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第5話:観測者、石(いし)の意思を蹴る

少しだけ修正しました2/23


今後の説明を分かりやすくするために文を読みやすくしました。

 「……ところで、その背中の『巨大なペン』。……何?」


 霧の中を進みながら、フゥが怪訝な顔で僕の背中を指差した。


「ああ、これか。教えてやれよイオリ。せっかくパーティ組んだんだし」


 先頭を歩くドドンパが、シロロにデコられた『真珠色のフード』をピカピカと輝かせながら振り返る。


「……ただの武器だ。『断崖写本杖クリフ・スクリプトペン』。前のエリアで手に入れた真核に、特定のログを刻んで生成した」


「ログを、刻む……?」


「ああ。ドロップ直前の一時間。僕は真核を蹴り飛ばして断崖まで運び、環境音と風景を記憶させた。その結果がこれだ」


 僕が淡々と説明すると、フゥの足が止まった。


 彼女の眼鏡の奥が、カチリと音を立てて切り替わるような気配がした。


「……環境を、記憶させる。……つまり、私の見ている『石』の記憶ログも、武器や防具の形に固定できるということ……?」


「理論上はな。石の硬度、配置、歴史。それらを『行動』として真核に認識させれば、お前のその『石(意思)』も形になる」


「……!」


 フゥが息を呑む。


 一方で、話を聞いていたシロロが「あっ!」と声を上げた。


「真核を蹴り飛ばした人……?  あーっ! 

掲示板で噂になってた『蹴り変人』ってお兄さんのことかー!!」


「……不名誉な二つ名だな」


「うわー、変な人だね!!  よくそんなこと思いつくよー!」


 シロロはケラケラと笑っているが、フゥだけは真剣な眼差しでブツブツと呟き始めた。


「石の記憶……地質の断層……私の愛……」


「……さて、無駄話はそこまでだ。仕事ワークの時間だ」


 僕は足を止める。


 霧の濃度が増したエリア深部。


 ここが今回の狩場だ。


「ターゲットは『ハイスライム』。こいつを狩り続け、ユニーク個体『ミストスライム』を引きずり出す」


「えー、スライム?  ぬるぬるしてて可愛くないよー」


 シロロが露骨に嫌な顔をする。


「我慢しろ。奴の落とす『真核』が目当てだ。あのユニークは霧を吸って巨大化する性質がある。つまり、奴の核には『このエリアの霧のログ』が濃厚に蓄積されている」


 僕は周囲の白い闇を見渡す。


「この厄介な環境デバフを無効化、あるいは利用する装備を作るには、奴の真核が最適解マストだ」


「なるほどな。霧を制するには霧を狩れってことか」


 ドドンパが納得して頷く。


「でもよ、視界最悪だぞ?  効率落ちるんじゃないか?」


「逆だ。この濃霧こそが、僕たちのパーティにとって最高の盤面になる」


 僕は隣の石術師ジオマンサーを見た。


「フゥ。お前の『石壁』、音もなく隆起させることは可能か?」


「……ええ。湿気を含んだ土壌なら、摩擦音を消してヌルリと出せるわ」


「完璧だ。視界が悪いのは敵も同じ。霧に紛れて『石壁』を展開し、敵に気づかれる前に退路を塞ぐ」


 僕は杖で戦場となる空間を示す。


「敵は『壁』に囲まれたことすら気づかないまま、袋小路で処理されるわけだ。

……石と霧、相性が良いな」


「……ゾクゾクするわね。私の石が、霧の中で密やかに狩場を支配するなんて……」


 フゥが恍惚とした表情で頬を染める。


「決まりだな。始めるぞ。真核が出るまで回す」


 ザシュッ!


 ドガッ!


 計算通りだった。


 霧の中で、フゥの操る石壁は音もなく出現し、ハイスライムたちの退路を断つ。


 逃げ場を失った敵を、光るドドンパが引きつけ、僕の魔法とフゥの地形操作で殲滅していく。


【討伐数:100】


「来たぞ、ユニーク!」


 霧が収束し、巨大な『ミストスライム』が現れる。


 だが、完全に包囲された状態ではただの的だ。


 パァン!


 ユニークが弾け飛ぶ。


『透明な樹液×10』


「……チッ。ハズレ(素材)か」


「もうー!  何このドロドロ!  全然可愛くないしいらないし!」


 シロロが手についた樹液を振って愚痴をこぼす。


「次。2周目」


 僕は足を止めない。


 200体。


 ユニーク撃破。


 ドロップなし。


 300体。


 ユニーク撃破。


 ドロップなし。


「はぁ……はぁ……もう、MPすっからかんだよぉ……」


 シロロがその場にペタンと座り込んだ。


 時刻は23時を回っている。


 ドドンパの装備を常にデコり続け、敵のヘイトをコントロールしていた彼女の疲労(MP)はピークに達していた。


「ごめんね、お兄さんたち……。これ以上やったらお肌にも悪いし、私もう限界……落ちてもいい?」


 涙目で訴えてくるシロロ。


 僕は彼女のステータスと貢献度を素早く脳内で計算する。


「……ああ。強制させるものではない。それに予定より遥かに早く回せた。十分だ、休め」


「えへへ、よかったぁ……。じゃあねお兄さんたち、フゥちゃん!  おやすみー!」


 シロロは携帯用の簡易テント(ログアウト用アイテム)を展開し、光に包まれて消えていった。


「……さて。1人が抜けたが、どうするイオリ?  俺たちもそろそろ……」


「……まだ、やれるわ」


 静かな声がした。


 フゥだ。


 彼女も疲労が見えるはずだが、その瞳は異様な光を宿して地面を見つめている。


「このエリアの岩盤……まだ『鳴って』いるわ。……次の周期、何かが来る」


「……だ、そうだ。行くぞドドンパ。石術師の勘はバカにならん」


「へいへい。付き合いますよ、お二人の狂気にね」


 4周目。


 301体目からの再スタート。


 シロロのサポート(ヘイト管理)を失った分、戦線は少し不安定になる。


 だが、フゥの『石壁』によるコントロールは洗練され、ドドンパの灯台タンクとしての動きもキレを増していた。


 そして、400体目。


 ズズズズズ……!!


 現れた『ミストスライム』は、これまでよりも一回り巨大だった。


「個体差か?  いや、霧の濃度が違う!」


「シャァァァ……!」


 スライムが霧を圧縮し、弾丸のように飛ばしてくる。


「くっ、範囲が広い!  イオリ!」


「記述。『風壁』!」


 僕が防御魔法を展開するが、衝撃で吹き飛ばされる。


「……私が!」


 フゥが前に出た。


 彼女は地面に両手を突き刺す。


「大地よ……記憶して。ここは『城壁』!」


 ゴゴゴゴゴ……!!


 地面から巨大な石柱が連続して突き出し、スライムの周囲を囲い込んだ。


「すげえ!  檻を作ったのか!?」


「長くは持たない……!  イオリさん、今!」


「合わせる……!  『筆記術・断崖クリフ』!」


 僕は石柱を足場に跳躍。


 スライムの頭上を取り、巨大な杖を振り下ろす。


 高低差による威力補正。


 そして、石壁による逃げ場の封殺。


 ズドンッ!!


 風と衝撃が、スライムの核を完全に粉砕した。


 霧が晴れ、光の粒子が舞う。


 その中心に、コロン、コロン、と複数の『輝き』が転がった。


『ミストスライムの真核』

『ミストスライムの真核』

『ミストスライムの真核』


「……出た」


 ドドンパが息を吐く。


「4周目でようやくか。……ちゃんと人数分ドロップして安心したぜ」


「ああ。仕様通り、討伐時生存メンバー全員への配布だ」


 フゥがふらりと、自分割り当ての真核に近づく。


 その手は震えていた。


「これが……真核……」


「……フゥ。手で拾うなよ」


 僕は釘を刺す。


「え?」


 フゥとドドンパが不思議そうにこちらを見る中、僕は自分の足元に落ちた真核の前に立つ。


 そして、迷いなく右足の爪先で軽く真核を蹴り出した。


 コンッ。


 真核が霧の中を転がっていく。


「お?  イオリ。防具用か?」


「いや……。防具はまだだ。目星を付けたエネミーの出現するエリアがまだ開放されていないのでな。これは将来売り叩くための『ただの資産(商材)』だ」


 僕は転がった真核の元へ歩きながら、冷徹に言い放つ。


「試したいことがあってな……」


 僕は二人を見る。


「自分だけの最強を作りたいなら手で拾うな」


 僕は周囲の湿った地面を爪先で叩いた。


「ここはダメだ。湿気が強すぎて『石』の輪郭がボヤける」


「お前の『石』への執着を、今のただの壁よりさらに昇華させるなら

……ここじゃない。もっと濃く記録できる場所へ移動する」


「移動……?  まさか、貴方たち……」


 フゥがハッとして僕の顔を見る。


 先ほどの会話『蹴って運んでログを刻んだ』を思い出したのだろう。


「その『まさか』だ」


 僕はフゥの足元にある真核を指差した。


「……で?  お前はどうする、ドドンパ。真核を売ってゴールドにするか?」


「……いーや!!」


 ドドンパはニヤリと笑い、自分の真核の前に立った。


「あんな傑作ペンを見せつけられて、おめおめと逃げるわけにゃいかねーだろ。……俺も作るわ、俺だけの『正解』ってやつをよ」


 彼は重心を落とし、顔を真っ赤にして軸足を深く踏み込んだ。


「見てろよ……オリャアアアアアアア!!」


 ドォォォォォンッ!!


 凄まじい爆音が霧に響く。


 だが、その真核は美しい放物線を描くことはなく、霧を強引に引き裂きながら、制御不能な弾丸となって森の奥へ消えていった。


「うおっ、飛びすぎだ!  待てコラァ!  どこ行ったんだよ!!」


「……ふん。力みすぎだ、ガサツ者が。ログが暴走オーバーランしているぞ」


 慌てて霧の中に消えていく相棒の後ろ姿を、僕は呆れて見送った。


 後に残されたのは、呆然とするフゥと、僕だけ。


「……見た通りだ。運ぶぞ、フゥ。手ではなく足で、地面と真核の感触を確かめながらな」


「足で……石と対話する……」


 フゥはゴクリと喉を鳴らし、恐る恐る自分の真核の前に立った。


 彼女はスカートの裾を少し持ち上げる。


 華奢な足が震えている。


 それは恐怖ではなく、未知への興奮によるものに見えた。


「……分かったわ。私の『石』……最高に硬く、重く、鋭くしてあげる」


 コツン。


 遠慮がちな、しかし確かな意思を込めた一撃。


 彼女の真核がコロコロと転がり始めた。


「……いい音だ。行くぞ」


 霧深い森の中。


 僕を先導役に、三つの輝きを蹴りながら進む、奇妙な行進が始まった。


 数十分後。


 僕たちは、森の植生が途切れ、岩盤が露出したエリアに到着していた。


「……ここだ。座標固定」


 僕は足を止める。


「フゥ。ここなら湿気も少ない。お前の『石』を記録するには最適だ」


 そして僕はインベントリを開き、エウレカのバザーで買い占めていた大量のアイテムを取り出した。


『ただの石ころ』。


 1Gで売られていた、何千個もの乾いた石の山だ。


「……これ、は……?」


「第1エリアの地質データを持つ、乾いた石だ」


(……先程自分用に使用してただ予備で持っておいただけではあるが。

彼女の『狂気』に投資した方が今はリターンが大きいだろう)


 僕が淡々と告げながら真核の周囲に石を撒き、意図的な

『地質の異常バグ』を構築してやる。


「湿気を含んだこのエリアに、完全に乾燥した別エリアの地質データを強制的に持ち込む。……環境の矛盾エラーだ。システムにとってそれは強烈な『未知へのノイズ』として真核に刻まれる」


「環境の矛盾……未知の地層データ……!」


 フゥが息を呑む。


「未知の地層データ、掘り起こしてみたいだろう?」


「ふふっ……なんて魅力的な言葉。ダイヤモンドをもらった気分よ。」


 彼女は眼鏡を光らせ、恍惚とした顔を浮かべた。


「この場で1時間、霧の中で『石』と対話し続けろ。

僕が与えた石と、ここの岩盤、そして真核。全てをリンクさせろ。……それがお前の『石(意思)』になる」


「……!」


 フゥは目を見開き、そして愛おしそうに石の山と真核を抱きしめるように座り込んだ。


「……ありがとう、イオリさん。……素敵な時間になりそう」


 彼女の眼鏡の奥が妖しく光る。


 もうこちらの声は届いていないだろう。


 彼女だけの世界だ。


「……さて」


 僕は踵を返し、手持ち無沙汰にしている相棒を見た。


「行くぞ、ドドンパ。次はお前の番だ」


「へいへい。俺はどこへ蹴り込めばいいんで?  先生。さっきは力みすぎて、危うくロストするところだったぜ」


「一つだけ、僕が『正解』をやる。今後の道標にしろ」


 僕は霧の晴れ間、微かに風が抜ける一点を指差した。


「あの方角、座標Z-8。この霧の森で唯一、上昇気流が発生しているポイントがある。そこまで蹴り続けろ。

そこからはメッセージで内容を送る。」


「お、おう…!!」


「……お前の無駄に強い『脚力パワー』を、風に乗せて戦況をコントロールするイメージでな」


「……へっ。上昇気流か。俺の暴走を風に乗せるわけだな。俺にピッタリじゃねーか」


 ドドンパは短く笑い、再び真核をセットする。


 ドォォォンッ!!


 再び響く重い音。


「あっ!  また飛びすぎた!  待てぇぇぇ!!」


 霧の中へ消えていく相棒を見送り、僕も自分の真核を転がして移動する。



 向かったのは、ドドンパの動きを遠目に観測できる少し離れた場所。


 風の流れが完全に死んでおり、木々に囲まれて光すら届かない薄暗い窪みだ。


「……ここならいい」


 僕は自分の真核を足元に止めると、装備していた分厚いローブを脱ぎ、真核の上からすっぽりと被せた。


 外界の光も、風も、音すらも遮断された完全な暗闇。


「この暗がりの中で他の事象ノイズに一切触れさせず、ただ無為に『忘れられた時間』だけを過ごさせる」


 誰に見せるでもない、無価値な放置。


 傍から見れば狂気の沙汰だろう。


(……これはただの実験だ。

 他の環境ノイズを完全に遮断し、『無』という一種類の記録だけを純度100%で刻み込めるか。

 そして、他の不純物記録ノイズログが無ければ別の真核と『融合』できるかの検証用)


 システムの本当の仕様デザインが広まった時、『無』のみとなるであろうコイツは存在の希薄の属性を持つ可能性が高い。


『真核』はこのゲームにおいて最重要なアイテムだ。

環境のログとして別の真核が読み込んでもおかしくはない。




 僕は端末から現在時刻を見る。


「ここまでに奴らとのズレは……奴らと10分ズレがあるな。」


 1時間全てを『無』とする為、僕は1時間と10分後に集まってくれと現在地を添えて二人にメッセージを送った。



 だが、この単なる実験(金策)のつもりで仕込んだ1時間が、のちにこの世界を揺るがす「最強のパーティ」と『最凶』の武器を産む事になった。

第5話いかがだったでしょうか?

この忘れられた真核はまだ先の話になりますが、どこか頭の隅において置いていただけると

登場した際に楽しめるかもしれません……!!


真核は文字通り『手』に取った時点の1時間前までの行動や環境を吸い取ります。

蹴って運ぶのはその真核や本人の特性に合った場所に移動する為です。


移動した先でも1時間待って完璧に狙った真核を作るのがイオリがLIVE映像で見てきて見つけたイオリの手口ハック術になっているのです!!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「こいつヤバいな」「どうなるか面白そう!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!


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