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僕はハーレム高校生。  作者: 首領・アリマジュタローネ
【夏編─街デート】
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僕は性欲もそれなりにある思春期男子ハーレム高校生。


 幻聴がした。間違いなく、幻聴だ。


 こんなことは有り得ない。バラエティー番組の二時間SPじゃないんだ。レギュラー陣が総出演することはない。


 もしかしたら、声と名前がそっくりなだけの別人という可能性だってある。一応、確認だけはしておこう。



「長距離用だったら」


「うん」



 手に持っていたスパイクを箱の上へと戻す。二宮金次郎化していた身体を無理やり動かして、向かい側の棚を覗き込む。


 視線の先にあったシューズを隣にどけると、ポニーテールが動くのが見えた。



「コレとかどう? オールウェザー専用。ピンは5mm。価格も七千円とかなりお買い得みたいだけど」


「えー、デザインがイマイチ」


「……そんなの二の次でしょっ。優先すべきは履きやすさだって言ってるじゃない!」



 ……うむ、間違いない。彼女たちだ。幻聴でも幻覚でもイザナミでもない。実体がある本物の二人である。


 優先的にスパイク選びをしている彼女は、中学時代にインターハイ出場経験もある海島 菜月だった。


 流石は“神速の星”と言ったところか。陸上のことになると饒舌だな。



「いいから、履いてみて。ブカブカでキツキツだったら交換ね」


「なんで?」


「履き心地が良くないと、パフォーマンスに関わるからよ。陸上なんてスパイクが命なんだから、ストレスを感じたくはないでしょ? 踵がピッタリ付くやつじゃないとダメ。学生服じゃないんだからっ」


「そっか」



 適当な相槌を打って、自分のスパイク選びを人任せにしているのが、同じ陸上部に所属している安穏 のどかである。椅子にでも座っているのか、靴下をぶらぶらと振っていた。ここからだと足先だけしか見えない。


 あの子の会うのも久々だ。一応、LINEのやり取りはしているが、お互いに部活が忙しいこともあってか、ほとんどラリーは続いていなかった。


 少しくらい挨拶はしておきたい。だけどな、今日は明希の彼氏を任されているワケだし……。



「ダメだ。これサイズが大きいよ」


「アンタって、ほんと足小さいのね。筋肉だって全然付いていないじゃない。ちゃんとウエイトトレーニングしてるの? 走り込みだけだと意味ないわよ」


「うるさいなぁ」


「事実じゃないのよっ」



 一旦、姿勢を落とす。赤・青・黄緑・紫・金・銀といったシューズが立ち並ぶ棚の陰に身体を潜めて、そろりそろりと動き出す。


 幸い、いまは明希の姿もない。顔バレする内に逃避しておこう。



「そりゃ、なっちゃんに比べたら私は足遅いよ? 弱いし……それに色々と小さいし」


「なにが言いたいのよっ」


「言葉通りだよ。だってなっちゃん、さっきも新しいスポブラ買ってたじゃん。成長早すぎると思うな」


「いちいち言わなくていいからっ!」



 腰骨まで積み上げられた靴箱に身体をぶつけそうになる。足が自然と止まる。


 ……なんだろう。聞いちゃいけない話を聞いているような気がするぞ。スポブラとかスポブラとか、一体全体なんの話なのかしら。スポブラってなぁに? 食べれるの?


 僕だって一応は健全な男子高校生なのである。こんな話に興味がないわけがない。あるに決まっているだろ! いい加減にしろ!!


 いつもなら華麗にスルーできる紳士アラガキも、この不意打ちには弱かった。



 なぜか以前に宗とした会話まで蘇ってきてしまう。そういえばヤツは一度だけ、こんな話を切り出したことがあったっけ……。



 〜〜〜〜〜〜回想開始〜〜〜〜〜〜



『知ってるか、イッチー。陸上部の女子が大会で着るユニフォームがあんだろ。アレってさ、噂によれば下着ナシで履いてるらしいぜ? あのパツンパツンのセパレートをだ』



『……』



『しかもよ、シモの処理もしているときた!もう、やべぇよなぁ……。こんなの新手のストリッパーじゃね? 陸上部女子、官能的過ぎるだろ……。普段から男の視線を集めている海島ならともかく、純情ぶった安穏もアレを身に纏って、大勢の人間の前を走り回っているとか、こりゃ妄想が捗るよなぁ!? オイ』



『……訴えられても知らないぞ、お前』



『上等だぜコンニャロウ。俺は訴え続けてやるからな。【陸上部の女】はド変態だと!【子供がたくさんいる家庭を築きたい、と語ってる独身女】と同じくらいにドスケベだと!お前も心に留めておけよッッッ!!』



『偏見が過ぎる……』



 〜〜〜〜〜〜回想終了〜〜〜〜〜〜



 生きていく上で何の役にも立たない無駄知識のトリビアを思い出してしまう。どうしてか、金のメロンパンを食べたくなった。


 妄想を振り落とすことに失敗する。よし、安穏との接触はまたの機会としよう。今回はデート優先だ。いま会ってしまったら、変な想像を働かせてしまいそうだし……。



「あ。これ可愛い。店員さんにサイズがあるか聞いてみるね」


「……あっそ。勝手になさい」



 彼女たちの視界に入らないように注意を払いつつ、再び、のそりのそりと進み始める。


 あと少しでスパイクゾーンを抜け出せる、そんな折。



「げっ」



「あ。」



 普通にバレた。てへ♪


 ※ ※ ※ ※ ※



「お、おう。菜月か」



 姿勢を正して、何食わぬ顔で挨拶を交わす。我ながらナイスなポーカーフェイスだ。えっ? 動揺してるって? ぜぜぜぜ、全然してないが? どどど動揺なんてしていないが?


 生憎バレたのは菜月だけのようで、安穏は反対方向の店員さんのところへと既に向かっていた。


 明希がいつこちらに来るかもわからない綱渡り状態。危機を危惧する僕の瞳は、無意識に彼女の全体像を捉えていた。



 ノースリーブを着ている菜月。二の腕をお披露目なさっている。逞しい腹筋に、締め付けられた豊満なバスト。腋もすぐに見えてしまいそうだ。おいおい、なんてセクスィーなんだろうか。いや、それは違う。ていうか、菜月って下まつげ長いな。腰もほそっ。



「……なんで、アンタがここにいるの?」



 腕を組んだ彼女が、まるで盗撮魔でも発見したかのような目つきをしていた。穢れなき(まなこ)が、穢れしかない僕を見ている。やばい、変な空想を抱いてしまった。



「なんでって……ただのショッピングだ」


「へー。ひとりで?」


「い、いや、部活の仲間と。大会前だから新しいスパイクが欲しかったんだよ」


「部活の仲間ねぇ……」



 察しが良いのか、何かに勘付いたのか、かなり疑ったような口調だった。


 い、言っておくが、嘘は付いていないぞ。二人きりでデートという点を考慮しなければ、明希だって部活の仲間だしな。



「……そりゃ、そうよね。ま、いいわ。そうそう。のどかと一緒に来ているんだけど、呼んでこようか?」



 そこまで疑ってはいなかったのか、そんな気遣いまでしてくれる。いつもなら「はい、喜んで!」と飛び上がって、提案に乗っていたが、今回は遠慮しておいた。



「あー、悪い。待ち人がいてな。今はちょっと……」


「……ふーん。別に、いいけど」



 ポケットの中でスマホが揺れるのがわかった。あの子からの着信だろう。迎えに来ないってことは、早くカフェに行きたいと急かしているみたいだな。急がなくては。



「ところでさ。アンタ【海合宿】に関して、何か聞いてないの? あのえらっそうな先輩の、別荘に行くんでしょ」


「ああ、アレか。それなら後で明希と相談して、また連絡するよ」


「明希? あとで?」


「あ、違う! ええっと、また今度柳葉に会った時に相談しておくってことだ! あはは……」



 口が雪上を滑っていくのを、ジャンプ台の手前でなんとか食い止めた。



「おおっと? 先輩からの呼び出しだ!? 悪い、菜月。また合宿でな! じゃ」


「は? ちょ、ちょっと……」



 わざとらしくスマホを開いて、早足でその場を立ち去る。ごめん、菜月。また今度会ったときにゆっくり話そうな。



「誰か知ってる人がいたの?」


「別に……」



 早々とスポーツ用品店を後にする。


 ちなみにだが、安穏の私服を見忘れたことを後悔したのは、それから間も無くの出来事だった。


 ※ ※ ※ ※ ※



「あれー? スパイク買わなかったの?」


「う、うん。お目当ての物が無くてさ」



 明希と合流して、ようやくスタバへと向かうことに。今のところ予定をことごとく潰されている気がするなぁ……。



「それより、明希は何を買ったんだ?」



 僕が菜月のイザコザに巻き込まれている最中、この子は別のお店で買い物を済ませていたようだった。青い袋を手に持っている。



「えー、秘密」



 禁則事項だったらしい。お尻のところまで袋を回して、隠される。えー、気になるな。



「秘密か。なら、仕方ない。了解だ」



 かなり気にはなっているが、秘密ならしょうがない、誰しも隠し事の一つや二つはあるもんな。特に女子はたくさんあるだろう。秘密の花園的なね。やだ、善一。はしたない!


 × × ×


 スタバへと到着する。店内は夏場だからか、冷房がガンガンに付いていた。外はそこまで暑くもなかったので、むしろ肌寒かった。


 空気中にマイナスイオンが漂っているのを素肌で感じつつ、早速レジへと向かう。やっぱりデートといえば、スタバだよな。スタバこそ至高。



「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」


「はい、店内で。えっと、じゃあ」



 いまは丁度お昼どきだからか、客足は少なかった。お呼びがかかったレジへと進む。


 サバサバとした雰囲気を纏う女性店員に少し緊張しながらも、メニューを眺めた。


 流石に二度目と来ると慣れてくる。オススメはこのペペロンチーノだろう。サイズはえっと……アリアナ?



「僕はこの、いちごの」


「申し訳ございません。そちらは只今品切れ中でございまして」


「あ、そうなんですね……」



 サバサバとした言い方で、すんなり断られる。まだこの注文体系には慣れていなかった。調子に乗ってはいけませんね。



「注文いいですかー? あたしは」



 何にしようかな、と頭を悩ませる僕より先に隣の明希が片手を挙げた。普段の優柔不断さはどこへやら。倍速再生でもしたかのような口調で、商品名を告げる。



「ホワイトモカフラペチーノのグランデに、追加でキャラメルソース、ヘーゼルナッツシロップ、チョコチップエキストラホイップのエスプレッソショット一杯で!」



「……呪術か?」



 デジャブ……!



 ※ ※ ※ ※ ※



「それ、旨いのか?」


「超絶☆旨いのん」



 なら、次回は僕も飲んでみよう。


 お洒落な洋楽が流れている店内。明希ちゃんなんたらオリジナルカスタムメニューとやらを口にしている彼女を見つめながら、抹茶なんたらフラペチーノを喉へと流し込む。甘くておいちいです。



「ふぁっ」



 朝早くから集合していたからだろうか。ここにきて睡魔が襲いかかってきた。BGMの影響もあるのだろうか。ほわほわとした感覚におちてゆく。頭もぼーっとしてきた。


 って……いけない。いけない。デート中だぞ。居眠りなんて最低だ。


 上手く隠そうとするものの、前方の明希にはガッツリ見られていた。パチクリと瞬きしている。



「ガッキーおねむの時間? 何だか、目がとろーんってしてきてるよ?」


「……すまん。多少、眠い」



 これは非常事態だ。カフェインさんの力を借りるしかない。


 新たにコーヒーでも頼もうかと思い始めていると、明希がボリボリと頭を掻き出した。



「ったく、しょうがねぇなぁ」



 外見に似合わない声で、乱暴な口調になる。



「おら、口を開けな」


「えっ?」


「いいから。口開けろっつてんだよ」



 突然スイッチが入ったように、明希がレンみたいになっていた。なんの遊びだ?


 仕方なく、言われた通りにすると。



「一体、何を……むぐっ!?」



 唐突に、僕の口にスプーンが押し込められた。鼻先からクリームの程よい香りが抜けていく。えっと、これはもしや……。



 噂に聞く「あーん」というやつか?



「おら、味わいな。あたしからのサービスさ。ビミだろ?」


「お、おう。ありがとう。確かに旨い」



 あまりにも咄嗟の為、上手くコメントができない。頭が混乱している。誰か!早くキーの実を!



「まぁな。目も覚めたか?」


「一応は……。あ、ありがとう」



 ニヤリと笑う明希。まるで可愛い後輩を可愛がる姉貴のようだ。姉貴、一生ついていきやすぜ!


 と、まぁノリノリでやったのはいいけれど、結構周りの視線が気になってしまった。なんだろう、すごく注目されているような……。


 恐る恐る目視する。右斜め前の席を。




「あらあら」




 ギアスでも発動したかのように、三度目の硬直を覚えた。



 そこに座っていたのは──本で顔を隠しつつ──此方を覗いている──幾度か交流したこともある──あの奇妙な先輩だったから。




「休日の真っ昼間から見せつけてくれるわね、青春男女達」



「……桜さん」




 もう、何度目だ! このくだり!!

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