お別れ
翌日の昼間、海斗はリサリアに会いに知り合いの家まで赴いた。ノックをすると、リサリアが扉を開けに来た。
「リサリア、もう体は大丈夫かい?」
「うん、早めにエリザベス様にかけてもらったヒールがよく効いたみたい。もう大丈夫だよ――でも、あんな状況でなければ、ちゃんとお礼を言いたかったな……」
海斗は少し言葉を選んでいたが
「仕方ないよ、あの時は。お礼が言えるような状況じゃなかった」
とリサリアが自分を責めすぎないよう気を配った。
リサリアは
「……そうね。仕方がなかったよね……」
と言うとうつむいた。
海斗は話題を変えるように
「ところで、リサ、お願いしたいことがあるんだ」
とリサリアに言った。
「一体なに? 私にできることならやるけれど」
「ガレアの冒険者ギルドに行って、俺たちの報奨金を取りに行ってくれないか? 勿論、お使いの駄賃は払う。朝、アリシアがギルドまで、盗賊らの耳と頭目の死体を運んで、確認と金額の査定をしてもらっているのだが、ぼちぼち結果が出る頃なんだ」
「海斗たちが受け取りに行けば?」
「いや、それが他のクエストの依頼を受けていてさ、そっちで忙しいんだよ」
リサリアは得心がいったようで
「わかったわ。報奨金を受け取ってくればいいのね」
と承諾した。
海斗は
「悪いが、頼む。これが代理を証明する手紙だ。夕方、この家の前で待っているから、すぐにでも行ってくれないか」
と言ってリサリアに封書を渡した。
「じゃあ、行ってくるね!」
リサリアは、焼けた家のことを気にしていないふりをしているのか、明るく笑った。リサリアが出かけると、海斗は遠ざかるリサリアの背を見ながら
「リサ、短い間だったけど、本当にありがとう」
とつぶやいた。
リサリアがギルドから報奨金をもらって知り合いの家に戻ってくると、海斗の姿はなかった。リサリアは周りを見渡して探してみたが、見当たらなかったため、家に入り両親に聞いた。
「カイルの姿が見当たらないのだけれども、何か聞いていない?」
すると父親が
「カイル君なら、この手紙をリサに渡してくれと言うと、どこかに出かけていったよ」
と言ってリサリアに封筒を渡した。リサリアは少し嫌な予感がしたがすぐに手紙を読み始めた。
「親愛なるリサ。
騙すようなことをしてごめん。本当は直接会って、ありがとう、そしてさようならを言いたかった。でも、君の顔を見たら――俺は、このままここにいたくなる気がした。しかし、それをしたら今回のように君や君が住むセリフィアまで巻き込むことになる。このままではいけない、俺はそう思ったんだ。
君に対しては、どうしようか本当に悩んだ。でも君には、平穏な生活を送ってほしい。取ってきてもらった報奨金は君に譲る。これを宿屋の再建の足しにしてくれ。 ご両親にもよろしく伝えておいてくれ。勝手にいなくなる俺を、どうか許してほしい。君のことは絶対に忘れない。
いつか、また会える日が来ることを願って。
カイル」
リサリアは手紙を握りしめると、両親の声も聞かずに、急いで扉を開けて外に出た。周りを見ても、当然海斗たちの姿はない。森の中のガレアに続く道を、リサリアは目に涙を溜めながら走った。
「ひどい、ひどいよ、カイル!」
とめどなく熱い滴が頬をつたう。こんな日が来るかもしれないって、心のどこかで覚悟していた。でも――さよならも言わずに行くなんて。
走り続けたリサリアは、息があがった。これ以上走れない自分の体にもどかしさを感じながら、リサリアは叫んだ。
「カイル!」
しかし、その声は、誰にも届くことなく静かな森の奥へと吸い込まれていった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
海斗が選択した「別れ」は、彼にとっても、リサリアにとっても痛みを伴うものでした。 それでも彼は歩き出します。えん罪を晴らすため、自らの意思で、自らの未来のために。
これにて第一章は終了となります。 次回から始まる第二章では、新たな旅路で新たな出会いが待っています。 果たして、どのような物語を海斗達は紡いでいくのか。
引き続き、彼らの行く末を見守っていただければ幸いです。




