20 男子塾生徒
第三者目線でのお話です。
合宿の知らせを聞いたときは胸が躍った。
いつもと違う環境にドキドキしたし、一週間も親元を離れて友達と生活できるなんてとても楽しみだった。
しかし、それと同じくらい不安もある。仲のいい子だけならいいが、そうでない連中も勿論同行するからだ。
「何にも起こらないといいよね。」
肩ほどで揺れるこげ茶色の髪に見とれながら、「大丈夫さ!」と俺は笑顔で拳をつくった。
不安なんて見せられない、頼りになるって思われたい!
好きな子の前で格好つけながら、内心のビクビクがばれやしないだろうかと冷や汗を搔く。最近やっと話せるようになった二つ年下の可愛い少女。
頼むから彼女の前で俺に絡んだりしないでくれよ・・・ 一週間、本当に何事も無ければいいなぁ。
リーンリーンと鐘を鳴らしながらガタガタと揺れる汽車に乗り、予定よりも早く合宿所に到着すると、玄関前には講師の面々が既に待機しており室内に案内される。
塾外で先生たちに会うのって変な感じがするな、落ち着かない。
こういった合宿は二年ほど今の塾に通っているが初めての事で、別大陸のやり方を近年取り入れ始めたらしい。
徐々に集まりはじめた人影を見回し、仲のいい友達や愛しのララちゃんを探した。だがまだ着いていないようで、逆に会いたくない相手を見つけてしまう。
もしかしたら欠席してくれるかも、という淡い期待は早々に打ち砕かれ、俺は「げぇ」と唸り声を上げた。
おっと聞かれたらまずいな、 あぶないあぶない。
ソーズ・パローニャ。
とその取り巻きの成金2人に金魚の糞3人は朝から騒がしく、周りは近づかないように一定の距離を意識してとっている。
まだ2人ほど到着していないようだが・・・相変わらず大人数で固まりやがって!ひとりで行動しろよな、そうしたら別に逃げる必要もないのに。
少ししてグループ全員が揃い、騒ぎながら一階ロビーへと入って行った。
同い年の面子とは同室になる可能性が高く、一日中一緒の生活は何としても避けたい。『一部屋10人』で、俺等の学年は30人が参加・・・つまり三分の一の確率で地獄。
神様お願いします。あいつらと同室になりませんように!そしてララちゃんとお近づきになれますように。
その願いが通じたのか、部屋は金魚の糞のうち3人が一緒なだけで、他とは別れられた。
問題なのはソーズと、彼と同じ成金の2人だけであとは大した事がないのだ。
強い者の傍にいることで自分も強くなった気でいる勘違いバカ。上の成金3人組がいなければ何にも出来ない下っ端である。
はあぁ~ 良かった。
ソーズと同じ部屋になった友人のマイクは嘆いていたが、一週間の我慢だ。
検討を祈る!
しかし合宿一日目の朝、事態を揺るがす大問題が起こった。
「あの子かっこいい」と、愛しのララちゃんが他の男子を見て友達と騒いでいたのだ!
か、かっこいいだとっ、誰だあれは!?
講師陣の自己紹介を真面目に聞いている見知らぬ少年。間違いなくこの塾に通っている者ではない、外部生だ。
艶やかな黒髪に濡れた様な漆黒の大きな瞳。
意志の強そうな口元はクールそうだが、その左下にある黒子が印象を和らげている。
モノトーンでまとめられた服装はよく少年に似合っており、他より数段大人びた印象だ。
ぐっ・・・確かに今まで見たこと無いタイプの整ったやつだな。ちらちらと目線を送る女子に見向きもせずに食堂に入る姿は忌々しい。
「すかしやがって」そう僻む男子たちの気持ちはわかる。ああ、痛いほどわかるさ・・・俺もモテたい!
そう拳を握りしめた瞬間、目の前を真っ黒いモノが通り過ぎた。
「―――っ!?」
なんだぁありゃあ!真っ黒い生物がいるぞ!?
よく見ると黒いのは包帯で、余すことなく体に巻いた生物はおもむろに石を取り出し、齧り付いた。
うぎゃぁぁああっ、化け物だあ!!
「ミイラだっ」
「黒いミイラ!?」
「透明人間かもしれないぞ。」
「何で石?」
ざわつく子供達は怖がりながらも興味深々の様子で盛り上がっている。
ドア付近を振り返ると、大きな目を更に見開いた、驚いた顔もヤバいくらい可愛いララちゃんが立っていた。
怖いのかな?俺も怖いっ!
しかしここは男らしさをみせるチャーンス!
「俺が君を守ってみせる」そんな言葉で好感度を上げようと近づくが、直前で「あの黒髪の子いるよ、行こ!」とはしゃいだ女友達に誘われ擦れ違ってしまう。
なっ、なんという邪魔を!しかも黒髪だと?
キャアキャアと女子同士で顔を赤らめている姿はまさに天使の様だが、その視線の先・・・部屋の隅が憎くて仕方がなかった。
まさか合宿早々に心を波立たせる事態が起こるとは予想しておらず、一旦落ち着くように自身に言い聞かす。他にもやっかいごとが転がっているんだ、焦ってはいけない!
教室に向かう廊下の途中、数M先を歩く三人に気付かれないよう聞き耳を立てた。
「夏休みは島へバカンスに行ったそうですよ。父がとある筋から聞いたんです」
「島かぁ、さぞ優雅な休暇を過ごされたんでしょうなぁ」
「ああ、俺達が考えも付かないような素晴らしいものだろう・・・知っているか?あの方に付き添う事が許される人間は限られているんだ。生涯で一度でも関わり合いになれたら、俺は本望だな」
「いつか一緒に同行出来るといいですよね。私達は全力で応援しますよ、ソーズ君」
うっとりとしたソーズと、その取り巻きである成金のツギとハギの会話は『ある人物』の話題が中心だ。普段しかめっ面のソーズがここまで生き生きしているということは・・・
おそらく我が国の第三王子 カルシェンツ・ゼールディグシュ様の話だろう。
相変わらず大ファンなんだな、わざわざプライベートな情報を仕入れてくるなんて、追っかけって怖い。
自分よりも年下の少年に心酔するソーズは言わずも知れたイジメっ子のリーダーで、気付いた時には既に塾を牛耳っており、逆らった者は追い出し弱い者は虐げる奴だと聞く。
普段は両端にいるキツネ目のツギと、青縁眼鏡をかけたハギが完全な手足と化し、率先して問題を起こしているのだ。ツギ・マッケンとハギ・サンジェルは忠実なソーズの『剣と盾』だと、マイクが言っていた。
バラバラな学校なのに塾に入る前から三人は行動を共にしているらしく、固い絆があるようだ。
俺は直接ソーズと話した事はないが、やはり彼が絶対に関わり合いたくない奴№1だろう。
そんなソーズが熱狂的なカルシェンツ様信者なのは有名で、塾内でカルシェンツ様を知らない者がいなくなったほどだ。塾内で回ってくる数々の偉業の噂は驚きの連続で、俺もかなりカルシェンツ様について詳しくなってしまった。
憧れる気持ちは、とてもよくわかる・・・他者への強き想いというのは、なかなか自分では操れない代物だからな。
授業だけは真面目に受けるイジメっ子トリオを後ろから眺め、勉強が全く手についていない自分に溜息が出る。頭に浮かぶのは黒板に書かれた数式の答えではなく、花の様に可憐な少女の顔ばかりだ。
ああ、何故二つも歳が違うのだろう、同じ教室で授業を受けたい。そうしたらいい所を見せるために勉強だって頑張るのに・・・運命って残酷だよな。
――いや、諦めては駄目だぞ俺、『運命は変え、宿命は打ち破るものだ』とカルシェンツ王子が7歳の時に新聞で仰っていたと、ソーズが自慢げに言っていた。
我が国の偉人の言葉を胸に、何度でも立ち上がろう。
こうして5時間の授業は、何もせずに潰れていった。
我が愛しのララちゃんと出会ったのは半年前、友人のマイクに塾に通い始めたばかりの彼女を男子トイレの前で紹介された時だ。場所が場所だからか慣れない塾に緊張していたのか、もじもじと俯きながら自己紹介する姿はこの世の者とは思えない可愛らしさだった。
彼女の瞳に映りたい、とにかくお近づきになりたいその一心でこの半年間努力してきたというのに・・・
何なんだあいつはっ!
丸く大きな瞳が見つめる先を辿ると、高い確率でそこにいる黒髪の少年。嫉妬の炎が燃え上がり、ふらりと身体が勝手に動いた。
女子が騒ぐだけあって確かに外見はいいが、絶世の美少年というわけじゃない。「独特な雰囲気が良い!」と同年の女子も話していたが、そういう奴は大抵中身は大した事ないって決まってるんだ。
まぁ根拠はないけど、そうじゃなきゃ平凡な奴が浮かばれないだろう!
俺みたいなのが可哀想だ・・・外も中も凄いのは王子様だけで充分です。
「そこ空いてる?」リスの様に食べ物を頬張った少年は黒目をパチクリさせながらコクコクと頷いた。
「塾生なんですよね、合宿っていつもこういった感じですか?」こっちの年齢を聞いてすぐ敬語になり、『塾』に興味があるのか丁寧な口調で質問してくる。誰かと話している姿を一切見ていなかったし、近寄りがたい雰囲気があったからもっと警戒されるかと踏んでいたが、会話した印象は割と穏やかでのんびりとしていた。
目つきが鋭いだけで普通に礼儀正しいな。
普段年下でも敬語を使われたりしないため、変にむず痒い。
しかし後ろからの熱視線に姿勢を正し、もっとこのライバルの情報を得ねばと向き直る。
「学校どこ?」
「通ってないです」
お、これはマイナスポイントか?
少年は勉強面でかなり遅れをとっているかもしれない。それであの子の少年への興味が無くなれば喜ばしいが、それよりも「顔が良く」「注目を集め」「学校に通っていない」とは・・・かっこうのイジメのターゲットになるぞ、こいつ。
敵に塩を送るわけじゃないが、俺の好敵手があいつらに潰されるのはなんか面白くないし、あいつらが俺はとにかく嫌いだ。
しかし情けをかけた直後に少年が『貴族』だと発覚し、俺は地に落とされ一人項垂れた。
だから敬語がこんなに板についてて、一人ぼっちでも堂々としていたのか・・・何故学校に通っていないかは解らないがそんなことはどうでもいい。
恨むぜ神様、ライバルが手ごわすぎるだろう!
一通りソーズ達について説明すると、「ソーズって人が主犯なんですか?彼が全て指示を?」と黒々とした大きな瞳が覗き込んで来て「多分そうだ」と身を引いて答える。
なんか吸い込まれそうな瞳だなぁ、目力が半端じゃない。
「多分って・・・皆彼に嫌な事されたから恐がっているんじゃないのですか、お友達に水をかけたのはソーズって人で間違いはない?」
「え、いや・・・ソーズグループにかけられたとしか。でも奴が頭だぜ」
「ふむ、話を聞く限りだとソーズ本人に直接何かされた者はおらず、イジメの実行は取り巻き達のみで行われ皆怯えている・・・という事ですね。」
「あ、ああ」 顎に手を当てぼんやりと考え出した少年はしきりに頭を捻り、ソーズ達が離れすぎていてよく見えないのか目を細めている。
「なんなんだよ、気にするところあったか?」
「いえ・・・一番の恐怖の対象らしきソーズという人の、人物像が見えてこないので」
はあ?なに言ってんだ。ソーズはイジメの主犯で嫌な悪い奴だろう、それ以外何がある。
突如驚くほど速い牛乳の一気飲みをはじめた少年は瓶を机に置くと満足そうに微笑んで言った。
「彼が全ての指示を出し、高みの見物をしている」
「おう」
「その逆もある」
「はあ?」ゆっくりと席を立ち、トレイを手にした少年は「僕ミステリー小説を愛読していまして、可能性の話です」そうこぼすと、お礼を言って去って行った。
話してみた少年の印象は『貴族で学校に行っていない変な奴』だ。
うーむ、よくわかんないなぁ。
自分もさっさと片付けてしまおうと立ち上がり、入り口に向かう途中・・・異様な気配が右側から漂ってきた。
テーブルの上に石を積み、更にその上で逆立ちしている黒い生物が視界に入り、足早に立ち去る。
・・・うむ、見なかったことにしよう。
一日目の最後、全体で行われるテストは予想通り散々な出来だったが、「聞きたいことがあるの」とララちゃんに話しかけられた瞬間、眠気も吹っ飛び人生最大の歓喜が俺を襲う。
人気のない自販機奥のスペース、観葉植物で二人の姿は外から隠れて見えないだろう。世界に二人きりになった感覚が俺を支配し、「どうしたっていうんだい?」と無駄にダンディーに問いかけてしまった。
柔らかそうな髪を耳にかけ、恥ずかしそうに桃色に染まる頬に唾を飲み込む。
この雰囲気・・・来たんじゃないか?
俺の時代がっ!
「あの、ね」
「は、はいっ!」
汗ばむ手をズボンで拭った直後。
「夕食の時話してた黒髪の子の事、教えてほしいの!」
「・・・・・・」
目の前が真っ暗になるとはこういう事かと、若干12歳にして俺は学ぶ。
出会ってから半年間、初めて彼女から話しかけてきたと思ったら他の男の事とは・・・ 今日の枕はびしょ濡れ確定だな。
「お願い」と可愛らしくおねだりする少女に洗いざらい話し、彼女が満足げに部屋に戻っていった後も、しばらく動けなかった。
大丈夫だ、まだ失恋したわけじゃないし、あれは俺の気を引くためにわざと他の男の話をしたのかもしれない。
うん、そうに決まっている・・・ おのれ黒髪ぃ!!
合宿初日の夜は、静かに泣き濡らしました。
合宿二日目。
早朝に同室のトニーの寝相の悪さに叩き起こされ、侵入された寝床を諦めてトイレに向かうと、ララちゃんが日の光を浴びながらロビーに入って行くのが見えた。昨日の夜は落ち込んでいたが朝から会えたことにテンションが上がり、急ぎ足で後を追う。
やはり希望を捨てちゃいかんな、彼女とはきっと赤い糸で繋がっているんだ!
トニーの寝相の悪さに感謝しながら飛び込んだロビーには既に数名が寛いでいたが、目的のララちゃんはソファに近づき指を組んでもじもじしていた。
・・・おい、ちょっと待て。
ソファの上で丸くなった体に規則正しい呼吸音。
―――なんでお前がそこにいるんだっ!
「わあ、髪サラサラだなぁ」
「ん、ん~・・・」
「あ、起きた?」
「ぅう・・・あれ、ここは」
「ねぇ、どうしてこんな所で寝てるの、大丈夫?」
「あぁ平気、ありがとう」と微笑んだ少年に嬉しそうに笑って、戻ってきたララちゃんは「近くで見ると肌も綺麗で可愛かった」と友達に興奮気味に報告している。
かわいい?まだボーっとしている少年を繁々と眺め、「いや・・・綺麗系じゃないか?」と俺は首を捻る。
そんなことよりララちゃんに起こされるとはなんと羨ましい男だ、くっそー黒髪ぃ!今日から俺もソファで眠ろうかな。
しかし何故こんな所で寝ていたのか、疑問に思いもう一度見遣ると、少年の姿は忽然と消えていた。
――瞬間移動か!?
その後の黒髪少年については驚きの連続であった。
朝食を『黒ミイラ』と仲良さそうに食べ、楽しそうに会話しているのだ。それだけではなく、授業中やそれ以外も殆ど行動を共にし出した事に、全生徒や講師陣までもが驚愕する。
「あいつ・・・しゃべれたのか!」
「え、そこ?」と、マイクに突っ込まれながら近づき、お得意の聞き耳を立てる。
「こっち塩辛、あっち生臭い」
「へぇ、じゃあトイレのタイルは?」
「スースー爽やか」
「舐めたの!?・・・ミント味みたいなものか、石にも色々あるんだなぁ」
「一緒食べる」
「今度なー、試してみるよ。トイレの以外」
・・・・・・一体なんの会話だ。
うむ、聞かなかった事にしよう。
それぞれ目立っていた二人が一つにまとまり、周りは興味深そうに彼等を気にしているが、当の本人達はのんびりと過ごしている。
そんな中、「あいつらが一位と二位だ」という噂が塾生の間で流れだした。俺はどうせ三十位以内に入ってないからと見に行かなかった昨日のテストの順位表。
あの『ソーズ』が一位からまさかの三位に転落した事態は一瞬で塾生徒内を駆け巡り、今合宿内は重くギスギスした空気に包まれていた。
嘘だろう?だって黒ミイラはあんなだし、黒髪少年は学校へ通っていないんだぞ。
顔良し、頭良し、家柄良し・・・最悪だな。
これはグレてもいいだろうか?
『貴族』だと俺がララちゃんに流した情報で「家庭教師をつけてた」と広まり、二人はどんどん孤立していく。
まあ、最初からあいつら孤立してたけどさ。
2人のあまりにもリラックスした態度に金魚の糞達が噛み付き、火花が散り始めた合宿所には緊張が走った。
ソーズが黙っているはずがない。この合宿所はもはや、奴の手で地獄絵と化すかもしれない・・・ララちゃんは必ず俺が守りきってみせる!
でも出来れば絶対そんな事態にならないで下さいお願いします神様。
三日四日と過ぎ、五日目の夜。
かれこれ三度目となる黒髪少年とソーズグループとの修羅場に遭遇。
うぉお、今回は金魚の糞じゃなくてツギとハギがきた!これはヤバいぞぉ。
偶然と言うより、ジェノという少年を目で追っているため見つけてしまうのだが、どうも日が経つにつれてソーズ側が攻撃的になって来ているようだ。おそらく最終日の実力テストで「手を抜け」とジェノ少年に要求しているのだろう、苛立った様子が伝わってくる。
無茶苦茶なこと言うなぁ、そんなので勝って嬉しいのか?
「――だから本人連れてこいよ、話はそれからだ」
「こんなことでソーズ君を煩わせるわけにはいかない」
「だったらその『こんなこと』をのむ必要はないよな、話は終わりか?」
「そんなわけないでしょう、貴方には頷いて貰わなきゃ困ります」
「僕は困らないからな、ソーズ本人と話して八百長に納得ができたら間違えてやるよ」
二人相手に堂々と嫌~な笑みを浮かべて反論する姿は背筋が凍るほど恐ろしいが、もの凄く格好良かった。
俺もあんな風に言い返してみたい、無理だけどね。
ハギが丁寧な言葉遣いで脅しをかけても「ソーズを連れてこい」の一点張りだが、徐々にツギハギの顔色が悪くなっていき不思議に思う。
ソーズが出てきて本格的なイジメになったら、ジェノ少年の方が不利なのではないのか?貴族だから大丈夫なのだろうか?
「僕の方からあんた等のトップに挨拶に行ったっていいんだぜ」
「・・・貴方を一切近づかせはしませんよ。明日また来ます、では」
もっと激しい罵りを予想していたため、すんなり終わったことに拍子抜けする。
何故かジェノ少年の方が優位に見えるのはどうしてだ?よくわからんがさすが俺のライバルだな・・・あまり敵にまわしたくないが。
その後、中庭で黒ミイラから死に物狂いで逃げ惑う金魚の糞達を二階の窓から目撃し、一目散に自室へ戻って布団を被った。
なんだあれはっ!暗闇の中で奴との追いかけっこは間違いなくホラーだ、少年達の悲鳴が耳を離れない。
3日目の夜も突如「光の柱が天に伸びるのを見た」なんて奴が数人出たし、もう怪奇現象は止めてほしい。
俺が強気なのは彼女の前だけなんだ、実際はチキンなんだよ!
11歳の二人組の余裕の態度にいじめっ子連中は苛立ち、合宿内では彼らに憧れを持つ者が増えてきた。俺は黒ミイラは何もわかっていないだけだと思っているが、一部の層から『謎多き黒死人』と名付けられ人気が高い。死人ってイメージ悪い気がするがいいのか?
「今後どちらが先に折れるのか」と賭けをする奴等まで出る始末で、本当に合宿はどうなってしまうんだろう。俺の恋愛も含めて心配だ。
合宿最終日。
ただ傍観するだけで終わりそうな7日目の朝。
ララちゃんとの進展も泣きたくなるほど無く、勉強も一切手に付かなかった事を振り返ると、自分が情けなくて仕方がない。
俺はここに一体何しに来たんだ・・・朝一の実力テストが憂鬱すぎる。そう俯きながらとぼとぼと1階の廊下を歩いていると、横の裏庭から話声が聞こえてきた。
こんな朝早くから誰か庭に出ているのか?
「俺の言いたいことは以上だ」
「・・・なるほど」
小さいがどちらも聞き覚えのある声が徐々に近づき、日に照らされた美しい黒髪が風に靡く。
えっ、ジェノ少年? 相手は・・・
深緑のジャケットを着こなした長身の影がすぐ横を通り過ぎ、息を飲んで身を隠す。
嘘、まじかよ!
「もちろんお礼はする。今日のテスト・・・わかってるな、モーズリスト」
「――はい、わかりました。スフレにもそうするように伝えましょう」
赤い髪から覗く鋭い眼光にジェノ少年は姿勢を正し、相手を見上げてはっきりと言った。
「貴方の要望を受けると・・・お約束しますよ、ソーズさん」
二人が立ち去った後もその場を離れることが出来ずに座り込み、今の会話は一体何だ・・・どうしてあの二人がここに?と混乱しながらも必死で考え、嫌な想像がチラつき天を仰ぐ。
『約束する』とはどういうことなのか。
脳裏をよぎった考えが信じられず頭を振り整理すると、一つの記憶が思い出された。
『ソーズ本人と話して八百長に納得ができたら間違えてやるよ』
―――まさか。
納得・・・・・・出来た、のか?
完全なモブ視点にしたかったので、あえて彼に名前を付けておりません。
ちょっとした息抜きで書きました。
次話では主人公に戻し、『冬季塾合宿編』は最後となる予定です。
ならなかったら誠に申し訳ない・・・(汗
お読みくださり、ありがとうございます。




