↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スタイリッシュ武器屋  作者: 弘松 涼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/81

81 口の悪い精霊

「いま、しゃべった?」


『さっきからしゃべってるだろ。早く拾え、クソガキ』


 床へ落としたひのきを、恐る恐る拾い上げる。


「750倍メガ……いえ、ITOさん。この木、しゃべるよ!」

「わたくしには聞こえませんが、声が届いたのでしたら、大当たりでございます」


「大当たり?」

「ひのきの精霊が宿ること自体は、それほど珍しくございません。ただし、人へ直接声を届けられるほどの精霊となりますと、およそ300分の1でございます」


「300分の1……」

「一箱10ゴールドですので、確率だけで申し上げれば、シェリィ様は3000ゴールド相当のお買い物をされたことになります。おめでとうございます」


 はあ?


 10ゴールドが3000ゴールド?

 また適当なことを言っているな。


 さすが750倍メガネ。


『おい。いつまで俺様を握り締めてやがる』


「それにしても、口が悪いね」

『俺様を誰だと思っている。さっさと崇めろ。供物はまだか』


 私は、手の中のひのきをまじまじと眺めた。


「どう見ても、ただの棒切れなのに」

『棒切れじゃねえ! 俺様は、れっきとしたひのきの精霊だ!』


「精霊なら、私と似たようなもの?」

『どこがだ!』


「私、ノームだよ。大地の精霊みたいなものでしょ。たぶん」

『自分の種族くらい把握しとけ!』


 失礼な精霊だな。


「なお、当店では、初めて商品をお買い上げいただいたお客様へ、簡単な戦術指南も行っております」


「いらん、いらん」

 私は、空いている手をぱたぱたと振った。


 戦術指南まで師匠の真似か。

 今日からこいつは、モノマネ750倍メガネだ。


「じゃあ、10ゴールドは預けてるお金からね。これ、もらっていくよ」

「かしこまりました。ありがとうございました」


 私は素材の入った木箱を抱え、店を出た。


 これで、人気商品の秘密を調べられる。

 それに、3000ゴールド相当の精霊まで手に入った。


 最初の投資は全部ガラクタだったけど、最後に大当たりを引いた。


「よし。さっそく師匠のところへ――」


『待て、クソガキ』


「なに?」

『光をよこせ』


「外だから、もう当たってるよ」

『全然足りん。それから水だ。あと、葉っぱをつけろ』


「なんで?」

『なんでって、お前……』


 ひのきの声が、急に小さくなった。


『このままじゃ、光合成できねえだろうが』


「精霊も光合成するの?」

『ひのきだからな』


「でも、あなた、棒じゃん」

『それが問題なんだよ!』


 ひのきが、私の手の中でかすかに震えた。


『このままだと、俺様は死ぬ』


「え?」

『光と水と葉っぱがなければ、今日中に死ぬかもしれん』


「買ったばかりなのに!?」


『だから早くしろ、クソガキ!』


 大当たりを引いたと思ったら、いきなり死にかけていた。


 私は近くの公園へ駆け込んだ。


 先ほど商品を分解したベンチへ戻り、木箱を置く。

 中身を全部取り出した。


 細く切られたひのき。

 麻布。

 麻縄。

 透き通った樹脂。

 水を含ませた布。


「なんで水まで入っているんだろう」


『知るか。さっさと飲ませろ』


 もしかして、750倍メガネは、こうなることまで分かっていた?


 いやいや。

 適当に詰めたものが、たまたま役に立っただけだ。


 私は水を含んだ布で、ひのきの先を包んだ。


『おお……水だ。もっとよこせ』


「一気に飲んだら、お腹を壊すよ」

『木に腹があると思ってんのか』


 水は、これでいい。

 次は葉っぱだ。


 私はベンチのそばに生えていた雑草を、根ごと一本引き抜いた。


『おい。まさか、それを俺様につける気か?』

「そうだけど」


『俺様はひのきだぞ。雑草じゃねえ』

「好き嫌いを言ってる場合?」


『せめて木の葉にしろ!』


 注文が多いな。


 近くの木から、枝先の葉を少し分けてもらう。

 でも、そのままひのきへ縛りつけても、葉っぱから力を取り込めない。


 葉とひのきの通り道をつなぐ必要がある。


 葉の根元。

 ひのきの木目。

 水を含ませた布。


 三つを樹脂でつなぎ、最後に麻縄を巻いて固定した。


「これなら、いけるかな」

『いけるわけないだろ! ちゃんとつなげろ!』


「どうやって?」

『そんなことも知らんのか』


「知らん。教えて」

『分からん』


「役に立たないなぁ」


 とりあえず、ひのきをぶんぶん振ってみた。


『やめろ! 目が回る!』


 私は振るのをやめた。


『いや、待て。もう一回振ってくれ。なんか、いい感じにつながってきた』


「まじか。雑な作りだな」


 もう一度、ぶんぶん振る。

 葉とひのきをつないだ樹脂が、少しずつ馴染んでいった。


『お前の手から、何か流れ込んできてるぞ』

「何かって、なんだよ?」


『知らん。魔力じゃねえのか?』

「私、そんな力あったっけ? もう一回ぶん回せばいいの?」


『たぶん、ぶん回したときに強く握っただろ? それだ』

「じゃあ、握るだけでいいんじゃん」


『……たぶんな』


 私は、葉のついたひのきを両手で握った。


 しばらく待つと、葉がゆっくりと開いた。


『おお……。入ってくる。力が入ってくるぞ!』


「光合成できた?」

『ああ。光合成うめぇ!』


 よかった。

 どうやら成功したらしい。


『よくやった、下僕よ。褒美として、願いを一つかなえてやろう。どんな願いでも一つだけだ』


 誰が下僕よ。


 でも、願いか。

 それはいいな。


「私をお金持ちにしなさい!」


『できん』


「じゃあ、レベルを10くらい上げて」


『それもできん。もっと簡単な願いにしてくれ』


「さっき、どんな願いでもって言ったじゃん」

『クソガキ程度の願いだと思って、侮っていた』


「なんだよ、それ。じゃあ、何ならできるの?」

『えーと……。それをお前が決めろ』


「庭掃除でいいよ。糸尾さんのお店、汚いから」

『できん。俺は棒だぞ』


「役に立たないなぁ」

『クソガキよりは役に立つ!』


「まだ何の役にも立ってないじゃん」

『これからだ! 俺様が活躍するのは、これからだ! ああ、光合成うめぇ! さあ、願いを言え!』


 何もできないな、このクソ精霊。


「じゃあ、私のことをクソガキって呼ばないで」

『その程度なら簡単だ』


「シェリィ……だけじゃ面白くないな。神と呼んで」

『嫌だ』


「は? そのくらいもできないの?」

『できん。特別に、クソガキからシェリィさんへ昇格させてやる。これで願いは終わりだ』


 腹立つ。


「ところで、あなたの名前は?」

『え?』


「まさか、ないの?」

『あるわ! 馬鹿にするな! 俺様は偉大なるひのきの精霊の……』


 長い沈黙。


『……偉大なる、ひのきの精霊だ!』


「なるほど。名無しか」

『ある! きっとある! あるはずなんだ!』


「だから、何?」

『それは……いま、思い出せないだけだ』


 急に声が小さくなった。

 なんか、泣きそうだ。


「しょうがないなぁ。私が命名してあげる。ひのきの棒だから、ピノ」

『おお。その名前、いいな。俺もそんな名前だった気がしてきた』


「いいでしょ! わりと考えたよ。ひのきの棒を短くしたの。それに、半人前の精霊だから」

『なんだと、クソガキ!』


「約束」

『……シェリィさん』


「ピノ、よろしく!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。