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廃病院前の緩やかな坂は開けた広場になっており、集められた子供達は少人数づつ固まりながら間を空けて座っている。配られた用紙に目を通し、ジェノは様子を伺う様に右隣に顔を向けた。
「ロッツ・トイスだ」
淡々と名を告げたロッツは促す様に視線を右に流す。
意図を汲み取った茶髪の少年は緊張した面持ちで頷き、少女達も続いて名乗った。
「ホイップ・フットだよ」
「キャンディ・エンバーといいます、宜しくお願いしますね!」
「ジェノ・モ・・・えっと、ジェノ・サーフナーです」
名前を思いっきり噛んだ事にジェノは軽く凹み、未だに言い慣れない苗字に妙な感覚を覚える。
貴族としての身分を隠し平民として過ごす為ゴッデスの名を借りているのだが、毎回不自然な自己紹介になってしまうのだ。
態々使用人に用意させた折り畳みチェアに一人だけ腰掛けるロッツは、ちらりとジェノに視線を送ったかと思うと、周囲に気付かれない程度の微笑を浮かべた。
クール系でわかりづらいと言われている表情の小さな変化を見逃さず、ジェノは椅子の背もたれを他者にバレない様に小突く。
むぅ、面白がりやがって。それに何で一人だけ椅子に座ってんだよ、真似して他の貴族達も用意させ始めたじゃないか!
講師陣の簡潔な説明から始まった課外授業。
グループに分かれて座る子供達はスタートの掛け声と共に各々動き出し始め、既に森に入って行く姿も見える。時間が二週間設けられているとはいえ、未だに自己紹介の段階なのはジェノのグループだけだ。遅れている感が否めない。
「主に俺とフットが薬の調合や指示出しをする事になる。ボランティアの2人には限られた時間の中で出来るだけ協力してもらいたい」
「はい、ロッツ様!あの、あたしは何をしたらいいのでしょうか?」
「それをこれから話し合うんだな。ちゃんと聞いててよ君たち、難しい指示も即座に理解して動いてもらわなきゃ困るんだな」
「あ、はいっ、頑張りますね!」
「まぁ、まともな教育を受けていない君達じゃ無理だと思うけど精進するんだな。ロッツさんと僕に恥を掻かせたら承知しないんだな」
やる気のあるキャンディと偉そうにふんぞり返っているホイップの会話を聞きながら、ジェノは一人説明用紙を食い入るように見つめていた。
課外授業で指示されている内容は以下の通り。
●5種類の飲み薬の中から一つ選択し、3人分制作し完成させなさい。
【カノ】【ヒノ】【リルノ】【サノ】【モルソー】
●3種類の塗り薬の中から一つ選択し、3人分制作し完成させなさい。
【スメラギ】【ヌーバ】【ハイリャ】
●指定された範囲内で自由に採取し、治療薬を一つ制作し提出しなさい。
尚、完成させた薬は実際に人間に投与する可能性があります。
森に入る行為は午前6時から午後6時まで。他チームからの強奪・窃盗行為は固く禁止します。ルール違反があった場合、連帯責任としてチーム全体にペナルティを与え、最悪失格とする。
期限は二週間後の午後5時まで。
制作途中の薬は各チームで保管し、3日毎に制作状況を用紙に纏めて報告するように。
最も優秀と判断されたチームには『特別授業』を受ける権利、高級治療薬、治癒魔石をお渡し致します。
目を通したジェノは考え込む様に小さく唇を噛み、配られた地図の範囲に眉を寄せた。
設けられた二週間の間に三つの薬を完成させる必要があり、現在は指定されている中から何を作るのか決める段階。
予想以上に広い地図の範囲と、3日毎の報告で最終結果のみではなく制作過程も評価されるであろう事に不安が出てくる。たまに講師陣が見回ってチェックするというので嘘の報告や不正はリスクが高いだろう。
「あのー、どれを作るんでしょうか?あたし薬の事よくわかんないし、貴族様方に従いますね!」
「そりゃ簡単に作れるのが楽で良いに決まっているんだな」
「それでは高い評価を得られないだろう。やる気がないのか、フット」
「あっいや、そんな事っめめめ滅相もないんだなロッツさん!一位目指す為には一番難しいやつの方が良いんだな。僕は全力で協力するんだなっ」
時間ギリギリでスカウトしたキャンディは話しをよく解っていない様子だがニコニコと頷き、相手によって態度を変えるホイップは必死にロッツに取り付くろっていた。
黙ってどの薬が一番無難か思案していたジェノは、改めて向かい側に座るホイップ・フットに目を遣る。
ふっくらとした頬に、冬だと言うのに仄かに汗ばんだ額。コートの袖から出る丸々とした手が首元の帯を弛め、どこからが首なのか判りづらい顎を撫でた。
ロッツに習って急遽用意させた椅子にどっしりと腰を下ろすが、彼の体重に悲鳴を上げる様にギシギシと音を立て、負荷を訴えている椅子が可哀想に思えてくる。
貴族でない者には横柄な態度を崩さないが、可愛らしいキャンディには悪い気がしないらしく、偉そうにしながらもチラチラと彼女を盗み見ていた。
その事に気付きながらも目を合わせない様にサラリと流し、小首を傾げて「どうしますか~?ロッツ様ぁ」と甘い声で尋ねるキャンディ。
そしてそんな少女を完全に無視してジェノの持つ地図に顔を寄せて覗き込むロッツ。
大丈夫かなぁ、このチーム。
時刻は17時15分。
森へ入れる時間は後45分しか残されていないが、何も決まっていない状態で手当たりしだいに採取しても無駄骨に終わる。
グループリーダーになったロッツの提案で話し合いを室内に移し、貴族達の宿泊施設である一階のエントランスに向かった。
本来貴族でない者は許可証を持っていないと近付く事さえ出来ないのだが、ロッツは誰にも咎められる事なく二人の少女を通す。
喩え生粋の貴族であろうと、勝手な一存で他人を招く行為は他の貴族に睨まれる為普通控えるのだが、トイス家の名の影響力は強く、取り入ろうとする大人はいても不満を口にする者は一切いない。平然と人払いをして一階奥のカフェエリアを貸切にした青年は、使用人に飲み物と文具を運ぶよう言いつけた。
「トイス家は本当に素晴らしいんだな!皆が僕を羨まし気に見てて、気分がとっても良いんだな!」
「凄いですよねっ、偉い方々が道を開けていくなんて格好良いです!あたし貸切なんて初めてで感動しちゃいました!」
無表情なロッツの隣でホイップは気持ちが高揚した様子でニンマリと笑い、しきりに鼻息荒く周囲を見回す。キャンディも興奮した様子で胸の前で両手を組むと、キラキラとした瞳で正面の青年を見つめた。
「ジェノ、紅茶に砂糖は何杯入れるんだ?」
「僕ハチミツ持ち歩いてるから大丈夫。それよりさ、貸切にする必要なくない?そんな秘密裏な話し合いしないんだし、追い出された人達が気の毒だよ」
予想だにしない苦言を呈した少女に、青年は一瞬動きを止め瞬きを数回繰り返した。
憧れや羨望の眼差しを受けた事はあっても、ダメ出しをされた経験はない。生まれながらの貴族にはジェノの考え方は理解し難いものだ。
小声だった為留まる事なく賞賛の言葉を吐いていたホイップには聞こえなかったようだが、もし彼に同じ事を言ったら嘲笑うか顔を真っ赤にして怒り出すであろう。身分の高い者相手に意見するなどもってのほかなのだ。
しかしジェノは何となくロッツには伝わるような気がした。
貴族であってもちゃんと聞いてくれる人はいる。
出会った当初、当前のように公的場所を貸切っていた王子様も、ジェノが嫌がったら徐々にお忍びという形で貸切はやめてくれた。
まぁ誰も近づかせないように半径200M位で護衛が円形状に守っていたから、感覚的にもろ貸切状態だったけどね。
「うむ・・・そうか。ところで、何故蜂蜜を持ち歩いているんだ?」
「森で見つけた果物にかける用。特製の蜂蜜なんだ、美味しいよ」
特に怒った様子の無いロッツにやっぱり話の通じるタイプだなと判断し、ジェノはゴッデスが持たせてくれた小瓶に入った蜂蜜を掲げてみせた。
「綺麗な色だな」と微笑まれ、頷いたジェノは強い視線を感じて左を向く。
「あたしも蜂蜜を使ったお菓子とか趣味で作ったりするんですよ!今度持ってきちゃおうかなぁ」
ニッコリと笑うキャンディが顎に人差し指を当て小首を傾げた。
そんな少女を凝視して頬を赤らめたホイップは「僕いっぱい食べるんだな!」とお腹をさする。
「前にスイートポテト作った事あるけど、砂糖と胡椒を間違えて凄くまずくなっちゃった事あるんだよね」
自身の菓子作りの経歴を思い起こし、ジェノは散々だった結果に首を振ると「待て、どうやって胡椒と砂糖間違えるんだ?」とロッツが飲みかけのカップから口を離して聞いてくる。
「友達は『独特で後引く味だね!』って10個完食してくれたんだけど、僕にはお菓子作りの才能はないかな。果物とか調理しないで食べれるから楽で好き」
「その友達優し過ぎるだろ、それとも味覚がおかしいだけのか?」
「味覚に問題は無いよ。良い奴なだけさ、凄く変わってるけど」
「あっ、あの!あたしは上手なので心配しないで下さいね。それにジェノちゃんみたいにワイルドな食べ方とかしないですし、結構女子力高いんです」
「女子力かぁ、僕は皆無だな」
「ふっ、平気で爆食いしてたもんな」
パーティーの料理を片っ端から食い荒らしていた姿を思い出したのか、ロッツが笑いを堪える様に低く笑い、涼やかな目元を細めた。
出会いの時点で既に野暮な部分をガッツリ目撃されている為、ロッツに対しては変に取り繕う必要がない。
一緒にいて楽だなと感じ、ジェノは微笑み返した。
「フルーツタルトが凄い美味しかったんだよねぇ、キャンディちゃん作れる?果物を丸ごと食べるなら木の上で景色を眺めつつ食べるのが最高なんだけどさ」
「ほう、それはなかなか興味深い話しだな。ジェノは果物で一番何が好きなんだ?」
「柘榴と桃」
無駄話を間に挟みつつ話し合いを進めていくのだが、30分が経過してもなかなか決まらずに視線を彷徨わす。
ロッツの手元に積まれた医学の書物の中に雰囲気の異なる背表紙を見つけ、集中力の切れてきたジェノは気分転換に手に取った。
『殺人者の構造と成り立ちの解明 ~鮮血の実録~』
黒と赤を主体とする表紙を捲ると目次に人物の名が書かれており、ジェノでも知っている有名な犯罪者の名前もみうけられる。
へぇ、意外。ロッツってこういう本読むんだ。
興味が湧き面白かったかのかどうか隣の青年に聞いてみたかったが、真剣な面持ちで図鑑を睨んでいる姿を見て少女はそっと机の上に戻した。
おっといけないいけない、今は薬の事を考えないとな。一位を狙うならリスクを負ってでもこの薬がいいかな。でも運良く素材が手に入らなければ確実に失敗する・・・それなら無難に作れるコッチにして、制作までの手際の良さとスピードをアピールした方がいいのではないか?
「うーん、僕ちょっとお手洗い行ってくる」
「あっ、あたしも行く!ジェノちゃん待って」
連れ立って席を離れた少女達はカフェに備え付けられたトイレに入った。鏡で前髪を整えているキャンディの隣に並ぶと、はしゃいだ様子で両手を動かし声高に話しかけてくる。
「ねぇねぇジェノちゃん、すっごいよね!」
「ん、何が?」
「ロッツ様だよ!近くで見たら本当にイケメンだし、あれじゃ女の子達が騒ぐのも納得だなって」
「あぁー」
「あたし貴族様って偉そうな人多いし、変に近付くと厄介事に巻き込まれるから避けてたのね。だから間近でロッツ様と接して今日気付いたのっ、彼の魅力に!」
「ほうほう成る程。キャンディちゃんがそんなに褒めるって事はやっぱりモテるんだなぁ。魔性の男みたいだねロッツって。魅力って例えばどんなの?」
目を輝かせて「クールで~ 知的で~ 変に偉ぶらないしぃ」と語るキャンディを眺めてジェノはうんうんと頷き、笑顔を浮かべた。
ふむ、これが世に聞く女子トークというやつか。今までにない経験だよなぁ。
男の親友と常に遊んでいたジェノにとって女の子と話した経験は極端に少なく、勿論女友達も出来たことがない。同世代でちゃんと話した女子といえばレミアーヌちゃんくらいのものだが、彼女はジェノを男として見ていて、女子同士の会話にはなり得なかった。
「さっき資料見るとき眼鏡掛けたじゃない?超格好良かったよね!大人びた雰囲気も素敵っ」
「ギャップ萌ってやつだね。キャンディちゃんは眼鏡フェチなのか」
「そうかも、ガラス越しの切れ長の目元とかキュンキュンしちゃうもん。ロッツ様ってスタイリッシュで知的で、一見冷たそうに見えるけどそこがまた良いって言うかぁ~」
気になる男子の話しをして盛り上がるなんて凄く青春っぽいし『女の子』してるって感じ!うん、僕は今女子特有の会話をしているんだ。なんかちょっと感動する。
「インテリ眼鏡男子は一定の層に需要があってモテるよって僕の父親が言ってた。冷たい中に少しでも優しさが垣間見えるとコロッと堕ちちゃうんだって。ギャップ最強説だね」
「ジェノちゃんのお父さんって面白い事言うね。でも確かにそうかも!常に淡々としているロッツ様が優しく声を掛ける姿とか見るとトキメクよね!」
「そっかぁ」
「優しいのはジェノちゃんに対してだけだけどね」
「ん?」
最後ぼそりと呟かれて聞き取れずに首を傾げるが、同じように首を傾け「そろそろ戻ろっか!」とニッコリ笑われる。
楽しげに席へと戻るキャンディに、まぁいいかとジェノは気にせず椅子に腰を下ろす。
同年代の女の子同士の会話に慣れていないジェノは、新鮮な経験が出来た事で少し浮かれていた。
急遽グループを移ってくれたキャンディ・エンバーは、一つ年上の14歳。
声を掛けた際、あっさり「いいよ~」と請け負ってくれた彼女には本当に感謝している。元のグループの子達から文句を言われたらしいが、一切気にした様子のない彼女の精神は強く図太い。
背が高く親しみ易さの中に華やかさも持ち合わる彼女は、ロッツと並び立つと自然に視線が集まり、眺める少女達に多大なダメージを与えているようだった。
ティアラを目標としているジェノはキャンディの高身長が羨ましいが、周りの注目が他に移った事に心底安堵していた。
出来れば目立ちたくないし、なるべく静かに平穏に過ごしたい。
「やっぱり知名度の高いモルソーがいいんだな、絶対トップになれるんだな!」
「へぇ~じゃあそれを完成させれば勝てるんですね!」
「そうなんだな、もうこれでいくんだな。誰が見ても高級で凄いって認める薬なんだな」
「いや、モルソーはこの中で一番無いでしょ」
「むっ」
微笑むキャンディに対し、自信満々に【モルソー】について説明しようとしたホイップ。しかしジェノはその話しの腰を折った。
「どういうつもりなんだな。僕の言う事に何か文句があるのかな?」
「文句というか事実を述べたまでだよ。モルソーは五つの選択肢の中で最初に候補から外れる薬だ。まず選択肢にも入らない」
「なっ!」
向かい側に座るジェノに眉を顰め青筋を浮かべた少年は、大きなお腹をボンッと打ち鳴らすと憤慨したように睨みつける。
発言を否定され気に障ったのだと理解はしているが、ジェノは引かずに「モルソーではなくサノが妥当だ」と続けた。
「ふんっ、これだから素人は嫌なんだな!サノよりもモルソーの方が高得点を得られるんだな。トップを目指すにはもってこいなんだな!そんなことも解らないのに口を挟まないでほしいんだなっ」
「・・・本気で言ってるの?」
「当たり前なんだな、モルソーが作れれば一位間違いなしなんだな!」
顔を真っ赤にしながらジェノを見下したようにモルソーの名を連発する少年。
そんな彼を冷めた目で眺め、小さく首を振る。終始隣で黙って座るロッツの様子を伺うと、青年は静かにグループ内の発言を聞き、呆れた様に息を吐き出した。
あぁ良かった。ロッツはちゃんと解っているようだな。指示を出す貴族側2人に頓珍漢な発言をされたらたまったもんじゃない。
「確かにモルソーが作れれば一位になれるだろうね」
「それみたことかっ、だったら――」
「作れれば、ね」
「むっ?」
薬草に詳しくないキャンディが「どういう事?」と尋ね、ジェノは判りやすいように説明の書かれた用紙を広げた。
【カノ】【ヒノ】【リルノ】【サノ】【モルソー】と書かれた部分を指差し、右にいくに連れて難易度が上がり恐らく評価点も高いだろうと話す。
「フット君のいう通り、指定された飲み薬の中じゃモルソーが一番高評価を得られる。だからこそ、一位を狙う者はこれに飛びつくはずだ」
「やっぱり僕の言う通りなんじゃないか!平民の癖に出しゃばらないでほしいんだな」
「最下位になりたくないから口を挟むよ。無謀な指示に従いたくないからね」
「なっ、なんだと!」
下に見ている相手から馬鹿にしたような口を叩かれ、ホイップはガタンッと椅子から立ち上がった。キャンディは巻き込まれないようにそっと席を離し、ロッツは今にも机を廻って移動しそうな少年を片手を上げて止める。
「ジェノ、相手は一応貴族だ。事実であってももう少し穏便な会話を心掛けた方がいい。それよりもフット・・・お前に関しては過大評価していたようで残念だ」
「えっ、ロッツさん!?」
「俺と一緒の授業を受けていたはずだな。お前は何故モルソーを推した?」
沈黙を守っていたロッツが閉ざしていた口を開き、非難の色を含んだ声音で問いかける。静かだが落胆の滲む瞳を向けられ、ホイップは焦りを滲ませて大きく腕を振りながら弁明を試みた。
「え、えっと、あの・・・あれ?でもモルソーは凄いって先生達が言ってたんだなっ、それで、だから高級だし勝てるって思ったんだ、な」
「それを何故ジェノが止めるのか理由をお前は理解していないのか?」
「それはその・・・でっ、でも材料だって揃うはずなんだな!逆にサノの方が特殊な薬草が必要な分大変なんだなっ、この子の方が解っていないんだな」
ロッツに鋭い視線を向けられあたふたしていたホイップは責められる方向を変えようとジェノを指差し、必死に訴える。
今は平民のふりをしているのだから確かに言い方に気を付けなくては、と反省していたジェノは突如話しを振られて顔をあげた。
胃薬として名高い【サノ】の材料は特殊で種類も多い為確かに大変だ。しかし一つ一つは少量で事足り、生息場所をきちんと把握しておけば回収も難しくない。それにジェノには誰にも話していない秘策があった。
「サノには春間草が必要なんだなっ!見つけるのは至難の業なんだな」
「夕刻の短い時間帯にしか見つけるチャンスのないと噂の草か・・・二週間あっても手に入るかどうか微妙なところだな」
興奮気味に叫ばれた『春間草』とは、冬の途中春との間に生えると言われる希少な草で、成長しきるまでの若草の状態でないと薬として使えないと言われている。
更に他の雑草と区別がつきづらく、摘んでから1時間の内に磨り潰して熱湯に入れ、既にその他の工程を終えた薬液に加えないと効力を発揮しないという代物だ。
「見分けがつかないせいでほぼ完成に近い薬に全く違う雑草を入れ、全て作り直しになるケースが連発する植物だ」
「えっと、つまり失敗する可能性が高いとっても厄介で面倒臭い草が必要なんですね?」
掌を合わせて一人で頷いているキャンディちゃんに「だから僕は無理だと言ってるんだな!」と同意を得ようとするホイップを無視し、そっとロッツが囁きかけてくる。
「ジェノ、モルソーは論外だがサノも正直きついんじゃないか?攻める姿勢は大事だが、探しだすのに時間が掛かりすぎる。余程の運を持ち合わせていないと」
「運ね・・・僕、運は強かったみたいだ」
「なに?」
「春間草だと思われる草をこの前発見したんだよね」
「本当か!?」
ニヤリと笑う少女に青年は目を見開き、青いメガネの縁を押し上げた。
二日前の夕刻。
丁度キャンディと初めて出会ったあの時、ひと房だけ枯葉の中で青々と茂る草に目が留まった。
その時は不思議に思ったものの後ろから付いてくるキャンディの存在に気を取られ、摘まずに踵を返した。しかしその後気になって図鑑や教本で調べ、特徴が一致する草を見つけたのだ。
「恐らく間違いないと思うよ。夕方だけ浮き出る黄色い筋が真ん中を通っていたし、特有の匂いもしてたから」
唯一雑草と見分けをつける方法で挙げられる特徴が、『夕刻時のみ黄色い線が浮き出し、レモンの様な香りを発する』というもの。
生える数も少なく午後4時半から6時までの一時間半程度しか見分ける特徴が出てこない特殊な薬草。
それを見逃す事なく、運良く見つけたジェノは覚えて勉強していた。
「本当なら凄い事だぞジェノ。サノが作れれば他と大きく差をつけられるし、一番の難関である春間草を探す時間を大幅に他に当てられる」
「今日他のグループが発見出来た可能性は低いし、明日の夕方確かめに行こうよ」
「あのー、何でモルソーが作れないのか教えてもらってもいい?あたし詳しくなくてさ」
「あっそうか、ごめんごめん」
キャンディの疑問にホイップも注目する中、ジェノは高級飲み薬であるモルソーの説明を開始した。
まずモルソーの材料は直ぐに見つかる物ばかりだが大量に必要になる事。
「決められた範囲に生える薬草全部採取したとしても、三人分の量を用意するのは確実に無理だね。濾過したり蒸発させたりを繰り返して、数滴取れればいい方。下手したら全く使い物にならないし、調合も難しいんだ」
「まだ作り方までは具体的に習っていないが講師の方が一度注意点として話していただろうフット。範囲内全ての薬草を摘み取って他グループの恨みを買う気なのか?」
「うぐっ、いや、あのっ」
「あと中には毒を含んだ植物もあって、毒抜きの対処に資格を持っている人物が必須なんだ。子供達だけでそんな危ない真似をしていたら講師陣に止められるし、無茶したら失格になるよ」
「じゃあなんでモルソーは選択肢にいれられてるの?絶対作れないんだよね」
「うん、絶対に作れない。その事をちゃんと『知っているか』を見るためかな」
どういう事なのかと視線を寄越すホイップを正面から見つめ、「所謂罠だよ」と答える。
高級だがよくある材料で作れる薬草。
高評価を貰えるだろうとこれに手を出す知識無い者を、いち早くあぶり出す為の講師陣側の仕掛けた罠。
最初から知っていればそれにこした事はないし、調べて途中で諦めるのならまだ問題ない。
よく考えもせず行動し続けるなら点は入らないし、むしろマイナスとなる。
カルシェンツみたいに『資格?勿論持ってるよ』なんて言う規格外な子供が万が一居たとしても、結局材料が足らない為どうしたって完成出来ない薬なのだ。
「高級なのにはそれなりの理由があるという事だ。取り敢えずジェノの言う春間草を確認してから飲み薬を決めようか。次は塗り薬だが――」
「今度は挽回するんだなっ、ロッツさんに良いところを見せたいんだな!」
「わー 頑張って下さいね~」
「やっぱり【ハイリャ】が優れた塗り薬だからこれで決まりなんだな、一位なんだな!」
「ハイリャは絶対ないでしょ」
「またっ!?」
「フット・・・」
夕食を食べ終えても話し合いは続き、ジェノ達は口論を繰り返して疲労が溜まった頃ようやく帰路に着いた。面白かったと笑うキャンディに疲れた笑顔を返し、星が瞬く夜空を見上げる。
魔法のレッスンに加え前途多難な課外授業、やる事は膨大だ。
「よーし、がんばるぞー」
「ぉおー!」
少女達の掛け声が闇夜に響き、空を押し上げるように小さな拳が二つ伸びる。
無事4人でスタート出来たこと事に安堵し、ジェノは床に着くと深い眠りに落ちていった。
茶色く茂った木々の葉は日に日に数を減らし、もの寂しい景色を広大な地に広げている。雲間に差し掛かった所で浮き続けていた身体を止め、麓の村、更に奥の山々に目を向けて頭の後ろで手を組んだ。
どうしよう、上限なくこのまま昇っていける気がする・・・
白く靄がかった空中に手を滑らせ昔夢見た『雲』を掴む動作をするも、何も得られず少し虚しい感覚を味わう。
夢は夢で終わらせておくものだよな、現実は儚い。
自身の魔力の限界値を知るため、どこまで上昇できるのかを試していたジェノは暫くその場に留まった後、ゆっくりと降下していった。
これ以上は危険だと判断したら戻るよう言われていた少女は、限界の見えない浮き上がる感覚に一旦地上へと引き返す。
「周囲の物を動かす場合一定の範囲を超えると操作しきれなくなるけど、自身を浮かす場合は限度が見えないねぇ。まぁ大気圏まで調べられないから実際のところは解らないが、優秀過ぎる程優秀な能力値じゃよ」
「範囲はおよそ30M。浮かすのは比較的簡単ですが重くするのは難しいですね。本気で試して人を跪かせる程度です」
「動きを封じられるだけで立派な防衛になる。下手な攻撃魔法よりよっぽど強力じゃ」
末恐ろしいと肩を叩かれ、マーベラスに使い道を誤らないようにときつく釘を刺された。レッスンで徐々に判明してきたジェノの魔法は広範囲なうえ一瞬で発動出来る瞬発力をも備えている為、伝説の魔女と語られるマーベラスでさえ驚き賞賛するが、その機能性の高さに時折不安も垣間見せた。
範囲内であれば一度に多くの者の自由を奪い、自在に重力を弄れる魔法。
まだ幼いジェノが考えているよりも使い勝手の良い力は、身を守る『防御』だけでなく、人を傷つける『諸刃の剣』にもなり得るのだ。
だからこそ常に父親のメロスはオババ様やマーベラスといった魔法に長けた者にレクチャーを頼み、もしもの時対処出来る環境を整えていたのだが、愛しい娘はそのことに気付けずにいた。
午前中に修行を終えロッツ達が授業を受けている間にボランティアの仕事を済ませると、積極的に森へ入っていく子供達と共にジェノも薬草探しに向かう。
課外授業も4日目となると大分見つけ方のコツを掴んできたものの、冬場という事もあり寒い中の探索に少々辟易する。
それに加え――
「僕もう疲れたんだな。温かいスープを飲んでくるから後は任せたんだな」
「昨日もそう言って探さなかったよね。この周辺は僕たちの担当なんだからちゃんとやろうよ」
枯れ草を掻き分け凍えそうな指を摩るジェノに対し、探そうという素振りさえ見せないしないホイップは当然のように踵を返す。呼びかけても「今日は終わり」だと叫んで施設方面へと引き返して行った。
まだ15時回ったばかりで後3時間は探索が出来る。調合に費やす時間を考えると早めに集めておきたいのだが、目の前の少年はサボる口実を探すのに忙しいらしい。
「昨日は材料見つけてちゃんと貢献したんだな!ロッツさんも僕を認めて褒めてくれたんだな」
「ロッツの前ではちゃんとやってるもんね。いつ誰と組んでもそうしてくれれば文句ないんだけどな」
小言を言うジェノを煩わしそうにキッと睨みつけ、ズンズン進みながら大きなのっぺりとした鼻をふんっと鳴らした。
グループを組んだ初日に軽く口論して以来、ジェノとホイップの間には微妙な空気が漂い、目に見えない亀裂が走っている。
ジェノとしては別段彼に対して何か思うところは無いのだが、ホイップ少年には完全に相容れぬ相手として認識されてしまった。
平民の出の者に意見され憤慨する気持ちもあるが、一番は認めて貰いたい格上の存在であるロッツが何かとジェノを擁護し、自分に目を留めてくれない事が大きいのだろう。
シナトリア国の貴族であるホイップ・フットは取り入りたいロッツの前では従順で大人しく、好みのキャンディと組んだ際には働かないものの、彼女にお菓子の差し入れや励ましを送って座りこんでいるらしい。
全く使えない少年に眉を顰めるが、「邪魔になるよりはいい」とジェノは切り捨て一人で河辺へと進んで行った。救いはロッツがしっかりと各々の働きを把握し、ホイップの行いに対し厳しい評価をつけ対応している事だ。
貴族だからと甘く扱う者が多い中、正常な思考を持ってくれていて本当に助かる。
「ジェノちゃん!」
「あれキャンディちゃん・・・ロッツは?」
黙々と川辺の草を摘んでいたジェノが呼び声に振り向くと、廃病院を挟み逆方向で散策しているはずの少女が此方へ駆け寄ってくる。
「ロッツ様がジェノちゃんの所に行くって急にそっちに向かったんだけど、会わなかった?あたし追いかけたんだけど速くて全然追いつけなくってさぁ、もうスカート走りづらいんだもん」
「ううん、会ってない。大丈夫?息切れてるし休憩しておいでよ。僕結構集めたから今日のノルマ達成してるしさ」
「そっか・・・ありがとう!じゃあちょっと休んでくるね。えっと、もしロッツ様に会ったらあたしが向こうに居るって伝えてもらえる?ごめんね」
頷くと可愛らしい笑顔で去っていく少女を見送り、昨夜小雨が降った影響で水気の多い土に気を付けながらゆっくりと歩く。
水かさの増した川をフワフワと浮いて渡り切った所で、マーベラスに魔法を使っている姿を他人に見られないよう言い付けられていた事を思い出し、ジェノは咄嗟にキョロキョロと周囲を見渡した。
そういえばメロスにもオババ様にも『屋敷外で魔法は使うな』と言われていたんだよな。
面倒な事になると聞いたが詳しく使ってはいけない理由を教えられておらず、ジェノは顎に手を当て考える。
カルシェンツも魔力保持者である事を隠しているって言ってた・・・ヴェジニア国では尊敬や憧れの対象になるらしいけど、もしかしたら魔法が使えるとまずい事が何かあるのだろうか。
「ジェノ、やっと見つけた」
滑らない様に苔を避けながら向かってくるロッツに「やっほー」と軽く片手を上げ、考え込んでいた思考を現実に戻す。
いずれ会いに来るだろうと思っていた青年は、珍しい薬草を発見した為相談しようと思ったらしい。
まぁ確かにキャンディちゃんは薬草の事解らないし、フット君より僕の方が詳しいって初日に判明しちゃったしな。
危なげなく川を渡りきった青年の手元を覗き込み、悩んでいた『自由に治療薬を作成しなさい』という指示に使えるのではないかと話し合った。
頭痛薬として重宝される茶色がかった薬草を大切にしまい川上に沿って山を登っていくと、戻るかと思われたロッツがそのまま付いてくる。
「不便はないか?グループ内でも何かあったら言ってくれ」
「色んな人間観察が出来て面白いよ。他のグループも凄い喧嘩してたり独裁みたいになってたりして大変そうだよね。うちの所はまだ纏まってる方じゃない?ロッツがリーダーのおかげかな」
言葉を交わしながら泥濘んだ獣道を進むと、1M程の段差を先に降りた青年が流れる様な仕草で後ろのジェノに手を差し伸べた。
動きやすい様にズボンを履いてきていたのだが、コートの裾が汚れる事を心配しジェノはその親切を受けることにする。
乗せた手を引かれた瞬間、魔法は使っていないはずなのにフワリとした感覚を味わい、音もなく優しく受け止められた。
握られた手の大きさの違いと支えられる背中越しの感触に、ジェノはどうしたらいいか分からなくなり俯く。
「だが俺の人選判断に多少ミスがあったと・・・いや、それを完璧に纏め上げるリーダーとしての手腕が求められているのだろう。トイス家として、これぐらいの事はスマートに難なくやり遂げてみせるさ」
「完璧に纏めなくたって別にいいんじゃない?むしろチグハグながらも精一杯やり遂げた事の方が僕は心に残るし好きだな。喩え駄目でもロッツみたいに常に努力する姿勢が一番大事だと思うし」
「・・・・・・」
結果も勿論大事だが、過程も重視して楽しみたい。
紳士的な行動に慣れていない気恥ずかしさから視線を彷徨わせつつ、思った事をそのまま伝えた。
そんな少女を暫く見つめて息を一つ吐き出すと、ロッツは何も言わずに歩き出す。繋がれたままの二人の手に視線を落とし、ジェノは不意にざわつく胸を空いてる方の手で抑えた。
うわ、何か凄いむず痒い。普段ならこんな段差平気って言うのになんか断れないし、変にムズムズしちゃう。
他人に触れられた経験が比較的多くないジェノだが、カルシェンツもよくこうして手を貸してくれる事があった。頼んでなくても積極的に差し伸べられる手に徐々に慣れていったはずなのに、何故かかつてない程の恥ずかしさに襲われている。
「根っこに気を付けて・・・そう、こっちにおいで」
カルシェンツの時とロッツにされる時の違いに戸惑っていたジェノは、暫くして一つの仮説に思い至った。
――ロッツは僕を、『女の子扱い』しているんだ。
同世代の男性から受ける本当の意味でのエスコートにジェノの頬は火照り、唇を噛み締め下を向く。
「どうしたジェノ」
「なっ、何でもない!」
「?」
男友達に手を貸していたつもりのカルシェンツとは違い、自分を完全に一人の女の子として認識しているロッツ。
些細な事なのかもしれないがほんの少しだけ感覚や空気、雰囲気が柔らかくホワホワした気分になってくる。
前にもロッツと手を繋いだ事はあるけど、こんな風に感じたりしなかったのに・・・
急に女子扱いされていた事に気付き、照れくささに押し黙る。
一度『男性』と『女性』なのだと意識してしまうと、手を繋いでいる事が変に気になってきてしまった。
「ロッツ、あの・・・手」
「え?ああ、すまない」
「いやっ、大丈夫。えっと、ありがとう」
やばい、何か変な感じになっちゃった。普通にしなきゃおかしい奴だと思われちゃう。
ロッツは気にした風もなく接してくるが、紳士的なエスコートに一方的に舞い上がっているジェノは赤らむ顔を必死に押さえ込んだ。
恋愛の意味で彼を意識しているわけではなく、慣れない女の子扱いに照れているだけなのだが、高鳴り出した胸に戸惑いよく判らなくなってくる。
世界中の少女淑女はこんな気恥ずかしい思いを平気で味わっているのか。友達と手を繋ぐ感覚とは違うものなんだなぁ・・・初めて知った。
「ここら辺が採取可能な範囲ギリギリの地点で・・・――ジェノ!それ以上さがるなっ」
「へ?」
ザリッ
モジモジしながら徐々に後退して行っていたジェノを振り返ったロッツは、次の瞬間大声を上げ左手を伸ばした。
しかしその腕は身体に触ることなく、空を掴む。
あれ―?
ぐらりと傾いた景色に視線を足元に向けると、片足が半分崖に掛かった状態で身体は宙に投げ出されていた。落ちる感覚に後退しすぎて崖から足を滑らしたんだと理解した瞬間、咄嗟に浮くイメージを頭に描き魔法で身を守る。
底に落下する直前に範囲魔法で重力を軽くし、ストッと軽やかに降り立った。15Mの高さから落ちて一切の怪我を負わずに済んだのは紛れもなく魔法レッスンの賜物だなと、ジェノはホッと息を付く。
しかし――
ドザッ
「っ!?」
安堵したのも束の間、上から一つの影が落下し直ぐ真横で大きな音が鳴った。
「ぐっ」
「え・・・ロッツ!?」
枯れ草の上で蹲る青年を驚いて覗き込み、ジェノを助けようとして落ちたのだと青褪める。
真上の崖がパラパラと崩れている事から、ジェノが落ちた後で雨の影響で泥濘んでいた地盤が崩れ、身を乗り出したロッツの足を掬ったのだろう。
自分を助けようとしてバランスを崩し、怪我を負った青年に少女は頭が真っ白になった。突然の出来事にどうしていいのか分からず狼狽える。
何故もっとちゃんと範囲魔法を張らなかったのか。
危険だと解っている山でぼーっとしていた僕が悪いのに、どうしてロッツが怪我をしなければならないのか。
自分だけ無傷で助かった事に罪悪感が募り、ジェノは必死に背を丸めるロッツに呼びかけた。
「大したこと、ない。少し足を捻っただけだ」
「でもっ、あの高さから落ちてそれだけのはずない!頭を打ってるかもしれないし、早く医師にみせなきゃっ!」
「不思議だが本当にこれだけなんだ。丁度枯れ葉の束に落ちたみたいだし、途中妙な浮遊感を味わって・・・それよりジェノは怪我ないのか?大丈夫か?」
「僕は無傷だよ・・・ごめん」
「本当か!?何で謝るんだよ良かったじゃないか、無事で安心した。奇跡的だな!」
爽やかに微笑まれ項垂れたジェノは、前も後ろも塀の様に続く崖を見て「何としてでも彼をすぐ医療スタッフに見せなくては」と決意を固めた。
ロッツが大怪我しなかったのはジェノの魔法で落下速度が減少し、護衛の忍者達が高速で枯葉のクッションを敷き詰めた御蔭なのだが、2人はその事には気が付かない。
「あ、雨だ。降ってきちゃったな」
「ロッツ、絶対に僕が助けてみせるからね!」
「う、うん?あぁ有難う」
妙な闘志を燃やしだした少女と身動きの取れない青年に、更に試練を与えるかのように雨足が強まり続ける。
ゴロゴロと低音を響かせる曇天は、不穏にも行く手を阻むように冷たい雫を降り注ぎ、二人の体温を奪っていった・・・
作中で書かれる薬草や薬は作者が適当に考えたものですので、細かい点は温かい目で見てスルーしていただけると幸いです。
お読み下さり、ありがとうございました。




