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2の8 宣戦布告

今回は短め、というより本来は前回の話に入れるつもりだった小話です。

長くなりすぎたために此方で書きました。

「は…」


カイトが目を覚ますと、そこは見覚えのある天井があった、確かエルフの国から帰るための馬車に乗った筈だが、カイトは視界を泳がせ周りを見ると。隣で誰かが顔を覗き込んでいる。


「あ、起きた?」


茶色のショートボブに翡翠色の瞳の少女、マールだった。


「マール?身体は大丈夫なんですか?」


「うん、エルフの森から出たらもうすっかり!」


死ぬとさえ言われていたマールは元気そうに声を張った。


「カイトの方こそ大丈夫なの?なんか馬車に座るなり気を失ったんだって?」


気を失った?カイトは首を傾げる。


「わたしはどれくらい寝ていました?」


マールに問いかけると、マールは首を傾げた。


「一晩?今は開けてお昼頃かな?僕もついさっき起きたからちょっとわかんない」


「成る程、そうですか」


するとそこへ緑色の肌に黄金のひとみ、トカゲのような風貌の人種、レプテリアンのギムルがやって来る。


「マール、何をしているんだ君は…」


「あ、ギムル、カイトが目を覚ましたよ?」


するとギムルは眉を顰めると側へ寄って来てカイトの額に手を触れる。ヒヤリとしたレプテリアン独特の体温は地味に心地よかった。


「身体、起こせるか?」


カイトは身体を起こそうとしたが、身動きができなかった。


「やはりそうか…」


ギムルはカイトの背中に手を入れると手慣れた仕草で身体を起こした。


「え、カイト…病気なの?」


マールは心配そうに問いかけた。


「単なる過労だ、明日には動けるようになる」


単なる過労でここまでなるはずはないが、カイトはそう考えていると、ギムルは問いかけて来た。


「何があった?君の体はまるで一年間休む間もなく労働をしたかのような疲労を身体に蓄えていたぞ?」


「触手から逃げるために走り回っていたからとか?」


「そんなレベルの疲労の蓄積ではなかったぞ…」


呑気なことを言うマールにギムルは鋭いツッコミを入れた、するとマールはあっと何かを思い出す。


「そうだ、アンネマリーがカイトが起きたら聞きたいことがあるって言ってたの。連れて来るね」


マールはベッドから飛び出ると、素足のまま走って行った。


「勇者とは凄いな、あの魔力酔いが森を出たと同時に治ったんだぞ」


「そんなに、酷い状況だったんですか?」


カイトの問いに、ギムルは頷く。


「あそこではあえて言わなかったが、相当危険な状態だったんだ。あそこまで進行した魔力酔いは、助かったとしても寝たきりになるケースが多い」


それなのに今は元気に走り回っている、先程彼女はバッチリだと言っていた。マールは体調に関しては嘘をつくことはないので、本当に体調に異常はないのだろう。しばらくすると、マールがアンネマリーの手を引いてやってきた。後ろにはエレーネも続く。エレーネはマールの大剣を背中に襷掛けしている。


「カイト、体調はもうよいのですか?」


アンネマリーは側に座り語りかけた。


「はい、ご心配をおかけしました」


カイトは笑いかけると、アンネマリーは静かに問いかけた。


「あなたはまだ、そこにいますか?魔王」


殺気、同時にアンネマリーはカイトの胸ぐらを掴みながら腰の短剣を抜きカイトの首に突きつけた。


「アンネマリー!?」


想定外の動きに全員が驚き判断が遅れる、アンネマリーは容赦なくカイトの喉笛を掻っ切ろうと力を込めるが、カイトが素早くアンネマリーの手を掴んだ。


「寄せ、傷つくのは身体の持ち主だぞ?」


カイトは不気味な笑いと声音で告げるとアンネマリーを蹴飛ばした。


「ぐ!?」


アンネマリーは弾丸のような勢いで天井に叩きつけられ、床に落ちる。


「アンネマリー!?カイト!何をするのさ!」


マールは素早く床に倒れたアンネマリーを起こし、カイトを睨んだ。


「君は…誰だ?」


ギムルは怯え、すくむようすでゆっくり席を立ち、カイトから距離を取る。カイトは笑いながらベッドの上に座った姿勢を取ると不適な笑みをこぼす。


「俺は魔王、この少年の身体を借りて今私はここに宣戦布告をしに来た」


魔王、カイトの口にした言葉で全員が敵意を剥き出しにして臨戦態勢を取る。


「そう身構えるな、今回は挨拶程度だ。それに少ししたらアリエッタを可愛がってやらねばならんので手短に済ませるつもりだ」


カイトの体を使い、魔王は立ち上がる。外見はカイトなのだ、貧弱なヒョロガリ、体力もなく力も弱いはずの少年、しかし何故だろう。戦って勝てる気がしない。マールはエレーネを観る、エレーネはどうしていいのか分からず硬直し、武器すら抜いていない。


「そう警戒をするな、今、お前たちと戦う気はない」


「君がそうでも、僕たちはそうじゃないかもしれないよ?」


マールは威勢よく切り返すが、魔王はジッとマールを見つめた。


「ん…何?」


マールは警戒心を見せながら身構えるが、魔王は特に何も言わない。


「エルフ、盗み聞きは感心しないぞ?出てこい、特別に貴様にも聞かせてやる」


魔王の言葉通りに、入り口からエルフの男が入ってくる、ヘイムダルだ。ヘイムダルは剣の柄に手を触れながらカイトににじり寄る。


「武器は不要だ、さっきのアンネマリーのようにこの身体に切りつければ、身体の持ち主が死ぬだけだ」


魔王の言葉に、ヘイムダルは剣から手を離す。


「ふん、我が名は魔王。この大陸を統べる亜人の王なり…此度は勇者、そして総ての人の子らへ宣戦布告をすべくこの少年の身体を使ってこの場へ来ている」


魔王は雄弁に歩きながら全員の注目を一身に受ける。


「宣戦布告だと?既に亜人どもは各地で暴れているだろう、我がアルヴヘイムも襲撃した、その上で何を布告すると言うんだ?」


ヘイムダルの言葉を魔王は鼻で笑う。


「あれが攻撃だとでも?単なる小競り合いを戦争だと思うなどとは…エルフとは随分と寂れた考えをお持ちのようだ」


「何だと!?」


怒りに怒鳴るヘイムダルなどまるで意に返さない、魔王はヘラヘラと笑いながら続ける。


「これより我々は、この地に総ての人々に亜人の全てを使い攻撃を開始する。手始めにエルフ、貴様らから根絶やしにし、あの醜い大樹もろともこの大陸から消してやろう」


「な!!」


ヘイムダルは驚愕に目を見開き声を張り上げるが、魔王は気にせず続けた。


「しかし、我々は1000年近く準備して来た。今日明日からいきなり侵攻すれば、お前達のような雑魚など一息で捻り潰せてしまうだろう、それではフェアじゃない」


「そんなの、やってみなきゃわかんないじゃんか!」


マールが口を挟み、吠え立てる。


「口を慎めよ勇者、半熟のお前が入る余地など今はない」


「なんだと!?このやろっ!」


マールは激怒しカイトを殴り掛からんと前に出るがギムルに止められる。


「まあ、話を聞け。俺は貴様らに戦力を整える準備期間をくれてやると言っているんだ」


魔王は挑発的にヘイムダルの前まで行き、彼を見下すような目を向ける。


「一年やろう、一年後の今日、我々は総攻撃を開始する。存分に準備するがいい。我々を奇襲し、残忍な手で追い詰め虫のように殺そうとしても良いだろう、千年前の我々にしたようにな!」


魔王は表情に笑いを浮かべながらも憤怒の怒りに包まれた視線をヘイムダルに向け続けている。


「次は貴様らエルフがそうなる、我々は情け容赦はない、臆病で卑怯なエルフらしい姑息な戦い方を期待しているぞ?くく」


「き、貴様っ!!」


ヘイムダルの恨み言に気を良くした魔王は、実に愉快そうに右手を持ち上げると、小君よく指を鳴らした。その瞬間、全ての時間が静止する。


「あ…あれ?…み、みんな?」


「我が力で時を止めた、これで俺と勇者の間に邪魔は入らない」


魔王の言葉と同時にマールは辺りを見回し、ぴたりとも動かない全員の様子を確認する、そして魔王と向き合った。


「……な、何が目的!?ボクだけを殺すの?」


マールは魔王からじわじわと距離を取る、しかし、魔王はそんなマールの行動に何をするでもなく、ただジッとマールを見つめていた。


「お前には期待している」


魔王は優しい声音でそう語りかけた、マールは魔王を睨んだまま首を傾げる。


「な、何を言ってるの!?」


意図がわからない、マールが強気に怒鳴り声を挙げると、魔王はゆったりと前に出て来てマールの身体を掴み引き寄せる。


「あ!…く…何し!」


マールの力でも、魔王の手を振り解く事は出来ない、魔王はマールの顎を掴むと、自分を見るように向けさせる。


「……く!」


マールは力では叶わず、ただ睨みつけるしか出来なかった、悔しさから涙が滲む。魔王はそんなマールをジッとただ見つめると、何をするでもなく静かに開放した。


「お前はまだまだ成長する、強くなれ、そしてこの俺を倒しに来い」


「い!言われなくたってそのつもりだよ!!」


威勢よく吠えるマールの反応をみた魔王は満足そうに頷くと、ゆっくりと距離をとり背を向ける。


「千年前の勇者はあらゆる魔術を使いこなしていたが、その中でも特に火の魔術が得意だった。お前も必ず出来る。まずはそこからあたるがいい」


「…あ、えっ?」


マールの返答を待たず、指を弾くと、静止された時間が動き出した。


「さて、アリエッタが待っているので俺は失礼するとしよう。ではな人の子ら、一年後を楽しみにしているよ」


「ま!待って!!」


魔王はいかにもな高笑いをしながらベッドに倒れ込み静かになる、そして何事もなくカイトのいびきが聞こえ始めた。


「すぐに国へ戻る!レプテリアン、カイトが起きたら今のことを伝えてやれ」


ヘイムダルは勢いに任せて外へ飛び出して行った。


「戦争…」


静寂に包まれる室内で、全員が困惑や不安を表情に浮かべていた。


「まあ、とりあえず、積もる話はカイトが起きてからにしよ?」


マールはベッドにうつ伏せに倒れたカイトに歩み寄ると仰向けに寝かせ、ギムルも側へ行く。


「ここは僕がいるから、ギムルも大丈夫だよ、今は休んでほしい」


「なに?」


ギムルは訳がわからないと言った様子でマールを見るが、マールは流れるような動きでカイトの隣に寝転がる。


「何だか疲れちゃったから、今日は僕もここで寝る」


そういうと、マールはノータイムで寝息を立て始めた。


「…まったく君と言うやつは…世話の焼ける勇者だ、はあ、仕方ないとりあえずは解散しよう」


ギムルは全員に告げると、エレーネとアンネマリーも頷き、部屋を出て行った。静まり返る室内でマールは目を開く。


「…ふう」


静かになった部屋の中で天井を見つめていた。





カイトが再び目を覚ますと、周囲は真っ暗だった。


「あ、起きた?」


見れば隣には先程と同じ状態でマールがいる。


「な、何が…」


状況に困惑したカイトは身を起こす、先ほどとは変わりちゃんと体が動く。


「魔王がカイトの身体を乗っ取ったの、それで宣戦布告してきた」


カイトはマールから、ことの次第を聞いた。


「一年猶予を与えた上で、1番の戦力を有したエルフから滅ぼすと…成る程」


落ち着いたカイトはベッドに寝転がりながら思考を巡らせる。


「カイト、変かもしれないんだけど…ちょっと聞いてもいい?」


そんなカイトの隣で、珍しくマールが素直に聞いてきた。暗い部屋の中で美しい彼女の翡翠色の瞳が輝いて此方をみていた。カイトは手元のランプに手を伸ばし把手を捻ると落ちた火種がランプの油に火を灯すと部屋の中がわずかに明るくなる。


「何でしょう?」


顔を向けると、マールは少し曖昧な表情をしていた。


「僕、あの人、魔王が悪い人には思えないの」


唐突な告白にカイトは困惑するが、マールも自分で言っている事がわかっていない様子で頭を抱えた。


「おかしな事を言ってるってのはわかってる、確かに亜人を使って沢山の人を殺して、奪って、酷いことばかりしているし、倒さなければならない敵なんだけど…なんか、その…変なんだ。あいつにとって勇者は天敵でしょ?倒したい敵のはずなんでしょ?」


「……そのはずです」


カイトの言葉を聞くと、マールは抱きついてきた。その身体は震えている。


「あいつが僕を見る目、ずっと優しかったの敵意や殺意なんて一切なかった。まるで…爺様やリコ様みたいな優しい目だった…なんなのあいつ」


「なにか、言われましたか?」


カイトの問いかけに、マールは震えながら答えた。


「強くなれって、私を倒せる位にって…」


「それは…確かに、不気味ですね…」


カイトは考える。


「魔王は、1000年前の勇者だったりして」


カイトはマールに聞く、するとマールは首を横に振った。


「あいつ、1000年前の勇者は火の魔術が得意だったって言ってた…だから僕も火の魔術を覚えろってそう言ってた…」


何故、魔王はそんな事をマールに教えるのだろう?まるで敵に塩を贈るような…。


「そういえば、アリエッタも勇者には手を出すなと言われているって言ってましたね」


「でも、グンヒルドは襲いかかって来たよ?勇者の剣が彼らに相性が悪いから…とか?」


確かに勇者の剣を発現させたマールを相手に出来る敵はそうそう居ないだろう。それを危惧した魔王が他の顧問達に勇者との戦闘を避ける指示をしている可能性は大いにある。だが、それならば何故魔王は勇者であるマールに強くなる方法を教えたりしたのだろうか?マールは勉強嫌いではあるが強くなることに関しては貪欲だ、エルフの国で魔力酔いを経験した事で魔術を使えるようにならないといけないと考えてはいる筈だ、何故魔王はピンポイントにマールが欲しいだろう情報を与えて来た。


「なんか、やだなあ…指示されてるみたいで」


「何がです?」


「確かに、今回の遠征でボクははっきり言って足手纏いだった…好き嫌いだけで魔術を学ぼうとしなかった付けが回って来たって反省してる」


「明日は雪ですかね?マールが反省?」


「そうやってふざけてくるのがむかつくのー!!」


マールは抱きついた体勢から力を入れると、カイトの全身からミシミシという音が響いた。


「カイト、昨日の約束覚えてる?」


「え?…何か約束しました?」


マールはすぐにむくれてカイトの脇腹を叩いてきた、同時に凄まじい衝撃が身体を突き抜けた。


「もう!一緒に魔術の勉強を手伝ってくれるって約束したじゃん!!」


「もも、もちろん…覚えていますよっ…」


すっかり忘れていた、というよりあの危機的な状況でした発言など曖昧なのだ。この遠征から帰ってもやる事は山積みである事は容易に想像ができてしまう。一年という僅かな期間でどれだけの戦力を整えなければならないのか、そう考えるだけで頭が痛くなる。


「やれやれ、難儀なものですね、全く」


カイトはそう言いながら盛大なため息を吐き出した。


「マール、いっそのこと2人で魔王も戦争もしがらみのない世界を探して逃げてみますか?」


なんとなく、そんな事を口走ってしまう。


「はあ?…何言ってんの?」


呆れたような声音だがマールの表情は穏やかだった。


「でも、全部終わってゆっくりできるようになったら、それもありかもねっ」


好意的に受けてはくれているようだ。するとマールはバッと身体を持ち上げてカイトの顔を覗き込んでくる。


「僕さ!カイトの世界に行ってみたいかも!」


「現代に?」


カイトの問いかけにマールはにこやかに頷く。


「僕たちとは違う生き方をしてる人達、冒険者も亜人も魔物もいない、なのに人同士で戦争をし続けてる世界だなんて面白そうじゃん?」


「戦いたいとか思ってる?」


「戦いたいとは思わないかな、カイトの貧弱っぶりをみたらどんな程度かなんて想像つくもの」


例え銃火器で武装した軍隊を相手取ったとしても、この小さな勇者は笑いながら蹂躙するのだろう。


「そもそも、どうやって行くんです?」


「カイトや他の転生者達が来れるんだから、ボク達が行く事だって出来るでしょ?やり方はわからないけどさ!」


それもそうだ、と、カイトは考えてしまった。一方的にこっちに送れるなら、こっちから向こうへ行くこともできる筈だ…と。


「カイトの両親に会ってみたいし!!」


とんでもない事を言い出した、カイトは思わず吹き出した。


「は、ははは。絶対に合わせません」


マールなんて連れて行った日には、あの堅物な両親は間違いなく警察に通報する事だろう。


「いけず…僕の爺様には会った癖に」


「マールには両親がいないんでしたっけ?」


そう聞くと、マールは頷く。


「僕ね、捨て子だったらしいの。爺様は気を利かせて俺の死んだ友の娘って言ってくれてるんだけどさ…ある日外に捨てられていた僕を、現役だった爺様が拾って、育ててくれたんだって」


「ビルドさんらしいですね」


なれない子育てに奮闘するガチムチなビルドを想像し、カイトは思わず吹き出しそうになった。


「なんかまた眠くなって来ちゃった…」


マールはカイトにくっついたまま大きな欠伸をする。


「…最近は悪夢を見ないのですか?」


「うん、カイトと一緒の時はみないんだ…だから…こうして…くう…」


マールは会話の途中で、まるで子猫のように瞼を閉じて脱力すると、静かに寝息を立て始めた。マールが眠るのを見届けたカイトは、再び天井を見上げ頭の中の情報を整理する。魔王が自分の身体を乗っ取っている時の話し、マールの証言の真意。いつか、魔王を前にした時に聞いてみなくてはならない。一年間、魔王が人類に与えた猶予が重くのしかかる。一年の間にできることはたかが知れている、何も準備はできはしないだろう。最初に襲われる予告をされたエルフ達が何をするのか…。問題は山積みである事は変わらないのだ。すると次第に瞼が重くなるのを感じる、カイトは再び眠りにつこうと考えを捨てた。


「かいと…それは…たべれない…おいしくないよ…」


となりの小さな勇者はどんな夢を見ているのだろうか、きっと碌でもない夢に違いはない。意識の狭間で聞こえたそんな寝言に苦笑しつつ、カイトは意識を手放した。



エルフの国編 完

お疲れ様です!これにてエルフの国編は終了です!

次回は少し箸休め回を挟みつつ、準備編が始まります。

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