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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第28話:『知的財産権の奴隷。あなたの脳が生む価値、すべて帝国が差し押さえますわ』

「……これを、書けと言うのか……ッ!」


 バルディア王立工房。煤煙と静寂が混ざり合う空間で、ショウが震える手で一枚の羊皮紙を握り締めていました。

 それは、わたくしがシエルに作成させた『帝国知的財産保護法・特別適用契約書』。

 

「あら。嫌なことでも書いてありましたかしら? ショウ様」


 わたくしは扇で口元を隠し、潤んだ瞳で彼を見つめました。もちろん、慈悲など一滴も含まれておりません。


「……『今後、被雇用者ショウが発案するあらゆる技術、理論、設計図、および過去に習得したすべての現代知識は、発生と同時に帝国の帰属資産とする』……。これじゃ、俺は考えることさえ許されない、ただの機械じゃないか!」


「お言葉が過ぎますわ。機械はメンテナンスが必要ですが、あなたは自分で食事をし、排泄もなさる。非常にコストパフォーマンスに優れた『生きた図面集』ですわ」


 ショウが椅子を蹴り飛ばして立ち上がりました。

 

「ふざけるな! 俺の脳の中にある知識は、俺だけのものだ! 現代の、俺たちの世界の遺産なんだよ! それをお前みたいな、数字しか見ない女に奪われてたまるか!」


「……シエル」


 わたくしの冷たい一言に、シエルが影から滑り出し、ショウの胸ぐらを掴んで、彼を工房の壁に叩きつけました。

 ガシャリ、と床に落ちたのは、ショウが懐に隠し持っていた、何枚もの薄い金属板。


「……っ!?」


「ショウ様。わたくしが、あなたの『隠し資産』に気づかないとお思いで? ……『反魔力粒子の安定供給に関する設計指針』。そして……『魔法消失下における簡易爆薬の配合比』。……なかなかに物騒な落書きですわね」


 わたくしはシエルが拾い上げた金属板を、指先で軽くなぞりました。


「これらは、あなたが帝国への負債を返済するために申告すべき『無形資産』ですわ。それを隠匿し、帝都の暴徒たちに流そうとしていた……。これは立派な『資産隠匿罪』であり、帝国への『背任行為』ですわよ?」


「……俺は……俺はただ、魔法を、俺たちの技術を取り戻したかっただけだ……!」


「技術を取り戻す? いいえ、あなたは『混乱』を売って『覇権』を買おうとしただけですわ。……ですが残念。あなたが暴徒に流した『改良型』の配合……。シエルが事前に、中身を少しだけ書き換えておきましたの」


 ショウの瞳が、驚愕に大きく見開かれました。


「な……書き換えた……? どこをだ!?」


「ふふ。それはもうすぐ、帝都の空が教えてくれますわ。……さて、ショウ様。改めて伺いますわね。……この契約書にサインをして、帝国の『管理資産』として一生を全うするか。それとも、ここで『不良在庫』として処分されるか。……どちらがお得かしら?」


 ショウは、もはや反論する言葉を持ちませんでした。

 彼が誇っていた現代知識は、エレノラの「契約」と「監視」という檻の中で、彼自身を縛るための鎖に変わったのです。


 震える手でペンを握り、彼が署名を終えた瞬間。

 

 ――ドォォォォォンッ!!


 遠く、帝都の方角から、空気を揺らす不気味な重低音が響いてきました。

 窓の外を見れば、夜の帝都を照らすのは、魔法の光ではなく……どす黒い赤色を帯びた、禍々しい火柱。


「……あら。予定より少し早いですわね」


「……何が起きてるんだ? あの爆発は……まさか、俺の配合……」


「いいえ。ショウ様。……あれは、あなたの『中途半端な知識』を盗み出した、ある欲深い女性の『宣伝活動プロモーション』の結果ですわ」


 帝都・中央広場。

 燃え盛る火の手の中、ボロボロの聖女服を纏ったリリアナが、狂ったような笑みを浮かべて暴徒たちの中心に立っていました。


「見たか! これが、魔法を取り戻す力よ! エレノラが独占していた光を、わたくしが皆に返してあげたわ! さあ、帝国を、あの魔女を焼き払うのよ!」


 彼女の手には、ショウの工房から盗み出したはずの「改良型燃料」の瓶。

 だが、彼女は気づいていなかった。

 その燃料が、空気に触れて一定時間が経過すると、周囲のマナを吸収して『暴走する爆薬』に変わるように、エレノラが密かに細工を施していたことを。


「熱い……? なんで……わたくしの手が、燃えて……ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 救世主を気取っていたリリアナの叫びが、帝都の夜に響き渡りました。

 暴徒たちは、希望の光だと思っていたものが自分たちを焼き尽くす業火に変わったことに気づき、パニックに陥り、共倒れになっていきます。


 わたくしは、遠くで燃える帝都の空を、馬車の中から冷ややかに眺めました。


「……シエル。暴動によるインフラの損傷、およびリリアナ様による公物損害の請求書、今のうちに作成しておきなさい。……それと、ショウ様」


 わたくしは、ぐったりと項垂れるショウの顎を、扇の先でクイと持ち上げました。


「あなたの『知識』が、どれほど多くの人を不幸にする『負債』であるか、これでよく分かりましたわね? ……これからはわたくしの下で、精々、その負債を清算するために『人の役に立つ数字』を弾き出しなさいな」


 準備は、すべて整いましたわ。

 リリアナ様。自らの無知という名の火で、自分を焼き尽くす気分はいかがかしら?

 

 帝都の炎は、私の「新帝国」を浄化するための、ただの『償却費用』に過ぎませんのよ。

お読みいただきありがとうございます。

「あなたの脳は、もう帝国の資産です」。

現代知識という「個人の武器」を、特許法という「社会のシステム」で奪い去るエレノラ様、いかがでしたでしょうか。


ショウはついに「生きた図面集」へと堕ち、リリアナ様は盗んだ知識で文字通り「自爆」してしまいました。

「救世主」を気取って暴徒を煽った報いが、自分を焼き尽くす炎となる……これぞ高純度な「ざまぁ」ですわね。


しかし、帝都の火災はまだ収まりません。

魔法が使えない中で、この大火をどう鎮めるのか?

エレノラ様が用意していた「物理的な消防システム」と、新聖女セレスティーヌが放つ「魔法なき世界の奇跡」とは。


「リリアナの絶叫をもっと詳しく!」

「ショウの特許奴隷生活が楽しみ!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、リリアナ様への「損害賠償請求額」をさらに吊り上げますわ!


次回、第29話は『不換紙幣の恐怖。神の加護が消えた国の、一晩のハイパーインフレ』。

混乱を極める世界で、エレノラ様が「経済の神」として君臨する瞬間を、どうぞお楽しみに!

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