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 世界は変わり始めているのだろうか?

 昨日までは目の前にあったものが、今朝にはもう、ない。

 昨日まで正しかったもの。昨日までは真実だったもの。

 それが今日、どれだけ正しく、どこまで真実なのだろう。わたしには、よくわからない。世界のどこもかしこもが、わたしの知らぬ間に、大きく変わろうとしている。その響きが、わたしは鼓膜の端に、ほんの少しだけ届き始めている。そのような感覚が、近ごろわたしの中にある。そしてその感覚は、少しずつ、少しずつ、日増しに強くなっていくようだ。

 だからその朝わたしを捉えたその出来事も、

 大きな変わり始めた世界の片隅の、ごくごく小さな波のひとつに過ぎない――

 そうなのかもしれない。

 でもわからない、まだわたしには。



###################


【 ユーラシア大陸東方海域 

     日本共和国 トウキョウ市 】


『元気? こっちはまあまあ、元気よ。まあ、いっかい死んだのに元気って言うのも、ちょっとあれだけどさ――』


 死んだ姉のまりあからメッセージが届いたのは九月の雨降りの午後だった。アタマも体もだるくて何もやる気が起らない重い灰色の午後で、わたしはコスプレカフェのバイトを無断欠勤して、もう半年以上も洗濯してないキルトを頭までかぶり、うす暗い部屋でひとりで寝ていた。聞こえるのは雨の音だけ。その時とどいたダイレクト・メッセージ。


『こっちはいま、ある島にいます。良かったら、いちど会いに来て。いろいろあんたに話したいこと、あったりもする。事情があって、こっちからは島の外に出られない。でも、そっちからはたぶん、入れる。面会は許可するって、あのヒトも言ってるから。その島の場所は――』


 それまでの気だるい眠気が一気に吹き飛んだ。わたしはいきなり瞬時に覚醒し、キルトを遠くに払いのけて―― それから読んだ。全力で読んだ。あんなに集中して文字を読んだの、たぶん生まれて初めてだ。自分の心臓の鼓動を、自分でも自覚した。時間が止まったようだった。雨の音も何もかもが一瞬にして消えた。


 まりあ――

 おねえ、ちゃん――

 生きて―― いるの?

 なぜ。どうして。どこで、どうやって――


 百万の疑問が一気にアタマの中で湧き立つ。

 やがてその奇妙なメッセージを読み終えたわたし―― そして直後に、わたし・神奈倉カナナ(16)が、その島行きの決断を下すまでに、一億分の一秒すら必要としなかったのだ。



###################


 その島の名前は、メ・リフェ島。パフィン海の最北部、「デトセリヴェ群島」と呼ばれる、帯状に連なる小さな島々のひとつ。ネットで調べてそれはすぐにわかったのだが。わたしが何より面食らったのは、その、冬には凍てつく最果ての島の奇妙な名前そのものではなく、むしろその島の位置―― なにしろその島が存在する、その位置は、現実のこの世界の海上ではなかったのだ。

 

 海外を中心に、一部で熱狂的な支持を得ているフルダイブRPG「ロード・オブ・ソウルズ」のワールドマップの中。メ・リフェ島は、そのマップ上の最北端にある。つまりその島自体が、実際には存在しない架空の島。バーチャルにしか存在しない、デジタルデータが作り出す島なのだ。時間をかけてネットでどれだけ調べてみても、「メ・リフェ島」という名前は、そのほかのどこにも存在しなかった。リアルにおいても、バーチャルにおいても。

 しかしともかく、死んだ姉の名を語るそのダイレクト・メッセージには、シンプルにその島の名前が書かれていた。メ・リフェ島。そこであなたを待っている、と。



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