第29話 名物誕生
翌日は昨日を上回る大盛況だった。
どうやら昨日の参拝者から話を聞いた人が参拝に来たらしい。
そしてコロッケも評判になっていたようだ。
「コロッケ3個下さい!」
「こっちには5つお願い!」
ひっきりなしに注文が入ってくる。
おかげで作り置きのコロッケは、昼過ぎには無くなってしまった。
折角の稼ぎ時に売り切れは勿体無いので、魔術を使ってコロッケを量産する。
水と火の魔術で芋を茹で上げると、網目状の空気を押し付けて潰す。
炒めた猪肉と玉ねぎを芋と混ぜ合わせてコロッケのタネの完成だ。
そして地の魔術を使って成形だ。
石を撃ち出す要領で、コロッケのタネからコロッケ1個1個を作り出す。
後は衣を付けて揚げるだけだから、そこはクラリスさん達にお願いしている。
「すげぇ! 触らずに芋を料理したぞ!」
「肉も勝手に細かく刻んでたし、魔法のコロッケだ」
「霊水コロッケだな!」
「霊水コロッケください!」
なんだか見世物になってる気がするな。
まぁ宣伝にもなるからいいか。
しかし霊水コロッケって名前まで付けられたよ。
◇ ◇ ◇ ◇
追加で作ったコロッケも売れ尽くしたので、結局もう1回コロッケを作った。
流石に疲れたので、ちょっと休憩しよう。
「中々繁盛しとるのう」
屋台から離れて一休みしていると、ゲンさんに声を掛けられた。
「ゲンさんも参拝しに来たの?」
「何、酒場でも新しい聖地が話題になっておってのう。あとコロッケもじゃな。坊主が絡んでいると思って来たのじゃが、思った以上に人がいるのう」
よっこいしょと隣に座り込むゲンさん。
「しかし、上手く木をくっつけたのう。坊主の仕業じゃろ?」
「やっぱり分かる?」
俺の力量じゃ、腕の立つ魔術師にはバレバレだろうね。
「見破れるのは俗世間に興味の無い奴ら位じゃろうな。まぁ、この手の聖地は、大半が魔術で作られた物じゃよ」
「そうなんだ」
「自分の領地に聖地を作って、競い合っておったそうじゃ。そのうち力比べが喧嘩になり、領地も巻き込んで大きな戦争になったと言われておるんじゃ」
「それって大昔の話じゃない? 工房にあった本にそんな話があった」
バカ魔術師達が国を巻き込んで大喧嘩して滅びかけたって書いてあったな。
「まぁ2000年程昔の話らしいのう。それ以来その魔術師達は、国を子孫に任せて自分の空間に引き篭もっておるそうじゃ」
「へ〜。じゃあ、このファノスも魔術師が作った国なのか?」
「いや、ここはミーシアが生まれた土地じゃが、国ではないのう」
ゲンさんが地面をパンパンと叩く。
「国ではない?」
「どこの国にも属さない地方都市じゃよ。ミーシア教の総本山とは一応関係はあるが、あまり上手くはいっていないようじゃの」
ケルベロスなんて物騒な魔物を送り込む派閥が居るしね。
「そういえばゲンさん。冷蔵庫は作れない?」
「冷蔵庫? 何じゃそれは?」
あれ? 通じない?
「え〜と、中を冷やす箱? 食材を冷やして腐らないようにする道具だよ」
「何じゃ保冷庫の事か。坊主は魔法袋を持っておるから要らんじゃろ」
「俺じゃなくて、この家の人達が使うんだ」
俺が不在の時でも、ある程度コロッケの在庫があると良いからね。
「ふむ、作るのは造作もないが、肝心な魔晶石は切らしておるのじゃ。坊主は持たんか?」
魔晶石か……あ、そういえばアレがあったな。
「これで大丈夫?」
魔法袋から真紅の霊核を取り出した。
ケルベロスの死体から出て来た奴だ。
拳大の霊核をしげしげと見つめたゲンさん。
「これは駄目じゃな。火の属性になっておるから、魔晶石に加工しても、保冷庫には使えんのじゃ」
むぅ、ダメなのか。
どうやら霊核の属性が大事みたいだ。
どこか近場に氷属性の魔獣でも居ないかな。
「なんなら魔法袋を使うかのう? 勿論タダとはいかんが」
「お金はあんまり無いよ」
コロッケの売上はあるけど、魔法袋の代金には全然足りないだろう。
「お代は金ではないんじゃ。その木の枝を2、3本くれればそれで良いんじゃ。樹液が滲んでいる枝なら最高じゃよ」
ゲンさんは魔法樹を指差す。
魔法樹の枝?
「枝ぐらい構わないけど、本当に良いの?」
「何じゃ、気が付いとらんのか。まぁこれも修行じゃな。自分で気付くんじゃな」
何かあるのかな?
気にはなるけど教えてくれそうにないな。
「考えてみるよ。それで枝だけど、今は人の目があるから今晩にも取っておくよ」
「じゃあ明日にでも受け取りに来るかのう。ほれ、魔法袋じゃ。物置程度の収納力じゃがちゃんと時間停止するぞい」
ゲンさんから魔法袋を受け取る。
大きさは買い物袋ぐらいだ。
「さて、そろそろ行くかの。酒場も開き始める頃じゃ」
ゲンさんはファノスへ帰って行った。
俺も屋台に戻らないとな。




