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合宿編ラストとなります。

 乱雑に並んだ棚に倒れたテーブルや大きな筒が所狭しと置かれ、舞った埃が日差しに反射してキラキラと漂う。高い位置にある鉄製の小窓は子供でも通り抜けられないだろうと判断し、ジェノは小さく伸びをした。

 さて、どうしたものかね。塞がれた出口に空気の悪いほぼ密室の空間・・・少しは焦るべきなのだろう。

 しかしジェノは奥の長机の上で呑気にうたた寝している黒い背中を眺め、根拠はないが大丈夫な気がして欠伸を噛みしめた。


 「おいっ、何のんきに欠伸してんだよ!?閉じ込められてんだぞっ、出られねーんだぞ!」


 「閉じ込めた本人がそれ言う?」


 扉を叩きながら叫んだ少年はうっと言葉を詰まらせ「こんな予定じゃなかったのにっ」と座り込んでぶつぶつと呟くと、大きく重い扉を蹴りつけた。

 ああー 僕とスフレの二人だけを倉庫に閉じ込める計画だったんだよね。

 その寸前で近くにいた坊主頭の彼を引きずり込み、仲間を見捨てた金魚の糞共は三十分前に倉庫を去って行った。合宿所から離れた所に建てられた倉庫は薄暗く、巻き添えにした少年がどんなに叫んでも聞こえない位置にあるようだ。


 合宿四日目から激しさを増した金魚の糞の嫌がらせは驚くほど幼稚でぬるく、ジェノは完全に舐めきっていたのだが・・・

 やはり罠だと分かり切っていた呼び出しに応じたのは軽率だったかなぁ?と少し反省する。

 

 「虫とかカエルとか水とかってソーズの命令なの?」そう聞いても「フンッ」と顔を背け答えない坊主の少年。靴に画びょうや虫を入れたり、突如水をかけるなどの嫌がらせを嬉々として行ってきたこいつ等は、遊んでくれてると勘違いした地底人の少年に楽しそうにやり返され逃げ惑っていた。


 「スフレ―」


 「っちょっ!答える、答えるからそいつは呼ぶなぁ!」


 寝ているスフレの名前に過剰に反応した少年は部屋の隅に縮こまり、「ソーズ君じゃない、俺達五人で考えた」と小声で話す。やはり昨日スフレに池の魚を口に突っ込まれたのがトラウマになっているのか、ビクビクと警戒し距離をとろうと必死な様子だ。

 魚が可哀想だから途中で止めてやっただろ?僕に感謝して洗いざらい話してもらおうか。


 「今回のは・・・もう六日目で明日テストだし、お前らどんなに嫌がらせしても堪えないからツギ君とハギ君がこうしろって」


 「ほう、ついに側近二人が動き出したのか。そんなにテストで手を抜いてほしいわけ?それともただ嫌がらせが楽しいだけ?」


 「あの三人はテストが第一だと思う・・・その、俺達は命令に逆らえないし、偉くなった気がして楽しいからやってるだけだ」


 「まさに虎の威を借る狐か、お前らどうしようもないな」


 「う、うるせぇよ!てかお前等何で余裕なんだよ、虫とかもっと嫌がれよ!集めるの大変なんだぞっ」


 いやアホか、何故僕等が怒られるんだ?頭おかしいだろこいつ。それに虫を嫌がれって言われてもなぁ。

 小さき生物達は栄養価が高かったため、スラム時代での大切な『食料』だった事を思い出し、ジェノは懐かしさに目を細めた。

 

 「なぁ、ソーズってどんなやつ?」


 「・・・いや、ソーズ君のことは・・・よく知らない」


 「嘘つくな、お前ソーズの金魚の糞なんだろ?ずっと一緒に行動してるじゃないか」


 「嘘じゃないっ、話した事もそんなにないんだ!ソーズ君は主にツギハギとしかしゃべらなくて・・・勉強で忙しいみたいだし、俺らは眼中にないと思う」


 「勉強ねぇ・・・あの三人っていつも一緒なの?離れる時だってあるんだろう?」


 「いやずっと一緒で―― あっ、朝はソーズ君がひとりで勉強するからあんまり近くにいないかも、邪魔になるからってハギ君が気を使うんだ」


 どんだけ勉強熱心なんだ。

 そういえば講師の方々も「授業以外でもよく解らない問題を聞きに来る真面目な生徒だ」と言っていた。先生受けを良くする計画だと同室の男子たちは話してくれたが・・・どちらが本当なのだろう。

 ジェノは昨日や一昨日、塾生や講師陣への聞き込み調査で感じた腑に落ちない感覚をまた味わい、眉を顰める。


 ――このイジメの一番の被害者って、もしかして・・・


 まだ確信は無いが浮かんだ可能性のひとつを確かめてみたくなって、ジェノは座っていたテーブルから勢いよく飛び降りた。

 今日で合宿生活六日目。

 まだ昼前だが急がないと時間がなくなってしまう、ひとまずここから出るか。


 「おーいスフレ!手伝ってくれ、ここから出たいんだ」


 「うお、なにあいつ起こしてんだよっ、やめてくれぇ!」


 悲鳴を無視し声をかけると、のそりと起き上がったスフレは不思議そうにあたりを見回し「ここ、どこ?」と聞いてくる。

 まさか閉じ込められていることにも気づいてなかったのか?

 どんだけ悠長なんだこの子は、大物だなぁ。

 

 手早く今の状態を伝えると「わかった!」と楽しそうに倉庫内をうろつき出し、暫くすると大扉の下の隙間を繁々と覗き込んだ。5cm程の隙間からは木の板の様な物が扉を固定し、開かないようにしているのが見える。棒等で隙間から突いてみたが、かなりの重みがあるのかちょっとしか動かすことが出来なかった。

 これを外せなければ窓からは抜け出せないため、いつ来るか分らない助けを待つしかない。


 「えっ、なになになに!?こっち来るなよぉお!」

 突然の悲鳴に振り返ると、そこには泣きそうな少年に飛びかかろうとにじり寄って行くスフレの姿があった。左手に埃まりれのカーテンの様な布を持ち、目にも留まらぬ速さで逃げる少年をぐるぐると巻いて拘束したスフレは、満足した表情でドアへ近づいて行く。


 「ンンーモゴッングゥ!モガァッ、ンゴォウモゴゥー」

 

 「ちょっと、全身に巻かれてるけどコレ息出来てるか?なぁスフレ急にどうし――って何でズボン脱いでんだっ!?」


 隣の芋虫状態の少年を無視し、突如灰色のズボンを脱ぎ始めたスフレは、何も言わずに黒色のパンツにも手をかけ下ろしにかかる。

 いきなり始まったストリップにジェノは混乱しながらも後ろを向き、速まる心臓を押さえ目を瞑った。


 うわああああぁぁあぁ・・・不可抗力とはいえ男子の下着をみてしまったぁ!

 何で脱いだの!?しかもパンツも下ろしてるよね今・・・何してくれてんのあの子!

 

 下着の下にきちっと包帯を巻いているため肌は一切見えていないが、同年代の異性の下着姿にジェノは動揺を隠せない。巻き付いたカーテンから出たいのか暴れ回る横の存在が目に入りつつも、ジェノはそれどころではなく「いやーいやー」と恥ずかしそうに首を振り続けた。

 そうこうしていると背後でガランッと物が倒れる音が聞こえ、眩ゆい光が部屋に飛び込み冷えた空気が肌を刺す。


 下着を脱いで扉を開けるとか・・・わけがわからん!

 呆然と外へ出たジェノと咳き込んでいる少年は理解が追い付かず、ただただ上機嫌なスフレを見つめるばかりだった。




 出られなかった授業の講師には、スフレの体調が優れず付き添っていたと嘘をつくと、あっさり納得し「無理せずに部屋で休んでていい」と心配された。

 しかもジェノは付き添ってくれとお願いまでされ、苦笑いが止まらない。

 どうも講師全員がスフレに極端に甘い気がするのは、僕の勘違いではないだろう。

 やはり彼は特別なのだろうか。その点があまり詳しくないジェノは普通に一緒に行動しているが、もしかしたら思っているよりも『地底人』とは凄いのかもと考え始める。

 

 扉を開けたことを自慢するように目の前で長くて黒い尻尾をブンブン動かすスフレを観察し、ジェノは呟いた。

 

 「そのしっぽは確かに便利で羨ましいけど、もう急に脱いだりするなよ。見せられる方は気が気じゃないんだから」


 「何故?ジェーのん前、スフレの全裸見てる」


 「うわっ、その話はするな!あの光景は見なかった事にしてるんだ!」

 

 思い出してはいけないモノが頭をかすめ必死で記憶を消去する。

 つい先日だが大分昔の様に感じる『お風呂珍騒動』の際、ぐったりと横たわる褐色の裸体をジェノは抱きかかえた。焦っていたし混乱していて頭は上手く働いていなかったが、ジェノはちゃんと『ある部分』を見ないようにしたのだ。

 

 視界に入らないように水を飲ませて、目を向けないように謝罪した・・・見ていない、本当に見て――

 少し見えた気もす・・・いや見てない!見てない事になっているんだっ!


 「スフレ、見られてない事にしておけ!」


 「・・・?わかった!」


 思いっきり不思議そうな顔でスフレは承諾し、ジェノは深い深い溜息をゆっくりと吐き出した。



 

 その後お昼の授業中だが自室で休んでいたジェノの下に一通の手紙が届けられ、はじかれたように取りに行く。

 女性講師から手渡された真っ黒い封筒を見て途端に笑顔になったジェノは、ベットに寝転がり鼻歌を歌いながら封を切った。

 一昨日届いた手紙と変わらずの分厚さに仕事は大丈夫なのかと心配だが、沢山ジェノ宛に書かれていることが無償に嬉しくニヤニヤが止まらない。


 『最上の親友ジェノ君へ』と始まる文にいつものように「親友じゃない!」とつっ込んでから目を通す。


 『素晴らしい手紙をありがとう。ひとつひとつの返事がまるでオアシスの様に乾いた私の心に沁みわたり、生き返ることが出来たよ。これを読むのは明日になるだろうから、明日の私のジェノ君への想いの分も『詩と歌』で書き綴ろうと思う。聞いてくれ、私の魂のジェノソング part16!』


 「・・・・・・」


 ああ、忘れてた・・・こいつこんなんだった。

 読み始めて数秒で手紙を握りつぶしたい衝動を辛うじて堪える。

 

 『変わった少年と仲良くなったと書いてあったがそんなはずはない。ジェノ君と親しくなれるのは私だけだからな、恐らくその子は幻だよ。私が傍にいないあまりの寂しさが作り出した架空の存在さ!いや・・・もしかするとソレは私の生霊かもしれないね、日々ジェノ君を包んで守るように念じて飛ばしている成果が発揮されたに違いない。さすがジェノ君は私の運命の親友だ!』


 ブワッと反射的に立つ鳥肌が止まらず、ジェノは「即座に除霊してやるわっ!」と叫ぶ。

 待ちに待った手紙だ、どんなにウザくてもキモくても我慢しろ僕!薄目で見てもいいから最後まで読むんだ、きっと出来るさ!

 終盤まで残念な内容が途切れることなく続き、何度も手紙から距離を置きながらかなりの時間をかけていると「ジェーのんご乱心?」とスフレにきょとんとされた。

 

 うぅ~ どうして手紙ひとつでこんな疲れないといけないのだろうか・・・彼が恐ろしい。そう思いながらもなんとか最後のページまで辿り着く事が出来、ジェノは一息つく。


 『――ジェノ君からのお返事、心の底の奥から待っています。

 PS、城の事は機密が多いから書けないけれど、無理や我慢はもう極力しないから安心してくれ。私には最強の慰めてくれる味方がいるからね、恐いものは何もないよ。何時の日か超音波解読機器を作成してみせる!楽しみにしててね』


 超音波・・・そう、それだ。


 「ねぇ、スフレのお父さんって何してる人?」

 「ゴロゴロしてる」

 「えっと、職業は?」

 「洞窟作る、してる」


 あの後もすぐにスフレに問いただしたものの、有益な情報を得ることは出来なかった。

 カルシェンツが対応している王様がもしかしたらスフレの父親なのでは?と考えたのだが、やはりこの返答では可能性は低いように思う。

 まぁもしそうなるとスフレが観光中の王子様って事になるし・・・違うだろう。

 

 実際にやってもらった『超音波』をもう一度頼んでみても、ジェノの耳には全くの無音に聞こえ、本当に出ているのかどうかも定かではない。

 今の段階では何とも言えないな・・・仕方がない、目の前の問題を片付けてからゆっくり考えるか。


 「まずは、イジメ問題をさくっと解決しますかね」

 ジェノはひとり、不敵な笑みを浮かべ立ち上がった。




 階段を上がった一番奥の部屋にほのかに明かりが灯り、夕食の時間だが誰かが居るとわかる。そっと息を殺し静かに多目的室に近づいたジェノだったが、後ろから伸びてきた腕に阻まれドアにかけた手を止めた。


 「モーズリストさん・・・向こうでお話しましょうか」


 「あんたツギとハギのどっちだったっけ?」


 「ハギ・サンジェルです。以後お見知りおきを」


 囁くような声音に促され共に階段を降りると、玄関ホールにツギがいて二人と対峙した。

 こいつら僕の行動を読んでいたのか?いや、おそらく――


 「ソーズの見張りご苦労だね」


 「ああ?どういう意味だ!」


 「・・・取り敢えず私共の要求は変わりません。明日のテストで手を抜いて下さい」


 「それは何故?」


 「邪魔だからです」


 淡々としたハギと少し攻撃的なツギは手を出すことはなく、昨日と同じくあくまで話し合いをする気らしい。これは間違いなくジェノが『貴族』だからだ。そのために嫌がらせの殆どがスフレに集中し、ジェノは軽い被害で済んだ。

 まあ助けようにもスフレが強すぎて相手が可哀想な状態なんだが。


 「ソーズは来ないのか?あいつが一番僕たちに苛立っているんだろ?」


 「私達だけで十分です。今の状況が続くと思わない方が身のためですよ。貴方は無事でも、お連れの黒い彼・・・怪我の保障は出来ません」


 「そんな大事はあんた等もまずいだろう、金持ちの家がもみ消してくれるって?」


 「調べたがモーズリスト家は没落なんだろう?俺らの方が権力は上かもな」


 嘲るようなツギを横目で見遣り、ジェノは鼻で笑った。

 間違いない。こいつらの思惑、状況は僕の想像通りだ。


 「確固たる証拠が無ければテストで悪い点をとらされても僕の実力と判断され、良い点をとったらお前らの報復が待っている・・・か」


 「頭のいい貴方なら最良の選択をすると、私は思っていますがね」


 「ああ・・・そうだな」


 ――どれが最良の選択か、それはもう解っている。

 この出来上がった『イジメ体制』を崩すのが赤子の手を捻るよりも容易いということも。

 彼らのやり方も・・・ただ、


 「あんたらの行為の一番の被害者って、誰だと思う?」


 突然のジェノの問いかけにツギは「はあ!?」と苛立ったように声を荒げ、ハギは「・・・自分だと言いたいのですか?」と訝しむ。

 ふーんなるほどね、この反応だとあっちが正解かな。


 ジェノは納得したように頷き、雲に隠れた夕空を見上げ呟いた。

 「全て・・・明日で終わるさ」




 合宿生活七日目の朝。

 ゆったりとした広い湯に浸かりながら、目を瞑り心を落ち着ける。此処の風呂に入るのもこれが最後となるだろう、色々あったがなかなかいい湯であった!とジェノは誰もいないのをいいことに泳ぎだす。

 今は女子風呂に入っているからスフレと遭遇する危険も無いしね、極楽極楽~。


 さて・・・今から三時間後の9時から実力テストが行われるわけだが、うまく彼と対話出来るだろうか。

 カンバヤシに教わったイジメを止める一番有効な方法は『頭を潰す』だった。

 トップを黙らせれば恐くないとライヴィも言っていたが、今回のイジメ集団の頂点と言えばもちろん『ソーズ・パローニャ』である。

 最大の敵はたったひとり・・・


 「おはようございます」

 靄のかかった肌寒い裏庭に足を踏み入れ、予想通りベンチに腰かけていた人物にジェノは声をかけた。


 「寒くないですか?すみません少しお話がしたくて、今大丈夫でしょうか」

 

 「お前、確か・・・」


 怪訝そうに顰められた眉に礼儀正しく名乗ると、鋭い眼光がジェノを捉え少年は持っていた暗記帳を置き更に眉間に皺を寄せた。この時間この場所に彼が来ることは、早朝にお風呂に入りに来て四日目で偶然目撃したため分っていた。これが最初にして、テスト前に彼とゆっくり話せる最後のチャンスだ。


 「何の用だ」


 「聞きたいことがありましてね・・・いや、貴方の方が僕に言いたい事あるんじゃないですか?」


 食堂で話した栗色の少年は言った。

 『ソーズが頭だ』と。


 同じ部屋の男子は愚痴った。

 『取り巻き共はソーズの言いなりだ』と。


 坊主頭の少年は不貞腐れた。

 『ソーズ君はツギ君とハギ君に命令して、それを俺は後から伝えられている』と。そしてツギとハギとの行動と、いままでに嫌がらせを受けた子達の証言からジェノにある疑問が浮ぶ。


 ――ソーズの実態が全く見えてこない。

 ソーズの名はよく出るが本人に直接何かされた子は一人も見つけられなかったし、イジメの現場で彼の姿を見たものもいない。

 嫌がらせをしたのは金魚の糞で指示はツギとハギが伝えているらしい。

 『ソーズ君のため』『ソーズ君の邪魔だから』というツギとハギのその言葉を聞き、彼が全ての元凶だと皆は言った。


 ・・・本当に?

 イジメの命令を出し、ソーズは高みの見物。本当にそうなのだろうか?

 もし違うとしたら・・・

 もし彼に『テストで手を抜け』と言われなかったら――

 

 「俺がお前に言いたい事?ああ、一つあるな」


 「なんですか」と尋ねると少年は赤毛の髪を掻き上げながら立ち上がり、ジェノの目をしっかりと見据えた。


 「俺に、効率の良い勉強法を教えてくれないか?」


 「・・・・・・なるほど」


 

 ――ソーズはおそらく、イジメに一切関わっていない。

 ジェノは大きく息を吐き出し、真剣な瞳の少年を見つめた。

 

 「あの、ソーズさん。イジメってどう思います?」


 「はあ?なんだいきなり・・・いじめ?よくないんじゃないか、やっぱり」


 うん、僕もそう思うよ。

 やはり彼は、イジメが起こっている事態すら知らずにいたのではないだろうか。

 勉強に集中しすぎて気が付かなかったのか・・・周りが彼を恐がり何も言わなかったからか、ツギとハギが裏で隠し続けていたからか。

 その原因はわからないが、何もしていないにも拘わらず『イジメの主犯』とされて恨まれている彼は間違いなく『被害者』だろうとジェノは思う。


 「あーあと、今日のテストは負けないからな、お前も全力でやれよ。もう一人にもそう言っておけ」


 睨みながら言われ、機嫌が悪いとかじゃなく元々こういう顔なんだなとジェノは納得した。

 うーん目の鋭さが誤解を招いた原因でもあるよな、これ。


 

 その後勉強方を教える約束をしてソーズとは別れ、ジェノは言われた通りテストに全力で臨んだ。

 初日よりも遥かに難しくなったテストに少し苦戦したが、納得のいく出来だと自分では思う。

 さて、ソーズとの約束通り本気でやったが、ツギとハギの要求には逆らった形となる。そっちも蹴りをつけるとするか。

 

 結果待ちの最中、使われていない部屋にツギとハギを呼び出し今朝の一件を簡単に話すと、2人は両極端な反応を見せた。

 見る見るうちに顔を真っ赤にして怒り出したツギと、今にも倒れそうに真っ青な顔のハギ。やはりイジメの事実はソーズには隠したい事の様だ。

 

 「ソーズ君には・・・言ったのですか、私達のしていたことを」

 

 「いや、言わなかった。・・・最初はさ、お前らがソーズさん一人に責任を押し付けてるのかなと考えたんだ」


 「ふざけるなっ、そんなわけねぇだろ!」


 「ああ、僕もお前らの態度を見て違うなと思った。イジメを楽しんでいるんじゃなく、本気でソーズさんのために動いてる気がしたからな・・・それで、お前らは何でこんなことしたんだ?」


 「ソーズ君のためだ!ソーズ君を煩わせるものは全て排除する、邪魔なものは俺らが取り除くんだっ」


 「逆効果だろう」


 今迄はこいつらが上手くやってきたみたいだが、そんなものいつ大事になるかは解らない。その時一番非難され全てを押し付けられるのは、何も知らないソーズだ。どんなに二人が擁護したところで周りはソーズが主犯だと発言するだろう。

 

 「ソーズのため」と言いながら、彼を窮地に立たせる事になるのは時間の問題である。

 ジェノの言葉に頭を抱え唸ったハギは弱弱しく座り「でもっ」とこぼした。


 「私たちなんかがソーズ君の役に立てる方法は・・・こんなことしかありませんっ」


 「・・・本気でそう思っているなら、ソーズさんから離れた方がいい」


 「なんだとっ!」


 「今のやり方は破滅しかない、本当に役立ちたいならもっとよく考えろよ!お前らが何でそんなにあの人のために尽くしたいのかは知らないけど、巻き添えにしたくないなら・・・不幸にしたくないのなら、正攻法で役に立て!」


 言いたいことを言ったジェノは俯いた二人を残し部屋を出る。結果待ちをしている子供達の間を抜け、スフレの隣に腰を下ろした。

 おそらく彼らの報復はないだろう。ソーズにばれるのを恐れている二人は何もしてこられないはずだ。

 

 「それにしても・・・色々な人間関係があるんだなー」

 子供の世界であれほどの忠誠心があるとは本当に驚きだ。

 スフレにもたれかかって目を閉じると疲れていたのか、いつの間にか眠りへ落ちていった。



 「うっわ、一点差!」

 子供たちが見守る中デカデカと張り出された順位表は周りの予想を裏切る結果となった。


 一位  ジェノ・モーズリスト  489点 (11歳)


 二位  ソーズ・パローニャ   488点 (12歳)


 三位  スフレ         486点 (11歳)



 ざわつく子供達の視線が集まる中、歯を噛み締めたツギハギとは対照的に笑みを浮かべているソーズが見え、ジェノはやれやれと首を振る。


 帰り際、誰もいないのを確認し声をかけると「モーズリストに負けたのは悔しいが、確実に差は縮まっていると実感できたから今はこれでいい」とニヒルな笑顔で握手を求められた。


 「前回あったあの差をもう埋めるなんてどれだけ勉強したんですか、恐い人ですね」


 「努力は人を裏切らないからな、また機会があったら競おうぜ」


 手を振って去っていく姿を眺め、噂と違って清々しい少年だったなぁとしみじみ思った。話してみないと他人なんてわからないものだよね。

 

 玄関先でこの七日間を振り返ってみると、もの凄く長かったようなあっという間だったような不思議な感覚がジェノを襲いスフレの方を向く。

 もうすぐ迎えがやってくる・・・そうしたらスフレとはお別れだ。


 「ジェーのんスフレの恩人、ずっと恩返しするからまた会う」


 「それはもういいんだけど・・・絶対また会おうな」


 彼がいたおかげでこの合宿は乗り切れたと言える。

 僕ひとりであの集団を相手にしていたら体力が持たなかった・・・スフレには何度も助けられたなぁ。よくわかんない奴だったけど、すっごく楽しかった!

 マリーテアが迎えに来るのが遠目に見え、ジェノは家の住所を書いたメモを「機会があったら遊びに来て」と渡し、固くスフレと握手をする。


 「スフレ、ありがとう。元気でな!」


 乗り込んだ馬車からみた合宿所は夕日に染まり、まるで真っ赤に燃えているように存在感を放つ。これで七日間のドタバタした合宿が終わりを迎え、ジェノはその光景を目に焼き付けながら見えなくなるまで大きくスフレに手を振り続けた。

 


 「楽しかったようですね、坊ちゃん」


 「うん・・・色々詰まってたよ。家の方はどう、かわりない?」


 約一週間振りに見るマリーテアは優しく「良かったですね。こちらは問題ありませんよ」と答えた。


 「ただ・・・だいぶ先の話になるのですが、旦那様が・・・」


 「メロスが何?」


 「舞踏会に出席することになりまして、ジェノ坊ちゃんも一緒に出るようにと」


 「へえー 珍しいね・・・・・・はあ!?」


 今なんて言った?僕も舞踏会に出ろ!?

 即座に「嫌だ!」と反抗するが「決定事項です」と取り合ってくれず、勝手に話が進んでいく。


 「まだ半年も先ですから心の準備は大丈夫ですよ・・・ただ、一応正装をしないといけないそうなので――」

 

 マリーテアは形のいい唇を綺麗に上げて微笑んだ。


 「ドレスを仕立てましょうね、坊ちゃん」


 

色々書ききれなかった部分もありますので、いつか番外編などで書くかもしれません。

次回『ジェノ舞踏会に行く』の巻、です。


お読みくださり、ありがとうございました。

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