Prologue
その夢を、何度見ただろう。
高い壁に囲まれた王城。
外の世界を知らぬまま、私はそこで生きてきた。
――ここは牢獄だ。
誰に言われたわけでもない。
けれど、そう思わずにはいられなかった。
幼い頃、母上が読んでくださった物語。
そこには、王城の外の世界が描かれていた。
人々は笑い、働き、傷つきながらも前へ進んでいた。
そこには“生きている”という確かな証があった。
だが、私は違う。
第一王女として生まれたその日から、
すべては定められていた。
外へ出ることは許されない。
誰かと親しくなることも許されない。
「私」という存在さえ、私のものではない。
ただ、王の意志をなぞるだけの存在。
――まるで、糸で操られた人形だ。
友はいない。
語る相手もいない。
ただ、静寂だけが寄り添っていた。
ある夕暮れ、城の外が騒がしかった。
収穫祭。
実りを祝うその日、人々は夜まで灯を絶やさない。
小さな窓から覗いた景色は、眩しすぎた。
笑い声。
歌声。
誰かと肩を並べる、当たり前の幸福。
胸の奥が、焼けるように痛んだ。
――あそこに、行きたい。
そんな願い、叶うはずもないのに。
「……もしも」
言葉は、誰にも届かず消える。
「もしも、私が姫でなければ――」
その先は、口にしなかった。
口にした瞬間、壊れてしまいそうだったから。
夜。
時計の針が、静かに重なる。
眠れなかった。
理由は分かっている。
――諦めきれなかったからだ。
このまま、何も知らずに終わることが。
静まり返る王城の中、
私は窓を越えた。
初めて触れる夜の空気は、冷たくて、自由だった。
足を進める。
誰にも見つからぬように、息を潜めながら。
やがて門の裏へ辿り着く。
あと一歩。
たった一歩で、すべてが変わる。
そう思った、その時だった。
――背後に、気配。
ゆっくりと、振り返る。
瞬間。
世界が、弾けた。




