第6話:観測者、仮初めの日常(リアル)を演じる
2/18 冒頭の観測士スキルの名称を変更しました。
ここでしか使用していないスキルだった為、今後多用するスキルに変更いたしました……笑
第2エリア、岩盤地帯。
無風地帯の静寂の中、僕は呟いた。
「……そろそろか」
僕は岩の上に座り、端末の時計を確認する。
1時間と10分が経過した。
僕は立ち上がり、少し離れた窪みへと歩み寄る。
外界から隔離するために被せておいた分厚いローブをバサリと退かすと、そこには微かな光を放つ『ミストスライムの真核』が転がっていた。
光も風も、音すらも当たらない暗がりで、ただ1時間。
僕の真核には、狙い通り**『何もしなかった(無・忘却)』**という特殊な記録ログが定着したはずだ。
「……よし」
僕は誰に見せるでもなくその真核を拾い上げ、インベントリの奥深くへと仕舞い込んだ。
全員分の『真核』への環境ログの焼き付け、完了の時間だ。
「おーい! 戻ったぞぉぉ……!」
霧の向こうから、息を切らしたドドンパが走ってくる。
その足元には、彼が蹴り続けてきた真核が転がっている。
「ゼェ、ゼェ……! ここの上昇気流、強すぎるだろ……! 何度崖下に落ちそうになったか……」
「だが、その風圧がお前の真核には必要だ」
僕は膝に手をつくドドンパに近づき、彼の足元で淡い緑色の光を放つ真核へ視線を落とした。
【観測士スキル:詳細観測】
真核の蓄積ログを確認する。
強烈な『風(上昇気流)』のログ、エリアの環境ログ『霧』
それに加え、ドドンパが頭に被り続けていたシロロのデコレーション『真珠色のフード』が放つ『光』のログも、環境記録としてしっかりと刻まれていた。
「……いいだろう。風の力と、ヘイトを集める『灯台(光)』としての機能が完璧に焼き付いた」
「おいお前、俺が必死に守ってきたシロロちゃんの『デコ』を、最初から素材(光源)扱いしてたのかよ……」
「当然だ。あの目障りなピカピカを利用しない手はない」
「悪魔かお前は……」
そんな軽口を叩いていると、反対側の岩陰からもう一人の影が現れた。
「……ふふ、ふふふ……」
フゥだ。
彼女は自分の真核を、
まるで壊れ物を扱うように両手で大切に抱きかかえていた。
その真核は、周囲の霧を吸い寄せ、
ゆらゆらと半透明の靄を纏っている。
「……素晴らしいわ。
この重み、冷たさ、そして霧の中で凝縮された硬度……。
最高の『石』に育ったわ……」
眼鏡の奥の瞳が、危ない光を放っている。
僕は二人の真核のステータスを最終確認する。
ドドンパの『風と指揮』。
フゥの『霧と石』。
どちらも、僕の想定した『正解』のさらに上を行く、
純度の高いログが完成していた。
「……上出来だ。今日はもう遅い。
入り口の石碑まで戻って、街で解散しよう」
「賛成ー。さすがに足が棒だわ」
「……ええ。早くコンバージョン(生成)してあげないと……」
僕たちは転送ゲートを潜り、
始まりの町エウレカへと戻った。
簡単な挨拶を交わし、
それぞれの光に包まれてログアウトする。
視界の白い光が収束し、次に目を開けた時。
そこは薄暗い、モニターの光だけが明滅する6畳の部屋だった。
「……ふぅ」
僕はヘッドギアを外し、首を鳴らす。
現実世界。AM 2:00。
静寂だけが支配する、僕の本来の居場所。
「……初日は上々、か」
独り言を呟き、
机の上の栄養補助食品を水で流し込む。
明日――いや、今日からはまた
『現実』という名の退屈なクエストが待っている。
来週には長期有給休暇を申請してあるが、
それまでの月曜から金曜までは、
社会人としての役割を演じなければならない。
僕はベッドに倒れ込み、
泥のように眠りに落ちた。
⸻
翌朝。都内某所のオフィスビル。
「……ふわぁ」
デスクについた僕は、
隠しきれない欠伸を噛み殺した。
眠い。
脳の処理リソースの半分が
まだエウレカに残っている感覚だ。
「イオリkっ……じゃなくて、矢田島。おはよう」
背後から、聞き慣れた声――
いや、聞き慣れた『調子』の声がかかる。
振り返ると、少しぽっちゃりとした体型の男、
種末慎二が立っていた。
ゲーム内のイケメンアバター
『ドドンパ』の中身だ。
「……おはよう、種末。その呼び間違いはやめろ」
「わりぃわりぃ。
しっかしお前、ゲーム内と現実でテンション同じすぎだろ。
少しくらい変えろよ」
慎二は苦笑しながら、
自販機の缶コーヒーを僕のデスクに置いた。
「くだらん。
見た目の違いに、人格の変容など求めていない」
「へいへい。
……昨日はサンキューな。
おかげで俺も、『正解』ってやつが見つかった気がするわ」
慎二が小声で囁く。
「まあ、『変人』の称号と引き換えにな」
「名誉なことだろ」
その時、オフィスのドアが開き、
パタパタと軽い足音が近づいてきた。
「矢田島センパイ、おはよーございまーす!
……って、めっちゃ眠そうですね?」
ピンク色のカーディガンを羽織った女性社員、
眞島真白だ。
あの『シロロ』である。
「……眞島か。おはよう。少し、な」
「もうー、夜更かしはお肌に悪いですよー!
クマできてますって!」
彼女は僕の顔を覗き込んでケラケラと笑うと、
隣の慎二に向き直った。
「あ、種末センパイもおはようございます!」
「おう、おはよう眞島ちゃん。今日も元気だねぇ」
「当然です! 今日も一日可愛くいきましょー!」
彼女は嵐のように挨拶を振り撒きながら、
給湯室の方へと消えていった。
「……元気なもんだ」
「全くだ。
……さて、俺たちも仕事の時間といきますか」
⸻
同じオフィスの少し離れた席。
デスクの隅に、
綺麗に磨かれたアメジストの原石が飾られている。
その席の主、津島文華は、
誰にも見えない角度でスマホの画面を凝視していた。
『World of Arche』のコンパニオンアプリ。
画面に表示されていたのは、
生成完了したばかりの
『愛し子』のデータだ。
無骨なドリル……ではない。
霧のような半透明の水晶が螺旋状に絡み合い、
先端が鋭利な杭となった、
**美しくも凶悪な『採掘具』**だ。
【名称:霧穿ち掘削器】
• 種別: 手持ち掘削機
• 攻撃力: +10 / INT: +5
• 固有パッシブ: 『霧石の礫』
• 固有アクティブ: 『霧石壁』
• 隠し効果: 『地鳴りログ(クエイク・メモリー)』
• 「霧は石を隠し、石は霧を支える。
その境界を愛した者だけが、この掘削器の真価を知る。」
「……ふふ。可愛い。私の霧石……」
津島はうっとりと画面を撫でる。
昨夜の記憶。
霧の中、足裏で感じた硬度。
それが数値となって結実している。
「おい、津島」
不意に上司の声がかかった。
「……ッ、は、はい!」
彼女はビクリと肩を震わせ、
慌ててスマホを伏せた。
「これ、会議の資料。昼までに整理しといてくれ」
「あ、はい……すいません、すぐに」
彼女は眼鏡の位置を直し、
普段の大人しい事務員の顔に戻る。
だが、その指先は、
デスクのアメジストを愛おしそうになぞっていた。
⸻
昼休み。社員食堂。
「でさ! 見ろよこれ! やばくね!?」
種末が興奮気味にスマホを突き出してくる。
カツカレーを食べている僕の目の前に表示されたのは、
彼の新武器のデータだ。
【名称:風導戦術タクト(エアロ・コンダクター)】
• 種別: 指揮棒
• AGI: +10 / INT: +8
• 固有パッシブ: 『濃霧予兆』
• 隠し効果: 『灯台の輝き(ライト・ビーコン)』
「指揮棒だぜ指揮棒!
俺の『戦術士』ってジョブにドンピシャだろ!
サッカーで言えばピッチ上の監督だ。
……いや、俺自身がボールになって切り開くのか?」
種末がスプーンを振り回して熱弁する。
「振ると風のラインができて、
味方の移動速度が上がるんだと!
これで俺が戦場を支配できるってわけよ!」
僕は水を一口飲み、冷ややかに言った。
「……だろうな。
お前の蹴りは上昇気流に乗っていた。
風読みのログが『予兆』となり、
シロロのフードの輝きが
『道標』として焼き付いているはずだ」
「うぐっ……!
お前、なんで画面見る前に全部言い当てるんだよ!
自慢させろよ!」
種末ががっくりと項垂れる。
「予測の範囲内だ。
……だが、悪くない数値だ。
週末の攻略、期待しているぞ『灯台』」
「へっ、任せとけよ。
……あーあ、早く帰りてぇ。
来週の有給まであと4日か……」
⸻
定時退社。
僕は帰宅ラッシュの人の波に逆らわず、
駅へと向かう。
すれ違う人々は皆、疲れた顔をしている。
だが、僕の足取りは軽い。
現実は仮の宿。
本当の『正解』がある世界へ、帰還する時間だ。
すれ違う人々の群れ。
信号機の赤、青。
それらが一瞬、数値の羅列に見える。
重症だな、と自嘲する。
だが、悪くない気分だ。
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二人の武器完成!! 知ってたと言わんばかりのイオリの反応がイメージ通りです!
二人と女性二人は同じ会社の女性とPTを組み現実は知らないって設定を今後どうしようかまだ悩み中です笑




