表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/30

第21話:『地下牢の「真の聖女」。あなたに神以上の価値(プライス)をつけて差し上げますわ』

カビ臭い地下牢に、魔法の灯火ランプの淡い光が差し込みました。

 そこは、祈りの場というよりは、高価な道具を保管するための『金庫』。壁には音を遮断する結界が張られ、空気は停滞し、絶望の色に染まっておりました。


 魔法の鎖に繋がれた少女――セレスティーヌ様は、私の足音に肩を震わせ、力なく顔を上げました。


「……また、新しい『徴収』ですか? 私の祈りは、もう……これ以上は、出ません……」


 その声は、掠れた枯れ葉のようでしたわ。

 彼女を縛っているのは、単なる鉄の鎖ではありません。『神の愛』という名の呪縛、そして『聖女の義務』という名の、際限のない搾取。

 私は、その鎖の継ぎ目を扇で軽く叩き、吐き捨てるように笑いました。


「あら。徴収だなんて、そんな無粋なことはいたしませんわ。……わたくしはただ、この部屋の『資産価値』が、正しく運用されていないことが我慢ならないだけですの」


「……資産、価値……?」


 セレスティーヌ様が、不思議そうに瞬きました。

 私は彼女の前に跪き、彼女の頬にこびりついた汚れを、絹のハンカチで優雅に拭い去りました。


「ええ。教皇庁は、あなたの『奇跡』を免罪符という名のゴミに変えて、自分たちの私腹を肥やすために浪費しました。……これは、経営者として万死に値する愚行ですわ」


 私は立ち上がり、背後に控えていたシエルに合図を送りました。

 シエルが懐から取り出したのは、枢機卿ガラッゾの署名と、帝国の公印が押された一枚の『債権譲渡通知書』。


「セレスティーヌ様。本日、聖教会は帝国に対して多額の『不当利得返還債務』を負いました。……現金での支払いが不可能なため、教会の全資産を帝国が差し押さえます。……当然、この地下牢も、そこに繋がれた『あなた』も、すべてわたくしの管理下に置かれますわ」


「わ、私を……買うというのですか? また、私をどこかへ閉じ込めて、奇跡を搾り取るのですか……?」


 セレスティーヌ様の瞳に、怯えの色が走りました。

 無理もありませんわね。彼女にとって、外の世界は自分を利用する者しかいない場所だったのでしょうから。


「ふふ、買い叩くのは得意ですけれど、『閉じ込める』のはわたくしの主義ではありませんわ。……維持費コストがかかるだけですもの」


 私はシエルに命じ、魔法の鎖を断ち切らせました。

 バキリ、と。

 教会の権威を象徴していた鎖が、ただの鉄屑となって床に転がります。


「自由になさい、とは申し上げませんわ。……わたくしが提示するのは、『契約』です。セレスティーヌ様、あなたはこれから帝国の『公共衛生顧問』として、その力を振るっていただきます。……祈る必要はございません。これは『高付加価値な浄化サービス』という名の仕事ビジネスですわ」


「仕事……? 祈りではなく、仕事……?」


「ええ。あなたの力で、枯れた大地を潤し、病める民を癒やす。……ただし、それは『神の慈悲』としてではなく、帝国の『インフラ整備』として提供されます。対価として、あなたには正当な給与と、誰にも侵されない聖域、そして……あなたの力を『商品』としてブランド化する権利を差し上げますわ」


 私は彼女の細い手を取り、ゆっくりと立ち上がらせました。

 彼女は戸惑いながらも、私の手に導かれ、地下牢の出口へと歩き出しました。


 地下階段を上り、大聖堂の重厚な扉を開け放った瞬間。

 そこには、朝の眩い陽光と、騒がしいほどに活気あふれる帝都の街並みが広がっていました。


「さあ、ご覧なさい。……教会が『隠していた』奇跡を、わたくしが『市場マーケット』へと解放して差し上げますわ」


 広場には、すでにエレノラ商会の号令で集まった民衆と、帝国の官吏たちが並んでおりました。

 私は、怯えるセレスティーヌ様を優しく、だが力強く前へと押し出しました。


「皆様! 本日、聖教会という名の『仲介業者』は破産いたしました! これからは、このセレスティーヌ様が、適正な価格と透明な手続きの下、皆様に真の『奇跡サービス』をお届けいたします!」


 わっと、地鳴りのような歓声が上がりました。

 人々は、これまで自分たちを脅してきた『神の罰』から解放され、目の前の美しくも儚げな聖女に、新しい時代の希望を見たのです。


 ……一方、その光景を。

 帝都の片隅、見世物小屋の裏で。

 かつての婚約者、セドリック殿下が、泥のついたパンをかじりながら、呆然と見上げておりました。


「あ……あ……。あれが、本物の、聖女……? リリアナの力とは、まるで違う……。エレノラ、お前は……あんなものまで、手に入れたのか……」


 彼の隣で、髪を振り乱したリリアナ様が、狂ったように叫びました。


「嘘よ! あれはわたくしのポジションよ! わたくしがヒロインのはずなのに! どうして、あの女が世界を支配しているのよ!」


 ……あら。

 まだ叫ぶ元気があるようですわね。

 ですが、あなたたちの『価値』は、すでに市場ではマイナス。

 せいぜい、帝国の底辺で、わたくしが作り上げた新世界の『格差』を、特等席で眺めていなさいな。


 私は、隣に立つアラリック皇帝陛下を仰ぎ見ました。

 陛下は満足げに頷き、私の肩を抱き寄せました。


「……見事だ、エレノラ。神の代弁者を自称する者たちから、神の力そのものを奪い取るとはな」


「奪ったのではありませんわ、陛下。……ただ、適切な持ち主の元へ、『再配置』しただけですわ」


 準備は、すべて整いましたわ。

 セレスティーヌ様という最強の『商品』を得て、帝国の経済圏は大陸全土へと広がります。

 神様。

 あなたの娘は、今日からわたくしの『筆頭株主』ですわ。


 ですが、この熱狂の裏で。

 隣国のバルディア王国では、理系転生者ショウが、私の放った『特許網』を掻い潜るための、禁断の知識に手を染めようとしておりました。


「……ふん。経済だか何だか知らないが、所詮は紙の上の遊びだ。……この世界の『魔力』そのものを破壊する武器を作れば、お前の帳簿なんて、一瞬で消し飛ぶんだよ、エレノラ!」


 どうやら、次の『不良債権』が、また自ら価値を下げに来たようですわね。

お読みいただきありがとうございます。

「奇跡をインフラとして再定義する」。

本物の聖女セレスティーヌを「救済」ではなく「プロデュース」するエレノラ様、いかがでしたでしょうか。


地下牢の暗闇から、帝都の光の中へ。

セレスティーヌ様が新しい一歩を踏み出した一方で、スラムに落ちた旧王国組の惨めさも加速しておりますわ。

「愛」や「ヒロイン」という言葉に縋るリリアナ様に、もう居場所はございませんの。


ですが、物語はここからさらに激しさを増します。

追い詰められた理系転生者ショウが、ついに「魔力そのものを破壊する」という、世界の根幹を揺るがす禁じ手に……?

知略と技術、そして魔法のすべてを賭けた、次なる清算劇。


「続きが気になる!」「エレノラ様の次の手が見たい!」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします!

皆様の応援が、エレノラ様の「帝国新紙幣」の流通量を増やしますわ。


次回、第22話は『聖女セレスティーヌの初仕事。教会の「裏帳簿」を奇跡で暴きなさいな』。

真の聖女の力が、教会の隠し財産を白日の下に晒す「最強の監査ツール」へと変わる瞬間を、どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ