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肥ノ国立志伝~戦国制度革命史  作者: 日野龍哉


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第22章 圧ある外交

この文章は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。

挿絵(By みてみん)

 日見峠の戦が終わってから、まだ十日も経っていない。

 だが九州北部の空気は、明らかに変わっていた。

 神浦城に各地から報せが届く。

 龍造寺軍撤退。

 その一言は、重い。

 神浦城の奥座敷。

 龍重、空海、そして明日香や星奈が地図を囲んでいる。

 机の上には、肥前・筑前・筑後の地図。

 そして幾つもの木札。

 龍重が一つの札を動かす。

「さて。」

 肥前国の佐嘉城。

 そこに置かれた札にはこう書かれている。

 龍造寺家。

 空海が苦笑する。

「日見峠で龍造寺の鼻は折れましたが……。」

「折れただけじゃ。」

 龍重は肩を竦める。

「背骨はまだ折れておらぬ。」

 その言葉に、周囲が頷く。

 相手は龍造寺隆信。九州でも屈指の猛将。

 峠一つで消える男ではない。

 だが、龍重はもう一つの札を置いた。

 少弐家。

 空海が目を細める。

「動きますか。」

「動かす。」

 龍重は即答した。

「少弐旧臣は龍造寺に心服しておらぬ。」

 空海が頷く。

 それは周知の事実だった。

 龍造寺は元々、少弐家の家臣。その家臣が主家を押しのけて勢力を握った。当然、不満は残る。

 龍重が指を鳴らす。

「そこへ。」

 机の上に新しい札が置かれる。

 日見峠。

「龍造寺軍撤退。」

 静かな声。

「これで何が起きる。」

 空海が答える。

「……弱く見える。」

「そう。」

 龍重は頷く。

「反乱は、強者が弱く見えた瞬間に起きる。」

 部屋が静まる。

 龍重が言う。

「手紙を出せ。」

「どこへ。」

「少弐旧臣。」

 短い沈黙。

 龍重が続ける。

「ただ一行でよい。」

 明日香が墨を摺る。

 龍重は言った。

「龍造寺は日見峠より負傷して退いた。」

 それだけ。

 空海が小さく笑う。

「それだけで十分ですな。」

「十分すぎる。」

 龍重は淡々と言った。

「火種は既にある。」

「我らは風を送るだけでよい。」

 星奈が猫を撫でながら、

「龍造寺の屋台骨、軋むでしょうねぇ。」

 木札がもう一つ動く。

 筑後国、蒲池家。そして筑前、秋月家。

 空海が腕を組む。

「こちらは。」

「合同で巻き狩り。」

 空海が眉を上げる。

「巻き狩り、ですか。」

「うむ。」

 龍重はあっさり言った。

「肥前、筑前、筑後の肉の食べ比べじゃな。」

 星奈が戸惑う。

「……それは。」

「喧嘩ではない。」

 龍重は笑う。

「喧嘩をしないための巻き狩りじゃ。」

 空海が言う。

「龍造寺への牽制。」

「それもある。」

 龍重は頷く。

「だがもっと大きい。」

 空海が目を細める。

「信用。」

 龍重は木札を並べた。

 日野と秋月、そして蒲池。

「龍造寺は怖い。だが、互いも怖い。」

 家臣たちが頷く。

 戦国の常識。隣国は敵。

 龍重が続ける。

「だから。」

 木札を寄せる。

「巻き狩りで互いに顔を合わせる、兵を見る、指揮を見る、地形を見る。」

 空海が笑った。

「情報の食べ比べですな。」

「そう。」

 龍重は言った。

「安くで満腹になりそうじゃの。」

 明日香が言う。

「蒲池も秋月も乗りますか。」

「乗る。」

 龍重は即答した。

「彼らも龍造寺は嫌いじゃ。」

 そして。

 龍重は最後の札を置いた。

 薩摩国、島津家。

 部屋の空気が少し変わる。

 空海が静かに言う。

「島津。」

 龍重は頷く。

「ここは余計なことはするな。」

「……報告のみ。」

「そう。」

 龍重は言う。

「ただ事実を書く。」

 星奈が問う。

「何と。」

 龍重は答えた。

「龍造寺隆信、負傷撤退。」

 それだけ。空海が笑う。

「誇らぬのですか。」

「誇る必要はない。」

 龍重は言った。

「島津は現実を見る。」

「嘘も誇張も嫌う。」

 空海が頷く。

 相手は島津義久。九州屈指の戦略家。

 派手な言葉は不要、事実だけがいい。

 龍重は言った。

「島津は来る。」

 星奈が驚く。

「来る、とは。」

「使者。」

 龍重は地図を見ながら言った。

「龍造寺を退けた勢力を、無視するほど愚かではない。」

 空海が小さく息を吐く。

「すると。」

「来る。」

 龍重は淡々と言った。

「戦勝祝い。情勢確認。交易。そして……婚姻。」

 空海が沈黙した。

 しばらくして言う。

「こちらからは。」

「言わぬ。」

 龍重は首を振る。

「婚姻は。」

「言い出した方が下じゃ。」

 空海が笑う。

「では。」

「向こうから言わせる。」

 龍重は机を軽く叩いた。

「少弐旧臣、蒲池家、秋月家、北九州が動けば。」

 龍重は言った。

「島津は黙考。」

 しばしの間。

「放置すると誰かに取られる。」

 空海と明日香が頷く。

 囲い込み。

 戦国の常套手段。

 龍重が言う。

「島津が欲しいのは。」

「協力者。」

「敵ではない。」

 そして。

 龍重は笑った。

「我らも同じじゃ。」

 明日香は平伏しながら言う。

「人を選びましょう。」

 龍重。

「選ぶ。」

 明日香が頭を上げ、

「はい、適当な人材を送らねば侮られます。」

「誰を送るつもりじゃね。」

「津田五郎太重成。」

 空海が思わず、

「ほぉ。」

 息を吐く。

「彼の者は日野国の英雄、しかも泥に塗れて死地を切り抜けた豪の者。島津様は、家格よりそのような者を好むでしょう。」

 明日香の相変わらずの物言いに、龍重は苦笑を浮かべる。

「最適じゃろうなぁ。ついでに島津の家中に語ってきてもらうか。」


 数日後、九州各地で、風が動き始めた。

 筑前国、少弐旧臣が密かに集まり始める。

 筑後国、蒲池家に日野から書状が届く。

 筑前国、秋月家にも同じ書状。

 内容は短い。巻き狩りの提案。


 そして、薩摩国内城。

 静かな広間。

 書状が一通置かれていた。

 家臣が読み上げる。

「北が動いた……隆信、日見峠より負傷撤退。」

 沈黙、やがて。

 島津義久が口を開いた。

「ほう。」

 短い言葉。

 しかし目は鋭い。

「小勢力と聞いたが。」

 義弘が言う。

「はい。」

 義久が机を軽く叩く。

「龍造寺を退かせたか……面白い。」

 静かな声。

 しばらく考え、義久は言った。

「使者を出す。」

 利久も頭を下げる。

「どのような名目で。」

 義久は答えた。

「戦勝祝い。」

 そして、わずかに笑った。

「……ついでに。」

 義久は言う。

「見てこい。日野という異形を。」

 九州の風は静かに、しかし確実に動き始めていた。


 日見峠の戦が終わってから半月ほどが過ぎた頃、松島神社の境内には、朝の霧が静かに流れていた。

 峠を越える風が、木々の葉を揺らしている。

 その境内に、数十人の兵が並んでいた。中央に立つのは龍重。その傍らには空海、そして地空僧正。

 前には五人。津田五郎太重成、開藤作幸重、伊東佐久衛門守孝、中沢与四郎隆起、吉永儀一宗親。

 日見峠の戦で名を上げた者たち。

 龍重はゆっくりと境内を見渡した。

「この社は。」

 静かな声。

「日見峠の守り神じゃ。」

 五人が頭を垂れる。

「龍造寺と戦ったあの峠。あそこを越えられれば我らは詰みじゃった。」

 少し間。

「だが越えられなんだ。」

 空海が言う。

「松島の神が守ったのでしょうな。」

 龍重は苦笑した。

「さてな。」

 そして五人を見る。

「お主ら。」

 五人が膝を着く。

「この社の衛士となれ。」

 静かなざわめき。

 空海が声を上げる。

「松島神社衛士、でございます。」

 龍重が頷く。

「日見峠を守る者。」

「長崎を守る者。」

「そして日野国の武を守る者じゃ。」

 五人が一斉に頭を下げた。

「ありがたき幸せ。」

 地空僧正が静かに言う。

「これで形が整いましたな。」

 龍重が眉を上げる。

「形?」

 地空は微笑んだ。

「国の柱です。」

 空海が頷く。

「日翔寺。」

 地空が続ける。

「始まりの寺。」

 龍重が長与の方角を見る。あの小さな寺。

 日野が始まった場所。

 空海が言う。

「そして諏訪神社。」

「港の守り。」

 長崎港は日に日に船が増えている。

 富はそこから来る。

 そして、地空が松島神社を見上げた。

「この松島……武の守り。」

 龍重は少し笑った。

「日翔寺が政、諏訪神社が商、松島神社は武。」

 空海が言う。

「国の形ですな。」

 龍重は肩を竦める。

「さて、国などと言われるとくすぐったい。」

 だがその目は遠くを見ていた。


 その日の夕刻。

 峠の麓の村。

 囲炉裏の火が静かに燃えている。

 農民たちが酒を回していた。

「聞いたか。」

「何をだ。」

「松島の社よ。」

 一人が言う。

「武士が置かれたそうだ。」

「ほう。」

「日見峠の戦の英雄だとよ。」

 別の男が言う。

「五人だったな。」

「龍造寺の陣まで突っ込んだとか。」

 笑いが起きる。

「そんな馬鹿な。」

「本当だとよ。」

 酒を飲みながら一人が言った。

「松島の神様が味方したんだろうさ。」

「神様?」

「日見峠で風が変わったらしい。」

 別の男が言う。

「龍造寺の矢が届かなくなったとか。」

 誰かが笑う。

「それは話が大きい。」

 だが一人が真顔で言った。

「でも勝ったんだろ?」

 沈黙。

「勝った。」

 火がぱちりと鳴る。

 老人が言った。

「昔から松島の神は峠を守ると言う。」

 そして続けた。

「その神が龍重様を守ったのかもしれん。」

 子どもが言う。

「龍重様って神様なのか?」

 老人が笑う。

「馬鹿言うな。」

 酒を飲む。

「ド阿呆だ。」

 少し間。

「だが。」

 火がまた鳴る。

「神仏に好かれたド阿呆じゃ。」

 村人たちは頷いた。

 峠の方を見る。

 そこには松島の森が暗く立っている。

 日見峠。

 あの戦から、まだ日が浅い。

 だが村人たちはもう語り始めていた。

 松島の神が守った戦を。

 そして、日野という新しい国のことを。


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