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第81話 観測者、無敵のカッパを爆破し、姫魔王の素の涙を観測する

今日の順位更新で『注目度ランキング』


全てー9位、連載中ー5位


になっていました。ありがとうございます……。


◇石灰の神殿


  

 神殿のツルツルとした大理石の床を駆け抜けながら、僕はパーティメンバーへ即席のハッキング手順(作戦)を伝達する。


「まち子、いいか。僕とシロロで奴に水と風をぶつけ、一直線に押し込む。君は僕らが誘導する直線上へ先回りしろ」


「先回りして、どうしますの!?」


「自身の質量(WEIGHT)を最大(MAX)に設定して

『絶対に動かない壁』になるんだ。奴が君の盾に激突して止まった瞬間、その足元にブラックホールをセットして退避しろ」


「なるほど!  私の乙女の質量で敵を強制停止させ、

その隙に落とし穴を仕掛けるんですのね!  完璧ですわ!」


 作戦の全容ロジックを理解したまち子が、重厚な大盾を構えながらポイントへと先行していく。


 これで盤面の準備は整った。

 あとは、無敵の防具システムを過信した獲物を罠へと押し込むだけだ。


「水だね! よぉ〜し! 運営の出したあの気持ち悪い奴! 

可愛くぶっ⚪︎してやるんだから!!」


 だからシステムの伏せ字が意味を為してないんだよ……。


「シロロ『ただの水』じゃ軽すぎる、物理的な質量ノックバックが足りん」


「ええっ!?  じゃあどうするの!?」


「これを使え」


 僕はインベントリからいくつか小瓶を取り出し、シロロへ渡す。


「イオリ君、これなぁに?」


「ロン君を創り出した時に使ったアレ……『ホット・ボラックス(ホウ砂)』だ!  『ただの水』と一緒に【宝石変換鞄ティアーズ・ポシェット】に入れて射出するんだ。液体の密度(質量)を底上げしろ!」


「なるほど!  ドロドロの重いお水で強引に押し流すんだね!」


 シロロは意外と物分かりがいいな。


「そういう事だ」


「よぉ〜し!  特濃でいくよー!  そぉぉぉい!!」


 シロロが宝石変換鞄に二つの素材を放り込み、極太の水流を放つ。


 ズゴゴゴゴゴォォォォォッ!!!


『ハッ!何を混ぜようが――って、グォッ!?オモッ!?』


 放たれたのは、ホウ砂が溶け込み限界まで質量が増した

『重い水流』だ。


 カッパの表面でダメージこそ無効化されるが、凄まじい質量を伴う「衝撃(運動エネルギー)」自体が、敵の姿勢を大きく仰け反らせる。


『チィッ! 鬱陶しい水ダネェ!ならば受けなければっっ――』


「逃がすか。――【記述カキコミ】。『断崖の暴風』!」


 水圧から逃れようと敵が左へ体勢を逸らした瞬間、僕はすかさず《断崖写本杖クリフ・スクリプトペン》を振るい、空中に環境データ(文字)を刻み込む。


 神殿内に局地的な突風が発生し、左へ逃げようとした敵の体を右(正面)へと強引に押し戻した。


『アガッ!?今度は風かイ!?』


「そのまま撃ち続けろシロロ!  射線から逸らさせるな!」


「そぉぉい!  もっといくよー!!」


 シロロの圧倒的な重水流で敵を一直線に押し出し、横へズレようとする軌道は僕の風圧(記述)で見えないレールを敷いて修正する。


 ツルツルに濡れた床の上で、ダメージを無効化するカッパを着た敵は踏ん張りが効かず、僕たちが敷いたベクトルの通りに無様に後ずさりしていく。


 盤面システムの完全な誘導。


 そして、敵が水と風に押し流されたその終着点には――。


 ガツンッ!!!


『アガッ!?ここはまだ壁じゃッ……。な、何ダイこの硬い壁は……!?』


 押し出された彫刻家の背中が、直線上に立ちはだかっていた小山のような大盾に激突した。


「ごきげんよう?  私の愛は重いですわよ?」


(……完璧だ。

 質量MAXのまち子はいわば、いかなる運動エネルギーも透過させない【絶対的な固定端】。

 ツルツルのカッパごと、奴の姿勢はそこで完全に停止する)


 激突の衝撃を微動だにせず受け止めたまち子が、淀みない動作で即座にスキルを起動する。


「――ポイント指定。【極小重力崩壊マイクロ・ブラックホール】、セット完了ですわ!」


 まち子の足元に、術者にしか見えない紫色のマーカーが点灯する。


 設置を確認した彼女は、そのまま大盾越しに声を張り上げた。


「シロロさん、今ですわ!」


「おっけ〜まち子お姉さん!大盤振る舞い!

残りの『重いお水』10本分一気に出すよーー!

そぉぉぉぉい!!」


 まち子の合図と共に、シロロが宝石変換鞄の口を全開にする。


 放たれた残り全ての極太の重水流が、大盾に押し付けられて身動きが取れない敵へ向けて一気に殺到した。


『ハッ!

  何本撃とうが同じダ!

  だから水は効かないと――』


 敵がカッパの絶対防備を誇示しようとした瞬間。


 まち子は盾の重力制御を反転(MIN)させ、羽のように軽く跳躍してその場から離脱した。


 そして――彼女が『指定ポイント』から離れたことで、足元に仕掛けられた時限爆弾が掛け声と共に起動する。


「バンっ♡ ですわ!」


 ズシュゥゥゥゥンッ!!!


『……ハ?足場が……!?』


 空間が歪み、極小のブラックホールが敵の足元の床(大理石)を半球状に抉り取って消滅した。


 突然足場を失った彫刻家は完全に体勢を崩し、抉り取られたお風呂のようなクレーターの底へと無様に「尻餅」をついた。


 そこへ、シロロが放ち続けた水流が滝のように激しく注ぎ込まれる。


 体勢を崩してすそがガバッと全開になったカッパの下から、逃げ場を失った大量の水が一気に内部へと流れ込んだのだ。


『アガァァァ!?

  カッパの、下から、水が……ッ!!?』


 生石灰(酸化カルシウム)とホウ砂が溶け込んだ水が直接触れ合い、カッパの内側で最悪の化学反応が起きる。


「フッ、なんでカッパにしたんだ?  潜水スーツにすればよかったのにな」


 凄まじい異常発熱と共に、敵の体はただの水蒸気ではなく、超高温でボコボコと泡立つ『ドロドロの沸騰泥セメント』へと変質し、急激に体積を膨張させていった。


『アツゥイ!? ガチガチに固ま、るゥ!?

  圧が、アアァァァァ!?』


 カッパは外部からの攻撃を完全に弾く「絶対に破れない無敵の防具」だ。


 だがそれは同時に、内部で己の体が超高温の半固形物となって2倍以上に膨れ上がった時、決して破れて圧力を逃がしてはくれない『最悪の拘束衣』と化すことを意味していた。


 ボッッ、ドババババァァァンッ!!!!


 無敵の皮膜の中で限界まで膨れ上がった敵の体は、唯一の開口部であるカッパの首元や袖口から、行き場を失った中身(半固形化した高温の石灰泥)だけを、潰されたチューブのようにボタボタと勢いよく噴出させ、完全に自滅バーストした。


 後には、中身を失ってぺしゃんこになったビニールガッパと、大理石の床にぶちまけられて急速に硬化していく白い泥の残骸だけが残された。


「キャアア!汚っ! 可愛くない! えええキモーー!!」


 シロロが飛び散った彫刻家の残骸に対して何か騒いでいるが気にしないでおこう……。


 僕がそんなことを考えていると、不気味な声が耳へと入ってくる。


『フフフ……ホラ……コレが欲しかったんだろう……ッ。

 全ク……スライム如きのために、ナンデ私が殺されなくてはいけないんダヨ……フフッ……』


 急速に固まりつつある泥の残骸が、ブクブクと歪な口の形を作り、怨嗟の声を漏らしていた。


 その残骸のすぐ近くには、淡い水色の光を放つ小さな石が転がり落ちていた。


「あれが、クエストに書いてあったボスドロップの報酬か」


 僕はそれを手に取り、スキルを発動する。


「【詳細観測ディープスキャン】」


 ——【Log】——

▶︎対象:『水霊の雫石』[武器専用パーツ]

・効果:大気中の魔力から水分を生成し、対象の武器に持続的な潤いを与える。

・フレーバーテキスト:常に綺麗な状態を保てる。

 武器はキレイに使用しましょう。

 アイテム所有者:魔王ぽよん

 ——【Log】——


「アイテム所有者……クエスト受注者専用か。また報酬無しか僕たちには」


 一見すれば、ただ武器を濡らして汚れを落とすだけの、全く必要性を感じないゴミアイテム(フレーバー特化装備)だ。


 だが、干からびてフリーズしているぽよんの武器、ロン君にとっては、これ以上ない神アイテム(特効薬)である。


(……スライムの石化とこのクエストは一体何なんだ。

 運営が用意したシナリオなのか、それともシステム自体が生成したイレギュラー(バグ)なのか)


 僕が雫石を握り込み、思案を巡らせていると、泥の残骸は最後に残った力を振り絞るように、不気味に口角を吊り上げた。


『冒険者ヨ……覚えておくことダネェ。

 私の存在データが消えれば、スグに『あの方』に伝わる……』


 あの方……。

 昨日倒したオカマ兎たちも口にしていた上位存在。

 それがここでも出てくるとは。


『お前達は……『あの方』の力の抑制セーブの一つを取り除いてしまったんだヨォォォ……!

  ハハッ、ハハハハッ……芸術は、永遠ダ……』


 狂気めいた笑い声を残し、泥の残骸はドロドロと大理石の床に溶けるようにして、完全に消滅した。


 チャララーン♪

 遠くから、クエストのフェーズ進行を知らせる無機質なシステム音が響いた。


「ぽよ〜〜〜!  動けるようになったのだ〜〜!」


 彫刻家が倒されたことで、強制的な石化スキルが解除されたのだろう。

 這いつくばっていたぽよんが跳ね起き、こちらへトコトコと駆け寄ってくる。


「ぽよんの指揮の元、よくやったのだ〜〜!」


 両手を腰に当て、ふんぞり返る魔王。


「ぽよん様の配下として当然ですうううう!」


「天才でございます」


 すかさずシロロとまち子が、両脇からぽよんに擦り寄ってヨイショする。


「お前はスライムの姫魔王という属性のせいで、一人だけ石化して地面に這いつくばっていただけだろうが……」


「うるさいのだ〜〜!  人間k! 

ずっと指揮していたから疲れたのだ、おやつくれなのだ……」


 相変わらずの減らず口だ。


 僕はため息をつき、ぽよんを無視して、先ほどドロップしたばかりのアイテムを彼女に向かって軽く放り投げた。


「それを、ロン君に食わせれば……いや、装着すれば水分が戻るはずだ」


 空中でキャッチした淡く光る雫石を見つめ、ぽよんの動きがピタリと止まり体が震え始める。


「ぽよ……人間k……ありがとうね」


 不意に、ポロリと。


 ぽよんの丸い頬を、透明な涙が伝って落ちた。


 「「「?!?!?」」」


 僕を含め、その場にいた全員が驚愕に目を見開いた。


「お、おい、配下リスナーの前で……」


 Vtuberの設定を忘れ素が出ているぞ、と僕が言いかけるより早く。


「ぽ!?  ぽよ〜〜〜!!!」


 フンッ!

  という擬音が聞こえそうな勢いで、ぽよんは顔を真っ赤にしてシロロとまち子の方へ顔を向けた。


 シロロとまち子は即座に顔を背け、両手で耳を塞ぎ、目を固く閉じて首を横に振った。


 「「私たちは何も聞いていませんし、何も見ていません(わよ)!!」」


……しつけがされているな……全く。


 アバターの感情表現機能が反映され、涙まで流して素が出てしまうほど、彼女はロン君を失うことが不安だったのだろう。


 ぽよんにとって……いや、カオス・アトリエにとっても、もはやいなくてはならない存在だからな。

 あのバグマカロン(ロン君)は。


「よし、戻るぞ。」


 僕が踵を返すと、ぽよんが慌てて後ろからついてくる。


「ぽよ〜〜!  スライム爺さんやみんな、戻ってるぽよ???」


「お前の足元で硬化していたスキルが元に戻ったのを見る限りでは、恐らく他の連中の石化も解けただろう」


 僕らは空間の端に浮かび上がっていた狭間の石碑に触れ、

再びスライム居住区へと転送された。


◇ スライム居住区


 ぷるんっ。

 ぷるんっ。

 ぷるんっ。


 視界が晴れると、そこかしこから心地よいスライムの移動音が聞こえてきた。


 崩壊し、干からびていたスライム居住区の景色は元の幻想的な輝きを取り戻しており、石ころのように固まっていた配下スライムたちも、無事に元のゼリー状へと戻っていた。


「ぽよ〜〜!  よかったのだ〜〜!  お前達、またプルンプルンなのだ〜〜!」


「わーーかわいいー!  ぷるぷるだーー!!」


 ぽよんとシロロが歓声を上げながら、スライム達の元へと駆け寄っていく。


 スライム達も嬉しそうに駆け寄り、二人は早速あの忌まわしき儀式(愛撫スリスリ)をこの場でも始めていた。


 そんなカオスな光景を少し離れた場所から見ていると、

まち子が僕の隣へ並び、静かに口を開いた。


「貴方、すごいですわね」


「何がだ?」


「あの少ない情報だけでわたくしの能力の特性を完全に理解し、

盤面を操作するその手腕ですわ」


 まち子の巨大な盾を見やりながら、僕は淡々と答えた。


「僕は観測士だからな。お前達がエキシビションマッチで行った行動、掲示板の検証情報、そしてチート能力を失った後の現在のスペック情報。それらをデコードしてその場でできる最適解を導き出しただけだ」


 僕の言葉に、まち子は少しだけ目を伏せた。


「私達はチートを使っていました……本当にごめんなさい。それでも、貴方達は5人を手玉に取り、倒してみせた。本当に恐ろしい手腕です」


「最後は陣地ごと消し飛ばされて負けたがな」


 僕は小さく鼻を鳴らした。


「だが、そんなことはもうどうでもいい。まち子。

君の『ブラックホール』という能力は、もうカオス・アトリエの戦術ロジックの中に僕が落とし込んだ。頼むぞ、これからも」


 そう言い残し、僕は歩き出す。


「……ええ。お任せくださいませ、マスターイオリ」


 背後から、決意を込めたまち子の凛とした声が聞こえた。


 破壊の女神『セクメト』この能力はまだ僕は知らないが、アレだけでも十分驚異的な能力だ。


 使えるものは使う。

 アイテムも人もな。


「ぽよん、霧隠泉きりがくれのいずみも確認するぞ。」


「わかったのだ〜〜!  お前達!  またねなのだ〜〜!」


 そして――僕たちがここへ入ってきた時に立っていた場所(魔法陣の跡地)には、あの紫色に変色していた石ではなく、元の姿に戻った『ミストスライム[完全強化状態]』の個体がぽつんと佇んでいた。


「……お前も、無事に戻ったんだな」


 僕が声をかけると、彼(?)は嬉しそうにプルンと震えた。


 この泉の試練で圧倒的な暴力を振るい、その後、僕の武器を『完全強化状態』へと至らせた特異な個体。


「お前には、これからも僕の武器を強化してもらわねば困るからな」


 僕は口角を吊り上げ、インベントリから僕の愛機メインウェポンである【星界の(アストロラーべ・)天球儀(パノプティコン)】を取り出し、装備して見せた。


 もしや、この完全強化状態のスライムにもう一度触れさせれば、さらなる限界突破バグが起きるのではないか。


 そう思い、ミストスライムに天球儀を近づけようとした、その時だった。


 視界の端に、赤々とした警告ウィンドウが激しく点滅した。


 ——【Log】——

【System Error】

【Enhancement limit exceeded. Forceful observation is strictly prohibited.】


(※警告:対象の武装は既に規格外(システム上限)に達しています。

これ以上、無理やり観測バグを引き起こそうとしないでください!)

 ——【Log】——


「……チッ。つまらん防壁システムだ」


 露骨に『これ以上いじくり回すな』と拒絶する運営からのアナウンス(悲鳴)を読み流し、僕は舌打ちと共に天球儀をインベントリへとしまった。


「僕は観測士だぞ。観測するなとは……理不尽なゲームだ」


 そうして僕は不満を垂らしながらも、長老の待つ枯れた泉の跡地へと足を進めた。

第81話いかがだったでしょうか?


カッパの構造的欠陥を突いた「恐怖の圧力鍋ハック」で見事ボスを粉砕!


そして、ぽよんのレアなデレ(涙)と、それを全力でスルーする優秀な配下たち(笑)。


最後は武器を過剰強化しようとして、システム(運営)からガチの警告を出されるイオリでした。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜


次回は3/1【夜20時10分】に投稿ハック致します!


少しでも「圧力鍋えぐい!」「運営の胃痛が…」と思っていただけたら、

ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!

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