第3部一年準備編1の1 報告

コロナにやられ、執筆どころではないですがなんとか投稿とあいなりました。今回は話と前回までのおさらい的な話です。

「わしは忙しい。1日に三人も相手にするのも面倒だから手短に済ませたい。本来ならば転生者は例外なく、慈悲もなく、残忍な方法で処刑するようにしておる。今回席を設けたのは我が国の勇者であるマール、それとそこにおるドアホの言伝があったから特別に時間を作ったに過ぎない。」


目の前で人形の様な白い肌に金色のブロンド髪を揺らしながら、玉座の上で胡座をかいている目見麗しい少女の様な外見をした彼は目の前で横一列で並ばされた三人の少年少女を見つめた。


「我が名はリコ、この国、ベルラートの王じゃ」


ゼノリコは自らをリコと名乗りながら左手を空中で泳がせると彼の手元に少年少女達のステータスが表示される。これは彼、水の国ベルラートの国王、ゼノリコが持つギフト、彼はギフト名をステータス表示といっていた。これによりゼノリコは、他者をステータス数値にして閲覧する事が出来る。この力は基本的には彼以外は見る事は出来ない、しかし彼が許可すれば他者も見る事が出来る様になっている。


「お前たちの生き死にはワシの判断で決まる、じゃから言葉は身長に選べ、そしてワシには決して嘘は付くな…良いな?」


側にいたカイトがやって来て一枚の書類をゼノリコに手渡した。ゼノリコはそれを乱雑に受け取ると、一瞬だけ視線を向け、胡座を解くと書類を尻に敷き卑しく目を細めた。


「それでは左端の男、お前からじゃ、前に出よ」


ゼノリコに言われる様に左にいた少年が前に出る。髪は短髪に切り揃えられ、確保された時に来ていたボロボロの制服を来ていたが、今はベルラートであつらえた服に着替えさせている。


「お、おれはトモヤといいます!」


アルヴヘイムへの道中で確保し、遠路はるばるベルラートまで連れてきた転生者の三人、トモヤ、シホ、ユズの三人である。


「トモヤよ、お前はこの世界で何がしたい?何を成したい?」


ゼノリコは聞きながらステータス画面を自分の見やすい位置へ移動させ閲覧する。何も知らない者達から見れば奇行に移るだろう、カイトもマールも、彼らにゼノリコのギフトの事は教えてはいない。


「おれ!この世界に来て食糧を作るのにハマっちゃって…だから!今作りかけてる穀物を完成させたいです!」


トモヤの言葉を聞いてか、ゼノリコは珍しく眉を動かし、好意的な反応を見せ、尻に敷いた資料をつまみ上げてもう一度見つめた。


「…トウモロコシに酷似した植物じゃと…?」


他者に興味を示さないゼノリコが珍しい声音を鳴らした。俄には信じがたいといった反応でトモヤに再びそして書類を尻に敷く。


「トウモロコシを…ご存知なので?」


トモヤの言葉にゼノリコは威厳たっぷりな睨みを利かせ睨んでくる。


「ひいっ!す!すみませんっ!」


「…ふむ、1人で品種改良をし、穀物に近いものを掛け合わせてトウモロコシに近い穀物を作ったとある。それは本当か?」


ゼノリコの言葉にトモヤは頷き、ポケットから種を取り出してゼノリコの前に持って行く。


「は、はい…まだトウモロコシとは言えない形で、味も不味くて食べれたものじゃないですが…」


ゼノリコはその種を手に取り、光に当ててジッと見つめた。


「カイト、本当か?」


「そうですね、彼のいう通りかと。私の目には殆どトウモロコシの形に見えました」


カイトの報告を受け、ゼノリコは腕を組み首を傾げた。


「カイトの報告によれば、農作を始めたのはこの世界にきてからだとある。それは本当か?」


ゼノリコの問いかけに、トモヤは深く頷いた。


「はい、クラスメイト達が略奪行為を始めた時、彼等を頼らず生き抜くためにどうしたらいいかを考えた結果、農作をするしかないと思いまして。テレビで見た事をダメ元で色々見よう見まねで色々やってみたら…その、できたんです」


ゼノリコはふむっと声を漏らすと顎に手を持って行くと、ステータスを確認する。トモヤがクリエイト系のギフトを貰っていると思ったらしい、そこに書かれていたのは危機感知(ハイパーセンス)というものだった。


「そのクリエイト能力は、お前の持つ危機感知によるものか?」


ゼノリコの言葉にトモヤは首を横に振る。


「い、いえ…お、おれアメコミのその…俺の世界にいる正義の味方がいるんですが…その中に同じ能力を持っている人がいるんです」


トモヤなりに必死にこちらの人にわかりやすい様に訳している、そんなトモヤの必死な行動をゼノリコはとても楽しそうに見つめていた、さすがの愉悦部である。


「で?その蜘蛛のヒーローと同じ力を手に入れた感想はどうじゃった?」


「彼は、能力があるから強いのではないのだと感じました。俺はヒーローには慣れない…え?俺、蜘蛛のヒーローなんて言いましたっけ?」


そんなトモヤの反応にゼノリコは満足そうに背筋を伸ばした。


「では、トモヤよ、お前に最期の二択を与えよう慎重に選ぶが良い」


ゼノリコは卑しく目を細めて笑いながら告げる。


「一つ、農夫として畑を耕しながら、そのトウモロコシを完成させる」


ゼノリコは2本指を立てる。


「二つ、そのスーパーヒーローのもつ危機感知を生かし冒険者になってヒーローとなる」


とても卑しい顔で、トモヤへ残酷な選択を与える。


「冒険者というものになれば…ヒーローになれるんですか?」


トモヤの問いかけにゼノリコは笑いながら頷く。


「なれるとも、貴様の頑張り次第じゃがな?で?どうする?」


「王様、俺は農夫になります」


そのトモヤの答えに、ゼノリコは一本取られたのか目を見開き口をポカンとあけていた。


「おれ、そこのユズがクラスメイト達にリンチされ嬲り殺しにされた時、ビビってうごけなかったんです。俺の憧れてるヒーローは、そういう時に自分が死ぬかも知れなくても前に出ていける勇気がある人間じゃなければならないんです。だから、そんな臆病な俺にヒーローの資格はありません」


トモヤの言葉にゼノリコは目を伏せる。


「わしの知るヒーローは、弱さを知るものである。ならば貴様には充分にヒーローとなる素質はあるとわしはおもうがね」


ゼノリコはカイトに目を向ける。


「指揮者よ、こいつの処遇はお前のクランに任せる」


「わかりました」


カイトは珍しいゼノリコの反応に驚きつつ頷くと、ゼノリコは再びトモヤへ目を向ける。


「トモヤよベルラートはお前を忌むべき転生者ではなく、1人の市民として歓迎しよう、ようこそ、ベルラートへ」


「あ!ありがとうございます!!」


カイトはトモヤを手招きして隣に並ばせる、次にゼノリコはシホに目を向ける。


「ふうむ…?」


カイトは書類をゼノリコへ差し出した、しかしゼノリコは書類を受け取らない、不思議そうにゼノリコの見ているステータスを覗き込むと、彼女のステータスには何もなかった。ギフトの欄にある癒しの手という文字すらないのだ。


「シホ、貴様は本当に転生者か…?」


「え…あ…その…」


「シホの癒しの手は生まれ持った才能です、だからギフトではないんですよ」


ユズは挙手しながら突飛な事を言って来た。


「え?つまり転生するまえから持ってたってこと?」


トモヤの言葉にユズは頷いた。


「成る程な、つまり貴様は生まれ持っての超能力者だったというわけか…ならば、女神どもがギフトを与え忘れたのも、カイトの報告書にあった自身を回復出来ないという絶妙な使えなさも合点がいく。ならば処す必要もなかろう…ん?」


ゼノリコはもとよりシホを処す気はなかった様だったが、シホはビビりちらかした為か、目を開けたまま失神していた。


「リコ様、ギムルが、私のクランハウスに診療所を開設する予定なのですが。行先がないならば是非とも助手に欲しいと名乗り出ています、よろしいですか?」


ゼノリコはふむっと少し考える仕草をしてからカイトを手招きし、カイトは耳を寄せる。


「その話が本当なら、彼女の力は女神の加護とは別枠になる、あの剣を展開した勇者状態のマールを癒せる唯一の手段ということになるか?」


「そうなるかと」


勇者状態のマールが負傷する事は考えられないが、敵の全員が黄昏れのグンヒルドの様に行くとは考えられない。カイトの返答を聞いたゼノリコは頷いた。


「ああ、良いだろう、許す、シホそれでよいか?」


「は!へ?はい!」


挙動不審なシホをトモヤが背中を押して連れて行き隣に並ばせた。そして最期に、問題のユズと顔を合わせる。


「転生者であり、冒険者か…しかも、予言のギフトと来たか」


ゼノリコは煽る様にユズに語りかけ、カイトから書類を受け取ると、それを見る事なく捨ててしまう。


「予言してみろ、お前がこの後どうなるのか」


「申し訳ありません、私が自分の未来を見る事は二度とありません」


そんなユズの態度に、ゼノリコは感心したように頬杖を付く。


「ほう?その理由は?」


「この予言のギフトは勇者様の為にあるからです、友を守るために自分都合で二度使いましたが、本来は勇者様の為に使うと決めているのです」


ゼノリコはすぐさまユズのステータスを確認すると、カイトを手招きした。


「?」


ゼノリコはカイトにユズのステータスを見せてきた、それはギフトの欄である。予言と書かれたギフトに勇者限定と書き足されている。カイトはゼノリコに耳打ちする。


「……そんな事、できるんですか?」


「さてな、だが出来ているのだからそうなのだろう。女神からもらったギフトに自ら制約をかけるとは…気骨のある面白い奴じゃ」


ゼノリコは大分好意的にユズを見ていた。すると、ユズは目を見開き奇声のような声を上げる。


「見える!見えますぞ!!ゼノリコ王!あなたは今すぐ離れに行かなければならない!!」


唐突に声を張り、狂った様な大声で怒鳴り散らす。


「…む…むう?」


「早く離れに行くのです!今ならまだ間に合う!王妃様がトイレに立つ前に!!早く!!!」


その言葉を聞いた瞬間、ゼノリコは意図を察して目を見開くと、普段の彼では想像できないほどの全速力で謁見の間から飛び出して行った。しばらくして、ゼノリコは息を切らしながら帰って来た。


「貴様!ワシを謀るとは!」


「謀ってはおりませんよ、貴方様が行かなければ奥様は軽い段差で転び、腹の子を流してしまっていましたので」


ユズの言葉にゼノリコは目を丸くしながらも玉座へと戻る。


「借りを作ってしまったようじゃな…」


ゼノリコはそういうと、ユズは首を横に振る。


「わたしの予言は勇者様の為にあります、故に、当然のことをしたまでです」


「つまり、我が子の生命を救う事は勇者の為である…と?」


ゼノリコの問いかけに、ユズは頷いた。


「はい、詳しくは分かりませんが、勇者様の為にも無事にお子様を産まなければなりません」


そんなユズの姿勢にゼノリコは珍しく上機嫌に笑う。


「気に入った!ユズとやら、貴様は明日からワシの仕事を手伝うがよい」


ゼノリコの許しにユズは膝を降り頭を垂らす。


「ありがたき…」


ユズが立ち上がるのを観ると、ゼノリコは手を叩く。それは解散の合図である。奥で兵士たちにより扉が開かれ、すぐさま外で待っていたらしいギムルが飛び込んでくる。


「シホ、カイトのクランハウスに新しい診療所を設けたんだ、付いてこい。荷物の搬入を手伝って欲しい」


「は!はい!」


そう言ってギムルはさっさとシホを連れて行った。


「ユズ、ハイデと顔を合わせてこい、奴は先の礼拝堂におる、城を案内してもらうと良いだろう」


「わかりました」


ユズは人見知りではありそうだが、ハイデなら問題はないだろう。


「トモヤ、クランハウスでボルドー兄弟やアンネマリーが趣味の農園をやっています、手始めに手伝ってくれませんか?衣食住は私のクランで補償いたしますので」


「うっす!」


トモヤは走って行き、謁見の間にはカイトとゼノリコだけが残された。


「カイト、寝室で少し話そう」


「はい、報告も含めたいのですが…」


「そのつもりだ、むしろそちらが本題ともいえる」


ゼノリコはカイトを寝室へと招く、寝室は近々生まれるだろう世継ぎのための育児用品がそこらじゅうに散乱している。


「まずはこれを、エルフの王よりいただいた書状です」


カイトは腰に下げたポーチから木の手紙筒を取り出してゼノリコへと差し出すと、ゼノリコは書類を受け取り木の筒をカイトへ返した。そしてベッドへ座りながら書状を開く。


「ふん…」


「おおかた、強迫でもして来ているのでしょう?」


ソファに座りながら呟いたカイトの言葉にゼノリコはため息混じりに頷いた。


「この手紙を見てから数日以内に共闘の動きを見せなければ、我々が貴様ら人種に攻め込む…舐められたものだな」


「ふむ…」


カイトは腕を組み目を伏せる。


「最前線にいた亜人達は姿を消しました。おそらく魔王が戦争準備の為に退かせたのでしょう」


カイト達がパラソーから帰って来た時にはすでに亜人の姿はなく、最前線に聳える城壁は不気味なほど静まり返っており冒険者達も困惑していた。


「浮き駒となっている冒険者達を引き続き配置して 、エルフの対処もお願いしましょう」


冷酷とも取れるカイトの判断に、ゼノリコは顔を顰めた。


「お前、エルフなら滅んでいいとか思っとるか?」


「滅べ、とまでは言いません。しかしエルフが勇者を手に持つ我々の背後の憂になるのは変わりません、この亜人との戦争が決着した後を考えるなら、ある程度の出血はして頂く必要はあるでしょう」


カイトは席を立ち、ゼノリコの部屋に備え置かれた湯沸かしランプを持ってきて前のテーブルに載せると火を灯し水が張られたグラス状のケトルを上に乗せる。


「成る程、なら、こんなモンはいらぬか」


ゼノリコは側にやって来てエルフの手紙をランプの火で炙り燃やすと、そばの隅置き場へ捨ててしまう。


「多めに作っていますよ」


相変わらず抜かりなく用意の早いカイトに、ゼノリコは苦笑しながら向かいのソファへ腰掛けた、しばしの静寂、部屋の中では温まり始めた水の音が響く、カイトはすぐさま茶葉の入ったパックを放り込む。


「そうでした、ゼノリコ様、私が書いた申請書は読んでいただけましたか?」


「魔術師の学校にマールを短期入学させるというやつか?」


これはイザベラが提案したものだ、要塞化の進む最前線へと辿り着いたその日。マールと共にイザベラに会いに行ったのだ。


「勇者様、魔術を扱うならまずは基礎を学ぶ必要があります」


そう語るイザベラは親切に自分の部屋にマールとカイトを招き、高価な椅子に横並びに座らせてくれた。


「イザベラさんは教えていただけないのですか?」


「私は炎術専門、基礎は齧った程度で教えられないのさ」


そう言いながら、イザベラは書状を取り出してマールへ差し出す。マールは一瞬目を細めるが、すぐに諦めてカイトに渡して来る。


「魔術学校の短期入学手続き?」


「学校…?」


マールには初めての言葉だろう。


「ええ、魔術の基礎を学べる場所です。本来は魔術師の神託を得た者しか入学は出来ないし、書状を手に入れることも出来ないのですが…相手が勇者様なら話は別、私が言伝しまして書状を書かせました」


「たった一月で魔術の基礎を学べるものなのですか?」


カイトの言葉にイザベラは曖昧な表情を浮かべた。


「一般の魔術師なら不可能でしょうね、ですが勇者様なら、基礎は三日もあれば充分です。一カ月としたのは私の炎術を教える期間も含まれているからです」


舞台は再び戻り、ゼノリコは露骨な不安を表情に出している。


「大丈夫なのか?マールは字の読み書きが殆ど出来んと聞いておるぞ?」


マールは字の読み書きはおろか、箸やフォークを扱うこともしない。最近は箸が使えることが判明したが、彼女は率先して使おうとはせず、今も手づかみで食べようとする。


「簡単な文字の読みはできるようにはなりましたがね…なので、付人制度を使い、私も一緒に行きます」


魔術師の学校では付人の制度と言うものがある。魔術師の学校の学費はとても高額となっており。この学校に入学するのそれだけ金がある富裕層の子供や冒険者ばかりになるだろう。故に、身の回りの世話をさせる為に付き人を同伴させる事ができるようになっている。


「成る程な、お前がマールの付き人になるというわけか。」


「それに…魔術師達の教育風景を見れば、今後の新しいインスピレーションを得られると思いましてこれも良い機会かと…」


「あい変わらず貴様は抜かりがないな、あい、わかった書類を寄越せ」


ゼノリコはカイトから書類を受け取ると、大きな金色の印を机の下から取り出してくると、書類にどかりと押し付けた。


「な、なにをしてるんです?」


「あの学園は生徒の大半が成金貴族のガキどもじゃ、そんな奴らの中に、マールのようないかにもな田舎者がなにもなしに行けばいじめられてしまうぞ…」


マールはああ見えて繊細で傷つきやすい、そこを踏まえての判断なのだろう


「些細ないじめでマールが爆発なんてした日にはあんなもやしとヒョロガリだらけの貴族の学園なんぞ、即日血の海不可避じゃ…」


あ、そっちですか。


「じゃから、このベルラート王の印字じゃ、これがあれば魔術学校の偏屈なバカどももマールに変な真似をしようと考えんじゃろう」


カイトはある程度温まったお湯が紅色に染まっていくのを見てゼノリコのカップに茶を注ぎ、自分のカップにも注いだ。


「……」


「浮かない顔じゃのう?どうした?」


カイトの表情から何かを感じ取ったゼノリコが問いかける。


「魔王は、敵であって敵ではないかもしれません」


「…マールがそういったのか?」


カイトは小さく頷いた。


「その話はここまでに留めておけ」


ゼノリコはやんわりと咎めると、茶葉のいい香りが部屋に立ち込める、ゼノリコはカップを手に持ち水面に映る自分を見つめた。


「貴様自身はどう考えている?」


ゼノリコの問いかけに、カイトは特に悩まず答える。


「魔王は、倒さねばならない人類共通の敵である事は間違いないでしょう」


カイトはお茶を一口含み飲み込む。


「ですが、マールの直感は他の何よりも信頼できる確信があります」


今まで、マールの直感に救われた事が何度もあった。


「お前さ…とっととマールを抱いたらどうじゃ?」


カイトは口に含んでいた紅茶を吹きそうになるがなんとか飲み込めた。


「は…はは、ご冗談を。そんな事をすれば私はその日のうちに挽肉にされてしまう。わたしも命は惜しいので」


そんなカイトの返しに、ゼノリコは目を細める。実に不機嫌そうな顔をした。


「…まあよい、出発は明日か。随分急じゃな?」


「一年という短い期間のうちに、なんとしてもマールを1000年前の勇者と同じ水準まで引き上げなければなりませんからね、今は1分1秒すら惜しい」


カイトは目に見えて焦りを表情に出していた。


「何を焦っておる?」


「焦りますよ、無尽蔵に生み出される亜人の大群だけですら手を焼くのにそこに過去の勇者パーティときた。経験値も実力も遥か高みにあるかれらの力は本物です、私はあんな連中を相手に策を巡らせなければ…」


不意にゼノリコの拳がカイトを殴りつけた。


「いった!?」


割と本気で殴られた為か、カイトは痛みで額を抑えながらも仰反る。


「なんとなくじゃが貴様、今の我々では奴等に対抗できる戦力がマールだけの様な口振りだったのでな…この異世界にきて一年にも満たない貴様風情が、この世界の全てを知ったかのごときセリフは聞き捨てならん、身の程をわきまえよ小僧」


ゼノリコは怒りにカイトを睨みながら向かいのソファへ座り直した。


「そ、そうは言いますが!現状、過去の英雄達と互換に戦えるのはマールだけです!」


カイトの言葉を受け取り、ゼノリコは腕を組み小さくうなる。


「そもそもその認識を改めよ、A級冒険者達はどうじゃ?最速のレイ、塔のデュートリヒ、灰燼の魔女イザベラ、切断侯のヒューゴ…他にもまだまだ大勢おるし、今この瞬間にも新たなA級冒険者になっているものもおるじゃろう、わしはA級を冠する冒険者達が、たかだか1000年前の上澄の英雄達に負けるなどということが許せんし、カイト、貴様如き青二歳にそう思われているのが腹正しい!カイトッ、あまり今の冒険者達を舐めるてくれるなよ?」


A級冒険者達、この異世界が誇る勇者を除く最大で最強の兵力である。確かにゼノリコの言う通り、A級の彼らを使う事ができれば、英雄達とは張り合えなくともマールを温存する事は出来そうではある。しかし…


「リコ様、私は決してA級の彼等や、今の冒険者達を舐めてなど居ませんよ」


「ならば、何が問題だ?なぜ貴様は焦っておる?」


ゼノリコは背もたれに体重を預ける。


「言うてみ?1人で悩むよりも複数で悩んだ方がよいじゃろう?」


その通りだ、カイトはそこで自分が萎縮し、視野が狭くなっていた事に気がつき、自分の両頬を思い切り叩いた。


「失礼致しました、問題はA級冒険者達を今、浮駒にしてしまうわけには行かないと言う事です。亜人の脅威はしばらくこないとしても…」


「エルフ共か…」


「備えは必要です、エルフが人種領に対し、攻撃に使って来るだろう戦力がどれほどか分からない以上、念には念が必要かと」


もしもエルフ側が本息の大部隊で押し寄せる様な事があっても対処できる備えが必要なのも間違いないからだ。


「カイト、奴等が此方へ押し寄せるのはいつと見ている?」


「おそらく、一月。軍を起こして兵を募り、資材を集めて打って出るまでにはそれくらいでしょう…ただ」


カイトは言葉を濁し、お茶の入ったグラスを手に取ると空になった自分のカップへ注ぐ。


「ただ?」


「エルフは少食です、1日の食糧が小さな小魚と豆だけで済んでしまえるのです。つまり軍に必要な食糧が少量で済んでしまうと言う事」


「ふむ、もう少し早く攻勢に出てくる可能性があると言うことか…」


カイトは頷くとゼノリコは背もたれに体重を預けた。


「難儀な課題じゃな…かと言ってあの要求を呑んで共闘を示せば…あやつらはどうせワシらに前衛を押し付けて来るじゃろう?」


「そうなるでしょうね…」


カイトの返答にゼノリコは気怠そうにしている。


「ゼノリコ様、一つだけ名案があります」


カイトは側に捨てられた紙を拾うと裏側に最前線への指示を書き殴った、そしてそれに必要な人員や資材も瞬時にその場で決めて書き並べそれをゼノリコへ差し出す。


「ふむ、すぐに伝えよう」


ゼノリコはそれを一通り読むと書状を丸め、自身の髪の毛を引き抜いて巻きつけて結びつけると、ベッドの側にあるベルを鳴らす、すると即座に外にいた側近が入ってくる。


「この書状を最前線へ持っていってくれ」


ゼノリコは手早く書状を書き上げるとそれを丸める。


「誰宛じゃ?」


「最速のレイ、彼ならこの情報を上手く料理できるでしょう」


側近はゼノリコから書状を受け取り、手早く外へと出ていった。


「それと、ゼノリコ様に一筆書いていただきたい」


「わし?…なんじゃい?」


「エルフの森外にある街パラソーの市民達の避難の呼びかけと民達の鉄の国への受け入れ要請です」


「んなむちゃな…いきなりできるわけが」


「パラソーの人々は元々、鉄の国の民なのですが…」


「筆を寄越せ、それと紙を」


ゼノリコは鉄の国の事になると人が変わった様にすぐ動き、カイトに言われた内容の書状を鉄の国の王代理宛に拵えると、再びやって来た衛兵に書状を差し出す。


「ハイデ様に渡してくれ、奴のハトが1番早い」


「はっ!!」


衛兵は足早に部屋から飛び出して行った。カイトは開け放たれた扉を閉めて戻ると、ゼノリコはソファに体重を預けてくつろいでいる。


「はあ…今は亜人という強大な敵と戦わねばならぬと言うのに…何故人同士で戦争せねばならんのだ」


「それも含めて、魔王の想定通りなのでしょう」


カイトの返答にゼノリコは訝しみながら顔を上げる。


「流石にそれは無いじゃろ?いくらなんでも…」


「魔王は指揮者です」


指揮者 その言葉を聞いたゼノリコは真顔になるとカイトのステータスを開き、そして指揮者の特性を表示した。


「…お前の神託が持つ特性には勇者に関連されるものが多いのはそう言うことか?千年前の勇者のパーティにも指揮者がいて…そしてそいつが今、魔王を名乗り全人類に対して宣戦布告をして来た…と」


「…アルヴヘイム襲撃の際に彼が用いた戦術が遠方からの投擲により対空防御を潰してからの武装オークによる落下傘降下だったのです…」


ゼノリコの表情が固まり、背筋を伸ばす、その唇は震えていた。


「…落下傘降下じゃと!お主の報告書にはそんなもの書かれていなかったぞ?」


「書いた方が良かったですか?現代でも使われている電撃作戦の概要を事細かく?」


ゼノリコはそこで何かを言いかけるが、すぐにその言葉を飲み込むと脱力した。


「驚くのはまだ早いです、リコ様」


「…どう言うことじゃ?」


ゼノリコの返答を聞くなりカイトは腰のポーチから亜人図鑑を取り出し、先の戦いで解剖した小型の武装オーク達の結果が書かれた資料をテーブルへ乗せていく。


「魔王が奇襲に使った武装オーク達を何匹か解剖しましたが、みな戦士の基準に満たない奇形や病気、障害を抱えた…所謂、失敗作の部隊だったのです。これがどう言うことかわかりますか?」


カイトの問いかけにゼノリコは首を横に振る。


「彼らは一年後の決戦の為に大量のオークを急ピッチで量産しているということです。今回襲撃して来た中隊規模の武装オーク部隊を捨て石に出来てしまう程に」


ゼノリコは顔を青くしながら生唾を飲み込む。


「す、捨て石じゃと?報告ではかなり被害を出したそうじゃないか?それを捨て石にするのか…何のために?」


ゼノリコの問いかけにカイトは目を伏せる。


「餌です」


「すまん、専門用語は分からん、わしにもわかりやすく教えてくれ」


ゼノリコはカイトの話について来れていなかった、情報が多過ぎてパンクしていたのだ。カイトは小さく咳払いすると告げる。


「魔王は野外決戦を望んでいます」


「野外決戦…じゃと?」


カイトは頷き、無地の紙を寄せると下手なイラストを描き始める。


「報告書にも記しましたが、エルフ達はこの我々とは違い安全な魔力濃度の高い森の奥に引きこもっておりました、散発的で小規模な戦闘は何度かあった様子ですが、それも年に数回あるか無いか位のものです…だから数百年単位も戦争から遠ざかって生きていたのです…」


カイトはアルヴヘイムでの戦闘を脳裏で振り返りつつ口を回す。


「襲撃の際エルフの守備隊とも共闘しましたが、近接戦闘を極端に嫌ったような弓矢を持つ者だけで編成されており接近戦を想定した訓練も碌に行われていない様子が容易に想像が出来るほどに粗末な者でした」


「そうか?しかし、報告書ではシューターなるエルフ特有の神託が脅威と書いていたではないか」


ゼノリコの問いかけにカイトは頷く。


「はい、兵が入り乱れる乱戦に於いて的確に安全な遠方から将を狙い撃てる射手は脅威です。シューターは確かに戦場にはいてほしく無い厄介な存在である事は変わらないでしょうしかしです、それは乱戦に出来る前がしっかりと敵の前線部隊を止めるから機能するのです、近接戦闘を嫌い遠距離の訓練ばかりをしてきた彼等は…それしか出来ないのです」


抑えられる前衛がいなければ、突撃を受け止めきれず、すぐに部隊は粉々になるだろう。実際、震脚のアリエッタはそうやって士気を削ぎ、逃げ惑い散り散りになったエルフ達を刈り取っていた。


「そんなやつらを勝たせる事に何の意味があるんじゃ?」


「エルフ達は、今、こう考えているでしょう。【オーク達は、今の我々でも充分対処が可能な程弱いのだ】ならば兵員を揃えさえすれば楽勝だ…と」


ゼノリコは再び口を閉ざして険しい顔になる、そして問いかける。


「…積極的に民を狙って攻撃していたのは復讐心を煽る為か?」


「はい、武装オークの戦闘力はガルーダさんの話ではゴブリン並との事でした。ゴブリンと同等ならば民間人でもその気になれば倒せる程度です、実際に何体かは反撃で倒されていたものもいましたので」


「ならば、あの傲慢なエルフどもの事だ…同族の仇を取るべく自ら武器を手に取り、戦争に乗り気になるじゃろうな。そしてそんなオークだとは知らずに簡単に倒せてしまった…士気は鰻登りと言ったところか。」


「はい、エルフの強気は先程の強迫的な書状からも明らかでしょう。彼等は必ず打って出ます、そのデモンストレーションとして、我々の誇る最前線を攻撃する…と言った所でしょうね」


ゼノリコは冷えたお茶の入ったグラス状のケトルをカップへ注ぐ。


「カイト、何故そう考えたのだ?」


「リコ様はFPS系のゲームはやっていましたか?」


カイトの突飛な言葉に、ゼノリコは笑顔になる。


「わしの得意分野じゃよ?大会にも出ていたくらいじゃからのう!」


実に自慢げに楽しそうに語った。そんなゼノリコにカイトは問いかけた。


「そのゲームの中で、落下傘部隊とはどんな場面で使われていました?」


「ん?そうじゃな…わしはそのビルドは使ってはいなかったから…クラン戦の時は確か……」


楽しそうに記憶を思い出しながら、次第に顔色が変わる。


「敵の本丸を落とすための弊害になる厄介な通信拠点や、詰め所を先んじて制圧し、後続の本隊の突撃を助ける?」


ゼノリコはそこで口にしながら顔を青くしながら声量が小さくなっていく。


「はい、落下傘部隊による奇襲作戦には様々なパターンがありますが、概ねはそうです。つまり本隊の突撃のための露払いですね、だから私は当初後続の本隊を警戒しました…」


「だが、来なかった…と」


「はい、震脚のアリエッタとオーク・ロードというイレギュラーな存在はいましたが、彼女達は魔王より別の指示を受けてあの場にいたようです」


「報告にあった紅木か…オーク・ロードを触媒に死体を捕食して無限に増殖し襲いかかる肉食の触手か…そんなものに冒険者が襲われれば蘇生は不可能だろう…明らかな対冒険者用の兵器と言ったところか?」


「触手の一部でも持ち帰れれば良かったんですがね、イザベラさんが纏めて焼き払って灰燼にしてしまいましたので…」


「強すぎる火力は時に対策の足を引っ張るな…まあ、しかたなかろう、彼奴がくれたスクロールがなければお主ら2人は漏れなく触手生物の腹の中じゃ」


カイトは乾いた笑いに肩を揺らしながら頷く。


「そうですね、まあ、私はあのあたりから記憶が少し合間なんで…マールやクランのメンバー達の情報の受け売りなんですけどね」


「魔王に乗っ取られたと言う話か…今は大丈夫なんじゃろうな?」


不意に空気が変わる、カイトは手にしたカップをテーブルに置くとゼノリコを睨んだ。


「大丈夫じゃなかったら…どうする?」


瞬間、ゼノリコの表情は引き攣り蛇に睨まれたカエルのような状態になる。


「なーんて、どうです?中々覇気がありました?」


ぱっと笑顔を作るカイトは本の冗談のつもりでやってみたのだが、滅多に見れないゼノリコの表情が見れたので気分は良かった、但し、それを察したゼノリコはいい笑顔になるとクウを大声で呼びつけた。ゼノリコの声に従いクウが扉を開けて入ってくる。


「お呼びでしょうか、王様」


「マールを呼んできとくれ、どうやらカイトは朝の走り込みだけでは足りんとボヤいとると」


「は?…えっ?」


「わかった…」


クウは素早く走って行った、数秒も経たぬうちにマールがニッコニコの笑顔で部屋に飛び込んできた。


「カイト、僕は嬉しいよ。君がそんなにやる気に満ちているだなんて」


「あ…いや、な、何かの誤解…」


この後、カイトはマールによって街中を散々走らされ、解放されたのは夕方だった。


「お疲れ!カイト!」


マールに背中を叩かれた拍子に倒れ、疲労の限界だったカイトはそのまま気を失った。


「ちがーう!もっとこう!出来ないかな!」


次に目を覚ますとエレーネの鍛錬にマールが付き合っていた。


「マール様、その!この武器…重すぎて…」


「まだまだ鍛えが足りてない証拠だね!そんなんじゃS級はおろか、U級にだって届かないよエレーネ!」


マールはエレーネの手からその体には不釣り合いな程に長く大きな大剣を手に取ると手先のみで軽々しく扱う。


「…うーん、やっぱ僕にはこの子はもう軽いな」


「か!かるっ!?」


エレーネが驚愕に目を見開いている。


「何をしてるんですか…」


カイトが身を起こしながら聞くと、2人はこちらを見る。


「あれ?カイト、まだそこにいたの?」


「カイト様!お目覚めになられたんですね!」


エレーネはカイトが寝ていた事には気づいていた様だった。マールは手にした大剣をエレーネに返す。


「うわわ!!」


エレーネは引っ張られそうになって両手で抱えてようやく持ち上げている。


「その大剣はエレーネ様の神託にはあっていないのでは?」


そう問いかけると、マールは首を横に振る。


「エレーネの神託はうちの爺様と同じ戦士だから持てるはずだよ、その子は爺様も片腕で振っていたから、エレーネもそのうち振れるようになるはず」


元A級、鉄腕ビルドと同列に語られるエレーネに同情する、マールは精進したまへとエレーネの肩を叩く。


「が!頑張ります!!」


再びエレーネは大剣を手に持つと素振りが始まり、マールは楽しそうにそんなエレーネの鍛錬に付き合っていた。


「カイト、お風呂入って来たら?」


「はい、そうします」


カイトはマールに押されるように自宅の古びた洋館へ入り、入浴を済ませるとその足で食堂へ向かう。


「あ!カイト!もう少し待っていてくださいね!」


シイロが厨房で慌ただしく動いていた。


「お構いなく、私が早く来すぎただけですので」


「カイト」


そこへ執事服に着替えたクウがやってくる。


「イザベラ様から明日から通う事になる魔術学校の制服が届いてる、夕飯時にマールにも渡すようにって」


そう言って制服の入っている包みを二つ渡して来た。


「一つ多くないですか?」


「もう一つは付人用だって、赤が生徒用、緑が付人用と聞いた」


クウは手にした手紙を見ながら告げ、すぐに手紙をカイトへ差し出す。手紙の内容はマールに着せるように着せ方が丁寧に描かれていた。イザベラの外イメージからは考えもつかない実に可愛らしいイラストも散りばめられている。


「シイロ!お腹空いた!今日何!?」


腹に入れば何でも一緒というマールでさえ美味しいと唸らせ苦手な野菜すら食べさせるシイロの料理は彼女の楽しみになっている様だ。後ろにはエレーネもいる、どうやら彼女も此処で食べていくようだ。


「もう少しで出来ますから、座ってまっていてください」


シイロは厨房で慌ただしく動来ながら笑顔で声を張った。


「あ!手伝います!」


エレーネは気を利かせて装具を食堂の壁際に纏めて置くと厨房へ向かった。


「カイト、それなに?」


相当体を動かしていたはずのマールだが、その表情に疲れのようなものは微塵もない、そして制服の包まれた包みに興味を示した。


「明日から通う魔術学校の制服をイザベラさんが送って来てくれたんです」


「イザベラから?ふぅん?……せいふくってなに?」


そこからか!カイトは思わずツッコミを入れたが言葉には出さなかった。


「学校では、勉強の際に皆、同じ格好をするんですよ。そうする事で生徒か、そうじゃないかを見分けるんです」


マールは自分が袖を通す事になる紅色の制服を摘み上げて前、後ろと外見を確認する。


「だっさ…しかも可愛くない!」


辛辣!マールは否定的に制服をジッと見つめると、直ぐに興味を失い包みに戻してしまう。


「とりあえず、サイズ合わせも兼ねて着付けしましょう」


「うえ、カイトが着せるの??」


「はい、付人の仕事なんだそうです」


マールは読めもしないイザベラの手紙を手にし、端に描かれた制服の着せ方のイラストだけを見つめる。


「変な事しないでよ?」


「しませんよ」


そこでシイロとエレーネが食事を食卓に並び始め、カイトとマールは会話をやめて並べるのを手伝った。夕食後、エレーネは迎えに来たアンネマリーと共に帰るのを見届けたマールはいつもの様に部屋にやって来た。


「カイト来たよ」


ノックもなく、マールはそう言いながら入って来た、どこか上機嫌にも見える。


「なんか変な感じだね、みんな同じ格好をするだなんてさ!」


「ベルラートには学校はないんですか?」


「ないねー、ベルラートで教育は礼拝堂がしてるの、僕は嫌いだったから一回も行った事なかったけど」


ゼノリコがそんなことをするだろうか?と考えたが、戦争を嫌うゼノリコなら必要以上の教育は与えない方針をとっている可能性は充分あり得るだろう。


「成る程、そして教育をサボった結果がこの天然100%の野生児と」


「ぶっとばされたいのかなっ!」


などと、見事なボディブローで腹部を抉りながら言ってきた。


「と、とりあえず…着て行きますか」


「はーい」


マールは徐に裸になる、というか彼女はパンツ以外に下着は身に付けていない。


「マール、その、いつか言おうと思っていたのですが…」


「ん?なに?」


「異性の前ですぐ裸になるのはやめた方がいいです、精神衛生的に良く無い」


「はー?いいじゃん、別に、僕だってハイデみたくバインバインだったら多少気は使うけど…僕みたいなの見た所で何も」


瞬間、カイトがすごい形相で詰め寄りマールを掴む。


「マール、なんでゼノリコ王が転生者狩りに君を使うのか…考えた事はありますか?」


「ふえ?…わ、わかんない…」


流石のマールもカイトの勢いに押されて引き気味に答え逃げようとしたが、カイトはさらに詰め寄る。


「転生者の、特に男は君を見た時、油断するからです。」


カイトの言葉にマールは目を丸くし、キョトンとする。


「ゆ…油断?なんで?」


「それは君が、私の世界でいうアニメキャラクターのような外見をしているからですよ!いいですか?君は私の世界では相当に可愛い部類なんです」


「そ…そうなんだ…」


こういう言葉は言われ慣れないのか、マールは目を逸らした。カイトは自分の言っている言葉の意味を深く認識せずに続ける。


「思い出しても見てください、あなたが処理して来た転生者達は、あなたを見た時なんていってました??君に何をしてきたかを思い出してみて下さい?」


「ああ、確かに、体ベタベタ触って来た、ズボンにまで手を入れて来るやつもいたっけ、何したいのか分からなくて気持ち悪かったけど…」


学の無い彼女にはあれがどういう事だったのかわかっていなかったようだ。強引にキスされたりセクハラ紛いに撫で回されていても反射的に嫌がる様子は見せていたが他の女性に比べ反応が薄かったのはそのせいだろう


「君は、彼らがそうしたくなるだけ魅力的な外見をしていることを自覚したほうがいいです、だから異性の前で裸になるのは金輪際禁止です。いいですか?」


「えー、カイトの前でもー?」


少し不貞腐れた様子で返して来る、こういうところは勇者といえど年相応ではある、大抵の異性ならこの仕草をされたら許してしまうだろう。内心カイトでさえ惜しいという感情が脳裏から出てしまう程だ。


「勿論です、女の子が異性に裸を見せていいのは父親か恋人くらいです」


「こっ!…」


途端にマールの顔がヤカンの様に湯気が出る勢いで真っ赤になる。思えばパラソーで、彼女はエルフに会話を聞かれない為に炎術である接触会話を使う際裸で抱きついていた。その時も今の様に真っ赤になっていた気がするが。


「わ…わかったよ…気をつけるよ…」


マールは素早く目を逸らして黙った。


「わかれば宜しい、とりあえず制服着付けちゃいますね?」


マールは大人しくカイトに服を着付けられる、魔術学校というから自分たちの世界で流行ったクロークや法被のような制服なのかと思いきや普通に現代にもありそうなデザインのセーラー服だった、というよりこの服…何処かで…。急にノイズの様に視界が揺らぎ身体がよろける


「カイト!?」


マールは素早くよろけたカイトを掴んで引き寄せ、転倒せずに済んだ。カイトは涙を溢しながら幻覚を見ているかの様に虚構を見ていた。


「カイト!!大丈夫??カイト!!ちょっと…どうしたの!?」


マールはバシバシとカイトを強く引っ叩き続けた。


「い!痛い痛い!マール!痛い!」


「あ!帰って来た!?君、今一瞬変だったよ?」


カイトは首を傾げ、目から溢れる涙の、その異常な量に驚愕した。マールはそんなカイトの胸ぐらを掴んで引き寄せる、どうやら魔王が入っているのかと思われているらしい。


「何があったの?何を見てたの?」


「マール、落ちついてください。魔王が入ったわけじゃないですから…」


マールはそれを聞くとゆっくり掴んだ手を離す。カイトはマールに捕まれ乱れた衣服を正すと語り出す。


「その制服を着ている君を何処かで見ているんです、そう考えていたらいきなり頭にノイズの様なものが走りまして…気付いたら…」


「?…気付いたら?」


そこでカイトは唐突に思い出す。


「そうだ、冒険者になった時…女神の血を飲んだ時の夢でこれを着た君が出て来たんです」


そう言ってマールを見ると、マールは目を見開いたままどこか驚いたような顔をしていた。


「…………カイト、それ本当?…」


凄く間を開けながらマールが問いかけて来た。


「え…あ、はい、そうですが…」


するとマールの顔が見る見るうちに赤くなり、刹那、カイトの鳩尾を強烈な右ストレートが突き刺さる。


「ごは!!!」


「バカ!!!バカバカバカクソカイト!!しねえ!!」


倒れたカイトをマールは何度も蹴飛ばしてから顔を抑え、そして部屋を飛び出して行った。


「な…なんで?…」


理不尽な暴力の嵐に晒され、カイトは自室の部屋で気絶する事となった…。



【次回 魔術学園ラ・ピュセル編】


お疲れ様でした!次回は魔術学園編!

わり早の投稿ができるよう、がんばります

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