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制御者の令嬢は隣国の大魔導士に溺愛される  作者: まる
第五章 制御者

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第二十四話 因果

王都での作業から一週間が経った。

ヴェルナード邸に戻ったルミナのもとへ、二通の手紙が届いた。

一通は王家からだった。

技術支援への感謝を述べ、エルカリナ家の功績を正式に認める内容だった。丁寧な文体で書かれていた。しかしルミナには、その丁寧さが形式的なものだとわかった。感謝しているのではなく、感謝しなければならない立場になった、という文章だった。

ルミナはそれを読み終え、机の上に置いた。

怒りも、満足も、特になかった。

ただ、終わった、という感覚があった。

もう一通は、見知らぬ差出人からだった。

封を開けると、短い手紙が入っていた。

「ルミナ様へ。

私が何も知らなかったのは、本当のことです。あなたが持っていたものの意味も、王家が何をしていたかも、私はずっとあとになって知りました。

あなたに謝る資格が私にあるかどうか、わかりません。ただ、言いたかった。

シェラ・ノイン」

ルミナはその手紙を、長い間見ていた。

王都に滞在している間に、シェラが王家に切り捨てられたという情報は耳に入っていた。

基幹魔法陣の崩壊危機が広まり、王家の失政として国内で批判が高まった。その批判をかわすために、王家は「悪意を持ってテオ王子を誑かした平民女」という物語を必要とした。最初から政略の道具として育てられ、使われ、不要になったら切り捨てられた。

シェラは知らなかったのだ、とルミナは思った。

自分が何に巻き込まれているかを。王家が何を考えているかを。テオが何者で、自分が何のために選ばれたかを。

だから「何も知らなかった」は本当のことだろう。

ルミナはシェラを憎んでいなかった。しかし守ることも、できなかった。自分の手に余ることだった。

手紙を折り畳み、机の引き出しに入れた。

捨てることは、できなかった。

——

同じ日の夕刻、ザイルが書庫に来た。

「王国内でいくつか動きがあります」

「聞きます」

「今回の一件を受けて、王国の有力貴族たちが王家の施政能力への疑問を公式に表明し始めました。エルカリナ家を追い出し、外注管理にした判断。警告を黙殺した判断。これらが議会で正式に問題として取り上げられています」

「テオは」

「王位継承の資格に疑問が呈されています。第一王子派が動き始めた、という情報もある」

ルミナは窓の外を見た。

「……王家が傾く」

「おそらく。少なくとも、今の形では続かないでしょう」

「テオ自身は」

「失政の責任を取る形での立場の降格が検討されているようです。王位継承から外れる可能性が高い」

ルミナはしばらく考えた。

「ザイルは、どう思いますか」

「私は、関知しません」

「当然の結果だと思っていますか」

「……はい」

ザイルは静かに、しかしはっきりと言った。

「エルカリナ家が追い出され、技術が失われ、その結果として起きたことです。当然の結果です。私はそれを、悲しいとも思わない」

「私も、悲しまない」

ルミナは言った。

「しかし、王都の人々が今夜も普通の暮らしをできていることは、よかったと思っています」

「それは同じです」

二人の間に、穏やかな沈黙が降りた。

「一つ聞いてもいいですか」

「どうぞ」

「ザイルは、今回の件を後悔していますか」

「何を」

「私が動くことを、止めなかったことを」

ザイルは少しの間考えた。

「していません」

「理由は」

「あなたが決めたことです。あなたの才を、あなたの意志で使った。それは正しいことでした」

「王家を結果的に助けることになっても」

「助けたのは王都の人々です」ザイルは静かに言った。「王家は、助けてもらえたことへの感謝を、形式的な手紙一枚で済ませました。その差は、今後長く残ります」

ルミナは目を細めた。

「……なるほど」

「今回の記録は、アルテミアの公式文書として残ります。エルカリナの制御理論が王都の危機を救ったという事実が、消えない形で記録されます。それがあなたの条件でした」

「はい」

「その条件は、果たされました」

ルミナは祖父のノートを見た。机の上に置いてある、六冊のノート。百年の研究が、公式に認められた。

欠陥品と呼ばれた技術が、王都を救った。その事実が、消えない形で残る。

「もう一つ、情報があります」

「何ですか」

「王都の北区画の住民たちが、感謝の意を表明するための陳情書を王家に提出したそうです。エルカリナ家とアルテミアへの感謝を、正式な形で記録してほしいという内容で」

「……民からの、ですか」

「ええ。王家ではなく、住民の自発的な動きです」

ルミナはしばらく黙っていた。

王家の手紙よりも、その一言の方が、胸に深く届いた。

「……報せてくれてありがとうございます」

「それだけで、今日は十分だと思ったので」

それだけで、今日は十分だった。


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