2:帰宅
皇都の上空へと侵入し、皇宮の敷地内へと着陸するのは流石に不味い。例え婿になる俺がいたとしてもだ。
上空で人化してもらい、皇宮の敷地入り口から100m程度離れた位置に着陸して、門を守る衛兵へ挨拶するのだった。衛兵と言っても近衛騎士だ。単に役割が皇宮の出入り口の監視と言うだけで。
「ただいま。火龍一族の元から今帰ったよ」
「お帰りなさいませテリスト様、エレクティア様方。サルーン様がお迎えしたいとの事です。しばしお待ち頂けますでしょうか」
『堅苦しいのは嫌いなんだけど。仕方ないですね』
「申し訳ございません。親善大使の御帰還ともなればそれ相応のお出迎えという事もありまして。しばしお待ちを」
それもそうか、ヴァルサル様がトップにしろ、婿が返って来たのに出迎え無しで通すのはアピール的に宜しくない。
公務を終えて無事に帰還し、滞りなく先方と絆を深めて帰って来たとアピールしなければならない。その為には今回の事が重要だと宣伝するにはサルーンが出迎える事が一番のアピールになる。
多少俺たちを待たせようが必須事項なのだ。これを必要無いと強引に入って行けば、サルーンの面子を潰す行為となる。容認し、待つ以外の選択肢は取れないのだ。
「理解した。一時間でも二時間でも待たせてもらうよ。手抜かりが無い様に場を整えると良い」
『長過ぎよ!』
「対面も必要なんだよ。恙無く役目を果たして帰りましたとアピールしなきゃならないんだからね。そんな訳なんで行ってくれ」
「はっ、申し訳ございません。行ってまいります」
クインとアウローラをクラレスへ渡す。流石に抱いたままでは最敬礼が出来ないからだ。そして二人は軽く会釈する程度にしてくれと頼んだ。
俺は立場的に女帝からすれば下だが、二人は守護龍の地位なので、ほぼ対等といえる。そんな二人が上位者に対する礼を取っては火龍一族が下に見られかねないからだ。よって、立ち位置も逆三角形で歩いて行く。二人が前で、その後ろの中央で俺が後に続くのだ。
そして声をかけるのは先方からだ。正式な謁見の場ではないが、それと同等と思って良い。よって、彼方の言葉から始まり此方が後手となる。
エレクティアはその手の知識も心得ているがクラレスはその手の事を教えられてはいない。よって、全てエレクティアが無難に答える事になった。
直接のお声掛けの場合は別だが。
既に準備は済ませていたのだろう。他の嫁たちがゲートで帰還しているのだ。デルフィアの助言が得られる現状下では大体の予想が出来るのだと思われる。
三十分程度、此方も手順を確認していると正面の入り口から近衛騎士たちが国旗を持ち。皇宮敷地から皇宮入り口まで等間隔で居並び、俺たちの凱旋する道が出来上がる。
嫁たちが入り口に並ぶと場が整ったのだった。
どうぞお進みくださいの言葉で進み始め。後十m程度かと思われる場所で止まり、それぞれ礼をするのだった。
「無事、役目を果たしての帰還、ご苦労様です」
『はい。火龍一族と親睦を深めて参りました。先方よりも良しなにと言伝を頂いております』
「そして其方の方が急遽、守護龍となられるクラレス・フィール殿ですね」
そう、敬称は殿だ。守護龍とは対等な目線でなければならない。様では駄目なのだ。それでは皇国が下になってしまう。対等であるがゆえに殿を使うのだ。
『は、はい。クラレス・フィールと申します。エレクティアの御助言もありこの度急遽ではありますが、守護龍となる事を此処に誓います』
「よろしくお願いしますね。テリスト、面をあげ立ちなさい」
「はっ」
やっと御呼ばれか。やっぱりこの立ち位置で間違いなかったようだな。これが最初から間違ってたら目も当てられないわ。火龍一族の対面にも関わって来るからな。それを汚したとしたら恐ろしくて考えたくも無い。
「其方も無事でなによりでした」
「勿体なきお言葉。こうして無事に帰還できたのも皆の支えがあってこそです。どうか彼らを労って頂きますようお願い致します」
「無論です。ヴァルサル様も喜んでおいででした。さて、堅苦しい挨拶はこれまでとします。
宴の準備が整っています。参りますよ」
手を広げて俺に微笑みかけている。これは抱き着いて挨拶しろって事だろう。ただいまと伝え、遠慮なく抱きついてキスしたのだ。そのままお姫様抱っこして皆の後を追うのだった。
新年の謁見後にパーティーを開いた場へ到着した。何故かオウカも嫁を連れて来ていた。週に一度は帰ると伝えていたが、急遽正式に帰還となった為に丁度居合わせたのだと推測する。
「ただいまオウカ。来てたんだな。ターラルの攻略は進んでるか?」
「お帰りテリスト。ターラル攻略はスキル伝授しながらだからぼちぼちだよ。それよりも彼方の生活はどうだったんだい?」
このまま話し込んでは折角の料理が冷めきってしまう。なので、途中で悪いが打ち切って食後に話そうとなった。
クインとアウローラをクラレスから譲り受け。アウローラをサルーンへと手渡した。
俺はクインにも食べさせながら食事をする。ここの所忙しすぎてまともな食事をしていなかったのだ、料理長の料理を食べると帰って来たのだと実感する。俺は魚の方が好きだと公言しているのできちんと準備してある。
お酒も当然の様に準備されており。たしなむ程度に飲みはするが。流石に酔い潰れるのは不味すぎるので最初の1杯だけしか飲まない。
食事も終わると解散となり。主要人物を含めて寛ぎの間に向かうのだった。