教会の闇――迫られる決断、奪われる自由
エリザベス達四人は、赤煙が昇っていた現場に到着した。命を拾ったのは、足を斬られた一人だけだった。残る三人は、すでに血の海の中で息絶えていた。エリザベスは傷ついた近衛兵にヒールをかけながら
「傷が化膿しているようです。応急処置はしておきますが、すぐに軍医に診てもらった方がいいでしょう」
とトーマスに言った。トーマスは
「わかりました。……おい、一人で立てるか? おいギルバート!」
と呼ぶと、ギルバートに負傷兵を運ばせた。すると、肩を貸していたギルバートが叫んだ。
「あちらにも赤煙が!」
エリザベスは、危険だったがギルバートを除いた三人で次の現場に出向いた。廃墟の路地に沿って、兵士三人は倒れていた。戦闘不能者が一人、既に死んでいる者が二人。残り一名は行方不明であった。エリザベスは涙目になりながら、
「大変心苦しいのですが、死体は置いておいて、まずは生存者の治療を優先します。ここは危険なので、広場に移動して治療しましょう」
と声を絞り出すように言った。
エリザベスは、トーマスに負傷兵を背負わせながら、広場へと急いだ。夕暮れの空に照らされたトーマスと魔法兵の顔が血に染まっているようで、エリザベスは思わず顔を背けた。
エリザベスは、広場で負傷兵の傷を癒やしながら、
「まだ、東南地区に派遣した索敵班は帰ってきませんか?」
とトーマスに尋ねた。トーマスは
「いえ、ギルバートにも辺りを探らせているのですが、まだのようです。……エリザベス様、日も暮れてきました。そろそろ……移動した方がいいかと。廃墟の外で、残りの班を……待ちましょう」
とやるせない表情で進言した。
「……わかりました。トーマス、ギルバート、負傷した方々を運んで下さい」
エリザベスの表情も硬かった。
ソドラの外で野営したエリザベスは、真夜中にたき火にあたっていた。辺りからは他に誰もいないことを表しているかのように、寂しく虫の音が聞こえてくる。負傷兵を安置したテントから戻ってきたトーマスから報告を受けた。トーマスは
「エリザベス様、負傷兵二人はエリザベス様の治療のおかげで命に別状はありませんが、戦闘は……」
と言って頭を振った。
「……そうですか。私が完全に治療しきれたらいいのですが、ここでマジックポイントを使い切ると、肝心の時に魔法が使えなくなりますので……。申し訳ありません」
たき火が、バチッとはぜる音がした。トーマスは慌てて
「いえ、エリザベス様が謝る必要はありません。エリザベス様が治療をしていなかったらいずれも命はなかったでしょう」
と慰めた。
「……全ては指揮官である私の責任です。Kaitoらの戦力を見誤っていました。ハンターが加わったせいでしょうか? 最初にKaitoらを見たときは、ここまで強いとは思えなかったのですが……」
トーマスはエリザベスの言葉を聞いて
「未だ帰ってこない班は、もう諦めた方がいいのかもしれません。……負傷兵もいることですし、私は副官として一度戦力を立て直すために、ここからの撤退を進言します」
と言い切った。エリザベスも
「そうですね、負傷兵の治療を最優先に考えた方がいいかもしれません――まだ帰還していない方々や遺体を放って帰るのは心苦しいのですが……」
と苦悶の表情を浮かべた。
すると、虫の音が止み、暗闇から
「なりません!」
と厳しい口調の声が聞こえてきた。エリザベスやトーマスが振り返ると、暗闇からカリストが現われた。エリザベスは目を丸くしながら
「カリスト様、いつ、ここにいらっしゃったのですか?」
と尋ねた。カリストは
「そんなことはどうでもいいことです! エリザベス、あなたは教皇様の命を違えるおつもりですか?」
と詰問してきた。
「決してそういうつもりでは……。しかし、ここは負傷兵の治療を……」
「それは言い訳にすぎません。負傷兵のことは私に任せて、エリザベス、あなたはKaitoらを捕縛もしくは討伐しなさい。教皇様の命は絶対です!」
すると、トーマスは
「カリスト様、お言葉ですが、現有戦力はエリザベス様を含めて四人です。戦っても勝てるとは限りません……」
と言い終える前に、カリストは
「たとえ、一人になってもKaitoらと戦うのです。もし、戦わないというのなら、あなた達も宗教異端者として弾劾せざるを得ません」
と冷徹に言った。
あの優しかったカリスト様はどこに行ってしまわれたのであろう? これが教会の意向であるというのなら、教会はどうしても私とKaitoを戦わせたいようだ、とエリザベスは思わざるを得なかった。
今回もお読みいただきありがとうございました。
二つの索敵班の壊滅と負傷者の治療――さらにエリザベスは教会から重い決断を迫られました。
教会の意図、変貌したカリスト。
エリザベスの戦いは、ますます困難さを増していきます。
次回もよろしくお願いします。




