エリザベスとアリシアの対峙――信念が交錯する廃墟
「エリザベス様、私の後ろに隠れていて下さい」
トーマスはそう言うと、石造りの廃屋の階段を、エリザベスを庇うようにして注意深く昇っていった。
壁が崩れた二階にエリザベス達が来ると、肩に剣を担いだ女剣士が待っていた。後ろには、カリストがうつ伏せに倒れている。
「来るのが、少し遅いんじゃないの? 早くしないと、ここに転がっているじいさん、死んじまうよ?」
と女剣士は、薄笑いを浮かべながら挑発した。トーマスは
「いい加減にしろよ、お前! ……近衛兵として聖職者を斬った罪で拘束させてもらう。だが、抵抗するのなら――この場で死をもって断罪させてもらう!」
と警告した。女剣士は肩をすくめ、首を振った。そして冷めた目でエリザベスたちを見て言った。
「そんなこと言われてもねぇ……敵に補助魔法を使うなら、聖職者でも敵でしょ」
エリザベスは
「……交渉させて下さい。カリスト様をお助けできるのであれば、こちらができることであれば、何でもします。条件を言って下さい」
と理解を得ようとした。すると、女剣士は間髪入れずに
「撤退してもらいたい。そして、ヴァルディス公国への正式な通行証を用意してもらおう」
と言いながら、女剣士は不敵な笑みを浮かべた。
「――と言いたいところだけどさ。あの大司教が復活しちゃうと、アンタらも戦わないと異端者ってことになるんでしょ? そうなったら、お互い戦うしかないよね」
確かにカリスト様を助けると、どちらかが死ぬまで戦うことになる。最近の強引な態度にも疑念がよぎる。それでも――血にまみれた、お労しい姿を見れば、あの人が巫女としての私に何を教えてくれたか、思い出さずにはいられない。エリザベスは唇を噛みながら
「……その点については、否定しません」
と極力冷静に見えるように喋った。女剣士は
「だったら、復活させるわけにはいかないね! どうしても助けたきゃ、実力行使できな!」
と剣を構えながら、叫んだ。トーマスは女剣士の動きを注視しながら、
「エリザベス様、私が女剣士の動きを牽制していますので、その隙に女剣士の側面、できたら背面に回り込んで、ライトニングアローを撃ち込んで下さい。女剣士に隙ができれば、私がすかさず一撃を加えます」
と、後ろにいるエリザベスに言った。
「……わかりました。今は時間との戦いです。極力早くお願いします」
トーマスはその発言を聞くと、すかさず女剣士に向けて槍を連続して突いた。アリシアは、剣で槍の側面を叩くと突きの方向を逸らした。トーマスは
「今です、エリザベス様!」
と叫んだ。
エリザベスは、トーマスの背後から出ると、女剣士の背後に回ろうとする。すると、女剣士は後ろに跳んだ。後ろに回り込むのは難しいと判断したエリザベスは、女剣士の側面から詠唱した。
「全能なる神よ、我にその奇跡の光の一部を分け与え給え、ライトニングアロー!」
複数の光の矢が、女剣士を襲う。女剣士は舌打ちをし、エリザベスに向き直った。
一閃、剣が光の矢二本を弾く。次の矢は身を反らして回避。その動きは、まるで舞っているかのようだった――だが、一歩退いた瞬間、足元のカリストに気づかなかった。
カリストの体につまずいて、左足に矢を受けた。
転んだ女剣士を見たトーマスは
「もらった!」
と叫ぶ。トーマスの槍が、空を裂いて女剣士へと迫る。
「ダーリン、ごめんよ!」
槍が、女剣士の眉間に届こうとしたその瞬間――女剣士は覚悟を決めたのか、そう叫びながら思わず目を閉じた。
今回もお読みいただきありがとうございました。
廃屋でぶつかる二人の信念は、ついに互いの命を懸けた攻防へと発展しました。
アリシアはトーマスの槍の餌食となるのか。そして、カリストの運命は――。
次回もよろしくお願いいたします。




