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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第27話:『ショウ様、あなたの発明した「蒸気機関」は、わたくしの石炭(エネルギー)がなければただの鉄屑ですの』

「……石炭が、届かない……?」


 バルディア王立工房の薄暗い一角で、ショウは呆然と呟きました。

 彼の目の前には、世界を塗り替えるはずだった巨大な蒸気機関。だが、その燃焼室は冷え切り、鉄の肺は吐息ひとつ漏らしません。


「そうですわ。正確には、あなたの工房へ続く『唯一の私道』を、物流ギルドが封鎖いたしましたの。……理由は簡単、ショウ様。あなたが手配した運送業者が、帝国の関税を滞納していたからですわよ?」


 わたくし――エレノラは、扇で口元を隠しながら、煤けた床を汚さぬよう優雅に歩み寄りました。

 ショウは血走った目でわたくしを睨みつけ、鉄のレバーを力任せに叩きます。


「ふざけるな! 関税なんて、俺がバルディア王に頼めば免除されるはずだ! 石炭さえあれば、この機関が動く。動けば鉄道が走り、物流なんて一瞬で帝国の管理を上書きできるんだよ!」


「あら、バルディア王? ……ああ、あの方は今、帝国の銀行から借り入れた『緊急食糧融資』の担保として、王宮の私財をリストアップするのに忙しくてよ。……あの方にとって、動かない鉄の塊よりも、今日届くパンの方が価値がある。ただそれだけのことですわ」


 わたくしは、シエルが差し出した漆黒の帳簿を開きました。


「ショウ様、あなたの計算には決定的な不純物が混ざっていますわ。……それは『エネルギーの独占』という観点です。……シエル、北方のタナトス炭鉱の現状を」


「はい。昨日付で、全採掘権が『エレノラ投資商会』へ正式に移転。あわせて、周辺の炭鉱労働者ギルドとも独占的な雇用契約を締結いたしました。……現在、エレノラ様の許可なく石炭を掘り出し、運搬できる者はこの大陸に一人もおりません」


 シエルの事務的な報告が、工房の静寂を切り裂きました。

 ショウの顔から、急速に色が失われていきます。


「独占……採掘権を、買い取った……? まさか、魔法が消える前からか?」


「ふふ、驚くことではなくてよ。魔法という不安定な力に頼る世界において、石炭のような『不純物の多い燃料』は見向きもされていませんでしたわ。……だからこそ、わたくしは二束三文でそれらを買い叩き、寝かせておいた。……投資家にとって、他人がゴミと呼ぶものの中にこそ、未来の覇権は眠っているものですの」


 わたくしは、動かぬ蒸気機関のピストンに、絹の手袋をはめた指で触れました。


「熱効率、圧力、出力。……あなたの語る『物理』は美しいですわね。ですが、その美しい数式を動かすためには、わたくしの石炭が必要。……そして、その石炭一袋の価格は、わたくしの匙加減一つで金貨一万枚にも、ただの石ころにもなりますのよ?」


「……っ、この、金の亡者が……!」


「褒め言葉として受け取っておきますわ。……さあ、ショウ様。無意味な抵抗は時間の無駄(コストの浪費)ですわ。……あなたが今日からすべきことは、この鉄屑を動かすことではありません。……『魔法なしでも帝国の通信網を維持する、機械式計算機の設計』。それを完成させなさい。……一日の遅れにつき、あなたのバルディア王への負債を金貨千枚ずつ加算させていただきますわ」


 ショウは、自分の発明した機関に縋るように膝をつきました。

 現代の知識があっても、それを支える『血液』を止められれば、文明など一晩で腐り落ちるただの死体。彼はその残酷な真理を、今、骨の髄まで理解したはずです。


「……エレノラ様、急報です」


 シエルが、窓の外を指し示しました。

 魔法が消え、夜の闇に沈んだはずの帝都の空。……そこから、不気味な紫色の火花が散っています。


「旧アルテマ王国の残党、並びに教会の過激派が、市民を煽って暴動を開始しました。……『エレノラが魔法を盗み、富を独占した』とのデマを流布している模様です」


 あら。

 せっかく新紙幣で市場を安定させたというのに、まだ『感情』という名の非合理的なノイズを撒き散らす不届き者がいるようですわね。


「……シエル、準備をなさい。……暴動? 結構ですわ。……彼らが手に持つ『松明』の燃料すら、わたくしの帳簿から支払われているということを、物理的に教えて差し上げましょう」


 わたくしは扇を閉じ、闇を照らす紫の火花を冷ややかに見据えました。

 理屈で勝てぬなら、次は暴力で。……ですが、暴力こそが最も高くつく『解決策』であることを、彼らはまだ知らないようですわ。


 準備は、すべて整いましたわ。

 不平不満を言う口があるなら、わたくしのために利益を生むまで働かせて差し上げますわよ。

お読みいただきありがとうございます。

「技術はあっても、燃料がない」。

理系転生者が最も恐れるサプライチェーンの遮断によって、ショウを完全に「帝国の歯車」へと変えたエレノラ様。

「物理法則は美しいけれど、石炭の価格はわたくしが決める」という圧倒的なパワーワード、いかがでしたでしょうか。


魔法が消え、物理が支配する世界になったからこそ、エレノラ様の「独占」はより盤石なものとなりました。

しかし、そんな彼女を「魔女」と呼んで引きずり下ろそうとする、旧王国組と教会の悪あがき。

紫色の怪しい火花は、リリアナがショウから盗み出した「あるもの」の予兆なのか……?


「ショウの絶望顔がもっと見たい!」

「暴徒たちを一瞬で『清算』してほしい!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の応援が、エレノラ様の「石炭の時価」をさらに吊り上げる魔力になりますの。


次回、第28話は『知的財産権の奴隷。あなたの脳が生む価値、すべて帝国が差し押さえますわ』。

暴動の裏で蠢く、リリアナ様の「最後の賭け」を粉砕いたしますわよ。

お楽しみに!

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