3:滞在中
この人数では座る場が足りない。よって、先ずは場を整える事が先決だった。
そして俺の膝の上にはサルーンが座っている。
「改めておかえりなさい。それで、彼方で一悶着あったからと帰って来たんですって?」
もう話したのか。確かにクラレスがなぜ来る事になったのかの説明をすればそこに行きつく訳で、避けて通れない話題ではあるのだが。
「お互いに痛み分けって事にして、彼方のメンツも立てて来たから大丈夫だ。今後に何ら支障はないよ」
「そこは聞いています。テリストにしては鮮やかな手並みでしたね」
おいおい。四六時中相手を完全に追い込みはするが、裏を返せば手加減も出来るって事だよ。国家間にひびを入れてどうするのよ。
大使として赴いたら喧嘩売って帰って来ましたじゃ洒落にならないからな。それでは外交官失格だ。
「緊張状態に持って行く事も可能だが。それじゃ行く意味が無いだろ。外交官失格のレッテル貼られるとか笑えないって」
「確かにそうね。彼方が悪くとも反省の為に独房に入ってもらう所でした」
その程度で済むから良い方だろう。国の対面を潰したとなったら今後の雲息が怪しくなる。特に火龍側の対応がぎこちなくなることが明白だ。
「そうだろうな。爵位が落ちる程だ。その程度で済むんだから温情を与えてる方だろ。即謝罪に行って来いと言われないだけマシと言えるよ」
「そんな経緯もあり、クラレスさんが我が家に来る事になったのね。事情はお聞きしています。よくお越しくださいました。歓迎いたしますよ」
『は、はい。私の事で庇って頂き危うく緊張感をもたらす処でした。ごめんなさい』
『被害者のクラレスが謝ってどうするの、堂々としていなさい』
「そんな訳でクラレスにも服とか婚礼衣装が必要になる訳だ。時間は掛るが間に合わせなきゃならないから早めに服飾屋さんにレッツゴーだな」
めちゃくちゃ時間は掛るが必須事項だと諦めて行ってくれ……。金銭的な面で悩む必要が無いって点が掬いではあるが、結婚式に間に合いませんでしたでは洒落にならないからね。
「この件はこれ位で良いでしょう。出立前に不動産業を営んでいた商会職員を全員確保した件ですが。以前の税金を納める書類から割り出し、買い取りを行った近所の方へ聞き込みをした所、相当に嫌がらせをして買い叩いていた事実が発覚しました。
気弱な相手だと見るや、そこにつけ込んでいたようです。そして売却時の値段と買い入れの証明書に隔たりがある事が判明しています」
力の誇示して恐怖感を煽り立てとか、売らなかったら不幸に見舞われるだろうなとか、相当に圧力を掛けていたんだろうか。捕まってよかったな。屑は屑篭へぽいするに限る。
改めて裏が取れたのなら脱税と書類の偽造で、一族郎党処刑決定だろうな。
前に聞いていた日本での地上げ屋に似てるな。あれはヤクザを利用した嫌がらせをしていたんだったか? 確か、なりすましで寿司とか外注して大量に支払いを強制させたりしてたんだよな。
「うーん。捕まったのは良いが、そんな馬鹿な事をしてる奴を捕まえる方法も考えなきゃならんか?」
『密告させたらどうなの? そこから実際に被害者が発見できれば捕らえて吐かせれば良いわ』
「俺たちの国にもあったな。働いている従業員からの密告制度とか。昔に遡ったら目安箱の設置とかな。ただ、注意が必要なのは気に食わないからって嘘を数人ででっち上げる奴が必ず出て来るって事だ。下手すれば利用されることになるから注意が必要なんだよね」
目安箱の意味が分からないと聞かれ、詳しく話すのだった。単純ではあるがね。
「調査が雑だと冤罪が生まれかねませんね。設置するか一度話し合ってみましょう」
実際動くのは国だからな、ここで決定では何の為に文官が居るのか分からなくなる。提示はしても後は丸投げだな。
「ま、今回の対応は奴らの全資産を差し押さえて、売れてない物件なら売却時の代金で買い取りさせるなり、不要なら本来の値段に釣り合うように補完してやるべきだな。
出る前にも言ったが。既に買い取られて住んでるようならそっちはそのままにする他無いだろ」
「それが難航してます。被害者が見つからないのですよ」
国中を探すのだし時間が掛かるのは分りきっている。それでもやりようはあるな。人は食べなきゃ生きていけないからな。その伝手で探せば何とかなるとは思うが。
俺たちが獣王国から逃亡したように、偽名を使わないと生活できないような、そんな事態にはなっていないだろうから本名で生活をしてくれている事を祈るのみだな。
「探す為の案はあるぞ。被害者の名前まで分かってるなら各町の管理してる貴族へ協力を要請しろ。そして食料品店に知った人物がいないか聞き込みをするんだ。もしくは張り出すかだな。食べなきゃ死ぬから何かしら買うだろ。相当な田舎で自給自足してれば見つからないが、稀だろうしな」
「採用しましょう。明日からリスト化して作成し次第に協力要請しましょう。被害者の方には一度皇都まで来て頂き。買取の金額を確認する他ないですね」
「だな。ただ、でっち上げて偽造された金額は話さない様にな。偽造された方が正規の値段だろうからその差額を支払う事になるからな、知られない方が良い」
「お金が絡むのでその方が良いでしょう。はぁ。また余計な出費が出そうですね」
「少々ならテリが補完しますよ。何年分の国家予算になるんだろうな、とか話してましたから底なしに持ってますから」
確かにそうだな。表に出すと周囲のお金を大量に回収しそうなのをたんまりと……。
出費といってもごく僅かだろうし、資産を差し押さえているんだ、其方から回せばいい。
乖離島へ行く前と比べても、大量に資産が増えてしまった。余計に使い道が無い品を大量に抱え込んだ事からどうするか話し合いたい所ではあるな。
「うむ。予算を圧迫するようなら出すよ。なにせ使い道が無いからな」
「それは有難いですね。金銭的にきつい場合は相談します。不動産関連はこの程度でしょうか。例の孤児院ですが。良さそうな物件がこの不動産屋が扱っていましてね。悩ましい限りです。
一つ一つは狭いのですが。道も介さずに集まっていましてね。纏めればちょうどいい広さになるのですよ」
それは悩ましいな。見つけるのに苦労しそうだから譲ってくれたら御の字なんだが。被害者がいる事だし交渉してみない事にはどうにもならないが。
「被害者と話し合ってくれとしか言いようが無い。金額的な交渉では駄目な場合は代替地を用意した上で新築でも建てて交換してもらうかだよな」
「それはそれで高くつきそうだよね。中古物件でも良いんじゃないのかい?」
オウカの案は最もだが。交渉の成功率を上げる為なら少々高くても構わないんだよな。相手の方が気分よく入居してくれるのが一番良い取引だ。
「どうだろうな。元の家の方が耐久性が上で長持ちしたとか後から思われても癪だしな。それなら好きなように建てさせたが良い。自分たちで業者選びまでさせれば流石に後から文句言わないだろ」
「それもそうか。それは場所次第だけど飛びつくね」
「被害者が見つからない限り先に進まないって事だけどな。何時になる事やら」
遅くなれば遅くなるだけ困窮する子供たちが苦労するからなるべく早い方が良いのだが。相手がいる事だ。気長にするほかあるまいよ。
「その件はこの位でしょ。テリストとカシナートが話し合ってた砂糖だっけ。お流れになったよ」
そっちも話すとか言ってたな。技術流出が懸念材料だったからな。退職者の監視なんて無理だから作らないと舵を切ったか。
そもそも素材を輸入に頼っている次点で難航するだろうとは思っていた。お流れになっても問題無い。
「なるほど。理由は分かってるから話さなくて良いや。それに問題も少なからずあったんだよ。そっちに大量に回すとパン用の材料が激減するからな。作った後の搾りかすは食べれるけど。流石に多すぎて捨てるだろうし。勿体なくはあるんだよな」
「あーあれね。もみ殻のかすを砕いた時に取り除いたから美味しく頂いたよ。あれは甘味があってそのまま食べれるね」
濃縮前の搾りかすだが十分に食べられるんだよな。元々がパンの素材だし、パンと違って膨張していないから腹持ちも良さそうだ。でんぷん質を分解してる状態なので、消化も良いからな。
「なるほどな。そっちを商品にも出来たんだな」
「それよりテリスト忘れてないよね? 獣王国を出る際にレベル上げを手伝ってくれるって約束なんだけど」
俺も行きたかったんだよねワングル乳を確保しに、それとコカトリスの卵もな。それが無いとアイスクリームが作れないし。
「なら明日行くぞ。六十二階層の牛を倒してワングル乳を確保したかったんだよ。卵もだけど、そっちは魔物ハンターギルドで買おうかな」
何せ混んでるし。納品と言うより、ギルドへの売却量も多いだろう。それなりに確保出来れば良い。一気に使う訳では無いからな。
「残念だけど駄目よテリスト。明日は貴方に会いにお客さんが来る手はずなのよ。あまり客とは言えないのだけれどね」
微妙ないい回しだな。客じゃないって事は何か仕事とかそっちか? 元々今日が休養日扱いだったから今日に予定を入れず、明日向かう時間を遅らせる事で調整をしたのだろう。中々に気が利く嫁さんじゃないか。
「客じゃないなら仕事でも頼みに来るのか? そうすると以前に知り合ったハンター?」
「明日になれば分かります。返答次第ではオウカとの約束は明後日になりますね」
「内容を知ってる口ぶりだよね。言いずらいの?」
「いいえ。直接は聞いていませんが予想は出来ています」
「という事らしい。すまないな。返答は明日になりそうだ」
「いやいや。時間に余裕があるときで大丈夫だって。僕ものんびり生活してるからね」
のんびりしてるのなら交易品の取り扱い商品の選定をしてるのかね?
早めに交渉してないと大量買い付けは無理だろうからな。
「で。時間があるなら交易品の情報収集とかしてる訳?」
「皇国の特産品は商業ギルドに行くと直ぐにわかるんだけどね。ただ、交易用に大量に買おうとすると既に先客で埋まってて入り込めないんだよ。そこが悩ましい所だね」
そりゃそうだろ。先客がいなくて品が余ってるならそれは捨ててるって事だぞ。いかに切り込んで購入枠を貰うかが胆だろ。私に交易品を預ければうま味がありますよ。利益が上がりますよとアピールしなきゃ、ぱっと出のド素人、かつ若輩者に売る訳が無いよ。途中で変なのに売られたら評判が落ちるんだからな。
「そんな事簡単だろ。袖の下を掴ませろ、1発だろ」
「袖の下? なんだいそれ?」
「賄賂に決まってるだろ。初期投資だよ初期投資。それで枠を確保して利益からすこーし個人の懐に入るように便宜を図るんだよ」
「テリ! 何てこと教えてるのよ! 下手すると犯罪よ!」
物凄い剣幕で怒られてしまった。
ただ、本当に犯罪なのかね? 企業のように税金納める前の資金で接待する訳でも無く。既に魔物ハンターギルドや国王を通じて売却した個人資産を少し渡すだけだ。
これすなわち、税金を収めた後の個人資産な訳で、これが駄目ならば、他の者に食事を奢ること自体が犯罪となってしまう。そんな馬鹿げた法を執行する事は無いと思われるが。
「そうなのか? なら。俺がオウカに投資したのも犯罪か?」
「そこはほら。オウカに便宜を図ってもらってないから違うでしょ」
「で、サルーン。交易品確保のための賄賂って犯罪なの?」
こんな時は国のトップに話を振るのが一番良い。最適な答えを出してくれるだろう。
「褒められた手法ではありませんが。犯罪とも断言できませんね。税金を安くする為に利益を誤魔化す為の賄賂ならば犯罪ですが。給料の内から支払う分には、私がテリストから支援を受けるのと同じですから。それを取り締まると私が捕まりますからね」
そうだろうな。食事を奢るのは違法ですとか。馬鹿げていてやってられない。この返答なら問題無く購入枠を確保できるだろ。
後は定期的に買い付けして安定して取引可能な相手だと認識してもらわないとな。そこまで構築出来たら後は楽だ。
「そうだろうな。これが禁止なら、食事を奢った時点で捕まるし」
「確かに褒められた手じゃないけど。既に割り振りも固定化されてるだろうし。割って入るなら何かしら手を打たないと駄目だよね」
そっちは自力で考えてもらうとしてだ、品の選定をすこーし手伝うかな。
「少し補足しようか。酒とかの液体の品は少しでも破損すると商品が駄目になるだろ。だから長距離はあまり運ぼうとしないはずだ。皇国内は問題ないが他国へ運ぶなら馬車の移動が基本だろ。それにマジックバッグは高いからな。相当な大店じゃないと持っていない。長距離を運ぶなら酒が狙い目だぞ。特に高額のプレミア品ならな」
「リスクが高いから手ごろな品を運ぶんだね。利益が上がると分かってても、そこの兼ね合いで扱う人は短距離でしか販売しないと」
盗賊もいるが魔物の脅威が特に厄介だ。その対策に戦力確保が必須な事から、交易品は値段が跳ね上がる。ただ、オウカの様に自分たちが戦力ならば雇い入れるハンターの数を絞れる事から利益を上げやすい。そこがアドバンテージだな。
「そうなる。利益も大きいがその分リスクも高い。オウカの収納スキルは分からないが、渡したマジックバッグなら時間経過しない。内陸部に海の幸を持って行けば鮮度抜群で、少々高くても完売するぞ。それとか寒い地域では収穫できない果物類もお勧めだな」
「おーそれだよそれ! お酒と鮮度の問題で運び込めない品なら競合店が無いから独立性も保てるじゃないの」
「確かにな、ただし片道だけだろ。帰りにも何か積まないと赤字だぞ。都合よく彼方で買える品があれば良いけどな」
ま、オウカのやり方に俺が口を出してる時点で、片道でも十分に利益を上げられる気はする。ただね、寒い地方特産の品を買い付けて来てほしい所ではある。
「……」
「オウカは理解していないようだが。商売ってのはいかに売る品を確保出来るかが胆だぞ。そこが半端だと品薄どころか品無しの開店休業状態になりかねん。そこが一番難しい所でもある」
「確かにテリストの元父親も新規開拓にあっちこっち出向いていたね……テリスト、何か他に無いの? 交易品に良さそうなのをさ」
オウカ自身が普段何をしてるのか分かって無いな。自力で交易品になりそうなのを取ってるんだから、それも持って行けば良いだろうに。
「ま。本来は10歳だし、これだけ考えているだけで凄いのかもな。それじゃヒントだ。ターラルで何してるのよ?」
「何してるって魔物を倒してるに決まってるでしょ」
「それって、交易品にしちゃ駄目なのか?」
「それだ! 自分で調達も出来るじゃないか。テリストがお土産にくれたあの着れない防具。あれも金属としては最高だよね」
『それならばテリスト。一族から受け取った売却代金の金属をオウカに売ってはどうだ?』
それだと売るって言うより、元々俺と嫁で稼いだお金なんだよね。やるになるんだよな。投資したお金を品を渡す事で手元に戻って来る。これって変じゃね……。
「使い道が無いから騎士の装備を新調させるかと思ってたが。71階層へ行けばダマスカスは取り放題だしな。全部渡しても不都合はないぞ。見てみるか?」
物々交換した品にオリハルコンとアダマンタイトは含まれていないので大丈夫だろう。ミスリルまでならそれなりに流通があるし。一気に市場へ流すと値崩れしそうで怖いんだよな。
「是非見せて!」
中身を全部見たわけでは無いので量が分からない。そこで騎士たちには悪いが、少しばかり訓練場の角をお借りする事にした。そして空中でひっくり返してどさどさと全部出したのだった。以前、ココアが発動した岩石一塊分ほどはありそうだ。
「それにしてもすごい量だね。ミスリルまで混ざってるよ。ん? マジッククレイ? 何に使うんだろ」
それ。良く分からないから俺も聞いたんだよな。使い方次第では結構幅広く使える。酒瓶代わりにすると割れないから重宝しそうだ。
「魔力含んだ粘土なんだってさ。整形して焼くと最高級の何て言うかな。壺とかお酒入れるやつ。めちゃくちゃ頑丈になるって聞いてる。輸送に使うと良さそうだよ」
「焼き物か。茶碗とかの器も作れそうだね。本当にもらって良いの? 凄い金額だよ」
魔物のドロップ品だから混ぜ物無しの純度100%だ。それも一塊が200kgはある。金額も1kg辺り金貨5枚と結構な値段だ。1個取れるだけで一財産だからな。
ミスリルに至っては金塊より金額が上なので、この一山だけでも白金板百枚出しても買えないだろうな。
「別途持ってるから問題ない。これは魔石大550個分の代金だね。火龍族から受け取たんだ」
「ご……聞き間違い?」
「スタンピートの属性竜を倒しただろ、ドロップ品の魔石大と物々交換したんだよ」
「そ、そうなんだね。でも良いのかな? テリスト1人の所有物では無いんでしょ?」
そこに配慮するとか良い目線じゃ無いか。確かに俺だけの資産じゃないが、そもそも使い切れないので横流ししても全く問題は無い。
「実をいうとテリは大量に持ってるのよ。だからここにある分は1割にも満たないから大丈夫よ。持って行きなさい。マジックバッグもね」
「え……。に、にせんひゃくさんじゅうまんごせんリル……」
受け取れ発言からか鑑定したようだ。マジックバッグを作って販売するとべらぼうに儲けれるよな。しないけど。
「白金板21枚と少々だな、交易用にデカいのがある方が有利なんで持って行け。ちょっと待ってろ」
全部詰め直して宛がっておいた。もしもーしと話しかけるも魂が抜けているのか、反応しないのでその場に放置して寛ぎの間に戻り、まったりと過ごすのだった。




