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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
第七章 ついに現る、平和の綻び
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【第7章7】騎士団状況。

 夜もふけ、人通りのない街道を進みゆく騎士団。その行列の真ん中あたりにサミュエルはいた。騎士団の旗は先頭の旗手が掲げて持っている。

 馬にまたがりながら書類を手にしているサミュエルは、脇に並んでいる騎士らに明かりを持たせて目をこらしていた。真夜中同然の暗闇のなかで、明かりと呼べるのは月と火のついたランプだけ。

 暗いところで、こまかい文字を目で追っていた。そんなことをすれば、目が悪くなるというのに。

 隣の騎士が、好奇心をそそられたのか、サミュエルに声をかけた。

「サミュエル、何を熱心に読んでいるんだい?」


 女性に甘く響くという評判の、柔らかな低音。それに気づいたサミュエルは、そのまま顔を上げた。声をかけてきた騎士には目もくれず、鼻をひくひくさせて匂いをかいだ。

 そうしてから、やっと隣の見た目麗しい騎士に顔が向く。長く結われていない黒髪が、金属の鎧に落ちていた。その美しいといわれる容姿をもつ騎士は、ランプを持っている。

「……あぁ、レルルーア・シェスタか」

 わざとらしく、すまなさそうな声音でサミュエルは、反面表情で笑みをみせた。

「悪いな、シェスタ。女人の香水の匂いばかり気になっていて、あなたがいるということを忘れていたようだ」

 オレンジの光が当たっているサミュエルの表情にレルルーア・シェスタは、口元の筋肉を引きつらせていた。


「毎回その茶番はないだろう? そもそも今回は、任務の概要を聞かされたすぐに城をでたんだ。僕がその間に女性と会う機会なんてないよ」

 自分が、毎度の如く女と絡む、と思われるのは心外だ、とばかりにレルルーアは眉を吊り上げた。のだが、それを含んでなおサミュエルは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に毒をもった笑みで答える。

「ほぉ……。なるほど、失礼だったなシェスタ。今回は、任務先で恋人をつくらないようにしてくれよ?」

「なんっ!? そ、そんなことを僕がするはずがないだろう。僕は全ての女性の味方なんだからっ!」


 周りの騎士たちは、あきれながら笑った。暗い夜にも関わらず、進んでいく騎士たちのあいだには明るい雰囲気があった。

 レルルーアの『全ての女性に云々』発言に、ひときわ大きな反応を見せたのはサミュエルの隣に馬を並べるオリイエ・ロージェクラウド。サミュエルを挟んでレルルーアの反対側にいる。

 あたたかな光を放つランプをひざの上で、抱えているオリイエはよく見れば鎧姿ではなかった。いや、彼女自身が光源を持っているのだから、目をやればすぐに分かる。


 フリルがふんだんに使われて盛り上がった形のスカートをはき、上着の下に薄っぺらい金属を身につけている。その金属はとても鎧、胸甲としていえるほど頑強な作りには見えなかった。せいぜいが胸当てにしか思えない。

 一般人が目撃すれば、どこぞの令嬢が間違えて胸当てを着て、馬に乗ってついてきているようにしか目に映らないだろう。そもそも、夜中を出歩く住民も旅人もいるはずがないのだが。

「あら、ナルシェスタ様は全ての女性のお味方だとおっしゃるの? ですが、貴殿に優しくしていただいた記憶はございませんわよ」


 実におしとやかにいうのだから、まさしく深窓の姫君のごとく。長い髪は結わえられて、後頭部で三つ編みのおだんご状態である。顔に垂れるのは前髪と横髪のみで、明るい光に明暗分かれた。

 ただ、オリイエは礼儀作法に一点のくもりもないのだが、彼女の漂わせる雰囲気が険悪なものに変わりつつある。上質な手袋をはめたオリイエの手がピクピクと動いた。

「なっナルシェスタぁ? 僕がナルシストであるわけがない! オリイエ嬢、それは勘違いも程ほどにしてくれないか」

 レルルーアは汗をかきながら、あわてている。そのあわてっぷりに、オリイエは内心ほくそ笑む。二人の間にいるサミュエルも歪みきっているに違いない。


 オリイエのたおやかな手つき。その姿が明るみに現れた途端、白く細い手は闇の中へ。歩む馬の上で再び光に照らされた手には、扇状に広げられた銀色のナイフがあった。もう一方の腕は、オリイエ自身のひざの上でランプを持っている。

 まるで鏡のように磨き上げられた刃の連なりを見て、サミュエルはまたかと思いつつも一歩先に馬を進ませた。そうしたことで、レルルーアとオリイエは隣同士になり、オリイエのナイフに彼が映る。

「ナルシェスタ様? 此方(こなた)が持っているナイフ、見えていますね。この鏡の如く銀色に、貴殿の顔が映っておりますわ。貴殿は自分の顔に、現在進行形で見とれているのではなくって?!」


 ナイフの銀に映ったレルルーアの顔が苦渋に歪む。サミュエルはくくくっと喉を震わせながら、後退してきた。明かりがないと見えにくいんだと、レルルーアが手にしていたランプを無理やりもぎ取る。

 そうすると、レルルーアはわっと声を上げて手綱を思いっきり引っ張った。足にも力が入ってレルルーアの乗る馬は突然駆け出していく。夜の暗闇をすすむ騎士団一行から外れて、レルルーアは黒の向こうにいってしまった。

「ヘタレだな」

「ヘタレですわね」

 偶然にも声がかぶって、レルルーアをイジめた共犯はケラケラと笑った。


 ひとしきり笑いあって、声がとぎれた頃にナイフをしまい終わったオリイエは声をかける。

「コゥパ様、こんな時間であるにもかかわらず、熱心に読み込んでいらっしゃるそれは、一体?」

「団長からもらった資料だ。目標の二人についてのものや、これから行く先周辺の情報が多いな」

 サミュエルがレルルーアから奪ったランプの灯火は、揺れてはいるもののまだ赤々と燃えている。サミュエルは一枚、紙を差し出した。

 条件反射でそれを手に取ったオリイエは、顔の前まで紙を持ち上げた。


「“暗黒のマリステリメ”? こやつは目標のひとりですか。しかし何者でしょう」

 読んだオリイエは怪訝な顔をあげる。サミュエルは首を横に振った。

「分からない。ロージェクラウド、あなたはこの称号、名称に聞き覚えはないか?」

「そうですわね……。“暗黒の”というのはネイロの方で、忌むべき称号であると聞いたことがありますわ」

 聞いた彼は思案しながら、ゆっくりと手をあごにそえた。

「ネイロか。そう名乗るということは、ネイロと何かしらの関係が有るということか。しかし忌むべき称号をそのまま使うのは、どういうことなのか」


 しばらく考えていたが、結局答えは出てこない。サミュエルはもう一枚、紙をオリイエに渡す。

 二枚目を受け取って読んだオリイエは、静かに首をかしげた。

「もうひとり。あら、こちらは案外普通ですのね。“ア「呼ぶなっ! オリイエ嬢」」

 紙に書かれたその名を呼ぼうとしたオリイエは、ぱっと振り返る。オリイエの声を遮った本人が、馬を駆って戻ってきていた。

 サミュエルに奪われていた明かりを、取り戻すと長くさらさらの黒髪があかく染まる。青とも緑ともつかない目がオリイエを見ていた。


「シェスタ様。どういう意味でして?」

 耳の前にたれる彼女の横髪がすっとかき上げられた。オリイエの耳たぶに光る石がランプによってあかく見えた。

 レルルーアが戻ってきてサミュエルの隣に並んでも、騎士団は歩みを止めない。訓練された軍馬は、主人の合図があるまで足を持ち上げる。深い闇の中、馬のひづめがよく聞こえる。

「無闇に名を呼ばないほうがいい。僕らに説明されたとおり、目標の彼らが宗教団体のリーダーならば、何かしら謎の力を操れるはずだ」


 声をひそめながらいうレルルーアに、サミュエルは皮肉った笑みでいった。

「なかなかヘタレにしては懸命な判断だ」

「ヘタレとは、失礼な!」

 案外沸点の低いレルルーアを軽くいさめながら、サミュエルはまた手をあごに当てる。

 まだ疑問点があったオリイエはまた尋ねた。

「それならば、“暗黒の”という名称つきの方はどうしましょう。此方、呼んでしまいましたわ」


 やや心配そうな顔でレルルーアを見たオリイエ。美人に期待されていると、興奮を覚えたレルルーアはあごをくいっと上げて、自信満々に言い放った。

「そちらは問題ないだろう。それはおそらく称号であり、本当の名ではないかぎり感づかれにくいと思う」

「そうですか、なら安心ですわね」

 しかし、疑問が解消された時点でオリイエの興味は、レルルーアからあっけなく去る。見る者もなく、無駄に張られた胸が無性にさびしい。



 サミュエルは、レルルーアとオリイエの話を聞きながら考えていた。しばらく口を閉じていたが、進んでいく道の先に目的の町が見えてくる。

 そうなった頃に、やっとサミュエルは口を開く。

「レルルーア、オリイエ」

 呼ばれた二人はすぐさま顔をあげた。サミュエルが、名前を呼ぶのは珍しかった。

「周りにはまだ伝えていないことがある」

 ぶつ切りに言葉が届く。町を目前にして急ぐ馬の足音で、脇の二人にしか聞こえない。

「詳しくはあとで教えるが、今のうちに言っておく」


「今回を皮切りに、……始まるだろう」

 夜に響く無数のひづめに、サミュエルの低い声が重なる。サミュエルは何が、とは言わない。感覚で二人も分かっていた。

「しくじるんじゃないぞ?」

 面白がるように笑うのが、闇の中で聞こえるにちがいない。明かりを消せ、と言外に合図すればほとんど二人同時に、火が掻き消えた。オリイエの持っていた紙は返され、サミュエルは資料の紙束を整えて、それ用の箱にしまった。


 命を下せば、列の先頭のあたりに多くの火が寄り集まる。旗手が高々と掲げる団旗がよく映えた。

 サミュエルがレルルーアに手を出したが、レルルーアは、頭をふって長い黒髪を適当に結わえた。

「サミュエル、いい加減にしてくれよ。僕は最善を尽くすだけだ」

 消えた炎の煙の匂いがふっとかすめる。不要となったランプを離れていた従者に手渡したオリイエが、髪に鋭利な髪留めをさした。

「此方は、アーリオにとって良き場面を迎えられるようにしますわ」


 サミュエルはただ、そうかと言った。

 遅れてしまって申し訳ありません。ほんっとおうに、遅くてすみませんでした!

 やっとお送りできます、【第7章7】騎士団状況。 でした。

 相変わらず微妙なところできってしまいましたが、ここでひとまずアーリオの騎士団視点は終わりです。次はえっと多分、若くなったグレイのあたりからはじまると思います。しかし、その前に改稿の方だ……。

 改稿は、割り込みで入れますので、「話数が増えている=七章のほうの更新」とは受け取らないでくださいね。


 さて、一ヶ月近くかかってしまいましたが、その間アクセス数が不自然に増えるということもなく安心していたのですが、なぜか段々お気に入り件数が増えていくのもやっぱり……。

 こちらも忙しく、毎日チェックしているわけではないですが、増えるのはありがたいです。いつもモニターの前で頭を下げてしまいますが。

 見ていてくださる方がいらっしゃると、励みになります。これからも、お読みいただければと思います。それでは、次の更新までお待ちください!

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