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70 ノームのシェリィ

 私はノームのシェリィだよ。


 どうもノームというのは、四大精霊のうち大地を司る精霊らしいんだけど、周りも見渡しも、そんな立派な人はいない。


 みんなやることがなく「だりぃ~」と、夕方までお酒を飲みながら、人間の悪口ばかり言っている。


 すぐそばの切り株に座った二人組の老いたノームとその息子なんて、


「人間ってバカだよな」

「うん、人間はバカだね」


「知っているか? あいつらはマジでバカだ。武器屋にお金を払って買いに行っているんだ」

「あははは、なんてバカなんだ! ――で、それがどうしてバカなの?」


「分からないのか? 俺たちノームは精霊術があるから、簡単に透明になれるじゃねぇか。だから簡単に泥棒できる。金なんて払うなんてバカがすることだ」

「あ、そうだね。バカがすることだね」



 とか言っているけど、たぶんしない。

 

 ノームは人見知りして、あがり症でコミュ障が多い。

 偉そうに言っているけど、どうせ本番だと緊張して絶対に失敗する。

 だからこうやって森にひっそりと住んでいるんでしょ。ニートさんやゴブリンさんとあんま変わらない。

 

 彼らは家の押し入れや地面に穴を掘り、そこで暮らし、ゴソゴソと何かをしている。


 ノームも彼ら同様にもっぱら地中で生活していているの。

 

 都会の人は私達のことをおじいちゃんのような風貌をしていると信じ切っている人も多いみたいだけど、私のような女の子もいるんだよ。


「おい、シェリィ」

「えっ、何?」


「お前も人間ってバカだと思うよな?」

「え? 会ったことないから分からないよ」


 老ノームは自慢げに胸を逸らした。


「わしはたくさんの人間を見てきた。どいつもこいつもバカしかいない」


「……そうなんですか」


 知らない人の悪口を言い合うのはあまり好きじゃない。

 でも人間さんなんて見たこともないから、ふーんって感じで聞いていました。


 ほとんどのノームが、やることがないくらい暇だから、こうやって誰かの悪口を言って時間つぶしをしている。ことに目の前の賢者風のおじいさん――物知りボネットさんは、人間界を旅したことがあるから、この村の人気者なんです。


 こうやって人間界で見てきたことを私たちに教えてくれます。



「人間の中で一番バカなのはな、伊藤とかいう武器屋なんだぜ」

「伊藤さん、ですか? どうしてバカなんですか?」


「あいつは一本5ゴールドのひのきの棒しか売らない変わり者だ」

「へぇ~」


「だけどな、あいつ、どうもその後、懇切丁寧に戦術指南をしてやっているんだぜ」

「親切でいい人じゃないですか?」


「親切だぁ? バカか。たった5ゴールドの安い武器しか買えにこれないクズなんかに親切にしてどうなるんだ? バカは騙されるためにいるってのに、それを騙さずに親切にものを教えるなんて、真正のバカがやることだろうが!」


 さすがに頭にきました。

 だってこの人は村一番の物知りなのです。

 賢者さまと言われているくらい立派な方なのです。

 そんな人が、親切な人を馬鹿にするなんて、どう考えても納得できません。


 つい私はムキになって言い返してしまいました。


「ボネットさん! それ、おかしいと思います。

 親切な伊藤さんのような人がたくさん増えれば、その町はすばらしい国に発展できると思います。そんな国に私も住んでみたい!」


「は? 小娘! 今、なんて言った!

 キサマ! この村一、いや世界一物知りのわしに意見して、わしが馬鹿にする伊藤を立派な人といったな!!!!」



 私はハッとしました。

 普段ニコニコしている物知りボネットさんの形相は、鬼のように変わっていたのですから。



「シェリィィィー! キサマのようなゴミは破門だ! この村から出ていけ!」



「え……」



 この人に逆らってはいけなかったことを、改めて思い知らされました。


 もし意見をすると、みんな破門にされます。

 外の世界を知らない私です。

 そんなことされたら、どうしようもありません。

 私は口にしてしまった失言に、あたふたするしかありませんでした。




「――ククク。

 そう言おうと思ったが、特別破門だけは許してやる」



「あ、すいませんでした。もう変な事はいいません。村に住まわせてください」



「ダメだ。以前のように住むことは許さぬ。ただし条件がある。キサマが正しいかったことを証明したら特別許してやる」


「え、それはどういうことですか?」


「さっき言った店から5ゴールドのアイテムを購入して、成功してみろ。さすればお前を認めてやる」



「さっきの方、ですね……。

 たしか名前は……伊……」



 急に頭が真っ白になった私は、お名前が出せません。

 それどころか……

 え?? 何屋さん?

 扱っていた商品は……



「わしは何でも知っている全知全能なる最強ノーム。大賢者の異名をも持つ。故に哀れなキサマにもう一度だけ教えてやる。奴の名は糸尾いとおだ。スタイリッシュ防具屋と呼ばれている。クククク……」




 そうでした!

 スタイリッシュ防具屋の糸尾さんでした!



 もちろん自分の保身もあるのですが、それ以上に悪口ばかり言っている村のみんなを見返すために、糸尾さんの防具屋を目指す決意をしたのです。

 糸尾さんの防具屋で大成功して、みんなをあっと言わせてやるんだから!!


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