51:裁断
室内のテーブルや椅子の配置は学校の教室と同じ配置であった。机が3人用や4人用との違いであり、教卓代わりに事務的な横長いテーブルであったが。
最奥はサルーンが中心で両隣にデルフィアとエレクティアが立ち護衛役を務める。その横がギルドマスターでクラレスが隣に立ち護衛役となった。
相対する正面かつ一番遠い席にギャロスと名を暴露された風属性の龍族が座り、俺とアリサが武器を持ち後ろに控えている。カーラはその間、壁を背にして立っている。面子はこれで全員だ。他の嫁さんは来ていない。アウローラだけは俺の頭にしがみついてるのでノーカウントだ。
俺が攻撃された事は周知の事実で確認も済んでいる事から【クリーン】で身綺麗にしている。
「目的はどうあれ1つずつ問題点を整理しますよ。良いですね」
何種類もの案件が重なっている。サルーンの指摘の通り、1つずつ解決するのが望ましい。器物破損と殺人未遂が重なり、より重い刑が成されるであろう事が懸念材料か? ついでに戦争をちらつかせた事が最大の問題であった。
「先ずはギルドの賠償が先だな。これが一番分かりやすいし、最悪でも金銭だけで片が付くだろ」
この点だけは人的な被害が皆無だ。物的な補償さえできれば目をつぶれる。
「そうね。1階の天井、2階の天井、屋根が破損し穴が開いています。いくら程掛かるかしら?」
「そうですな。角度が良かったのか悪かったのか、人的被害も無く建物の破損だけで済みました。加害者の種族から拘束すれば問題となりましょう。その分上乗せし、白金貨8枚を科しますかな」
「総額では分からないだろ。内訳を説明してやってくれ」
「勿論ですとも。破損個所1つにつき10万リル。5年拘束し、強制労働をさせるべき所を年間10万リルと算出してますな」
何を根拠に計算したのかは分からないが、ハンター基準で平均収入から計算したのだろう。一般からすれば相当な金額だろうが、戦闘に関してはトップクラスの種族だ。それほど苦労無く支払えるだろ。労働で払えと言われるよりははるかにマシだな。
「さておっさん。飲むか蹴るか返事をしろや。拒否したらお前を8年間、俺が徹底的にこき使う方向で代替してやる」
代金立て替えって事だな。これ、強制運用してあげますよって事だ。実力が抜きんでている事から並の者では押さえきれない。俺たちが手元に置く以外の選択肢は無いだろう。
使い道としては皇国と獣王国との国境にある山脈に連れて行き、鉱物資源が無いか試し掘りさせるつもりだ。完全に嘘だけどもね。
次の件で命は無い。俺の中では処刑が確定している。
『現金はそれほど持ち合わせていない。素材の提供で計算してもらえないだろうか?』
やっぱりか。火龍族全員が収納スキル持ちだからと予想してたが、やはりスキル持ちだったようだな。
「あまりにも需要の無い品を提供されても困りますが。とりあえず宜しいでしょう。額面の品を引き取り、多かった分は現金でお支払いします。
次です。この破損はテリストを攻撃した事による副次的な産物。此方の方が重要です。テリスト、威力はどうでした?」
普通は威力云々を聞くのが野暮なのだがな。火龍の住む乖離島で、訓練と称した連戦をしてなければ確実に死んでいた。そんな意味では聞く必要のない内容だ。
魔力を体外へ流れ出ない様に隠蔽して無ければ無傷だったのだがなぁ。受けた時点での感想で良いか。
「大した威力じゃないな。深く斬り込まれても精々が5mm程度だろ。ただし、俺が避けなかったら失明していたな。狙われたのは顔だし」
「そうですか。テリストは皇家の一員になる事が決定しています。その者に対して永久に光を奪う行為となれば最高刑で処罰する他選択肢がありません。即ち処刑です」
だろうな。ただ。このまま処刑すると確執から揉めるかもしれない。この後に何かしら続きがありそうだな。
『ま、待ってほしい! 拘束されている枷から逃げ出す為には仕方ない行為だったのだ。そこを考慮してほしい!』
往生際が悪いねぇ、引導を渡そうか。
「確かに指摘された通りに俺が拘束していたな。ただ、その前段階があるんだよ。俺は首元を掴みあげられ拘束された。その対処をして逆に拘束したに過ぎない。
お前が拘束しなければ俺は拘束しなかった。そこを勘違いしないでもらいたい」
「先に手を出した者がテリストでは無いのなら考慮するに値しませんね。ただ、そのまま処刑すれば外交問題となりますので、双方で協議した結果になると付け加えましょうか」
そうだとは思うが、こいつは切ってはならない手を切って来た。戦争をちらつかせた以上、これもテーブルに上げるべきだ。さて、どう舵を切るかね?
「まったまった。結論を出すのはまだ早いぞ。俺が拘束した時に、こいつは戦争仕掛ける気かと脅して来た。
拘束す事が戦争への引き金ならば、先に俺を拘束したのだから、こいつは皇国に対して宣戦布告した事になる。
俺は戦争しても構わんぞ。デルフィアなりエレクティアがこいつらの拠点を教えてくれるなら、俺が先制攻撃して殲滅してくる」
言ってる事は本気だ。他の龍族に警戒されてしまうがそれも織り込み済みだ。龍族に限ればたったの3名しか居ない皇国だが、数に頼らない戦力があると示す事が出来る。これは抑止力と言う面を最大限度で知らしめることができる絶好の機会でもある。
とばっちりを受ける同族には申し訳ないが、それも含めての考えだ。何も善意善意で動いてる訳では無いからな。将来の禍根を断つためなら少々血塗られようと一向に構わん。
『待て。待ってくれ! 戦争をちらつかせたのは謝罪する。それほど大ごとになるのなら矛を収めると思ったから口に出しただけだ。種族の総意では無く、俺の勝手な振舞だ。見逃してくれ!』
うーむ。馬鹿すぎる。相手を見下してるからこそ取れる手だな。龍族なので最強の存在だと疑って無いのだろう。本来なら龍族と敵対する事は自殺に等しい。自殺願望でもあるのかと頭を疑うレベルだ。
ただ、相手が悪すぎた。アウローラという将来、龍族のトップに君臨する存在が親として慕っているであろう俺に手を出した。その事でも汚点な上に、実力差を推し量れずに実力行使へ走った。
アウローラが頂点に立った際、風属性の龍たちへの感情に、俺を攻撃した者たちとレッテルを張られていた場合には冷遇される恐れがある。ま、自業自得だろ。
「本当に馬鹿よね。テリの見た目と種族から侮るからこんな事になるのよ。魔力量を隠蔽してる事からテリの実力が上だと理解しない時点で救いようがないわ。
今のテリならあんたの種族全員で戦いを挑もうと蹂躙されて終わりよ。とりあえずあんたは皇国への謝罪の為に処刑されるのが確実ね」
魔力の隠ぺいと言うより、周りへ被害を出さない為の処置なんですけどね。そこを配慮せずに垂れ流しだった場合、こいつは逃げ出してただろうな。龍族特有の魔術だと思うが、垂れ流し状態だった場合には無傷だったろうに、良かったのか悪かったのか微妙だな。
しかし、俺の影響かね? そもそも命を散々狙われていた事から敵対者に慈悲を与えるとの考えはあまり無いようだしな。獣王国からの脱出劇の際に、俺が蹂躙したが止める素振りすら無かったからな。天秤に乗ってるのが自身の命であった事から当然でもあるのだが、結構過激な発言だ。俺よりはましだがね。
『チィ、クソッタレガー!』
全力の一撃を放つつもりだったのだろう。喉元に魔力を集中し始めた事から、俺は躊躇なく首を斬り飛ばした。同じくアリサも心臓の位置に槍を突き入れた事から2重の意味で即死した。
爪16本と牙2本を残して消滅し、収納していたであろう食料や生活用品、素材などで会議室が埋め尽くされたのだった。机や椅子は重さに耐えきれずに潰れたのは言うまでもない。
せっせと収納に回収して残ったのは机と椅子の残骸だけだった。
「はぁ。建物が破損したと思ったら今度は備品がボロボロになったな。損害に対する補償は回収した品を渡せば済む話だが。龍族に対する対処はどうするね? 本人は死んだし」
「誤解を生まない様に正式に使者を送り、協議する他ないでしょう」
『私とお母様とで向かいましょう。テリスト、彼の遺品は一時預かりますよ』
事情を正確に把握してるのは俺を含めて3人だ。アリサとカーラを敵対しそうな状況で行かせるなんて選択肢はありえない。ここは正確に伝える為、俺が行くべきでは?
「ん~。当事者の俺が行った方が良く無いか? 元々が婚約解消させる為に来た様だし、デルフィアが当事者と言えなくも無いが」
『テリスト。帝国との戦争で副団長の地位にある以上、あまり長期間離れられる立場でもあるまいに。ここは任せて帝国に注力なさい』
「デルフィア。それだがな。騎士やら領地を管理する貴族が逃げ出しちゃって居ないのよね。あっちに居ても警備と称してぶらつく位しかする事が無いのよ。連合が頑張って残りを占領してくれないと暇なのよ」
『それなら警備に注力なさい。水面下で動かれては後々厄介な事になりますよ』
うーむ。たった10名にも満たない人数に手も足も出せずに敗退してるんだよな。これ、普通に相対したら蹂躙される事が確定な訳で、そんな相手に立ち向かう人物が居るのかはなはだ疑問だよな。俺だったら速攻逃げ出して、よその国で生活始めるレベルなのですが……。
「確かにその心配はあるが、俺なら逃げ出すんだよな」
『わかったのなら母様と私に任せなさい。絶対に遅れはとらないと約束するわ』
遅れを取らないのは分かってる。なにせ2人共にステータスだけなら2割か3割程度は俺より高い。強制レベリングの効果でレベル差は100も開いていないが種族差による基礎が違うのだ。
将来的にはアウローラ次第だが、世界規模に見ても俺たちよりレベルが上の存在は居ないだろうと思っている。
「それほど言うなら任せる。俺も、何でもかんでも背負い込み過ぎると身動きが取れなくなるからな。ここは信頼して託すべき所だろう。
そうだな。緊急でなければ、朝と夕刻に皇宮へ顔を出すようにする。緊急なら帝国へ来てくれ。城に誰かしら残る様にしておく」
『母様が向かうから無茶な事はしてこないはずよ。のんびりして待ってなさい』
「待つのは当然だが、サルーンどうする? 交渉方法の導き方を頼んだが良く無いか?」
方向性次第では即戦争だ。強気で交渉するのか、それとも譲歩しつつ交渉するのか、この程度は示しておかなければ調整する処では無い。
「そうですね。既に実行した方を殺してしまいました。お互いに禍根が残らない様に穏便に済むようお願いできますか?」
『無理に謝罪を求めるのではなく痛み分けになる様交渉するとしよう。今から出れば夕刻までには到着可能なはず。念の為にMPを分けて下さい』
ジャイアントワングルホーンのみしか倒しておらず、たいしてMPは使用しておらず自動MP回復のスキルがある事から、とうに全快している。ちまちま渡すのも面倒なので【グレーターヒール】を使い1発回復させて送り出したのだった。




