2の4 エルフの国へ(後)
大変遅れまして申し訳ありません!
うまく表現できずに三回、四回書き直していました。
まだ少し納得がいかない内容なのでベータ版程度にお読みいただけると助かります。
轟く轟音、雲を裂きながら空を飛ぶ人影は、目的地の場所へ到着し、派手に地面へと着陸した。
彼女の名前は【震脚のアリエッタ】魔王軍に所属し、リザードマンの管理を統括された少女である。アリエッタは柔らかい地面に突き刺さった自らの黄金色の金属の脚を地面から引き抜き、目の前にある実に小さな小屋へと入っていく。
「おー、戻ったぞー」
アリエッタは昼間だというのに真っ暗な室内でそう声をかけた。真っ暗な部屋の奥には大きな椅子が一つ背を向けて置かれている。
『ああ、戻ったのかアリエッタ』
椅子は男とも女ともわからない声で語り、アリエッタの存在にたった今気が付いたかのような声音でつげる。
「言われた通り、他の仲間達に指示はしてきたぜ?」
『どうだった』
それの問いに、アリエッタは首を横に振る。
『だめだな、みんな色々終わっちまってる。辛うじて獣になってねえだけだ…近いうちに飛んじまうだろうな」
アリエッタはそう語りながらあゆみを進め、大きな椅子の横に並ぶと、その椅子に腰掛けるそれに目を向けた。
『強引な蘇生をしたからそこは仕方ないな、グンヒルドには可哀想な事をさせてしまった…』
それはグンヒルドの損失を悔いる様な声音でつづけ、そしてアリエッタに目を向ける。
『むしろアリエッタ、君だけが今だに狂っていないかのが不思議でならない』
そんなそれの問いかけに、アリエッタは気分が良くなり椅子の背もたれに体重を預けながら語る。
「俺は他の連中程、人間に恨みはなかったからな。しってるか?この俺が童話の主人公になってガキ共に語られているんだとよ!」
アリエッタの話をそれは穏やかな顔で聞いていた。
『当たり前といえばそうだろうな、君は、本来ならばあちら側にいるべき人間だから』
「俺ら全員があちら側だろ?俺だってクソエルフ達が相手なら理性が飛びかける時はあるんだ、いずれ獣にはなっちまうぜ?」
アリエッタはそれに対してそう語ると照れ臭さくなり、黄金色の義手で頬をかくと話題を変える。
「あ、そうだ。たまたま立ち寄った街でな!あいつに会ったぜ?」
『あいつ…?』
それは和かに、そしてどこまでも穏やかな調子で復唱する。
「グンビルドをやったっつうガキだよ!」
『…勇者の幼生の事か』
それ、勇者の話題になると何処か優しげな声音となる。アリエッタはそんなそれの反応に気を良くして語り続ける。
「お前が手を出すなっつうから挨拶程度にして味見してみたが…あいつはダメだ、てんで話にならねえよ!あんなやつにグンビルドがやられたってのが信じられねえ」
自慢げに語るアリエッタ、しかしそれの反応はアリエッタが期待するそれではなかった。小さくため息を吐き出すなり激しい音を立てて椅子の手すりを叩く。その衝撃だけでアリエッタの義足の両脚が外れてしまい足を失ったアリエッタが床にひっくり返る。
「え!…あっ?」
わけもわからず地を這うアリエッタはそれを見上げた、それは顔を向けることなくゆらりと立ち上がった。
「ひっ…」
アリエッタは恐怖に顔を引き攣らせ、全身に鳥肌が立つ、それはそれだけの殺気を放ち、常人なら吐き気を催す程の威圧感が溢れ出る。気がつけば小屋の粗悪な木の板に亀裂が走る。
『…アリエッタ、私はお前になんといった?』
それはゆらりとアリエッタに向き直り、完全に戦意を失い怯えるアリエッタに歩み寄りながら何もない空間で手を操る。それだけでアリエッタの肩の繋ぎ目から義手が外れ、身体を支えるものがなくなったアリエッタはゴロンとその場に転がってしまう。そして手足を失い何一つできなくなったアリエッタの顔をそれの手が掴む。
「言えよ、アリエッタ…私はなんと言ったんだ?」
「てっ…てをだすな…です」
アリエッタは余の恐怖で失禁しながら、彼が求める言葉を呟くと、それはアリエッタの顔を掴んでいた腕から力が抜ける。
『そうだ、わたしは勇者には何があっても手を出すなと言った…』
それは手脚を失い身体と頭だけになってしまった小さなアリエッタの体を掴んで持ち上げると、恐怖に引き攣り竦み上がったアリエッタに顔を寄せる。
『次はない。二度と、約束を違えるな…』
どこまでも冷たく、冷徹な眼差しにアリエッタは心から恐怖し、怯えながらつぶやいた。
「はい…申し訳…ありませんでした…魔王様」
そんなアリエッタの泣きながらの謝罪を受け、魔王と呼ばれたそれは、無言で拭うことができない彼女の涙を拭ってやり、小さなアリエッタを抱えて再び椅子に腰掛けた。
『わかったなら良い』
今までの威圧感が嘘だったかの様になくなり、手足を失い身動きが取れなくなったアリエッタをぬいぐるみの様に抱え、その頭を撫でた。
「は!!」
目を覚ましたカイトが見上げたのは、見慣れない天井だった。
「こ、ここは?」
身体を起こそうとするが酷く気怠く、体が重たくゆっくりと顔を光の方へ向けるとそこには窓があり、そこでカイトは自分が宿屋のベッドに寝かされている事に気がついた。混濁していた情報が頭にフラッシュバックされ、唐突に流れ込む情報の多さに頭痛がして右手を頭に触れる、そこでカイトは千切られたはずの右腕がある事に気づいた。
「そうだ、わたしは…」
混濁していてまとまらなかった情報が少しずつまとまるとともに記憶が鮮明となって行く。カイトは魔王軍の1人、震脚のアリエッタにより襲撃されたのだ。
「カイト、目を醒ましたのか」
声の方にゆっくり顔を向けると、緑色の肌に黄金の瞳の爬虫類人間、レプテリアンのギムルがカイトのそばでデスクに向かって座り、何やら紙に書き殴ると、カイトの額に手を当てる。ヒヤリとした彼の手に少し身動ぎしてしまうが、逆にそれが心地よく感じてしまう。
「経過は良好だな、マールから君は蘇生を受けられないと聞いた時は肝を冷やしたが…何とかなったようだ」
マール?そこでカイトは目を見開くなり勢いよく身を起こす。
「マール!マールは?!」
彼の記憶の最後で、大量の血を吐き出して倒れるマールの姿を見ていた。するとギムルはカイトの額に手を当てると、ゆっくりとベッドに横たわらせる。
「心配は要らない、彼女は君よりずっと頑丈だ。今は元気に他の皆を連れて狩猟に出ているよ。流石と言った所か」
ギムルは敢えて勇者の単語は出さずに感心していた。カイトの記憶の最後では大量の血を吐いて倒れる程の大怪我だったのにもう走り回っている?カイトは驚愕しながらもギムルの言葉に安心して緊張するために吸った息をゆっくり吐き出す。
「マールに感謝するといい、いくら頑丈とはいえ内臓が潰されていたんだ。相当な激痛だったろうにカイトは蘇生を受けられないからと君の治療を優先させたのだから」
後でマールには感謝しないといけない、カイトはそう思いながらも額に手を添える。
「わたしはどのくらい寝てました?」
そのまま問いかけると、ギムルは執筆に戻りながらも語る。
「半日だ」
カイトは窓の外を見る、外は僅かだが朱色に染まりつつある。
「マールが宿屋に連れていく事を提案した」
マールが?カイトがギムルに再び目を向けると、ギムルは特に興味もなさそうに周辺で回収しただろう薬草を水に付け、効能を調べている。
「私も賛成した、あの野営地は衛生的に良くない。それに、お前のクランメンバーが逐一安否を確認してきて落ち着かなかったからね」
苦笑を漏らしながら彼はそう告げると、一つの薬草を水の中から取り出すとそれをカイトの口に突っ込む。
「この薬草は血を増やしてくれる効能があるようだ、食事まで咥えておけ」
その薬草は咥えた端から痛みを伴う強烈な苦味が口の中一杯に拡がり、あまりの苦味に唇が麻痺してしまい、口が開かなくなってしまう。
「!!!」
思わず手で口の薬草を払おうとするが、ギムルは暴れるカイトに拘束の魔術を唱えた。これは唱えた相手を一時的に動けなくなる。
「じっとしていろ」
できるか!必死にもがくが首から上を虚しく振るしかできないカイトを冷たくあしらうと、ギムルは特に気にするでもなく再び薬草の効能調査をし始めた。
数時間後、やってきたマール達に口の薬草を抜いてもらうまで地獄の苦味を味わったのだった。
そうして、目覚めたカイトの意向で野営を取りやめ、クランメンバー全員をこの宿屋に合流させることにした。エルフ達も野営よりは布団が良かったのか、宿屋での宿泊には特に反対する事なく自分たちの部屋へさっさと閉じこもってしまった。
「カイト!ご飯までもう少しまってて!」
マールは他のメンバー達と共にバタバタと慌ただしく部屋から出て行った。この調子では夕食までにはまだまだ時間がかかりそうだが、まだ、退屈はしなさそうだ。なぜならマール達が出て行った直ぐ後にシイロとクウが入って来る。
「カイト、私とクウでこの街と周辺の状況を調べてきました」
なんと、クウとシイロは自発的にこの街の情報収集に走っていたようだ。
「聞かせてください」
カイトの言葉に、シイロとクウは語り出す。この街の名前は【パラソー】元々は鉄の国ハイゼンベルが、エルフ達の国アルヴヘイムと物流を結ぶ為に造られた街で、かなり盛んな交流や流通のある街の一つだった。その名残りなのか、様々な商談用の大きな建物が立ち並び、小さいながらに独立した冒険者ギルドもある。カイトが今いるこの宿もその時に建築された冒険者達専用の宿屋なのだという。しかし、数百年前の亜人襲来以降、人間種達は巨大な城壁の裏に逃げていき、それに伴いエルフ達は森の奥へ引きこもってしまった。物流が止まった街は一気に廃れ、無くなってしまった物流や物資の流通を民と一部取り残された冒険者達が担い、今も尚維持している。亜人達は城壁が目を引いているため、こちらに雪崩れ込んでくる事は滅多にないのだという。
「妙な話もあります。最近、長年この街代々支えてきた冒険者たちが相次いで行方知れずになっているようです」
「その謎の失踪で、100人近くいた冒険者たちも今や数人のみとなってしまったようです」
シイロとクウに交互に報告され、カイトは腕を組み長考する。
「何があったのでしょうね…」
そう、呟いた。直後、カイトは飛び込んできた返り血で血塗れのマールにより宿屋の食堂へ強引に連れて行かれた。数多くの冒険者を養ってきた宿屋の食堂は非常に広く、その真ん中にはマール達が狩ってきたカイトの世界にはいない不気味な生物が吊るされている。すでに内臓を抜かれて血抜きも終えている。
「シュウが狩猟後の処理が上手で助かったよー!」
「拙僧の寺の裏山では、農作物を荒らす獣がよく出ていましたからね…槍の修行がてらに良く狩ったものです」
シュウは、カイトの世界なら即破門だろう。ただこの世界では特に気にする事は無いのだろう。
「お嬢さんたち凄いのとってきたね!これは腕がなるな!」
宿屋の店主は突然押しかけた大所帯のカイト達を受け入れてくれそれだけでなくマール達が狩猟してきた生物の調理までしてくれるという。
「私も手伝います!」
いつのまにか鎧を脱いできたシイロが割烹着姿で名乗りをあげると、宿屋の店主は大きく頷いた。
「お嬢さん、相当出来るね?よし、じゃあ手伝ってもらおうかな?」
宿屋の店主は和かにシイロの手伝いを了承すると、不気味な生き物を手慣れた動作で丁寧に捌いて切り身にし、次々とシイロに渡し、受け取ったシイロはそれらを次々奥の台所へ持っていき、吊るされた肉は骨すら残さずに解体され、直ぐに香ばしい良い匂いが漂って来たので冒険者達の腹の虫を鳴らした。店主も腕捲りをしながら厨房へ向かうと全員で肉の解体のためにどかした席を元の位置へともどす。
「お待たせしました!」
シイロがどデカい大皿に肉塊の丸焼きを乗せてやって来ると全員の席に次々と乗せていく。
「うわあ…」
隣に座っていたマールは口からダラダラ涎を垂らして次々運ばれて来る謎生物の肉を使った料理を見つめていた。カイトは中世の食事は焼くか煮るかしかないと思っていたが、次々と運ばれて来る料理は多彩で最初の丸焼きや汁物のようなものからローストや揚げ物まで出てくるのだから驚くほかない。ある程度の料理が食卓を彩った。
「みなさんもう食べてもいいですよ!」
シイロの合図を皮切りに、一斉に食事が始まった。マールはさっそくフォークをグーで握りしめ大きめに切り分けた肉に齧り付いている。カイトは相変わらず野生味溢れるマールの食事に苦笑しながら汁物を啜る。根野菜と骨でしっかり出汁を取られた汁の味わいが失血で弱った身体に染みる。
「カイト、味は如何ですか?」
シイロもカイトの隣に座り、味を伺って来た。
「相変わらず良い味ですよ、シイロ」
そういうと、シイロは頭を寄せてきた。何となく猫のように頭を撫でる要求をしているように見え、カイトは頭を撫でた。ピョコっと、シイロの毛深い髪に隠れた小さな獣耳が動いている。彼女は花の国の王であり古人と呼ばれる種族、シイナの娘であり、服を脱いだり、髪を切らなければわからないほど小さな耳と脱がなければわからない程に小さな尻尾がついている。
「えへへ…」
シイロは照れくさそうに頭を撫でられている、するとマールの足がカイトの足を踏みつけた。
「いった!!」
カイトはその余の痛みに跳ね上がるが、マールは涼しい顔で肉をナイフで大きく切り分け口に運んでいる。
その顔は実にわかりやすく不機嫌だ。
「うちの宿にこんなに沢山冒険者が来るのは何年降りだろうか!久しぶりに料理を食わせてやれて満足だ」
葡萄酒の瓶を片手にカイトの迎えの席に座った店主、マールはそんな彼にも切り分けた肉を差し出した。
「おお、ありがとう」
店主は活気付く宿屋の食堂に満足気な声を漏らす。
「むかしは冒険者がいたんですか?」
カイトの問いかけに、店主は目を伏せて頷く。
「昔と言うほどではないですね、一週間くらいですかな?この街を長年守ってくれていた冒険者さんたち3人がいなくなってしまいましてね」
例の失踪事件か、カイトは先程クウやシイロから聞いた話を思い出す。カイトはそう考えながら店主に問いかける。
「その冒険者たちは今は?」
カイトの問いに店主は首を横に振る。
「わかりませんね、わしに上手い肉を食わせてやると言って精霊の森に出たきりですから…」
その瞳はどこか寂しそうに木のコップに葡萄酒を注ぎ、口に運ぶ。
「精霊の森とは?」
カイトの問いかけに、店主は口の端に溢れた葡萄酒の雫を拭いながら答える。
「この街の近くにある森ですわ、美味い野生生物が多いいのです」
「成る程」
恐らくその冒険者たちは狩猟に出たその先で悲劇に見舞われたのだろう。カイトもシイロも敢えては口にせずにいたのだが、マールだけは疑問を浮かべる。
「この街の周辺の生物はどれもこれも返り討ちに会うような奴じゃなかったように感じたけどな、精霊の森ってそんなやばいのがいるの?」
マールは疑問を口にしながら、グーで握りしめたフォークで、丁寧に料理された肉を突き刺し口に運ぶ。
「そりゃ、君からしたらなんでもそうじゃない?」
そのマールの疑問に突っ込んで見たが、カイトのクランメンバー達も同じような反応を浮かべる。
「そんなことない。今食べてるこいつを仕留めたのもエレーネだし。エレーネの実力でも勝てる相手なのに、長年ここを守って来ていた冒険者達が返り討ちに合うってのは考えられないなって、僕は思うんだ」
「私共もマール殿の疑問に同感です」
おそらく単体の戦闘力は下に位置するだろうボルドー兄弟の兄、ゲイルがマールの言葉に同感を示すと彼の周りにいたアンネマリーやゲイツも頷いている。
「…なるほど、少し伺ってみますか」
カイトはそういいながら、奥で固まって座るエルフの女性達へと視線が向く。エルフ達の口にもシイロの料理はあっているようだ、どこか上機嫌な様子で丁寧に肉を切り分けつつ次々と口に運んでおり、全員の視線を浴びてキョトンとしている。
「ギムル、頼めますか?」
「わかった」
ギムルはそう頷いて、手にした肉塊の丸焼きを一口で飲み込むと、ナプキンで口を拭いつつエルフの側へ行くと、精霊の森について聞いた。しかしエルフ達は分かりやすくわからない様子で首を傾げている。
「君達のいう精霊の森がなにかわからない、ここら一体の森は全て我らエルフの領土だから何処か教えてくれれば分かると思う」
ギムルの通訳にカイトは地図を取り出すと向かいに座っていた店主が地図を掠め取る。
「なんじゃい?こりゃ…随分雑な地図だな」
店主はそう言って顔をしかめるながらしばらく地図を眺めると立ち上がり食堂から出ていくと、すぐに色褪せた丸めた紙を持って来て食卓に拡げた。
「少し手を加えてもいいかな?」
それはこの街の一帯とエルフの国、アルヴヘイムが記された周辺の地図だった。
「お願いします」
カイトの了承を得ると、店主はその地図の横に雑だと言った大陸地図を広げ、地図に周辺の地理を木炭で書き足していく。
「ここが我々の街だ」
店主はデカデカと記された街を指差し、カイトたちの地図に印をつけ、精霊の森と呼ぶ場所をまるで囲い、カイトへ地図を手渡した。カイトはその加筆された地図をギムルに手渡し、ギムルはエルフの女たちの食卓の横で地図を広げると、年長者らしいエルフは立ち上がりその地図を見下ろした。しかし、それを観た年長エルフは腕を組み、長考をするような反応を見せる。
「この森には我々の故郷、アルヴヘイムまで続く街道が一本あるだけだ、資源は豊富だが危険な生物が住み着くような場所ではない。もしも住み着いていたのなら我々の王は排除に動くはずだ」
すると一番小柄な若いエルフの女性が立ち上がり、年長エルフの袖を引いて何やら言葉を口にした。それを聞いた年長エルフはハッと目を見開くとすぐにギムルへ報告する。
「ひょっとしたら、我々をこんな目に合わせたあの外道の仲間がいるのかもしれない」
3人目の赤毛のエルフも年長エルフの側へ行くと何やら語り、年長エルフは大きなため息を吐き出した。
「我々があいつの洗脳を受ける少し前、この近くの村の周辺におかしな衣服を身につけた集団を目撃していたようだ」
彼女達の言うあいつとは、リヒトの事だろう。
「なるほど…」
カイトは考えながら自分の席へ戻ると、そこにあった筈の皿がない、見ればマールが皿を強奪しており、口一杯にに頬張っている。マールは悪びれもせずごくりと口に入れた物を飲み込むと、ナプキンで口をゆっくりと拭う。
「つまり、転生者の集団が住み着いていて。そこに来る冒険者達を襲っていたってこと?」
「はい、そういう事でしょうね」
こういう事には妙に察しのいいマールの言葉にカイトは頷き、マールから奪われた空の皿をとりかえす。
「おっと、まだあるんだ、誰か、力自慢来てくれんか?」
そう言って店主は立ち上がり、その言葉にゲイツとゲイルが立ち上がり、店主の後について行く。暫くして大皿に乗せた巨大な肉の丸焼きをゲイツとゲイルが2人で抱えてやって来ると真ん中のテーブルに乗せた。中までしっかり焼いた謎生物の巨大な肉塊は香ばしい匂いを漂わせており、食欲を誘う。
「今二つ目を焼いてるからじゃんじゃん食ってくれよ!」
店主は大きな肉切り包丁で肉を切り分けて行く。
「はいカイト」
早速デカイ肉を山盛りに乗せてとって来たマールが、その内の一つをカイトに差し出す。
「ありがとうございます」
カイトはナイフとフォークで小さく切り分け口に運ぶ、口の中の謎肉は噛んだ瞬間に脂が口一杯に広がる、はっきり言えば美味しい肉ではない。現代の食肉用に作られた牛や豚に比べると繊維がしっかりとしていて非常に硬く、脂に独特の臭みがある。ただそれは現代人の味覚であるからだ。それの証拠に、カイト以外の冒険者達は喜んで頬張っている。
「カイト殿」
ゲイルとゲイツが皿を手に向かいの席に座る。
「転生者の集団ですが、いかがしますか?」
2人は深刻な顔で問いかけると、全員の視線が一斉にカイトへ向いた、そんな問いかけにカイトはナプキンで口を拭いつつはっきり伝え。
「勿論、始末しますよ」
その言葉に、隣のマールを除いた全員が騒然とする。
「だよねー!いうと思った」
マールはカイトの言葉を予想していた様子で呟いた。
「で、でも今の僕たちにはギフトを消せるリコ様がいないよ?そんな状態で転生者の集団と戦うだなんて…危険じゃないかな?」
ゲイツの発言にその場にいたマールをのぞいた全員が頷く、ゲイツの指摘はもっともだろう。転生者のもつギフトはそれだけ強力なの能力であることを彼等も見てきているのだから。
「そう思うのはもっともです、転生者はたった1人ですら群を動かし簡単に国を滅ぼせてしまう程の力を持っている存在です。その集団ともなればそれがもつ潜在的な脅威度は黄昏のグンヒルドや震脚のアリエッタをも超えるでしょう」
「でしたら…」
聞いていたガルーダが不安気な表情で声を漏らす。
「我々がただの冒険者の集団なら間違いなく迂回を選ぶでしょうね」
カイトは穏やかな口調でエルフ達やエレーネを見ながら告げる。
「ただ、彼ら転生者を野晒しにはできない。何故なら彼らは世界を左右できてしまうギフトと呼ばれる強すぎる力をもっているからです。今は森を通る行商人や冒険者におさまっていても、いずれ必ずこの世界に害をなすでしょう」
カイトは言いながら拳を強く握りしめる。
「リコ様の言葉を借りるなら、何の努力もせず女神から貰った力を無自覚に振り回されては堪らないんですよね」
何処までも冷徹に、カイトはそう言いながら、夢中で巨大肉を齧り続ける勇者に目を向けた。
「ですが、カイト殿、転生者には無敵のギフトがあるんですよね?それはどうするのですか?」
シュウの疑問に、カイトは頷く。
「そこは心配いりません、我々にはリコ様程ではないが切り札がいるんですから」
カイトはそう言って隣のマールを見て、マールが勇者である事を知っている全員は納得したかのように頷いた。
「店主さん、行方不明の冒険者たちは我々が捜索しましょう」
カイトの言葉に店主は感激したように深々と頭を下げる。
「おお、ありがとうございます!」
そしてカイトはクウに目を向ける。
「クウとシイロ、すみませんが明日、街の衛兵達から精霊の森の情報を集めてきてもらえますか?」
カイトの指示に、クウと隣のシイロは頷く。
「カイト、わたしも手伝おう」
ガルーダも名乗りを上げ、カイトは頷く。
「よろしくお願いします、ガルーダさん」
そしてカイトは立ちがあり、自分の皿の肉をマールに渡しながら告げる。
「後の皆さんはできるだけ早めに休んでください、明日は忙しくなりますので」
こうして、カイト達は転生者の集団の排除を行うべく、行動を開始するのであった。カイトは計画を考えるべく先に1人で自室へ戻ると、宿の店主からもらった周辺をデスクに広げ、宿に備えられたランプに火を灯すと限られた情報の中での戦術を考え始めたのだった。
深夜、清潔な水で身体を拭き終えさっぱりしたカイトは、ランプの小さな明かりのなかでカイトが気絶している間にシイロとクウが集めた街の情報資料に目を通していた。その中に目を引くものがある、それは、通行人や行商人が失踪する事件が相次いるという話しである。カイトは考える、この街の衛兵に冒険者が居なかったのはおそらく冒険者達が転生者達に襲撃され尽くしたためだろう。
コンコン
ふいに、誰かが扉を叩いた。カイトは扉の外が誰なのかは察していたので直ぐに扉を開ける。扉の外には栗色の髪に翡翠色の瞳をした小柄な少女がいた。マールは何やら思い詰めているような不自然な表情をしている、その背中には小柄な身体に不釣り合いな長く大きな大剣をいつもみたいに襷掛けし、左腕には枕を抱えている。
「マール、どうかしました?」
その表情は少し気になったカイトだが、どうせ1人では眠れなくて来たのだろうと思っていた。マールは勇者と成ってから、過去の勇者の記憶を夢で見てしまうことを明確に恐れており、その恐怖を紛らわすためにこうしてカイトの部屋に来るようになった。するとマールは無言でズカズカ部屋に入ってくると、唐突に扉を締め大剣を扉に立てかけいつぞやのようにつっかえ棒にする。そしてカイトの手を掴むと、奥に連れて行きベッドの手すりに触れる、今回ははっきりと銀色の天糸がカイトには見えている。そして部屋の匂いを嗅ぐ、明確に何かを警戒している、それはまるでバゼラードの時のような仕草だった。
「まさか、すでに敵が?」
マールの警戒動作にカイトも警戒し、そう聞くと、マールは何も言わずに手を掴んで来る。
「??」
カイトはマールの行動の意味がわからず首を傾げた。マールは腕を出してカイトの腕を当てたり足を絡ませたりと色々やるが、すぐに諦めカイトを見つめて告げる。
「カイト、ちょっと協力して」
「え?あ、はい…」
マールからのそんな申し出にカイトは渋々頷くと、マールは服を掴む。
「脱いで」
「は?」
「服脱いで、すぐに」
何を言ってるんだろうこの野生児…カイトはマールの言葉の意味がわからず呆然としていると、マールは徐に目の前で上の服を脱ぎ捨て、上半身裸になった。
「は!?ちょ…まーる!?何して…」
「早く脱いで!」
カイトは思わず顔を手で覆い、見ないようにしながら状況に混乱し声を荒げた。そんな気娘のようなカイトにマールが痺れを切らす。
「いいからぬげー!!」
「いやあ!待ってマール!私たちにはそういうの!!まだはやいからー!」
力でマールに叶うはずもなく、カイトはあっけなく上着を脱がされ捨てられてしまう。するとマールは、再び無言で手を繋ぎ、そしてゆっくりと接触する肌を増やすようにくっつけてきた。
「あの…マール?」
マールの意図が分からず、小さいマールに裸で抱きつかれている状況に激しい心臓の高鳴りを感じるカイト、あまりにも不健全な状況に、彼女を引き剥がそうと肩に手を触れたその瞬間。
『これで聞こえる?』
カイトの頭に声が響き、動きを止めるとマールを観る。
『聞こえてたら頷いて』
マールは口を動かさずに喋っており、カイトは動揺しながらも言われた通りに頷いた。
「うーん…やっぱり今の僕じゃ君と裸で抱き合わなくちゃ無理かぁ…」
マールはそう言ってゆっくりと離れていく。
「今のは?」
カイトが問いかけると、マールは再び抱きついてくる。
『これが出来る事は声にしないで、エルフに気取られたくない』
エルフに?マールの言葉の意図が理解できず、話そうとするが、すぐにマールに手で口を抑えられた。
『カイト、さりげなく加護を見てみて』
マールに言われた通り、眉間にシワを寄せる、そうすると、自分の右手あたりから金色の光が何処かに向かって伸びている。
『驚かないでよ?気取られるから…あと取るのも禁止、それ取るとあいつらは多分察してくるから』
あいつら?カイトは喋っては行けない状況を理解し、マールの肩をタップすると、ゆっくりと移動して紙に文字をかく。
『どういうこと?』
マールにも読みやすいひらがなに近いこの世界の単語を繋いで見せる、マールもカイトの意図を理解し、裸でくっついたまま目を凝らすように細めてじっくり見つめ頷く、どうやら花の国の道中で教えた効果が出ているようだ。
『その金色の線はエルフが逐一カイトを監視するためにつけたもの、勇者だと言うことはバレてはいないみたいだけど、僕達の情報をエルフの国に伝える為だと思う』
『なぜ?』
マールはジーっとカイトの字を見ると首を横に振り、再び抱きついてくる。
『わからない、だけど碌なことじゃないと思う…』
そういうとマールは離れ、脱いだ上着を拾って着る。
『わかりました、とりあえず注意しておきます』
カイトは紙にそう書いて見せると、マールは頷くと、床に落ちた枕を手に取り誇りを払いながら当たり前の様にカイトのベッドに乗った。
「あ、ここで寝るんですね」
「なんで?嫌なの?」
そんなことを言いながらも、マールは気にせず仰向けで寝転がる、そんなマールにカイトも諦めて上着を拾うと、マールの隣に寝転がる。実のところカイトはまだ心臓が痛くなるほど激しく動いていた。
「いやはや、唐突に脱げと言われた時はどうしたのかと」
「どうしたのかって?なにが?」
カイトの言葉に、マールはカイトに寝返りを打ち、少し不機嫌そうに問いかけた。
「えーと、なんというか…そういう事をするのかと」
敢えて濁され、カイトの言葉が理解できずにマールは首を傾げる。
「そういうことってなに?どういうこと?わかんないよ」
段々イライラしてきているのが分かる顔をしはじめた。しかし、はっきり教えていいものだろうか、いやダメだろう。
「マール、今みたいに裸で抱き合うのは私の世界では恋人同士がやることなんですよ」
そうやんわりと伝えると、聞いていたマールの顔がみるみる赤くなって行くのが分かる。マールはゆっくりとベッドから出ると、入り口にある大剣を手にする。
「まった!!まったまった!!今のは私悪くない!」
今にも斬りかからんとするマールだったが、カイトの必死な命乞いを聞き、素直に大剣をつっかえ棒に戻した。
「………」
マールは、無言で睨みつけながらも何度か深呼吸を繰り返して落ち着くと、再びカイトの隣で横になると寝返りをうち背中を向けてしまう。
「転生者みたいにべたべた触って来たら殺しちゃうから」
マールのそんな脅迫にカイトは苦笑した。
「普段は抱きついてくるのに?」
「僕はいいの!」
隣に寝そべりながら茶化すカイトに、マールは向きなおるとポカポカ殴ってきた。不思議なことに加減しているのかいつもみたく痛くはない。
「やれやれ…」
カイトは殴られながらもゆっくりと瞼を閉じ、マールはカイトが眠るのを見ると殴るのをやめ、ジッとカイトの寝顔を見つめる。
「……っ!」
唐突に羞恥心が駆け巡る、カイト曰く、恋人同士がする事を平然と名案と考えてやってしまったそんな羞恥により、頭が沸騰する程熱くなる。学のない彼女にはその感覚がなんなのかは、まだわからない。
翌日、カイト達は目覚めと共に行動を開始した。朝早くからシイロとクウが衛兵達から精霊の森の情報を集めてもらうと、この街の長は精霊の森への調査依頼を冒険者ギルドへ出してたのだ。
「ええ、確かに出しております」
突然のカイトの訪問にも快く応じてくれた街長は顎に携えた立派な髭を撫でながらそういった。
「それは、なぜですか?」
カイトの問いかけに、街長は訝しむような顔をしながら答えた。
「おかしなことを聞きますね、それは勿論、アルヴヘイムに向かう我が街の行商人が誰1人帰ってこぬからです」
街長は語る、この街は城壁が立ち鉄の国から見捨てられた後はアルヴヘイムとの交流で生き延びてくる事が出来た、しかし数ヶ月前からアルヴヘイムからの供給はパタリと無くなり、それどころかこちらから出した行商人も戻らない。そのため、この街は現在補給がない状態の自給自足を余儀なくされているのだという。その事を重く見た街長はこの街に唯一残された戦力である冒険者ギルドに調査を依頼したというのだ。
「結果、我が街に残された冒険者たちは残りわずかです。彼らを使えばもうこの街を守る手立てが無くなってしまう…」
街長は縋るような目でカイトを見てきた。
「カイト殿、どうか我が街を救ってはいただけませぬか?」
カイトの老いたヨボヨボの手でカイトの手をしっかりと掴み弱りきった声で告げてきた。
「我々はこの街を救うことはできません」
カイトは街長の要求をはっきりと断ると、街長の老人は気落ちしたように肩から力が抜けていく、しかしカイトは老人の両手にそっと触れる。
「しかし、森から帰って来ない冒険者達の捜索は請け負いましょう。我々クランの求める報酬は、帰って来たこの街の冒険者達の装備と当面の生活費の工面です。高くつきますがよいですか?」
カイトの言葉に街長はパッと顔を上げ、カイトに深々と頭を下げた。
「喜ぶのはまだ速いですよ?しっかりと書状にして下さい。今すぐに」
カイトはにこやかに街長に顔を寄せる。
「わ、わかりました」
カイトの圧に根負けした街長はガックリと肩を落とすと、カイトの指示通りに書状をしあげさせ、印を押させた。
街長に書状を書かせたカイトは、それを宿屋の店主に渡してエルフ達を宿屋に残し、昨晩宿屋の店主に教えられた精霊の森の前へとやってきた。特に変哲のないただの森の中に通った街道だが、すでに少し不気味な雰囲気を漂わせている。森の中を通る広く大きな街道は、馬車が行き交う為に広く鋪装されており左右は鬱蒼と茂る草木に埋め尽くされており、この中の創作はかなり骨が折れそうだ。
「マールは前をお願いします」
カイトの呼びかけにマールの返答は帰ってこない。見ればマールは眠そうにボーっとしていた。
「マール?」
「あ!ご、ごめん!わかったよ」
マールは弾けるように反応し、前に行こうとしたのでカイトは彼女を捕まえる。
「大丈夫ですか?」
顔を見ればくっきりと隈を作っていた、昨晩はすぐ寝ていたと思ったが、そう考えるのも束の間、マールはカイトの手を払う。
「大丈夫だよっ!」
そう言って1人先行する形で前に出る。少しだけ顔が赤かった気がしたが気のせいだろう、カイトは後ろのメンバー達に隊列を指示する。
「ギムルはマールの後ろをお願いします」
「承知した」
ギムルはマールのそばへ行く
「マール、寝不足なら気付の薬草があるぞ」
「え、要らないよ!ギムルの薬草ってバカ苦いやつでしょ?」
ギムレは嫌がるマールに薬草を手渡す。
「心配するな、今回のは少し青臭いだけだ口に咥えておけ」
「ほ、ほんとにー?」
マールは渋々と手渡された薬草を口に咥える、やはり彼女には苦いようだ。
「ゲイツさん、ゲイルさんは私の左右に展開してください」
「わかりました!」「了解っ!」
ゲイツとゲイルはヘルメットのバイザーを下げ、大盾と槍をてにカイトの左右に並ぶ。
「エレーネ様は私の後ろに、アンネマリーさん、シュウさんはエレーネ様の左右に展開並んでください」
「はいっ」「わかりましたっ!」「御意!」
エレーネがすぐ背後に並ぶと、シュウとアンネマリーが左右に展開し、アンネマリーもバイザーを下げる。
「武士衆の皆さんは間隔を開け二列の横隊で着いてきてください」
「御意!!」
少年達は直ちに応対に並んだ。
「ガルーダさん、このメンバーでマールの次に強いのは貴女です、一番重要で一番危険な背後をあなたに任せたい」
ガルーダはカイトの言葉に敬礼で返す。
「お任せください!」
ガルーダはにこやかに緑色のポニーテールを揺らしながら最後尾へ向かった。
「シイロ、クウは遊撃です、左右に広く展開して偵察を願います」
「わかりました!」「ん!」
シイロとクウの返答を聞くと、カイトは前を向く。
「よし!では行きますよ!」
そしてカイト達は大口を開けた悪魔の口である精霊の森へ、静かに足を踏み入れた。
「皆さん、加護を見てください。何かあればすぐ伝えるように願います」
カイトはそう言いながらも自身も眉間に力を入れると金色の光が視界に入る。カイトはさりげなくその光を掴むと強く引き抜いた。
「取るなって言ったじゃんバカカイト」
マールは器用に後ろ歩きをしながらギムルごしに声をかけた。
「一々探られるのは気分わるいですからね」
「まあ、同感だけどさ」
金色の光は薄らぎ消えていき、マールは特に怒るでもなく前に向き直る。暫く進むと右の茂みに横転した荷馬車を見つけ、カイトは全体を止める。
「あの街の馬車ですかね?」
カイトが問いかけると、遊撃のシイロとクウがが馬車へ走り状態を観る。カイトも列を離れると馬車へむかう。
「判断しかねます」
クウはそう告げ、シイロも首を横に振る。そんな2人の反応をみつつカイトも荷馬車の状態を見た。荷馬車はまるで右側から強い炎に焼かれたかのように黒焦げにされていた。
「前列で、付近を捜索します、エレーネ様から後は待機で、マールは何か不自然な臭いを感じたら教えて」
「君、僕をイノブタか何かだと思ってない?」
どちらかといえば犬かな、とカイトは思っていたがマールに睨まれたのでとりあえず無視した。カイトは再び眉間に力を入れ、加護の光を探しはじめる。この世界の冒険者と呼ばれる存在は、死体が完全に風化されたり消化されてさえいなければ頭蓋骨からでも蘇生は可能である、ただ損傷箇所の修復には多大なエネルギーを使うため、蘇生が扱える治癒師は希少である。
転生者は略奪だけが目的のため、カイトは必ず死体は残っているのではないかと踏んでいた。しかし見当たらない。
「カイト!」
すると、マールが何かの臭いを感じとり叫ぶと、小走りでどこかへ向かっていく。
「シイロ、クウ、みんなを呼んできてください」
シイロとクウに指示をだし、カイト達もマールを追いかける。マールはしばらく進んだ先にある大きな木の前に立っていた。そこには殺した後に燃やしたのか、ところどころが黒焦げて白骨化しかけた冒険者が3人、折り重なるようにして死んでいた。背後から仲間達が駆けつける足音がする。
「死体を処理したようですね、証拠隠滅のつもりでしょうか…」
カイトはしゃがみ込み亡骸の1人1人に触れると、そっと川の字に寝かせていく。
「ギムル、蘇生を頼みます」
「5体満足の状態なら時間は掛からんな、任せて欲しい」
ギムルは頷き、死体の側へ行くと冒険者達達を1人ずつ蘇生していく。冒険者の蘇生はいつ見ても不思議な光景である、蘇生を受けた冒険者は一度水のようになって形を崩すと、それが段々とまた人の形となって行く、まずは男性が現れた、神託はスカウトとある。
男性は蘇生がなすと口を開け、大きく息を吸うと寝息を立て始める。
「これでよし、死亡期間が長いと覚醒までは時間がかかる」
ギムルは男性を雑に横へ転がし、次の蘇生を始める。
全身を焼き払われたが為に服はない、生まれたままの姿の男性をみてどうしたものかとカイトは考える。
「クウとタニガキ、サイトウは街へ戻って服と何か食べる物を買ってきて下さい荷馬車もあると良いかもしれません」
カイトはそう言って自分の懐から取り出した硬貨袋をクウへ手渡す。
「わかった」
クウと2人の少年は駆け足で元きた路を帰って行った。そうしているうちにギルムは2人目を蘇生した、2人目は赤い長髪の女性だった。
「ギムル以外の男性人は回れ右だな」
ガルーダはそう告げると、蘇生された女性は当然生まれたままの姿なので女性陣とギムルを除いた男性チームは、後ろを向かさせられた。
「カイト、それちょうだい」
すぐさまマールにより身につけていた外套を奪い取られる。
「とりあえずこれを着せとこう」
背後で女性に外套を着せているだろう声が響く。更に3人目も女性だったスラッと背が高い色白で金髪の女性である。
「カイト!」
マールはすぐさまカイトを脱がそうとする。
「いや待って、それだとわたしが裸に…」
「カイトは裸でもいいじゃん、男なんだし」
いや何それ差別!するとシュウが前に出てきて袈裟を脱ぐとその鍛え抜かれた上半身を晒す。
「拙僧のこれを」
シュウは快く袈裟をマールへと差し出した。
「ありがとうシュウ!!」
マールはにこやかにシュウから袈裟を受け取ると、カイトの脛を蹴飛ばしてから帰って行く。
「もう大丈夫です」
エレーネがいい、カイトたちが振り返ると男性1人、女性2人の冒険者達は仰向けに寝かされている。ギムルは額の汗を拭い、近くの雑草をむしる。
「ううむ、気付けに使えそうな薬草はないな…しかたない」
ギムルは普段から持ち歩いている医療バッグから薬草を取り出すと眠る3人の口に入れていく。
「どあああ!!!」
同時に3人が飛び起きた、ギムルの薬草は痛みを伴う強烈な苦味がする…カイトはあの苦味を思い出して苦笑する。
「おはようございます」
カイトは目を覚ましたスカウトの男の前でしゃがみ込む。男はきょとんとしてから眉間にシワを寄せる。
「ここは?君達は?…」
死んでいた期間が長いためか、記憶が混濁している。それは女性たちも同じ様子で困惑の顔を見せている、カイトは困惑を続ける冒険者達に状況を伝えた。
「そうか、それで死んでいた私たちを君達が助けてくれたんだな…ありがとう」
スカウトの男は小さく頭を下げて感謝を述べると、2人の女性も男に続いた。
「は!ジェイは??」
赤髪の女が名前を呼び、あたりを見回すとスカウトの男も周りを探してからカイトをみた。
「もう1人、仲間がいたはずなんです…知りませんか?」
「すみません、ここにいたのは貴方達だけです…」
カイトがそう告げると、男は肩を落とす。
「貴方達が殺された状況を教えてくれませんか?」
カイトが問いかけると、男が語り出す。男達はこの森へ動物の狩りやって来たのだという、お世話になっていた宿屋の店主にうまい獣肉をご馳走するため、この森で取れるウサギを狩るためにやってきて、唐突に炎に襲われたという。
「わたしたちが襲われたのはここじゃない、街道にそっていたから…」
「ならジェイさんの亡骸はそこに残されているかもしれませんね…」
カイトは立ち上がる。
「シイロ、ガルーダさん。ここで彼らと一緒にクウの帰りを待ち、クウが戻ったら一緒に彼らを街におくり届けてください。」
「わかりました!」「わかった」
「タナカ、あなたもここに残り、クウの持ってきた荷馬車を使い我々に追いついてください」
「はっ!」
タナカ、シイロとガルーダの了承を得てその場に残すと、カイトたちは街道へ戻りその先を目指した。
「カイト」
暫く進むと、唐突に前を歩いていたマールが足を止める。マールの前には黒焦げの地面と焼け死んだ人々の群れ…そして破壊された荷馬車の墓場となっている。
「酷い事をする…」
それを見たゲイツが怒りに声を震わせる。カイトは即座に右手を掲げて握ると、背後にいた全員が武器を手にとり周囲警戒を始める。ボルドー兄弟とアンネマリー、シュウは二手に分かれカイトの左右に大盾を構えつつ広く展開た、エレーネも背中の大きな斧を手にし、ゆっくりと後退する。マールはというと、鼻が効く彼女はすでに敵の位置がわかっているらしい。不敵なえみを浮かべたまま一箇所をジッと見つめて動かない。
【やれやれ、また性懲りも無く俺たちに糧を与えに来たのか】
森全体に年若い青年の声が響く、カイトはマールの側へ行き、マールの視線の先を追いかける。そこは大きな捻れた太い木の枝の上、そこに黒髪短髪童顔に小汚い格好をした青年がいる。その傍には真っ赤な身体に炎に包まれた四肢をもつ異形な外見の女性が浮いていた。
「君が、ここを通る人達を襲っている奴?」
マールはそう言いながら背中の大剣を手に取り軽く身体を流すように身構えた。
「襲っている?人聞きが悪いな。俺達はこの森を守っているだけだ個人の所有地に入り込んできた侵入者を倒しているに過ぎない」
青年は無感動にそういい、隣の精霊のような女がケラケラ笑う。
「ここは商業の輸送路であり、あなた方の所有地ではないでしょう?君はそれを妨害している自覚はありますか?」
青年はこちらを見下すように笑い、傍に漂う女が騒がしく騒ぎ立てる。
「きゃははは!!こいつら何言ってんのー?ご主人様、もう焼いてもいいかな??」
「ああ、いいぞいつもみたいにやろう」
ご主人様と呼ばれた青年の命令を受け、炎の精霊のような女は臨戦耐性をとる。カイトはそんな2人に大きくため息を吐き出した。
「マール、あっちを頼めます?」
カイトの問いに、マールは無表情のまま背中の大剣を手に取る。
「燃えろおお!きゃははははは!!!」
同時、精霊のようなが女がけたたましく笑いながらこちらに向かって手を仰ぐするとその手から灼熱の炎が津波のように放たれカイト達に押し寄せる。
マールはそんな炎の津波を、軽く片手で大剣を振るうだけで炎の津波を斬り裂きかき消した。掻き消された炎のその後ろで驚愕に目を見開いている青年と精霊。
「まずいご主人様!こいつ勇者だ!!」
精霊が藪蛇を突いた事を察し、青年を逃がそうと叫ぶ。
「矢を放て!」
逃すわけがない、カイトの号令で背後に離れていた武士衆の少年達が一斉に和弓を構え、直ちに矢を放つと黒髪の青年に矢が殺到する。
「イフリーテ!」
おそらくあの精霊の名前だろう、イフリーテは再び手を振るい矢を焼き払おうと炎の波を放つ。だが和弓から放たれた鉄の矢がそんなもので止まるはずもなく、勢いよく飛んできた矢から青年を庇うように立ち、その体を無数の矢が突き刺さり、あまりの威力で身体が仰け反る。
「イフリーテ!!」
「良いから逃げて…!ご主人!」
全身に矢を受けながらも健在なイフリーテは、青年を突き飛ばし、木の上から落下していく。
「うわ!うわあああ!!」
情けない青年の叫び声が響く、直後、音もなく目の前に来たマールに、イフリーテはその上半身を草刈りのような簡単な動作で跳ね上げられる。
「ぎゃあああ!!」
けたたましい断末魔をあげながら爆発四散したイフリーテは、青い光となってマールの腕輪に吸われていく。
「イフリーテっ…!?き!貴様ら!!よくも!」
地面に落下した青年は怒り狂いながらカイトたちの前に出てくると、新たな精霊を召喚した。それは金髪の長い髪をもつ竜巻のような四肢を持った女性。
「ウェンディ!!こいつらを切り刻め!」
ウェンディと呼ばれた精霊は無言で風の刃をカイトに使って放つ。
「ファランクス!」
カイトの号令で左右背後からボルドー兄弟とアンネマリーがカイトの前に躍り出て盾を構えると、風の刃を弾く。
「な、なんだこいつら!?」
「前へ!!」
カイトの号令で前に出ていくゲイツ、ゲイル、アンネマーの3人に青年は激しく動揺しながらも精霊の背後に隠れつつまだ余裕を崩さない。
「ならこれならどうだ!?ウェンディ!!竜巻を…」
ウェンディと呼ばれた精霊の女は、その瞬間上から降ってきたマールの一撃で頭から唐竹割りにされて一声すら発せないまま青い光になりマールの腕輪に吸われていく。
「う!ウェンディ!?」
「……」
青年は後退り、目の前で無表情のまま自分の精霊達を2匹も殺害してきた少女に恐れを抱く。
「な!舐めるな!!俺の精霊は!!」
叫び、再び召喚すべく手をふるが、その振った右腕が空を舞う。マールが音もなく振るった大剣に跳ね上げられたのだ。
「ぎゃああああ!!」
青年が叫びながらその場に膝をつき、激しい激痛に泣きながら蹲る。彼の切断された腕から光が溢れ、マールの腕輪に吸われていく、おそらくギフトを吸ったのだろう。先程まであった威圧感すらなくなっている。
狩られる側になった青年の前でマールは無慈悲に大剣を振り上げる。
「ひい!!」
「待ってくださいマール、少し時間をください」
カイトはマールを静止すると、跪く青年を見下ろした。
「ま、まて…まってくれ…お、俺は弱いんだから見逃してくれ!」
支離滅裂な言葉を吐きながら後退りする転生者にカイトはため息を漏らした。
「それは貴方の態度次第です、殺害した冒険者達を何処に捨てました?」
「し、知らないよ!精霊達が勝手にやっていたから…!」
これが転生者と呼ばれる人間達の危険なところである。彼らは徹底して責任を考えず、その場の環境も、その場の状況も、考えず、ただただ全て自分都合にスローライフだなどとほざきながら謳歌しようとする。
その結果が…カイトは背後で焼き焦げた大地に目を向ける、様々な人間の骨が折り重なり何台もの焦げた荷馬車が墓場のように散乱している。カイトは静かに怒りに震えていたが、一先ず深呼吸で落ち着く。
「では、次に仲間の居場所を教えてください」
「そ、それを教えたら見逃してくれるのか?」
転生者の青年は生に縋るように見上げ、カイトは頷く、そしてマールを見ながら。
「ええ、見逃しましょう」
「や、約束だからな!」
転生者の青年はそう言い、カイトに対して他の転生者の居場所を教えた。
「こ、これで見逃してくれるんだよな!」
「はい、もちろんです」
カイトは興味を失ったかのように青年に背を向ける、青年は立ち上がり、よろよろとよろけながら逃げていく。
「マール、お願いします」
カイトはマールに告げる、マールは諦めたように笑いながら聞き返した。
「約束したんじゃないの?」
そんなマールに、カイトは伝える。
「見逃すけど追撃しないとは言ってませんから」
「ほんと、君って性格わるいなあ…」
マールはそう言いながら、背中の大剣を手に取ると、トントンとその場で軽く跳ね、姿が消える。
「ぎゃあっ!!」
離れた道で青年のか細い悲鳴が聞こえる、見ればマールが走って逃げていた青年の背中をバッサリと切り裂いていた。青年は地面に倒れ、その瞳は何故?と動揺に見開かれている。カイトはそんな青年の前に行くとしゃがみ込む。
「自分も散々同じことを他者にしてきたんですよ?それを自覚し、冥土の土産に持って行きなさい」
まもなく生命が消えるだろう青年の瞳が震え、カイトに怯え、光が消え脱力した。
「ギムル!」
離れた位置で自発的にエレーネと共に焼き焦げた遺体を並べていたギムルを呼ぶと、やってきたギムルは死体の状態を確認する。
「随分派手にやったな…」
そう言いながらマールの大剣に背中をばっくりと切り裂かれた傷口を見ながら頷く。
「死体の修復はしたことはないが、やってみよう」
ギムルは頷き、事切れた亡骸に回復をかける。
「ありがとうございます」
「カイト様!」
エレーネもやってくる。
「カイト様!治癒師が何名か遺体のなかにいます、この人達を復活させてはいかがでしょうか」
エレーネはそう言ってカイトに提案する。カイトは快く了承した。
「そうしましょう、さすがですエレーネ様」
カイトはエレーネを褒めてから、ギムルに目を向ける。
「ギムル、お願いできますか?」
「要望が多いな、しかし、骨が折れるのは事実、私も手伝いが欲しかったところだ」
ギムルはそう言って倒れた冒険者達から治癒師を優先して蘇生を始める。
「カイト、こっちはどうする?」
武士衆とマールは分けて並べられた黒焦げの亡骸達を見ながらつげる、それは恐らく冒険者ではない復活を受けられない普通の人達だろう。
「シュウさん、供養を頼めますか?」
上半身裸のシュウに頼むと、シュウはゆっくりと頷き、ズボンから数珠を取り出しお経を唱えながら亡骸達に寄り添う。
「シュウとギムル以外は集合してください」
カイトはシュウとギムル以外の全員を集合させる。
「では、皆さんに作戦を伝えます…」
全員の顔を見ながら、緩やかな表情で転生者を討滅する作戦を語り始めたのであった。
お疲れ様でした、表現の間違いがありましたらぜひ教えていただけると助かります。
納得行かずに書き直しつづけていたらこんなに長くあけてしまいもうしわけない。
次回はいよいよ転生者討滅作戦です…が、次回は転生者の視点でカイト達を相手にするエピソードを描きます。




