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五人分

「おじいちゃん。」

「よう。」メガネをかけた、薄い髪の毛にところどころ白髪が見えるおじいちゃん。

おじいちゃんは、お母さんがいなくなった時から一月分の生活費を持ってきてくれていた。

今日も、それを持ってきてくれたのだろう。おじいちゃん愛用の古ぼけたバッグから封筒のようなものの角が突き出ていた。


「ほら、今月分の。どうだ、お母さんの行方、何か手がかりがあったか?。」

日菜は頭をふった。

一応警察にも相談したのだが、おとなだから、家出したって大丈夫。いつか帰ってくるから、と言って聞いてくれなかったのだ。


「あ、あと、お金をありがとう。でも…もう一人分でいいの。」

おじいちゃんの顔に、戸惑いが見えた。

「何かあったのかい?」

うなずく日菜を見て、おじいちゃんは一瞬寂しそうな顔をした。

「ゴメンっ!」

謝る日菜を見て、おじいちゃんは笑った。

「謝ることなんかないじゃあないか。」

「私、薫と圭に悪いこと言っちゃって…それで、圭、怒って薫連れていっちゃった。どこに行ったかわかんないの。どうしよう、みんなバラバラだ、私のせい…どうしよう、おじいちゃん...」

かれたはずの涙がまたあふれてきた。日菜は顔を手でおおう。

「@なくなって、大丈夫、あの二人が行けるところなんて限られてる。すぐに見つかるよ。それにしても家の中が大変なことになってるなあ。ほら、おじいちゃん手伝うから、かた付けよう。」

そういって、おじいちゃんはサンダルを脱ぎ、半分開いていたドアを全開にして入っていった。

日菜はぐちゃぐちゃになっている家の中を外の誰にも見られたくなくて、急いでドアを閉めた。


日菜は、薫のくまを薫の小さい棚の上に他の人形達と一緒に並べた。圭のユニフォームもたたんでクローゼットにいれておいた。

日菜の家はせまいと思えばせまい、広いと思えば広い、どこにでもある普通の家だ。

一階にはキッチン、ダイニングルーム、和室、そしていまがあり、二階にはお風呂とベッドルーム3つがある。まあ、もうそのうちの一つしかつかわなくて良くなったのだが。


片付けが終わったら、おじいちゃんは仏壇においてあるお父さんの写真に手を合わせ、庭の花を備えて帰って行った。


また、一人になった。


日菜はまた日菜の他はだれもいなくなった家を見回して、やっぱりこの家には笑い声と笑顔がないと寂しいな、としみじみ感じた。


やる事がないので、日菜は夕食に肉じゃがを作ることにした。

いつもはお母さんがいたキッチンに立つと、あのときはお母さんからはこう見えたんだろうな、とか毎日毎日ここに立って料理するのは大変だったろうな、など色々浮かんでくる。

お母さんがいなくなってからずっと料理は日菜がやっていたので、肉じゃがは作りなれていた。

もう半分出来上がった頃に、日菜は肉じゃがは圭のお気に入りで、しかも自分が五人分作っていた事にきがついた。お父さんを入れ、五人で最後に食べたのは四ヶ月も前のことなのに、何でこんなことしたの、具材がもったいないじゃない、と日菜は自分を叱った。できたのを、日菜は一人で静かなテーブルで食べた。なぜ自分が圭のお気に入りの肉じゃがを、しかも五人分作ったのか日菜にはわからなかった。三人ではとにかく、五人でまた食べることはもう絶対ないのに。

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